ユウリが旅に参加してから三日後のことだ。
三人はとある町に着いた。ユウリの故郷ではないが、その道の途中にある町だ。活気はさほど無いが、比較的落ち着いている。
町を通過せずに一度立ち寄ったのは、三人分の旅装やら食糧などを買うためだ。それと、旅慣れていないユウリを休ませるためでもある。
それに、
「せっかく助けた金づるが疲れ果ててたら、ユウリの父親もお金そんなくれなさそうだしねー」
「あなた、本当にせこせこしてるわねぇ」
「? あの……?」
適当に選んだ宿の一室でのこと。むふふと笑うフルールに、ベッドのせりに腰かけたユウリが不思議そうに首をかしげている。
「何でもないわよ。あたしは買い出しに出かけてくるけど、ユウリ、あんたどーすんの」
話題を変えたフルールに、ええと、とユウリは戸惑いを顔に浮かべる。女の白い肌はどこか血の気が薄く見える。
疲れているけど、命の恩人にばかり無理をさせるのも……。
そんな意図を感じたフルールは、とんとユウリの肩を軽く叩いた。
「ま、だったら部屋でゆっくりしてなさい。あたし一人で十分だから」
その笑みは優しさで満ち溢れている。ユウリは「は、はいっ」と救われたように顔をほころばせた。
フルールの『心証を良くして謝礼弾ませる作戦』はすでに始まっていたのだ……。
「……」と冷めた目でフルールを見ていたレテミアが、部屋の宙を浮きながら少女に問う。
「私の事は心配してくれないのかしら?」
「どうせあんたは娼婦漁りでしょーが。そのまま死んどけ」
親指突き立てた拳を下に向けるフルールは、そのまま宿を出た。
初めて来る町。知らない景色。
冷えた空気はぴりぴりと乾燥している。
首元に巻いたマフラーを軽く撫でたフルールは、露店が立ち並ぶ区画まで足を運んだ。
旅の道具や食糧よりもまず、フルールには目当ての店があった。道端に布を広げ、そこに幾つかの紙箱を並べる露天商へとフルールは近づいていく。商人の男が近づく靴音に顔を上げた。
「いらっしゃい」
「帝国製の煙草は?」
「帝国製……ああ、ありゃもうだめだな。革命で潰れちまった。内輪でごたついててしばらく流れてこないよ」
「ほんと? 困るわねーそういうの。じゃあ連邦製は?」
連邦製の煙草は甘い香りが特徴の煙草だ。甘いと言ってもキツい香りには変わりなく、やはり常人が好む種類の煙草ではない。
「そっちならあるよ。……にしてもお嬢ちゃん、見た目に似合わず重いのばっか吸うんだねえ」
「好きだもの。毒こそ
差し出された1カートンの紙箱と、紙幣を交換するフルール。さっそく一箱開けて煙草をくわえている。手慣れた動きでオイルライターを取り出し煙草の先端を燃やすフルールに、商人の男は片眉を上げた。
「嬢ちゃん、
「んなわけないでしょ。おとぎ話じゃあるまい。ただの女よ」
甘い煙を吐きつつフルールが否定すれば、男はそれ以上詮索することはなかった。
フルールは煙草を揺らしながら、男に尋ねる。
「この辺で旅向けの道具扱ってる店ってどこか知ってる?」
「それなら……」
男は右の方を指差した。どうやらここから少し歩いたところに、旅人向けの商品を取り扱う店があるらしい。この町では、そこしかないらしい。お礼にともう一箱煙草を買ったフルールは、連邦制の煙草を吸いながら店へと歩く。
店には、ガラの悪い男が何人かたむろしていた。ギロリと鋭い目つきで店に近づいたフルールを睨んでくる。フルールも全力でガンを飛ばし返しながら、店の中に入った。
店内はフルールの予想以上に品数が少なかった。だが、必需品と呼べるものは大方そろっている。まあ、魔物もいる世界で流通を期待するわけにはいかないのだ。仕方ないと思い、フルールは適当な商品の値札を確認して――。
「ちょっと」
思わず、フルールは近くにいた店主の男を呼び寄せた。
「あんた、値段ちょっとおかしくない」
少女が指さすものは旅人ならだれでも手にしたことのあるだろう、携帯食料だった。安価で栄養価も高く、不味いが重宝されるビスケットだ。旅の必需品ともいえる品だが、その値段は明らかにフルールの想像以上に高い。
店主の男は柔和な笑みで少女に視線を合わせる。
「ですがお客様……うちではこの値段で取り扱っているので」
「前の街じゃこの半分の値段だったわよ」
「で、ですが」
「あッ?」
「……」
フルールが有無を言わせぬ雰囲気を放つと、男の頬がぴくりと動いた。フルールが煙草を吸う前で、指を鳴らす店主の男。すると店の傍に居た男たちがぞろぞろと店に入ってくる。
ん? とフルールが首をかしげていると、男たちはフルールをじろっと睨んで取り囲んだ。
「おうおうなんだぁねーちゃん」
「舐めた目つきしやがってよぉ」
「ぶっ殺すぞおらぁ‼」
唾を飛ばしながら口汚く罵ってくる男たち。フルールは何ら動じることもなく、ははーん、と得心が言った様子で頷いた。
つまり喧嘩を売られたわけだ。
にやりと好戦的な笑みを浮かべ、煙草をくわえながら言葉を返す。
「……へえ。いいじゃない。地面に寝ッ転ぶのはあんたたちよ」
まさか年端もいかぬ少女(の見た目をした)フルールに、そんなことを言われるとは思わなかったのだろう。
え、と一瞬だけ怯んだ男たちに向けて、フルールは何らためらいもなく蹴りを放った。
男の一人の股間めがけて。
「ただいまっ」
勢いよく扉があく。そこに立っているのは大量の荷物を抱えた、やけに機嫌の良いフルールだった。
想像以上の物量に、レテミアとユウリが目を丸くする。
「どうしたの? それ」
「優しい店主にたっぷり奢ってもらったのよ。むっふっふ」
ふんふんと鼻を鳴らしながら荷物を下ろすフルールに、二人は首をかしげるばかりだった。