「あ、あのっ!さすがにパラシュートを付けた方がよろしいのでは!?」
東京上空、かれこれ救命活動や犯人追跡でヘリを飛ばし続けてうん十年。若年層からお年寄りまで様々な人を乗せていたが…こんなにもいかれている人を乗せたのは初めてだ。
「何を言ってんだ、人生一度でいいから食パンを咥えて『チコク、チコクーっ』をスタイリッシュにやってみたかったんだ!」
いやパラシュート関係ないし!そもそもそんなことを東京上空でやる必要もないのでは⁉︎
本来ならこんなおかしい人を乗せる前に門前払いをするのだが、この子は警視庁の……あぁっ!ドアを開けて飛降りようとしてるっ!
「始業式早々、遅刻してまでやる必要は無いと思うのですがっ!」
「わからねぇか!これをしたら友達に自慢ができて人気者になれるぞ!」
「わからないし、自慢する必要も人気者になる必要も無いですって!それよりもご友人にお会いする目的を忘れてませんか⁉︎」
はしゃぎ過ぎてお父上からの言伝を忘れてないか一応尋ねる。この人楽しい事を優先しすぎて忘れかねないのだ。
「大丈夫だ問題ない!親父の頼み事はちゃーんと覚えてる!」
「そ、それなら問題ありませんね。ですのでパラシュー…」
「いやっほうぅぅぅぅぅぅぅっ!!」
彼はこちらの話を聞かず、パラシュートもつけないまま飛び降りてしまった。思わず二度見してしまった私は大きくため息をついた。
ほんと人の話を聞かない……まあ彼ならこの高さから落ちても大丈夫だろう。ヘリを旋回させて帰ることにした。どう報告するか考えていたが、ふと思い出した。
「……食パン咥えずに行っちゃったなあの人」
後ろの座席には一口も食べられていない真っ白な食パンが一枚、置かれていた。
__________
「…」
皆さまはじめまして、遠山キンジと申します。
まさか入学して早々今噂されている『武偵殺し』に襲われて、その道中に見つけたクソッタレの親友に見捨てられ、挙句の果てには神崎アリアという見た目は中学生中身は高校生の女の子に助けられて、かくかくしかじかで俺はヒスッてセグウェイを撃退して…そして今に当たる。
「…」
なんということでしょう。そのアリアがまさか同じクラスになってしまうとは。しかも隣の席になってしまうとは……
『アリアを守る(キリッ』とか言ってたヒステリアモードの俺をぶん殴りたい。そんでもって周りの野郎共は羨ましいとか愚痴るし女の子たちは女たらしだと愚痴るし…なんなのこれ、俺は普通にいたいのに出鼻をくじかれた気分だ。
「…ところで」
こちらを不機嫌そうににらんでいた神崎アリアが第一声を開ける。
「キンジの隣のそこの席、空席なんだけど。私、そっちの席がよかったわ」
「「「「「……っ!」」」」」
…え?なんでみんなぎょっとしたような顔をするんだ?…ちょっと待て。まさかと思うが、嫌な予感がしつつも近くにいる俺の親友2号の武藤に聞いてみる。
「…もしかしてこっちの席は…ノブツナか?」
「…ああ、『狂犬』ノブちゃんだ。」
ご愁傷さまと武藤は肩を叩く。余計なお世話だっつーの‼項垂れる俺にアリアが興味津々な顔してこっちを見る。
「誰?そのノブちゃんって人?」
「ノブちゃんについて教えて進ぜよう!」
悪乗りで話に入ってきたのは、金髪のツーサイドアップの童顔の女の子、俺の親友かつ腐れ縁の峰理子だ。周りからはロリ巨乳だと言われているが果たしてその通りである。
「本名、犬塚信綱‼マイペースな雰囲気を醸し出すけど…授業は常にさぼる!机の中に手榴弾、弁当と見せかけクレイモア!昼寝の邪魔する輩は磔拷問‼強襲科でもやることえげつないことから『狂犬』と呼ばれる男、それがノブちゃんだ!」
「そして始業式も2年生初日も早々にさぼりやがった…」
理子は相変わらずオーバーに説明するが、8割方その通りである。しかも1年の頃俺はノブツナと同じクラスだった。
授業中、あいつの机の中に隠していた大量の唐辛子の粉塵が漏れて教室が真っ赤な煙に包まれ、教室が地獄絵図になったのははっきり覚えている…まさか今年もそんな目にあうのだろうか…
「やべえ。キンジの奴、遠い目をしてやがる」
「よっぽどひどい目にあったんだよねー」
ま、まあノブツナなら気を付ければなんとかなるだろうな…うん、頑張ろう…
「と、ところでさ、俺の後ろの席も空いているんだけど…誰かくんのか?」
「「「「「……っ!」」」」」
…え?うそでしょ⁉まだなんかあんのかよ。またクラスのみんながザワついてるし、武藤はマジでご愁傷様とか哀れみを持った顔してるし、なんなんだよ!
