「ぅあ……!!」
自分が出した変な声で目が覚めた。気分は最悪だ。
嫌な夢を見ていたことだけは覚えているけれど、どんな内容だったかはもう思い出せない。
「あ、良かった。目が覚めたんだねツバサ。うなされてたけど、大丈夫?」
「……え?」
ゆっくりと体を起こすと、向かいのベッドの上に座ったルームメイトのフードゥルアルクが心配そうにこっちを見ていた。
というか、今気が付いたけど私の体に掛け布団がかかってる。
確か、自主練から帰ってきてすぐベッドに倒れこんで……そのまま寝ちゃったみたいだから布団なんてかけてなかったはずだけど。
改めてフーの方を見れば、彼女は自分のベッドの上で体育座りしながら壁に寄りかかって私の方を見ていた。そこに掛け布団はない。
「もう。寝るんだったらちゃんとしないと、風邪ひいちゃうよ?」
「ごめん……」
なんだか悪いことをしちゃったみたいで居心地が悪い。
だから、なんとなくフーから目をそらして窓の外を見た。
空はもう真っ暗で、部屋の明かりで見えにくいけど星が綺麗に光っている。
……ん? 外は真っ暗ってことはいったい今は何時なんだろう。
「あ! ご飯!」
寮の夕食の時間は決まってる。ご飯の時間にいなくても残り物を寮長が冷蔵庫に取っといてくれることがあるけど、どうせ食べるならあったかい出来立てがいい。
けれど、そんな私の思いは届かなかったみたい。
「もうご飯の時間は終わっちゃったよ。夜の8時前だもん」
「そんなぁ……」
思わずがっくりと肩を落とすと同時にお腹から大きな音が響いた。……お腹すいたな。流石に何か食べたい。
そう思ってベッドから足を下ろして立ち上がる。また大きな音がお腹から響いた。恥ずかしいから少し大人しくしてくれないかな……。
誤魔化すようにフーがかけてくれていた布団を持って差し出す。
「しょうがない。冷蔵庫の余り物探してくる。そうだ、布団ありがとね」
「どういたしまして。ほら、早く食べに行きな」
「うん。そうする」
フーにそう言われて、早歩きで部屋を出て共有冷蔵庫のある場所へと向かう。
寮の中にはこれからお風呂に行くウマ娘や、夜の自主練に向かうか帰ってきたウマ娘がちらほらいた。
……ここのウマ娘たちはみんな真面目だ。勉強はともかく、速くなることを望まない子はいない。
それでも、本当に速くなれるウマ娘はほんの一握りだ。
ダメだな。いやな夢を見たせいか、とにかく気分が沈む。変にお昼寝みたいなことしちゃったからか、体もだるい。
いやなことにどんどん考えを巡らせそうになるのを必死に我慢しながら、それでも何とか共有冷蔵庫にまでたどり着いて、冷蔵庫を開ける。
中には名前が書かれた飲み物とか食べ物もいっぱいあったけど、一番手前に「夕飯を食べ損ねたポニーちゃんへ」と綺麗な字が書かれた付箋が貼られたパックがいくつか置かれていた。
中身は……おにぎりがいくつかとサラダ、それからから揚げだ。あ、口の中でよだれが……。
こういうパックは一人一個までなら好きに食べていい。勿論、夕飯を食べ損ねた子用だけど。
またひときわ大きな音でお腹が鳴った。なんでもいいから早く食べよう。もう限界だ。
冷蔵庫に入っていたご飯はあっという間に食べ終わった。あったかくなくても美味しかった。作ってくれた人ホントにありがとう。
そんなことを考えながらパックを綺麗に流し台で洗って片づけた後、私は一回部屋に戻ってすぐに廊下に出た。
今度はお風呂に入る為だ。自主練から帰ってきた後、シャワーも浴びずに寝ちゃったからね……。
フーは何も言わなかったけど、多分今の私結構汗臭い。
それは私も嫌だし、何より体がベタベタしてる気もしたから早くさっぱりしたかった。
そういうわけでそそくさと脱衣所に入って服を入れる籠の前で服を脱ぐ。
裸になってお風呂場に入ってみたら、運が良いことに誰もいなかった。
「おー、貸し切りなんてラッキーかも」
誰もいないお風呂場に私の呟きが響き渡るのを聞きながら、シャワーで体を念入りに洗っていく。
温かいお湯で体を洗うと、体についていたベタベタが取れていくような感じがして気持ちがいい。
そうして一通り髪と体を洗い終わった私はバレッタで髪がお湯に浸からないように留めてから、フェイスタオルを頭に乗っけて湯船にゆっくりと体を沈めた。
「ふぅー……」
じんわりとした温かいお湯に体を沈めると、思わずゆっくりと肺の中にある空気を全部吐き出してしまう。
そうしてお湯に浸かりながら頭の裏に浮かんだのはこれからのこと。
テイオーは勿論、ネイチャもトレーナーが付いた。私も早いところトレーナーを見つけないと、二人に離されちゃう。
でも、どうしたらいいんだろう。次の選抜レースまでは大分時間がある。それまで自主練をしたとしても、私一人でできることなんて大したことない。
自然と視線が下を向いていく。透明なお湯越しに私の体が見えた。具体的にはこの一、二年で大きくなってきた胸が見える。
そういえば、胸って大きいと浮くんだっけ。
なんてことを考えながら、なんとなしに両手で胸の下の方を持ってみる。重くなかった。
「おお……浮いてる……」
ホントにお湯に浮いた胸の下側をタプタプして遊びながら、思わずそう呟いてしまった。
トレセンに来てからゆっくり考え事をしながらお風呂に入るなんてこと、そう言えばしたことなかったな。
だから自分の胸が浮くかどうかとか考えたこともなかったっけ。
まあ、浮いたってことはお風呂から上がったら重たくなるってことだけど。そう思うとなんかちょっと邪魔だなこれ。
そんなことを考えていたらお風呂場のドアが開いて誰かが入ってきた。残念、貸し切り浴場の時間は終わりみたい。
でももうちょっとだけお湯に浸かっていたいなと思って、私は特に立ち上がろうとは思わなかった。
……入ってきたウマ娘の顔を見るまでは。
「……んん? あ! キミキミ! ソライロツバサでしょ!」
「……トウカイテイオー」
まさか、よりにもよってテイオーと鉢合わせちゃうなんて。