雲一つない青空。ムシムシとした空気。鳴き声のうるさい蝉。気持ち悪い笑みを浮かべる龍園。
9月だと信じられない位に暑く、湿度の高い気候がこの日を迎えてくれる。世間一般的に言う蒸し暑いというやつだ。
そう、今日は体育祭。
ジャージを身にまとった全校生徒が行進を終え、開会式を行う。ラジオ体操や校長先生のお話など、お決まりのイベントが続く。堀北学の選手宣誓を終えると、赤組と白組に分かれて競技の準備を始めた。それを羨ましげに見る南雲の顔がやけに印象的に残った。
トラックを挟み合って向かい合うように分かれている2つの組。回り道をすれば行けない事は無いだろうが、その両間には学校の本部と休憩所があるので学校側に視認されるのは間違えないだろう。ちなみに坂上先生は胃が痛いらしく常に休憩室にいるらしい。あの人も大変だな。
用意周到な学校側は第1競技である100m走の開始の点呼を行う旨の放送を流す。
先生達の表情には鬼気迫るものがあり、傍から見ても怖いぐらいだ。学校側も休憩所や緊急に対応できるコテージもあるため、万全の態勢を敷いている。
ちなみに皆が気にしているであろう大天使木下の足が怪我するあの事件だが、俺の猛反対により無くなった。大天使の足を折るとかどんな罰当たりだよマジで。代わりに近藤が男子でやるらしいけど詳しくは知らない。
今回の俺たちの作戦は3つ「上のランキングに入れるだけ入る。」「下のランキングに入らない」「用意されたグループで勝つ」だ。
「1組目を走る生徒は準備してください」
合図を送る審査員が号令をかける。
1組目に走る俺はもう1人のCクラスからの出場者である時任とコースへと歩いていく。たしか聞いた話では相手は平田だったはずだ。ちなみに高円寺は俺との勝負を龍園が無理矢理潰した事もあり不参加となったらしい。まぁ高円寺は参加させないのが吉である事は火を見るより明らかだが。
しかしそこに居たのは平田では無く外村と幸村……運動神経の悪いDクラスグループだ。Aクラスは里中と竹本……こちらも運動神経が悪いとはまでは言わなくても良くは無いメンバーだろう。
龍園もその事に気付いたらしい。『裏切り者から送られてきた参加表』と内容がすり変わっている事に、それどころかこちらがその参加表を見てどう組み合わせるかを予測されたようなメンバーチェンジがされている。
裏切り者が誰かは俺は知らない。今回は龍園が一任させろと言っていたし、体育祭で組み合わせが上手い事噛み合ってしまえば犯人探しは明白になるだろう。俺としてはその事態は避けたかったので今回の体育祭は櫛田と松下には『何もしない事』と『裏切り者だと思われかねない行動は極力避ける事』を伝達してある。
まぁ結局は何処かしらから龍園が裏切り者を連れて来た訳だが。だが裏切り者にDクラスが気付いたのか、それともDクラスの参加表をリークした人間が二重スパイだったのか……まぁいずれにせよ早くも龍園の策略は失敗した訳だ。Cクラスに裏切り者がいる可能性もあるか、考えたくないけど。
まぁ何はともあれ目の前の競技に集中するか。
俺は身体のフォームを少し前傾に重心をずらした体制にして、合図を待つ。前世では陸上部だったのである程度は把握している。
「On your mark…」
パンッ!合図である号砲が鳴り響いた。それにしても旗まであるしおもったよりガチのヤツだな……これ。
地面を蹴り、俺は初速から最高速度で走り出した。身体を前傾状態から真っ直ぐに少しずつする事で風の力を利用し、手を振り、足を幅を広く取り回転速度を上げていく。その際かかとから入る事を忘れてはならない。
短距離走であるため後先考える必要はない。風に乗り速度を最高速度にすればいいだけだ。
「あいつ早すぎだろ!あんなんズルだズル!」
何処からか池の怒号が聞こえてきた気がするが無視でいいだろう。
そう感じ、俺は初手から最高速で走った上に周りに早い人間もいなかったので独走の形でゴールした。
そのまま遅れて他の奴らもゴールする。時任は3位だった。上々のスタートだが後が怖いな。あいつら大丈夫か?
