弥彦の原罪
豪華客船に帰ってきて2日、俺はやっと目覚めた。手の怪我は完治しているのか欠片も痛みを感じ無くなっていた。
俺は腹が減ったので自分の部屋を出て、何処か飯を食える場所へと向かう。
やっぱり向かう先はステーキが食べたいので高級ステーキ店にしよう。焼肉は牛宮城がチラついてしまった。
高級ステーキ店は2階だ。名前が高級ステーキ店だったのはちょっと笑ってしまった。豪華客船は無償なのに高級とは……何か若干の違和感を感じてしまう。
俺は店に入る。するとAクラスの葛城派だらけだった。
「無人島試験では世話になった。お陰様でAクラスは磐石の地位を獲得し、DクラスをAクラス争いから脱落させる事が出来た。礼を言う。」
俺が入ってきたのを見て、葛城が席を立ち上がり礼を言いに来た。変な所で律儀な男だな。
「いやいや気にするな、俺達も利益のある取引だった、出来れば次以降も手を組みたいものだ。」
「あぁ、お前は信頼に値する男だからな。俺達の席に来ないか?」
俺は葛城に手招きされるまま葛城と同じ席に座った、派閥の人間は心做しか増えているような気がする。俺達は二人で食べていたが。
そしてその後は適当に雑談に入っていた。葛城の妹の話が多かった気がするが、そして俺の料理が運ばれてきて二人で食べ始めようとした時。離れた席の方から言い争う声が聞こえてきた。片方は聞き覚えのある声だった。それは葛城も同じようでそちらを向いていた。
「はっ!お前のような品のない馬鹿がここで飯を食べる資格はないんだ!大人しくジャンクフードでも食ってろよ」
「巫山戯ないで頂戴、貴方に権利を侵害される謂れは無いわね。」
その声の主は堀北と葛城の側近、戸塚弥彦の物だった。Dクラスのグループで食事していたところを邪魔されたのか?そう思い堀北の周りを見たが誰も居なかった。そういやこいつ常にぼっちだったな。
「不良品!!お前にそんな資格あるわけねぇだろ!!」
「貴方は戸塚弥彦君ね。葛城君の側近が、こんな公共的な所で騒ぎを起こすなんて、Aクラスの底が知れるわ。」
堀北が歯に衣着せぬ言い方をしているが周りはお前が言うなという目線を向ける。まぁ、見ている限りあんな騒ぎを起こす奴を葛城が自分の派閥に入れるとは思えないが、弥彦は擦り寄るのが上手いのかもな。
「おい葛城、アレ止めなくていいのか?流石に不味くないか?……おい葛城あれみろよ!」
ふと目を店の入口にやると橋本がいて、携帯で撮影していた。坂柳にでも動画を渡すつもりなのだろう。葛城も気付いたのかそっちを険しい目線で見つめている。
そうしているうちに口論は止むどころか、どんどん大きくなっていく。周りにいる生徒が迷惑そうに見ている。というか俺が言うのもあれだけど堀北と俺以外大半がAクラスじゃねぇかよ。こいつなんでここにいるんだ?
「行くのか?」
俺が聞くと葛城は険しい顔でこちらを見る。いや俺何もしてねぇからな?
「あぁ、万が一にも弥彦がやらかしたのを撮影されては坂柳派に付け入る隙を与えることになる。それに何よりどんな理由であれ差別的な発言は許されるものでは無い。」
「……俺も付いて行くわ。堀北大嫌いだし。それに俺はAクラスの派閥争いは葛城派に勝って欲しいからな。」
「協力感謝する。やはりお前は信用出来る男だ。Aクラスに欲しいぐらいにな。」
「まぁ縁があったら、だな。」
俺は葛城の表情が少し柔和になったのを確認して、言い争っている2人の所に行く。だがここで思いかげない来訪者が止めに入る。
「落ち着いて二人とも、こんな店内で揉めたら店員さんとか他のお客さんの迷惑になっちゃうよ!ダメだよそんなの!」
そう、櫛田である。まさかこの場にいるとは……まぁこいつならどのクラスといてもおかしくないか。
「櫛田……お前もDクラスだったな。」
止めに入った櫛田に目線を向け戸塚は一時言い合いを中断する。だがその顔は未だ険しい。そして今度は櫛田に怒りの矛先を変える。
