時は流れ、テスト四日前の月曜日。中間テストは金曜日に実施され、カウントダウンが確実に迫りつつあった。
SHRでテスト範囲の変更が茶柱先生から言い渡され、大半のDクラスの生徒は頭を抱え絶望している。山内なんか口をパクパクさせて動かないしな。
SHRを終え、茶柱先生が用済みとばかりに教室を出ていく。彼女はオレたち生徒の実情に対して何も興味がないのだろう。まあ、教師に限らず人間とは厄介事に首を突っ込みたくないものだからそれも当然といえば当然か。彼女もまた事なかれ主義である。
クラスは阿鼻叫喚に包まれていたが
「テスト範囲変わったってどうするんだよこれじゃ退学じゃないか」
「俺なんも勉強してねぇよやべぇよ」
「天野さえ居なければ·····チクショウ」
「このままじゃAクラスなんて·····」
なんか俺の名前が聞こえたような·····気の所為かな?
とはいえ、この数週間にわたって生徒たちから彼女への好感度は教師ランキング14位までランクダウンしてるらしい。ちなみに1位はゲロ飲み屋先生である。
あれ·····?いまどこからか殺気を感じた気がするがまぁいいか。
「皆、帰る前に聞いて欲しい」
入れ替わるようにして登壇した平田が、帰り支度を進める生徒たちに呼び掛けた。ちなみに高円寺だけは無視して帰った。まぁお察しである。
「平田くん、それは今聞かなくちゃいけないものかしら。残り四日という状況で、くだらないことに時間を割く理由は·····」
「とても大事なことなんだ」
「でも·····」
「ちょっと黙って聞いててくれないかな堀北さん·····」
堀北の言葉を平田は遮って、何かいつもの平田に感じない圧力のようなものを含んだ面持ちで彼は答えた。
これ程に真剣な表情を浮かべているのは初めて見るので、流石の堀北も聞く姿勢を取る。
そこで彼女はようやく、彼が手に持っている大量の印刷物に気付いたようだった。
「明後日の中間テスト、絶対に高得点を取れる方法があるんだ。まずはこのプリントを見て欲しい。」
列の一番前の生徒に先導者は流れるようにしてそのプリントを配っていく。あれ·····俺の分は?前の席にいる山内はこちらを睨んだ後俺の後ろの席の阿保木に渡す。それを見た平田が拳を強く握っているが·····なんか原作崩壊しかけてないか?
「これって、問題集……?」
誰かの呟きが響いた。
そう、配布された紙には黒インクで文字の羅列がぎっしりと焼かれており、それは国語、英語、数学、理科、社会の問題があった。これ過去問じゃ無いっすか。
「見て分かると思うけど、これはテストの問題集だ」
「俺らは堀北から同じような問題集を貰ってんだけどな。これ以上増えんのかよ·····」
絶望的な顔で須藤が答える。
どうやら須藤はしっかり原作通り堀北に貰っているらしい。後ろで山内と池もウンウン頷いている。それにしてもこいつら顔が必死だな·····。
「流石は堀北さんだね。でも須藤くん、これはただの問題集じゃないんだよ。これは·····過去問だ」
過去問。特定の試験で過去に出題された問題を意味するものだ。
つまりこれは、東京都高度育成高等学校に於いて、数年前に上の学年の生徒が受けたテストで他ならない。
「実は一昨年の中間テスト、これと同じ問題だったみたいなんだ。だからこれを軸にして勉強すれば、高得点を得ることが出来ると思う。これなら最高の結果を手に入れられるよ」
「うおおおお! マジかよ! ごめんな平田、俺、お前のことを誤解していたぜ!」
「俺もだぜ。ごめんな、内心、陽キャイケメンリア充とか思っていて!」
池と山内が感極まったようにテスト用紙を抱き締め、平田の手を摑んで激しく上下に振るう。平田は彼らの都合の良さに苦笑いを浮かべていたが……。
でも他の生徒も同じようなものだ。突如舞い降りた幸福に興奮を隠せない。
それにしても櫛田が原作だとやっていたが今回は平田らしい。これも俺が居る事が原因なのだろうか。
「皆、これを有効活用して一緒にテストを乗り越えよう!」
俺はその光景を見ながら、誰も退学しなさそうな事に行き場のない憤りを感じながらその場を去るのだった。
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今は深夜3時、誰もが寝静まるであろう時間である。
あの後ポストに過去問全部と、それを届けたであろう松下から途中で帰っちゃったから渡せなかった事、虐めをした事について後悔してる事と謝罪の手紙が入っていた。
俺が求めているのはそう言う事では無いのだが·····というかそもそも反省するならやるなと言う話である、まぁ謝罪すらしない他の奴らと比べたら幾分かマシだが
それで俺がこんな時間に何しているかと言うと、山内のポストに1枚の手紙を仕込む為だ。中身はラブレター、と言っても偽物である。内容はテスト前日の夜10時にモールの一番端にある喫茶シェアトで待っていますというもの。勿論嘘である。これを使ってテスト前日の勉強時間を削る作戦だ。
なぜ山内なのかと言うとこういうのに誰よりもよく引っかかりそうだからである。
ちなみに今の俺の格好は黒いジャンバーに黒のズボン、黒の靴に黒の靴下、黒の手袋と黒の帽子、黒のマスクにサングラスと完全に不審者である。
見つかったら通報案件だな。
「偽物のラブレターとは随分と面白ぇ事を考えるじゃねぇか」
後ろから声をかけられる。俺の第六感が危険だと囁いている。
「Dクラスの底辺を退学させて様子を見ようと思ったが、まさか同じ事を考える奴が居たとはな、面白ぇじゃねぇか…お前は誰だ?」
その台詞を聞くや否や、俺は猛ダッシュで逃げ出した、後ろから声の主、龍園翔が追いかけてくる。
「おいおい逃げんなよ、楽しく話そうぜ。」
いや逃げるだろ普通。こいつに目をつけられるとか終わりだろ。
俺はケヤキモールの中のヘリウムガス専門店に隠れる事で何とか逃げきれた。この店はヘリウムガスに特殊な成分を混ぜることで様々な声に変えられるらしい。俺はそこで念の為ヘリウムガスを購入する。どのヘリウムガスにするか悩んだが84番にした。理由はこのヘリウムガスを吸うと出る声が池にあまりにもそっくりだからである。もしかしてこれ色んな人の声作れたりしねぇよな·····?
