百合と悪魔と煙草と銃とレズバトル   作:てりのとりやき

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第5話

「レテ、ユウリ、――賞金首よ!」

 

 賞金首なのであった。

 フルールがユウリ用の旅具を買い終えた翌日。

 宿の一室。

 扉を蹴破るようにして入ってきた、鼻息荒いフルール。小鼻がぴくぴくと興奮から膨らんだりしている。それを見たレテミアが「また始まったわ」と興味なさそうに欠伸をして、日向でうとうとしていたユウリが目を瞬かせて、

 

「急にどうしたんですか?」

「どーせフルールのくだらないお遊びでしょー」

 

 ぱたぱたと悪魔の羽を揺らしながら、レテミアは宙を浮く。やる気のなさそうな声音にフルールの眉が、ぐにゃっと上がった。

 

「なによぅ乗り気じゃないわねあんた達。もっとやる気出しなさい、やる気」

「あの、事の経緯を……」

「あーそうね。ごめんごめん、今から説明するわ!」

 

 てへと機嫌よさそうに舌を出して笑うフルールは、今日あった出来事を饒舌に語りだした――。

 

 

 

 

 少し前の出来事だ。

 暇つぶしにと町中を散策していたフルールは、そろそろ宿に戻ろうかと決めたとき、とある男を見つけたのだった。

 それは昨日、フルールがケチをつけたら喧嘩を売ってきた男達の内の一人で――。

 

「ちょっと、あんた」

「あん? ――げぇッ! フルールの姉貴!!」

 

 背後から声を掛けたら、不機嫌そうに振り返ったガラの悪い男。剣呑な目つきは瞬間的に恐怖を映し、きゅぅっと内股になったかと思えば一気に走り出した。

 あ、と二の句を告げる前に去っていく男。妙に内股気味だったが蹴られた股間が疼くのだろうか――いや、いや、そんなことよりも。

 せっかくいい暇つぶし相手になると思ったのに。そう思えば、なんだかだんだん腹が立ってきたフルールであった。

 

「逃げんじゃないわよ!」

 

 男が駆けだしてから僅か一秒後、フルールも全速力で走り出した。

 その速度は旅を続けることで鍛えられた健脚により、野生の獣を思わせる速度をはじき出す。

 男の背中が一気に縮まった瞬間、フルールは迷わず大地を蹴り飛ばし、跳躍――そのままの勢いで男の背中に飛び蹴りをかました。「ぐぇぇ」と男が地面を転がりながらカエルみたいな声を出す中、綺麗に着地したフルールは悠々と男に近づいていく。 

 

「なァに逃げてんのよあんた……あたしをまるで怪物かなにかみたいによォン?」

 

 煙草を吹かしながらゆっくりと歩み寄る様は修羅か魔物のどちらかである。少女の見た目だが。

 

「ち、ちがうんだっ」

「玉? 竿?」

 

 フルールが旅向きの頑丈なブーツで地面を叩く。踏む。

 少女の目つきは『口の利き方がなってないわね』と語っていた。

 

「――いえ違うんスよ姉貴! さっきのはそう、野生の熊に出会っちまった時の驚きというか……!」

「誰が熊だ!!!! そんな太ってないわよ!」

 

 ひええ、と男は決壊寸前の泣き顔で唇をわななかせる。大の男がやるのだから実にしょうもないとフルールは思った。

 

「チッ、ったくよー」

 

 丁度煙草をフィルター近くまで吸いきったので、新しい煙草を取り出し咥える。男をギロっとにらんだ。

 

「火!」

「へいッ!」

 

 男が慌てて立ち上がり、自分より背の低い少女の口元でオイルライターを近づける。火の灯った煙草をまた吹かしながら、へらへらと機嫌をうかがう愛想笑いを浮かべる男を、フルールは軽く流し見る。

 

「あんた面白い話知らないの。ほら、闇賭博とか、儲け話とか」

「え、ええと……あんまり知らないッス……」

「玉? 竿?」

「その二択やめてほしいッス!!!!」

「うっさいわね、片方潰れたって男は絶滅しないんだしいいじゃない」

 

 そういう問題じゃないッス……とまた内股になった男に、フルールは指に挟んだ煙草を向ける。少女の顔には悪魔じみた笑みが浮かんでいた。

 

「そこでジャンプしてみなさい」

「い、いや、そんな……」

「玉?」

「ひ、ひぃぃい……お、おれには帰りを待ってる妻と娘が……」

「玉がいいのね!?」

 

 フルールが空いている片手を男の股間に伸ばそうとすると、男は無言でぴょんぴょんした。チャリンチャリン鳴るので、フルールが何も言わずに手のひらを差し出すと、まるで死神にでもであったかのような悲壮な顔で男はズボンのポケットから小銭を取り出し、フルールに手渡す。

 カツアゲ以外の何物でもないのであった。

 

「チッ。しけてんのねー。煙草一箱くらいかしら」

 

 ひいふうみいと数えるフルールは、罪悪感の一切抱いてない表情でまた煙草を吸いだす。どうせ誰かから巻き上げた金なのだから気にする必要もない、と。

 すると金にがめついフルールに、男が少しだけ涙目になりつつも笑いながら近寄ってきた。

 

「そ、そういえば知ってますか、姉貴」

「あ?」

「最近このあたりで殺人鬼が出るって噂なんすよ……へへ……」

 

 ふーん、とフルールは興味のなさそうに相槌を打つ。青色の瞳で続きを促せば、男は緊張した面持ちで口を開いた。

 

「それで、領主さまから直々に報奨金が出ることになりまして、ええ」

「ふーん。いくら」

「それがその……」

 

 周囲を確認した男が、フルールに耳打ち。ぼそぼそと語られる金額にフルールは一瞬で目を輝かせた。

 

「――わぉ。大金じゃないのよ」

 

 

 

 

「と、いうわけで」

 

 事のあらましを説明し終えたフルールが青い瞳をきらきらと輝かせながら、早口にまくしたてる。

 

「賞金首捕まえて金もらうわよ!」

 

 そんなこんなで、ユウリを親元に送る話は、少し遅れることとなった。

 

 

 

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