ようこそ間違った教室へ   作:あもう

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成長と死亡フラグ

須藤の事件だが、取り敢えず1回目の審議が終わるまでは平田に丸投げしたいので、平田に目撃者探しをBクラスと手を組んで何とかしてもらいたいのだが悲しいことに平田の連絡先を持ち合わせていない。持っているのはいつぞやの過去問を貰った先輩と綾小路と松下ぐらいである。

 

まあいいや、Bクラスと組まれるとDクラスがまた強くなるしそれは避けたい。このままポイントが減ってくれるならそれはそれだし。減らなくても綾小路の仕事分は何とか出来る。

 

早いうちに龍園には自首するとしよう。

 

俺は、綾小路に平田の連絡先を渡すよう送り、ケータイを閉じる。

 

その後平田から連絡は三つ来た。

 

1つ目は明日の朝、須藤にみんなの前で謝らせる事。まぁこれは当然だが、須藤という男の性格からして成長した。協力する価値がある。とクラスに思わせられるからというのはよく分かる。想像より平田は成長している。そしてまたそれを受け入れる事ができた須藤もまた成長している。

 

2つ目は俺のいじめについて。冤罪とはいえ1ヶ月間、いじめを黙認した事に関する後悔、平田が過去に虐めを見て見ぬふりをして友達が飛び降り自殺をして、植物人間状態になっている事。そして俺がそんな事にならなくて良かったという事や、今回協力してくれてとても嬉しかった事。これからも良ければ協力して欲しい事などが書かれていた。

 

平田はともかくとして、虐めてきた奴は退学もしくは生き地獄にするし、Dクラスに協力するつもりなんかさらさらない。むしろ抜けようとしてるし潰すつもりだ。

 

3つ目は特別棟について。監視カメラは無いため。偽物の監視カメラを設置して訴えをとりさげるつもりと言う話。綾小路は今回別件担当なのでおそらく平田が一人で気付いて考えたのだろう。目覚しい成長っぷりで、Dクラスを退学させるのに何より邪魔だ。

 

一体綾小路はどんなマジックを使ったんだ…?

 

まぁ何はともあれ解決しそうだ。クソ野郎が!

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

SLT終了後、茶柱先生が去っていくと、クラス中がいつもなら騒がしくなるのだが、今日はならなかった。

 

 皆が皆、周囲の友人と目だけで会話している……そんな、重苦しい空気が室内に充満した。茶柱先生がSLTで事件についての詳細を話したからである。まぁそりゃそうだろうな。

 

 そんな中、椅子を引く音がやけに大きく反響した。

 

 須藤だ。

 

 彼は無言でゆっくりと足を動かし、教卓にへと静かに登った。

 

視線という視線が彼に収束し貫通する。困惑、怪訝、憤怒、嫌悪、様々な負の感情が突き刺さる。

 

 数秒後……彼は頭を深く下げた。

 

 

 

「まずはクラスに迷惑を掛けて……本当に悪い。」

 

 

 

 顔を上げることなく、須藤は謝罪した。頭は90度に下げ、20秒動かない。謝罪会見の礼儀の作法だろうか。

 

 誰もがこの突如舞い降りた出来事に何も言うことが出来ず、瞠目するしかなった。たった1人を除いては。

 

「本当だぜ、お前のせいでクラスの努力が台無しじゃねぇか!クラスがせっかく一致団結してポイントを得たってのに士気を下げる様な事したらダメだろ!」

 

山内である。最早皆無視しているが皆の目には明らかな侮蔑が宿っている。まぁそれはそうだろうよ。あいつは自分を見れ無さすぎだろ。

 

須藤も入学当初、周りから抱れている心象は最悪だった。遅刻を何度も繰り返し、登校してきたと思えば居眠り。些細なことで苛立ち、暴言を吐き、自分の思うようにいかなかったら暴力、恫喝。さらに金は返してくれない。クラスの6バカとしての地位を確実に作っていた、

 

しかしこの数ヶ月で、彼はかなりの速度成長の兆しを見せるようになった。

 

自分の罪を認めることは、口で言うのは簡単だが実際に行動出来る人間は数少ない。現に山内は出来てない。

 

 

「昨日の夜……俺なりに考えてみたんだ。今回の騒動はCクラスに仕組まれたものだ。けどよ……原因は俺自身にあるんじゃねぇかって、考えたんだ。お世辞にも俺は鈴音や櫛田のような善人なんかじゃねえ。どうしようもないクズだ。すぐ暴力、暴言、恫喝に走るし、4月には遅刻や居眠りもしていた。テストの点だって悪ぃし髪は赤い。顔も怖い。まぁ春樹よりはマシだが…それでも俺はクズだ。そんなクズが自分勝手に助けを求める権利なんてのは無いのかもしれねぇ。誰かが手を取ってくれるかも分からねぇ。今までの行いのせいだ。俺が悪ぃ。けど頼む。俺を助けてくれ。もう一度だけ俺にチャンスをくれ!」