そして全員がゴールした瞬間、俺になのかは分からないが歓声が上がる。100メートルの記録は10秒69、陸上のプロレベルだろう。
俺がCクラスに戻ると一部を除いて皆喜んでいたが、即龍園に黙らされていた。可哀想に。
一部……もとい龍園、金田、石崎、園田の4人は貰った参加表と違う事に焦っている感じだった。まぁ俺としちゃ何でもいい、勝とうが負けようが龍園の責任だしな。
俺は龍園に確認を取ら無ければならない。万が一にもアイツらが関わってる事は無いと思うが……。
「龍園、お前は誰から参加表を受け取ったんだ?」
「Aクラスの橋本からだ……綿白神の奴がスパイだとわかってて偽物を見せたのか…橋本が裏切りやがったのか…それともDクラスがそもそも偽物の参加表を渡したのか…分かんねぇな。」
「まぁAクラスとDクラスの参加表の噛み合いを見れば裏切ったのがどっちかは少なくとも分かる筈だ。落ち着けよ。」
「クククク、まぁそれもそうだな。」
龍園は落ち着いたのか、平静を装うだけなのかは分からないがそのまま戻って行った。そうこうしているうちに全員分の100メートル走が終わったらしい。誰が1位だったのかとか見てねぇな。後で誰かに聞くか。
さて、次はハードル走だ。前世の部活の先輩はハードル走全国4位だった。その先輩は入試も満点で東大に行ったし絵画コンクールで入賞もしていた。人生二週目なのかもしれない。今度会ったら聞いてみたいものだ。
ハードル走基本的には走力だが確実にハードルを越える注意力なども必要となる。この競技では『ハードルを倒す』『ハードルに接触』の2つにタイムのペナルティがつけられてしまう。
ハードルを倒した場合は0.50秒。ハードルに接触した場合は0.30秒、ゴールしたタイムに加算されてしまう。有効数字は2桁だ。ハードルは鉄製のガチで痛いやつなので当たりどころが悪いと地獄だろう。
そのため速く走ることが得意でも、それにプラスでジャンプという要素が加わる。このジャンプのタイミングをリズム良くやる事が大事なので、どれだけ練習の期間で自分のタイミングを掴み、体に感覚を落とし込むかが大切となる。
10メートル間隔に置かれた10本のハードルの高さは均一で50センチメートル。仮にすべて倒せばそれだけで5秒の加算となるが、50センチメートルと低めに設定はされているし問題ないだろう。
この種目でも俺は最初の組となっている。明日からあだ名は特攻隊長になりそうだな。
クラスメイトからの期待の眼差しを受けながらスタート位置へと向かう。今回のメンバーはAクラスの葛城、Bクラスの濱口と頭脳派が揃ったメンバーだ。Dクラスは池と宮本なので一切の頭脳派力が無い訳だが……。まぁいいや。
「天野……お前と当たるとはな。」
葛城が何やら哀愁漂う目で言ってくるがコイツなんかやつれたな。大丈夫なのか?
「大丈夫かお前……。」
「あぁ……お前とはまたどこかで話したいものだ。あの時のお前の様に俺は周りを守れる人間にはなれなかったが……」
葛城は何やら深刻そうな顔で言うが俺お前とこの学校で会うのは初めて…だよな?