「俺はお前らにDクラス不良品に相応しい過ごし方を教えてやっているだけだ。全員と仲良くなるのは勝手だがお前も不良品なんだよ!」
そう言いながら戸塚は櫛田を突き飛ばした。こいつ最低のクズだな。周りも心配そうな目で櫛田を見る。
「貴方!これは暴力行為よ!わかってるの!!」
「大丈夫だから……堀北さん!!」
「……でも。」
その言葉に櫛田と来ていたDクラスのグループの奴等だけで無くAクラスからも戸塚に殺気を向ける者がいる。櫛田の日頃の行いが良いのも原因だろう。ちなみに俺もちょっと内心怒っている。
俺はふと気になったのでそちらに向かいながら葛城に尋ねてみる。
「Aクラスってあんな感じのやつばっかなのか?」
「自分がAクラスである事を誇りに思って居る奴は多いだろう、が、だからといって他人を蔑んで良い理由になどならない。弥彦はその事すら理解出来てないようだがな。」
「そうか……せっかく止めに入ってくれた櫛田の優しさを踏み躙って怒りの矛先を向けるとかヤベェなアイツ……派閥に入れとくだけ損だぞアイツ。」
「俺を慕ってくれる人間を追い出すわけには行かないだろう……迷惑を掛けているのは俺の監督不行き届きだ。すまない。」
葛城が申し訳なさそうに言う。やっぱこいつ苦労人だわ。
この会話が聞こえていたらしく堀北はこっちを睨んできた。戸塚は興奮しているのかこちらを見ることは無く櫛田と堀北を交互に睨んでいる。
「何だと…てめぇらふざけんじゃねぇ!!」
弥彦はこちらを向くことなく激昂しているようだ。
「いや、Aクラスだからって他クラスに差別的な物言いをして見下すのはちょっと人としてまずいだろ。しかも仲裁に入った奴に怒りの矛先を向けるとか二重でまずい。櫛田は俺の大事な友達なんだ、謝って欲しい。」
俺の切り返しに切れたのか顔を真っ赤にしながら戸塚が怒鳴ってきた。
「Dクラスの不良品上がりが調子に乗ってるんじゃねぇ!!葛城さんに取り入ろうとするだけの脳のねぇ雑魚が!!葛城さんの優しさにつけ込むクズが生意気に口ごたえしてんじゃねぇぞ!!!」
「まるで蝿ね、汚らわしいわ。」
「なんだと!!」
そう言いながら弥彦は俺の胸ぐらを掴んできた。制服だったら伸びてシワになりそうだが今の俺の格好は無人島の前に予めレンタルしておいたアロハシャツだ。一応備品なんだぞ多分。そして蝿呼ばわりしたのは俺ではない。掴む相手間違えてるだろこいつ。
「お前、今してる事の意味わかってるのか、葛城派閥の評判を下げることになるぞ。」
俺の言葉にハッとした戸塚は周りを見渡すと、Aクラスの葛城派の数人が戸塚を睨んでいた。なんて余計な事をしてくれたんだと言う感じで。せっかく無人島試験で葛城派が優勢になったらしいがこれではまた降り出しだろう。
戸塚の顔は蒼白になる、差別的発言をし、戸塚の評価は大きく下がるのは確定、さらに俺の胸ぐらを掴んだ事もマイナスポイントだ。そして騒ぎ立て店中に迷惑を掛けた事も、仲介してくれた櫛田に怒りの矛先を向けた事も、こいつマイナスポイント多すぎない?
しかも坂柳派の橋本に撮影されてしまっている。こいつはバカなのか?
そして上司である葛城も監督責任として相対的に評価が下がり、派閥争いにも影響を出す事になるというわけだ。無能な味方というのは最大の敵と言うがそれにしても恐ろしいな、本当にこいつAクラスなのか?そしてここでやっと騒ぎを見ていた葛城が重い口を開けようとする。顔は大変険しい。怒っているのか、悲しんでいるのか、ショックで口が開けないのか。分からないが負の感情なのは確かだろうな。
「戸塚、これはどういうつもりだ!何をしたかわかっているのか!!」
「葛城さん、これは……違うんです!俺は!」
戸塚に視線を向ける……というか睨みつけてすらいるようにも見える葛城。それに思いっきり萎縮し狼狽、言い訳をする戸塚。目の焦点は完全に合っていなかった。
「……まずは、Dクラスの皆、店員の皆様、その他この店で食事をしていた方々、このバカが社交の場を乱してしまい、皆様をご不快にさせてしまった事、誠に申し訳ない!