「キンジ…お前の後ろは…アキオなんだ…」
「‥‥マジで?」
嘘だろ……『狂犬』だけでなく『鬼バカ』もいるのかよ⁉︎俺は問題児2人の所業を思い出し、また災難に塗れた一年になると予感し項垂れた。
____
本日は晴天なり。遅刻上等気分上々な俺はレキと一緒にタクシーに乗って武偵校に着いたものの、クラスがわかんないから結局はさぼって屋上で過ごすことにしました。
「はあ…こんなことなら枕を持ってくればよかったなぁ」
チラッと隣を見る。レキは相変わらず外の景色をぼーっと眺めているだけだ。うーん、なにを考えているのかよくわからん。
まあ見て愛でるのもこれまた一興…じゃねーよ。暇すぎんだよ。
このままだと暇人さんになってしまうのでレキとコンタクトを試みる。
「な、なあレキ。今日さ暇だったらラーメン食いに行かね?いつもの『一文字百太郎』ってとこでさ」
「…」
レキは何も言わずじーっと外を眺めている……はい、いつものスルーですね。と思う方、レキ観察検定3級は取れませんぞ。
最近になって瞬きの回数でyesかnoかわかるようになった。奇数なので今日はOKということだ。もちろん俺のおごりだがな!
「さーて、そうと決まればぁ、今日はさっさと早退‼あとはまたーりしようずぇ!」
「‥‥」
ん?レキが空を見上げたぞ?俺もつられて見上げると上空にヘリが飛んでいるのが見える。まあ近くに飛行場もあるしごく普通なんだが…
「ふうぅぅぅぅぅ……」
…うん、空耳かな?空から誰か叫んだ声がする。気のせいか通り過ぎた飛行機からなんか黒い点がこっちに近づいてきてねえか?
「ほおぉぉぉぉぉぉぉぉ…!」
あ、気のせいじゃねえぞこれ。明らかに誰か急降下してくるのが見える!しかもこの声聞きおぼえがあるぞ!
「イヤッホオオォォォイッ‼」
嗚呼、此奴は知っている。力加減っていうものを知らんボサボサ頭の脳筋キンニクバカ!
「チェストォォォっ!!」
このまま屋上に落下してミンチになるかと思ったんだが、いつものように鬼迫溢れんばかりの勢いで拳をつけたと同時に衝撃が放たれる。
おかげで目を覚ますような強い風が吹く。‥‥あ、レキさん今日はライムグリーンなんですね、アリガタヤアリガタヤ。
「はっはっは‼久しぶりだな!レキ、ついでにノブツナ‼」
「俺はついでかこの野郎」
紹介しよう。俺の腐れ縁のダチである不動明雄だ。こいつは警察学校から入学してきたが、こいつの父親は警視庁のトップ、警視庁長官だ。話によると父親はマフィアより恐ろしい存在だとか。
まあこいつはボンボンの息子となるが頭の中はバカボンボンである。
「で、なんかようか?」
「どうだ?オレのかっこいい登場シーンは。まさにブシドーであろう?」
あと『古武術』を習っているのだがどこどう見たら『武術』なんだか。ブシドーだのオモテナシだの色々と間違った知識を持っている。こういうのは突っ込んだら負け。
「はいすごいすごい」
「フハハハ、もっと褒めてもいいのだぜ?」
「殴るぞ」
「ショボボーン…」
しょぼくれんな。お前がショボーンしても可愛くねえよ。
「で、何の用だ?」
「どうだ?オレのかっこry」
「無限ループにはさせんぞ?」
此奴の悪乗りには毎度疲れる。レキに至っては退屈なのかうとうと眠たそうにしてるし、さっさと要件を言わして片づけよう。
「で、本当に何の用だ?」
「うむ。実はな…」
む、珍しくこいつが深刻な顔をしている。警視庁は武偵庁とは犬猿の仲だ。俺だけに用があるとすれば相当のヤマがあるのかもしれない。内容によっては手伝えるか否かだが…
「‥‥忘れちゃったぜ☆」
「‥‥」
てへっとウィンクするアキオにイラッときた。よし、片づけよう。俺はさっそくこいつを足払いでこけさせ両足を持って勢いよくと回転し……
「そおおいっ‼」
そして屋上から思い切り投げる!
「おおぉぉぉぉぉっ!?」
投げ落として大丈夫かって?地上から数百m離れた上空から着地して無事なんだし、大丈夫だろ。ん?ありえないって?そもそも高校生が銃でドンパチする時点でおかしいしから気にすんなって
「チェストォォォっ!」
「キャアアアアッ⁉︎」
「うわっ⁉︎突風がっ!」
「ひゃあぁっ!スカートがっ‼」
「親方、空から変人が‼」
な?大丈夫だったろ?さてと、筋肉バカはほっといて…レキのほっぺをつついて起こすか。マシュマロみたいに柔らかいほっぺだな
「おーい起きろ、レキ。今日はもう帰ろうぜ」
「‥‥」
無表情で無言ながらも頷いてついてきてくれる。1年もこんなやり取りだったが少し進歩できて嬉しい今日この頃。
ご愛読ありがとうございます(焼き土下座