 

 

クラスメイトが驚き、目を見張り、息を呑む。

 

須藤が皆の前でプライドを捨て、自分の非を認め、助けを乞う。名指しで下扱いされた山内はギャーギャー騒いでいるが、おそらく山内にはできない。それどころかこのDクラスにいる生徒の何人にそれができるだろう。プライドを捨て、自分の非を認め助けを乞うということがどれだけ難しいことか。

 

さすがのDクラスでもそれぐらいはわかるらしい。

 

クラスメイトたちが驚愕の表情を見せる。

 

その時間の中で、今回の件の首謀者が颯爽と席を立ち、須藤に近付く。そしてしっかりとした口調で、彼に手を差し出した。

 

 

「僕は須藤くんを助けるよ。何があろうと絶対にね。皆もそうだよね?」

 

 

 須藤は差し出された手を摑まない。いや、摑めない。多分そういう台本なのだろう。平田は須藤を飼い慣らしたらしい。

 

空に浮く手から視線を外し、恐る恐る尋ねるフリをする。

 

「今までの俺の行いを見て俺が嘘を吐いていると思わないのか……?」

 

 

「なら聞くけど嘘を吐いているのかい?」

 

 

 

「いや違う……!俺はもう嘘は極力つかねぇ!」

 

 

 

 

 

「なら僕は須藤くんを信じる。僕たちはクラスメイトで、この先一緒に戦う仲間だ。弱い所はみんなで補い合って成長していく、それがクラスだからね。」

 

 

 改めて手が差し伸べられる。

 

平田の瞳の中には一周まわって恐怖すら感じられるぐらいの覚悟が揺らめいていた。何があっても助けるという決意。

 

須藤はゆっくりと自身の手を伸ばし、おずおずと握る。しかしそれはすぐにかたく結ばれ、須藤の目に光が灯った。いい台本である。今度の豪華クルーズで演劇としてやって欲しいぐらいだ。

 

 

 

「…僕は須藤くんを何があろうと助ける…皆もそうだろ?」

 

「お前ぐらいだろ平田、俺は知らねぇからな。殴ったのは事実じゃねぇか。」

 

山内は悪態をつくがガン無視で進んでいく。

 

 

 

 多くの生徒が瞑目する中、一人だけ動く生徒が居た。

 

 オレからしたら意外な人物だった。原作とかけはなれたこのいじめの割拠したクラスでなお戦うのか、それとも平田の脚本通りなのか。

 

 

 

「あたしも平田くんと同じ、須藤君を助けたい。」

 

 

 

 洋介の交際相手、軽井沢恵。いつになく圧力と気合いの入った声で、Dクラスの女王としての風格がそこにはある。

 

 

 

「須藤くんは十分反省しているし、何より、冤罪だったら問題でしょ? それにさ…あたし、冤罪とか虐めとかそういうの一番嫌いなんだよねー。その件に関しては……天野君は本当にごめん。」

 

 

 

声から出る抑揚は最後まで変わらなかった。だが、最後の部分だけは他者を威圧するだけの力があった。というかそう思うならそもそも虐めなんかしないで欲しい。そしてこんな皆の前で名指ししないで欲しい。周りの視線が痛い。

 

軽井沢は洋介の味方をすること以上に、自分が気に入らないからという理由で賛成するようだ。まぁ過去を考えれば妥当なんだけどさ。

 

とはいえ女王の持つ影響力は絶大だ。

 

 須藤が皆の前で謝罪し、洋介が手を差し伸べ、軽井沢が纏める。これでほとんどの女子生徒は仲間に引き入れたのも同然だが、まだ男子生徒が残っている。

 

「俺ももちろん助けるぞ、そうだろお前ら?」

 

御門が口を開く。残りの六馬鹿はそれに続くが、それだけ。

 

 

「私も須藤くんを助けるよ。だってそれが友達だと思うから。本堂くんもそう思うよね?」

 

櫛田も続く。

 

「櫛田ちゃんの言う通りだぜ。正直最初は須藤の事だし一切信じられなかったけどさ。けど……うん、俺たち友達だからな。須藤、次からはそーゆーのナシだからな!」

 

 

「ああ……! もうやらねぇ!」

 

本堂の言葉に、須藤は即答する。

 

 櫛田はDクラスの中で最もコミュニケーション能力に長けている。本堂は女子からの心象が良いとはお世辞にも言えない。それは常日頃からの生活態度に些か問題があるからだ。だから六馬鹿なのだが。

 

 そして何より、今回本堂は自分の意思で須藤を助けることを決めた。惚れている櫛田が助けると言った、というのもあるだろうが、それでも須藤を信じる気持ちはあるだろう。

 

 須藤と同じく、彼もこのニヶ月で変わり始めている。

 

「俺は反対だ。須藤を信用出来ない。」

 

しかしこの雰囲気の中反対意見が出る。幸村だ。こいつ成長しねぇな。

 

