「絶対にいやなのだ!」
「なー?そこんとこ頼むって」
武偵高校にはいくつかの学部学科がある。拳銃や刀剣など武装して強襲逮捕を行う強襲科、車輌や船舶、航空機の運転、整備に特化した車輌科、探偵術や推理学による観察、分析に特化した探偵科などが存在する。
ほんで、俺がいるのは武貞の装備品のメンテやカスタマイズを行う装備科ってとこにいる。
そして俺の頼みを断っているショートカットの小柄な女の子は平賀文、俺が知る限り一番腕のいい装備科の生徒だ。修理やカスタマイズの時は高い金を請求しやがるけど。
「だからさ?ちょいっと修理するだけじゃん?いい値を出すからさー、な?」
「…とか言って、以前修理してあげたドローン覚えてる?」
「あー、銀行に引きこもってる強盗どもに向けて爆弾装備して神風アタックしたあれか?」
「どうせ直しても勝手にハチャメチャに改造するつもりなのだ!」
「ままま、そう怒んなって。今回の代物は通学用に使おうって思ってるからさー、な?」
うまいぐあいに機嫌をとらなくては話を聞いてくれない。何度か頼み込み、こっそりゴマすったりしてなんとか宥めて話に乗ってくれた。
「‥‥で、直してほしいのは何なのだ?」
「ああ、このセグウェイなんだけどな…」
ごとりとテーブルの上にセグウェイを2台置く。すると平賀の奴は驚いたように目を開いた。
「ちょ、これって『武偵殺し』の証拠品じゃない!?」
「あ?なんじゃそりゃ?」
「見てないの?最近話題になってる武偵を襲う殺人犯‼」
つまるところ今朝キンジを襲っていた無人セグウェイは武偵殺しの仕業らしい。さらには自転車に爆弾がしかけられていたとか。
あいつの悪運は呆れるほど強いようだ。それで現場に行った鑑識科は残りの残骸を回収して鑑識しているところとの話だ。
「まさか勝手に現場から証拠品を持ち去ってたの!?」
「んー、知らね。奴さんの証拠が欲しけりゃやるけど?でもそのセグウェイはしゃんと修理してくれよ」
「仕方ないなぁ……値段はこれでいい?」
平賀は観念して、電卓に値段を打って俺に渡す。うげげ、結構なお値段で。
「ぼったくってねえよな?」
「何言ているの?当たり前の値段なのだ!」
まあ技術は確かなものだし妥当な値段というわけで払う他ない。財布から払えるかどうか残金を確認するけども…やべぇ、足りねえ
「あ、後払いでもいいか?」
「まいど~♪」
やっぱりぼったくられているような気がする…。明日には完成しているとかいうからしっかりやってくれるんだろうな。用は済んだしさっさと出よう。
「レキ、待たせちまったな」
「…」
装備科の棟を出て入り口の近くでレキは待っていた。しばらく待ちぼっけをさせちまったのに構わないと首を横に振ってくれた。天使か、いや天使だ。
___
「おたく渋いねぇ!」
ラーメン屋の店員は爽やかなスマイルに見せながら俺とレキに本日のラーメンを運んできてくれた。ラーメン屋『一文字百太郎』は俺がよく通う所である。
つか、金髪、グラサンにダウンベストでジーパンの店員や厨房では「破壊力ぅぅぅぅっ!」って叫び声が聞こえるし、この『芽多留巣羅ッ具ラーメン』て大丈夫なのこのお店は…
「…替え玉ください」
「あいよー!」
はや!?レキ食べるの速っ!?そうだった、こいつは見た目に反する大食いキャラだということを忘れてた。お財布、大丈夫かな…
「ノブツナさん…」
「あ?ちゃ、ちゃんと食べるぜ?俺の分は…」
「最近『武偵殺し』が話題になっていますが、ノブツナさんはどうしますか?」
レキは寡黙なところが多いのだが、任務の打ち合わせや仕事の相談とかこういった時はやや饒舌になる。