特に天野……お前には無人島試験で俺達の派閥のために自分達の作戦を変え、御膳立をしてもらっておいて恩を仇で返すような真似をしてしまった。大変申し訳ない。
堀北に吐いた差別的な暴言は人としてあってはならない発言だ、傍から聞いていた俺ですらそうなのだからそれを向けられた堀北の気分を害したのは間違いない。大変申し訳ない。
また、仲裁に入ってもらった櫛田を突き飛ばしたり、それに関して窘めた天野の胸倉を掴むような行動も人としてあってはならないものだ。何度も言うようですまないが申し訳ない。謝っても謝りきれない事だ。」
葛城はそう言ってまずは店にいる人間たちに綺麗な90度のお辞儀で謝罪した。そして20秒ほどたった後だろうか、俺や櫛田、堀北に葛城土下座をした。皆何が何だか分からない顔をしている。
というか別に葛城のためではない。
「葛城さん!?な、何で……店に頭を下げるのはともかく、こいつら不良品と不良品上がりに土下座なんて……」
「黙れ。お前の理由が何であってもDクラスへの差別的発言をして良いことにはならない。窘めてくれた天野の胸倉を掴んだり、仲裁に入ってくれた櫛田を突き飛ばすなんてのは愚の骨頂だ!」
「ご…ごめんなさい…。」
葛城の言葉に戸塚は俯きながらも謝罪する。
「ううん気にしないで、私ももうちょっと戸塚君の気持ちを考えるべきだったね…。ごめんね。」
櫛田は櫛田スマイルを作り逆に謝り返す。きっと内心では青筋が立っていることだろう。
「櫛田が許すというのなら俺に怒れる道理は無い……だが葛城、次また同じ事があったら俺はお前を絶対に許さない。」
それを聞いた葛城は申し訳なさそうに再度90度のお辞儀をする。
「すまない……二度と起こさないようにする。そのためにも「待ちなさい!!」」
しかし、謝罪だけでは怒りが収まらないのか怒った様子のままこっちに絡んでくるやつが1人いた。
「これは暴力行為よ!裁判で訴えさせてもらうわ!」
そう、堀北である。つくづくめんどくせぇなこいつ。
「暴力行為の被害者になりうる俺と櫛田が許すと言っているんだ、お前には訴えられない。暴言を吐かれた事を訴えるのはお前の自由だが、暴力行為は訴えられない。」
大事なことは2回言う。堀北みたいなアホは、こうでもしないと理解出来てないだろうしな。
「くっ……貴方達どうかしてるわ!!私は訴えさせてもらうわ!!」
それだけ言い残して堀北は出て行った。まぁ今回ばっかしは被害者だししゃーないか。
「俺の責任だ……弥彦、お前は……」
葛城が話している最中、いきなりスマホが「キーン!」と高い音かつ大音量で鳴った。モスキート音なのか店員には聞こえていないようだ。
確認みると、学校側からの緊急メールでの特別試験の開催のお知らせのようだ。ついに来たか、干支試験。普段から予定とか月1で送られてきたりする学校の専用アドレスから、特別なメールの通知が来ていた。
それをタップしようとすると、船内アナウンスが鳴った。
『生徒の皆さんにご連絡いたします。先ほどすべての生徒宛に学校からの連絡事項を記載したメールを送信いたしました。各自携帯を確認し、その指示に従ってください。また、メールが届いていない場合には、お手数ですがお近くの教員まで申し出てください。非常に重要な内容となっておりますので、確認漏れのないようお願い致します。繰り返します、』
メールにも書いてあるだろうが、特別試験、それも干支試験で決まりだな。
メールの文面を確認してみると、次のことが書かれていた。
『間もなく特別試験を開始致します。』
「どうやら新たな特別試験のようだな……弥彦、この試験が終わったらせっきょ……大事な話がある、いいな。」
「……はい。」
それだけ言い残して弥彦は何処かへと去っていった。
『各自指定された部屋に、指定された時間に集合して下さい。10分以上の遅刻をした者にはペナルティを科す場合があります。』
遅刻でペナルティか、まぁ妥当だろう。俺はスマホで時間を確認する。
『本日20時40分までに2階201号室に集合して下さい。所要時間は20分ほどですので、お手洗いなど済ませた上、携帯をマナーモードか電源をオフにしてお越し下さい』
時間はかなりありそうだ。だいたいあと8時間ってところか。
「天野、時間はいつだ?」
葛城が神妙な面持ちで聞いてくる。時間が人によってずれてる事に店でのザワザワから気付いたらしい。盗み聞き性能高いね。
「20時40分だな」
「俺もだ。同じグループなのは必然か偶然か……説明を聞かん事にはわからんか。」
「私も同じだ!よろしくねふたりとも!」
つまり俺は龍グループか、最悪だな。
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俺はそのまま櫛田と葛城と別れ、戻る途中に神崎と出会った。
「この間の無人島試験では世話になったな、天野、それで特別試験だが時間はいつになった?」
「無人島試験の事は気にするな。20時40分組だな。」
「20時40分、そして201号室。お前と同じだ」
「そうか……葛城と櫛田も同じグループだ。」
「葛城は優秀な男だ。警戒に値するな。情報提供感謝する。」
「あぁ、櫛田も優秀だぞ?」
「承知している。今クラスラインでの報告を見てるが、18時から20分刻みで21時40分まで3,4人ずつ呼び出されてる」
「うーん……うちのクラスも同じような感じだ。」
いやはや、俺達の20:40でもめっちゃ遅いのに22時近くまでやるのかよ。運営側もすげぇ大変だな……。
「初日で何か決まるとは思えねぇが、手を抜くつもりは無い。よろしく頼む。」
「あぁ、とりあえず情報を整理しよう。」
「まず、時間と部屋は12パターンだ。……メンバーは今の所、男女混合で規則性は無いように見える。恐らく、それぞれのグループで他クラスと混ざったメンバーになるってことだろうな。」
「そのようだな。まぁひとまずお互いのクラスに持ち帰りって事で行こう。」
それに了承したのか神崎は一度頷き、そのままその場で俺たちは別れた。
さて、金稼ぎゲームの始まりだ。
山内に再登場
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して欲しい
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して欲しくない