「そもそも殴ったのは事実なんだろ?だったら結局ポイントは引かれるんじゃないのか?」

 

幸村の言い分は最もだった。賛同する生徒も一定数いるようで頷いている。

 

「すまない…俺のせいだ…。」

 

いつもの須藤なら幸村にくってかかりそうなものだが今回は反省の意志をしっかりと示す。成長したんだろうな。

 

 

「だいたい!お前のせいでクラスポイントは減るからAクラスに行ける機会もないしこのびんぼうせいかつもぬけだせねぇじゃねぇか?どうするつもりだよ!」

 

怒りのあまりついに喋り方が幼児退行して漢字表記すら出来なくなってきた山内が追撃する。が、この発言は山内の意志と真逆の作用を示す。

 

「幸村君は、山内君と同じ意見って事でいいのかな?それなら山内君に代弁して貰おうかな?」

平田のある種上手い発言。暴君モードなのかこれ?六馬鹿の中でも山内は飛び抜けている。他の奴らは進化or現状維持だが山内だけは退化している。あれと一緒にされるか、反対意見を無くすかである。地獄の二択だ。

 

「いや、反対意見は取り消させてもらう。だから山内と同じ扱いはやめてくれ。」

 

「なら反対はいないよね?それじゃあ今回の作戦、その名も監視カメラ作戦について説明するね。」

 

 先導者の指示の下、須藤救済のために動き始めるDクラス。以前彼が危惧していた、『Dクラスの崩壊』はこのままいけば起こらないだろう。奇しくも山内という劣等生のおかげで。

 

今回の一連の事件は彼らに任せるとしよう。そう思いながら話を聞く。

 

「この作戦は簡単で、特別棟に偽の監視カメラを外村君に設置してもらって、櫛田さんにCクラスの人達を呼び出してもらう。あとは監視カメラ写ってるけど殴ったのバレたらこっちも困るけど君達は退学かもよ?って脅して何とかする作戦だ。外村君と櫛田さんはもちろん協力してくれるよね。」

 

2人とも頷いた。というか平田の圧力に頷かされた様な感じだ。

 

「山内君の件に関しては櫛田さんと堀北さんに、阿保木君の件に関しては御門君に一任する。ほかの皆も手伝うように、それじゃあみんな頼んだよ。」

 

暴君モードの平田の指示で仕事が割り振られる。おそらく須藤の件は解決するだろう。

 

「知るか、クソ!」

 

何かが癪に触ったらしい山内がキレながら教室から走り抜けていく。高円寺以外のクラス中が山内を止めるため追いかける。俺も追いかけるべきなんだろうか。

 

「キャッ!」誰かの悲鳴が聞こえた。教室をでて少しのところに坂柳が倒れている。杖は3m程先の廊下だ。配下は…いないようだ。

 

Dクラスは坂柳に目もくれず山内を追いかける。こいつらたまにアホになるような気がする。

 

「つ……杖…」杖杖言いながらはい寄ろうとする坂柳、その50m先ぐらいでは葛城と一之瀬を吹っ飛ばし走る山内が見えた。

 

あいつはもうダメだな。取り敢えずこのまま坂柳を見逃す訳にも行かない。

 

「大丈夫ですか?」俺は声をかけるしかない。坂柳怖い。

 

「杖…杖を…も、漏れる…。」

 

坂柳はトイレに行こうとしてたらしい。

 

俺は杖を持って坂柳の所へ渡す。

 

「ありがとうございます助かりました。私Aクラスの坂柳有栖と言います。Dクラスの山内春樹君に突き飛ばされて、Dクラスの方々も彼を追いかけるのに夢中だったらしく杖を蹴飛ばしてそのまま行ってしまいました。」

 

「Dクラスの天野と言います。それは災難でしたね…」

 

俺はさっさとこの場を去りたいし名前も知られたく無いのだが。

 

「えぇ……山内君に『悪ぃ…小さすぎて見えなかった。』と言われましてね。この屈辱は忘れません。無視して進んで行ったDクラスの方々もですが。……もちろん貴方は含んでません。助けて貰ってありがとうございました。この御恩は忘れません。これは私の連絡先です。それでは」

 

坂柳は早口気味に山内並びにDクラスへの怒りを述べて俺に連絡先を渡して内股気味にお花を積みにお花畑へ向かっていった。

 

進む先にはDクラスの面々に頭を下げられる葛城と弥彦、一之瀬と神崎がいた。

 

取り敢えず教室に戻るか……

 

「あぁ……天野戻ってきたか…他のDクラスの生徒たちは何処にいるかわかるか?」

 

坂上先生が青い顔をして言う。この人運ねぇな…

 

「すみませんが、知らないですね。」

 

キーンコーンカーンコーン

 

そして、今日の坂上先生の授業も俺一人で受けるのだった。

Dクラスを

  • 許すな!
  • 許してあげよう
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