翌日、俺は頭が痛いながらもしっかりと招集へと向かった。本当は今日も安静にしておいた方がいいのだがそういう訳にも行かないだろう。
俺は所定の場所と時間を確認し、痛い頭を抑えながら改めてケータイに届いているルールを確認する。
まずは一つ目のルール『今回の試験で退学を避けるための2000万プライベートポイントを使用する場合を除き、学校側に対してPPの一切の使用を禁止する。』
これは要するにプライベートポイントで人数を減らしたり、投票数を動かしたりを防ぐ為のものだろう。とはいえクラスメイト間での退学を防ぐ為にプライベートポイントを使う事も出来る。だが平田クラスにそんなプライベートポイントは合わせても無い、坂柳クラスは一人ぐらいなら救えるだろうが坂柳の言い方からして誰かを救うとは思えない。一之瀬クラスからはそもそも退学者が出る事は無い。ちなみに今回の試験でうちのクラスがBクラスに、一之瀬クラスがCクラスになる事が確定したので呼び方は一新した。
問題はうちのCクラスだが.......記録次第では俺のプライベートポイントでの救済も考えるべきだろうが、正直俺としてはCクラスに一定数いる無能の足切りとして使いたい所だ。もし誰かに何か言われたら龍園から使用を禁止されている事にしておこう。龍園なら言いそうだしな。
そして2つ目『退学にする生徒は、クラス内で2日間午前9時から午後4時まで話し合いをした後、3日目の12時に退学候補の名前を優先度順に1人1票を計三人分の、記入者が退学するべきだと思うクラスメイトの名前を上から優先順位順で書く。また、この際に誰の名前を誰が書いたか等は試験終了後、クラス内のみで公開される。』これについてはもはや考えるまでもないだろう。退学者が何人か出る、という事だ。確実に誰かは退学になるだろう。そしてクラス間で誰が誰に投票したかがわかってしまう以上人間関係すらも破壊しかねないものだろう。
この投票には何個か『ちょっとした抜け穴』がある。それにどれだけ気づけるかがミソだな。ポイントは『優先度順に1人1票を計三人分、優先度順に書くという事だ。』恐らくうちのクラスはそれを使わなくても龍園の一言で退学が決まるだろうが.......。AクラスかDクラスか、或いはCクラスの裏切り者か、誰か実際に使う人間がいるかもな。
そして3つ目『退学の生徒を決める為に、豪華客船内にある施設は使用して構わない。また、各教科のテストやクジなど、施設に無いもので学校側に用意して欲しいものがある場合は申し出る事。』これは誰を切るかを測るのにって事だろう。これについては使い方は往々にしてありそうだが、わざわざうちのクラスが奇を衒う必要は無いだろう。
そして四つ目『退学時のデメリットはこの試験においては発生しないものとする。』
まぁこれについては深く言う事も無いだろう。要するにデメリット無しで足切りができると言う事だけだ。
そして5つ目、『退学候補の票数が同票の場合、どちらも退学とする。』これは一見すると皆で票をコントロールして退学を防ぐ方法を取らせないようにしているように見える、が。
『仮に』4人以上退学にさせたい場合は上手い事票数をコントロール出来れば退学者を4人以上に出来るということだろう。果たしてそんな事を実行するクラスが存在するのかは甚だ疑問な所ではあるが。恐らくこれができるクラスはうちぐらいのものになるだろうが、それを実行出来る龍園は居ない。
それにしても今回の試験、思った以上に抜け穴が多いな。難解で複雑、クラスによっちゃ今後に禍根を残す事になるだろうな。
一応教師を退学にさせたり、既に退学したクラスメイトの名前を書いたりって事が出来ない為最低人数は決められてはいるようだが.......それにしても、頭の後頭部が痛いな。
俺は頭が痛すぎて思わずその場に蹲ってしまった。
「天野君.......大丈夫ですか?」
蹲った俺をたまたま見つけたのか、椎名が俺に駆け寄ってくる。
「.......あぁ.......集合場所に向かいたいが.......その前に水を入れたコップを持ってきて貰えないか?」
「わかりました。少し待っててください。」
椎名はそれだけ言い残すとその場から直ぐにどこかへ向かっていった。
暫くすると椎名が水を持ってくる。
「持ってきました。次はどうすればいいですか?」
「ありがとう、ちょっとそのコップ借りるぞ。」
俺はポケットから痛み止めの錠剤を取り出し、水で流し込む、あと15分もすれば効いてくるだろう。それまでは.......根性だな。
「ありがとうございます。悪いがコップを借りた所に戻して来てくれ。」
「いえ、それは紙コップなので捨ててしまっていいと思いますが.......本当に大丈夫なんですか?」
どうやらプラスチックのコップと紙コップの違いすら分からなくなっているらしい。
俺はフラフラしている事を自覚しながら立ち上がり、会場を目指す。
「その体で会場へ向かうのは危険ですよ!!」
「龍園が倒れている今、誰が指揮をするって言うんだ.......行くしかねぇだろ。」
龍園の復活は本来明日だったのだが、俺のせいかはさておき、笑い過ぎて傷口が開いたので4日後となってしまった。ちなみにそのせいかはさておき、龍園とは全員面会禁止になった。俺のせいじゃない.......よな?