「…私の友人はそれを追っています。他の生徒も調べているようですが…」
「うーん、俺は知ったこっちゃねえな。そいつとは関係ねえし。…まあ俺の私生活の邪魔をするなら落とし前つけるけど?」
「…」
あれま、俺が動くのか気になっていたのかな?動かないとわかった途端黙ってうなずいてるし…まあやられた連中にはドンマイとしか言いようがない。
いつかは自分が死ぬかもしれん道を選んだんだ。それぐらいの覚悟はするべきだ。
「あいよ、替え玉ひとつ!」
「…あと餃子を5人前」
「おたくよく食べるねぇ!」
「レキさん、やめてください、俺の財布が死んでしまいます」
_____
「さようなら諭吉、こんにちは小銭…」
なんということでしょう、軽かったお財布が今やいっぱいの小銭で膨らんでいる。次からはレキとごはん食べに行く際はお財布に余裕を持たしていこう…
「あ、そうだ。キンジの奴はどうなったのかな?」
今朝会って以降あいつを見ていなかった。あいつは無事に学校に着いたのかまたはた病院でまずい病院食を食べる毎日を送るハメになったか、南無三。
そうだ、この際だからあいつに貸した『QeeeeN』のアルバムを返してもらうか。あれは限定盤だしな。
俺は口笛を吹きながら隣のキンジさんのドアの前に立つ。そして腰につけてるポーチからピッキング道具を取り出して開ける。なんで持ってるかって?武偵だからさ。
というかこいつは本当に警戒心ないんだよなぁ。あ、簡単に開いちまった。
「さてと、おっじゃましまーす」
あ、言ったとしてもあいついないかもな。限定盤のCDを返してもらうべく、俺はドアを開けた。
「キンジ!あんたは私の『奴隷』になりなさい!」
「」
なんということでしょう、キンジさん宅にお邪魔すると部屋にはピンクのツインテールのガキンチョと元気にぴんぴんしているキンジさんがいらっしゃるではありませんか。
てか奴隷?ピンクツインテロリの爆弾発言に思わずあんぐり。
「‥‥マジカ」
「!?ちょっと!?あんた誰よ!?」
「ゲッ!?ノブツナ!?」
俺のとっさの一言に気づいたピンクツインテロリは驚いたような顔をして、キンジさんは『げぇっ!?関羽!?』みたいに絶望した顔をして俺の方を見た。いや、困惑してんの俺の方なんだけど?
「…ま、まあキンジさん。世の中にはいろーんな趣味や趣向があるんだけどさ」
「ま、待ってくれノブツナ!これは誤解だ!」
「…さすがに幼女と『奴隷』プレイはアウトでしょ…」
ちょっと引くわー、マジで引くわー。だが人にはいろんな思考がある。共感はあるがそれを否定することも肯定することもできない。なのでキンジのこの先を案じながら犬塚信綱はクールに去るぜ。
「ま、待ってくれー‼」
「達者でな。あと教室、隣の席だったら…とりあえず殴る☆」
キンジも男だから仕方ないんだ…でも幼女はねえわ。俺はそそくさと部屋を出ていく。うん、幼女はねえわ。
明日からアイツは『女たらし』から『幼女たらし』になっちまうのか…
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隣人の将来がどうなってしまうのか、事案になってしまうのか、キンジはロリコンだったのか、色々と気になりすぎて目が冴えてしまった。
「……」
どうしよう、まじで眠れん。今日は疲れたから早く寝ようと思っていたのだが…
『風穴ぁぁぁぁっ‼』
『ちょ、アリア、やめっ……ギャーっ!』
隣からアリアというピンクツインテロリが怒鳴りながら銃を乱射している音とキンジの悲鳴、家具とかに被弾し壊される音が聞こえる。
「‥‥銃声とか、あいつらどんなプレイしてんだよ…」
パチスロのレキの歌が好きすぎる