俺は池声ヘリウムガスを買って店を出た。龍園はケヤキモールの奥の方へと行ったらしい。
俺はその隙に寮に走って帰ることにした。それにしても疲れた、帰りに飲み物でも買っていこうか。
「鈴音。ここまで追ってくるとはな」
どうやら堀北兄の堀北をボコボコにするあのシーンらしい。。
しかし周りを見渡しても綾小路はいないいない。原作改編だろうか、取り敢えず俺はスマホ、ペン型カメラ2種を起動する。ボイスレコーダーはつねに起動している。
「もう、兄さんの知っている頃のダメな私とは違います。追いつくためにここに来ました」
「追い付く?お前には無理だ。お前では追い付くどころか自らのクラスをまとめることすら出来ない。自分の欠点を理解しようとすらしてないお前には上を目指す資格はない」
「どんなにお前を避けたところで、俺の妹であることは変わらない。生徒会長である俺にお前のことが周囲に知れれば、恥をかくことになるのはこの俺だ。今すぐこの学校を去れ」
堀北生徒会長の残酷な拒絶。堀北鈴音の顔が強ばる。
「兄さん……私はっ!」
「恥をかくのはこの俺だと言ったはずだが·····聞き分けのない妹だ。」
そのまま堀北生徒会長は堀北を背負い投げする。コンクリートと堀北鈴音の背中の衝突した鈍い音がする。そのまま堀北生徒会長は堀北鈴音を殴る。何度も鈍い音が響く。
「ごめん·····なさい·····」
堀北鈴音の謝る声だけが響く、堀北生徒会長は無言で何度も殴っている様だ。
「そこにいるのは誰だ!」
ずっと殴ってるかと思うといきなり後ろを振り返り急にこちらを向いて圧を飛ばしてきた。何故わかった。
ここにいたら殺される。間違えなく殺される。今世で初めて命の危険を感じた。俺は別に生まれ持ったチート能力があるなろう系主人公でも、異能が発達するデスゲームの参加者でもなんでもない。平均よりは上でも神でも天才でも無い。それでも相手との圧倒的な力の差がある事だけはわかる。
ーーーーーー逃げなきゃ殺される。
俺の頭は痛い程に危険信号を発していた。
とにかく逃げる事に専念しよう。捕まったら殺される。
「おい、待て。」
俺を静止しようとする堀北生徒会長の言葉に耳もかさず俺は一目散に駆け出した。この見た目な以上中の人がバレる心配は無いだろう。俺の中には原作知識を頼りにしてれば誰にでも勝てると奢り昂っていた部分もあった。何とかなるんじゃないかという楽観的な思考もあった。
だが、殺意を纏った堀北生徒会長と会って傲慢な心も楽観的な思想も何処かへ抜け落ちた。世の中そんなに甘いもんじゃなかった。
俺は全速力で逃げて寮に返った。後ろを振り返れない、振り返る暇があったら走るしかない。急げ、急げ、急げ、唯ひたすらに急げ、逃げる事だけを考えろ·····
寮の中まで戻ってきた。急いで俺はエレベーターの中に入る。ボタンを急いで押す。後ろを振り返ったが堀北生徒会長は着いてきてはいなかった。
·····助かった。
俺は、自分の寮の部屋の中に入り、風呂に入り、着替えて寝る事にした。
明日から堀北生徒会長と龍園翔に追い掛けられるかもしれない。
そんな地獄のような現実を逃避するかのように、俺は眠りについた。
Dクラスを
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許すな!
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許してあげよう