「わかりました.......私の肩に捕まってください。」
「いや、要らん、自力で歩ける。さっき飲んだのは痛み止めだ、あと15分もすれば効いてくるはずだ。」
「良いから言う事を聞いてください。」
椎名の謎の圧に俺は負け、結局肩を借りながら会場へ向かう事になった。会場に着いた頃にはちょうど痛み止めも聞いてきたので会場からは自力で歩く。
「昨日は行けなくて悪かったな。金田、今どうなっている?」
「天野氏ですか.......先日は頼まれた通り3000mを初めとした体力測定を行いました。結果はこちらです。」
俺は金田に言われてデータを確認する。トップはやはりと言うべきかアルベルトだった。そして自信満々な顔で渡してきた金田は下から二番目である。なぜこんなに自信満々だったんだこいつは.......。
俺の心の声を知ってか知らずか金田は眼鏡をクイッとあげる。
「天野氏が言わなくても分かります。今日行うのは全教科の学力テストですね?既に用意してありますよ。」
「まぁ、それは正解なんだが.......いや、うん。それであってるよ。」
合ってるけど違う、そうじゃない。まぁ確かに今日学力テストは行うつもりだったけどさぁ.......。
俺の複雑な心境を他所に金田は眼鏡をクイッと上げどこかへ言ってしまった。そして全員揃ったのか、皆が俺の方を見つめてくる。
俺に仕切れという事だろう。
「あー、えーっと、まずは昨日は来れなくて申し訳ない。一応学校側も不祥事の事故だからペナルティとかは無いって言ってはいたがいきなり司令塔が消えたら皆不安に思うのも無理はないと思う。」
「ハンマーで殴ってきやがった戸塚のせいだ!お前が気にする事じゃねぇ!!」
俺の謝罪に石崎からエールが入る、それにしても戸塚がハンマーで殴った話はだいぶ広まっているぽいな。
「ちょっといいか?」
俺が何かを言う前に時任が手を上げる。そう言えばこいつは原作では龍園に全力で反乱を起こしていたな。
「ん?時任か、どうした?」
「そもそもなんだが、誰かを退学にする必要はあるのか?俺達は干支試験で大量のプライベートポイントを用意したはずだ。それを使えばこんな退学者を厳選するテストなんかする必要はないだろう。」
時任は面倒臭いところを着いてくるな。こいつに関してだけは龍園からの命令って言っても納得しないだろうし。なんとも否定しがたい話である。俺としては足切りのために俺の金を犠牲にしたくないってのがぶっちゃけた本音なんだが。
「取り敢えずある程度退学させる場合の候補を絞ってからそいつらを救う価値があるのか、それともないのかを議論するべきだと思うぞ。一重にプライベートポイントを2000万ポイント使って救済する、ってのだけじゃあどっちの判断を取るべきかは決められない。一度退学候補を決めて、そいつを救済する価値として2000万プライベートポイントをあるのか、無いのかって決めるべきだろう。今日やる学力テストもそうだが、それらの試験はその為のものだ。」
俺がそう言うと時任は何かを考え込むような様子で座った。
「私もちょっと質問いい?」
次に手を挙げたのは.......確かこいつは諸藤だ。原作では軽井沢に突き飛ばされていじめをしたとか言うクズみたいなやつだったな。アニメではサイコパス担当だったハズだ。
「諸藤か.......どうした?」
「そもそもなんだけどさ、皆退学したくないなら天野君に全部の票を入れれば良くない?そしたらポイントを持っている天野君が自分の退学を防ぐために自分のポイントを使うから、私達が退学する事は無いでしょ。」
諸藤の考え方が間違っているとは言わない。確かにポイントの管理主が退学の危機になれば間違いなくポイントは使うだろう。だが決定的な事を1つ見落としている。そしてもう1つ、お前は俺の逆鱗に触れた。
「万が一にでもそんな事をしようとするなら俺はBクラスに亡命する。自惚れているようだが今までこのクラスが龍園無しで結果を出してきたのは俺が居たからだ、そして龍園が戻ってきたとしても俺が抜けるダメージはクラスにとって大変でかいだろう。」
「いやいや自惚れ過ぎでしょ、そもそもなんだけどさ、龍園君がなんで貴方をクラスに引き入れたかわかる?鉄砲玉が欲しかったからよ、今回の時みたいにね、寧ろ退学せずにすむだけ感謝したら?」
それを聞いた真鍋グループの薮以外はケラケラと笑う。俺の事を気に入っていないのか何人かが同じような反応を送ってくる。俺は笑っていない薮や、他の奴らの評価を自分の中で1段階上げながら冷静に反論することにする。
「お前らがそう思っているならやってみればいいさ、その後龍園に制裁を食らって、お前らの人生は地獄になるだろうよ。」
そもそも、俺はそうやって一人を寄って集って虐めるやつが嫌いなのだ。それもどうしようも無く、クズみたいなやつがやると尚更吐き気がする。試験だから仕方の無い部分もあるのはわかっている、がどうにもこいつらは許せそうにねぇな。
そして結局、Aも、Bも、Cも、Dも、一定数はそう言うクズみたいなやつがいるって事だろう。
俺は心の中で一旦落ち着きながら、発言をする。感情を表に出しては行けない。自分にそう言い聞かせる。
「へぇ〜、龍園君が貴方なんかを大事にするとは思えないけど。自惚れも良いとこね。龍園君の指示がなければ何も出来ないのに.......可哀想。」
諸藤の人を見る目は無さそうだ。
「まぁ俺の有用性はさておき、だ。龍園の指示にしろ、俺の独断にしろ、昨日の体力テストで上位成績を収めた上位10人以外の生徒は俺も含めて全員テストを行う。テストの問題は金田に用意して貰った。アルベルト、他の奴らに配ってもらっていいか?」
「YES!BOSS!」
まだ続けるのかよのそのキャラ、何はともあれ、身体能力の上位10人に居なかった人間は俺も含めてテストを解く。そして採点をする。
結果は1位が俺、2位が椎名、3位が金田といつものメンバーが上位にいる。ちなみにあんなに俺に文句言っていた真鍋グループだが、最下位に真鍋、ドベ2が諸藤、ドベ5は山下だった。あの発言はなんだったのか。
「んじゃあこの学力試験で上位10名も退学候補から免除だ。加えて身体能力、学力の両方で平均値以上の成績を収めている園田、薮、近藤、お前らも免除でいいだろう。」
これで23人が退学候補から名前を消した、残りは17人。
「はぁ?あんたズルでもしたんじゃないの?」
どうしてこんなにこの諸藤とか言う奴は俺に対して刃向かってくるんだろうか、一向にそれが分からない。まるで何か嫌な事から逃げるような.......そんな言い方だ。
.......もしかして、干支試験を早く終わらせたから無くなったものだと思っていた。Dクラスはもう落ちぶれたと思っていた、否、思い込んでいた。だがよく考えてみれば堀北がゴミと化しているが綾小路は平田と親密な関係になっているはずだ、という事は軽井沢とも必然的に話す機会は増えている。.......だとしたら?
「してない。毎回俺はテストの成績は学年でもトップ5にいる。それと残りの13人の中で一人、退学にされるのには惜しいと思う人間の名前を俺の個人のチャットを追加して送って
くれ。金田、退学候補組のリストは貼っておいてくれ。」
「わかりました天野氏。」
「それをした奴から今日は解散だ。そろそろ痛み止めが切れそうだから後は頼んだぞ、金田。」
俺は金田に任せてその場を後にする。
俺は自分の部屋に戻るや否や盗聴録音機のデータをパソコンから探す。集音力を最大限にすればわかるか.......。
結果から言おう、データはあった、地獄耳の俺だからギリギリ聞こえるレベルだが、真鍋達が軽井沢を連れていったのは間違いなさそうだ。軽井沢を脅しながら何処かへ連れて行っている会話は聞こえた、いじめそのものの場所の録音こそ出来てないが恐らく確実だろう。そして虐められている場所付近の盗聴器だが何者かに壊されていた。恐らく綾小路が事前の下見で発見して壊したのだろう。
であるならば次は事実確認だ。
俺は何とかして連れていく所の音声のノイズを出来る限り減らし、その部分の音だけを大きくする、証拠としては少し弱いかもしれないが一先ずはこれでいいだろう。
俺はあのグループの中で恐らく尤も価値があるであろう人間------薮菜々美に匿名のメールアカウントからメールを送る。内容はアポイントメントのため。場所は夜の8時にダーツ場だ。ダーツ場はこの船の最も右にある部屋で、入りずらいせいか人が来ることは滅多に無い。仮に来たとしてもクラスメイトと楽しくダーツしているだけだしな。
俺はパソコンの電源を切る。
そして俺は.......ダーツ場へと歩を向けた。
戸塚弥彦を
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許すな!
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許してあげよう