「俺はお前と会った覚えが無いぞ……。」
「あの場で俺は一人の一般人だったからな……覚えていないのも無理は無い。」
「もしかして葛城ってあの……」
『第一走者はスタート位置に着いてください。』
悲しいことにアナウンスに遮られてしまった。まさか葛城があの事件の時に居たとはな……俺の不幸体質は原作キャラと引き合せるためにあったのかもしれない。これが運命って奴か?……だとしたらあの女の子もこの学校に居たりしてな。
俺は取り敢えず思考を後にしてスタート位置に着く。
100メートルの時と同様にスタートの合図が鳴り、一斉にスタートする。
俺はハードルを飛び越え続け加速する。ハードルを飛び越えるのに一つあたり0.2秒程遅れている気がするが他の奴らよりは飛ぶのは速いだろう。
そしてまたも独走状態で1位だった。張り合いが無いな。ちなみに葛城は堂々の2位だ。やはり身体能力は高いか。
「葛城、お前あの事件の時居たんだな?」
言われてみればハゲた小学生がいた気がしないでも無い。ハゲた小学生とかいう物珍しいものすら霞むぐらいにあの場では恐怖心と緊張感があったし仕方の無い事ではあるが。俺は冤罪も含めて5つぐらい事件に巻き込まれているがそれでも最初の事件という物は記憶に残りやすい。
「あぁ、俺は静岡の出身だ。この話は昼放課にでも話すとしよう。それでいいか?」
「あぁ……構わないぞ。」
そうして俺たちはその場で別れた。そろそろ次の競技も始まりそうだったし仕方がない。
次の競技内容は棒倒し。シンプルだが少し危険な競技の団体戦だ。決して他意は無い。マジで。
「勝って当然だこんなの、負けたら制裁だぞ!」
龍園が脅す。目の前に集められたCクラスの面々はこれで手を抜くのは不可能だろう。龍園は恐怖というやり方でクラスを鼓舞していく。
俺たちに立ちはだかるのは葛城と三輪が代理で率いるAクラスと平田が率いるDクラスの男子だ。
特にDクラスは警戒が必死だろう。身体能力高めな生徒が複数存在する。Dクラスを鼓舞してるなうのイケメン細マッチョリーダーの平田を始めとし、やる気があるのか分からない綾小路、個人種目こそ全部出るが棒倒しに出る気は無いので仮病で休んでいる高円寺、とにかく明るい須藤、不良上がり三宅等がいる。
Aクラスは鬼頭ぐらいだろう。それにしても鬼頭ってどう見ても裏社会の情報屋かなんかだよな。暗殺教室辺りに居そうなんだけど……うちのアルベルトといい勝負でこの学校にいることに違和感を感じるぞ。まぁ、それはいいとしよう。
試合のルールだが、単純明快に2本先取した組の勝ち。俺たちは事前の話し合いでオフェンスが龍園達、ディフェンスが神崎達がすることを決めていた。
一之瀬クラスが先に攻撃側に回り、龍園クラスが棒を守る役目だ。
Bクラスは木山が何やら鼓舞していた。Dクラスは遠目だが平田、Aクラスは遠目だが三輪がマジックを披露してた、いやあいつマジで何してるんだ……奇術師シャッフかな?数字宣言してくるのは辞めろ。
「小宮、近藤、石崎、アルベルト、お前らは少しこっちに来い。」
「あっ、はい。」
「了解です。」
「わかりました。」
「Yes!BOSS!」
こうして彼らは連れていかれた。何しようとしてるんだろ龍園。
それにしても、仕方ないけど男だけ大量ってむさ苦しくて嫌だな……。これが全部女子だったらいいのに……プライベートポイント払ったら女子の種目に男子でも代理として出られないだろうか…後で聞いてみるか。
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『1年、男子、棒倒し。第1試合、開始60秒前です。配布されたプロテクターを必ず装着して下さい』
ルール説明の時に言われてなかった気がするが……まぁいいや。頭部、膝、肘に嵌めるらしく。自転車からコケた時のアレみたいな見た目をしている。恐らく体の弱い部分をガードすると思われるやつだな。こう見てみると確実に自転車のアレだよな……アルベルトだけサイズ的に付けても無意味感あるけど。龍園はシュールだな。
「お前ら、サングラスを渡すから付けろ。」
そして何故かサングラスが配られていく。俺達はサングラスをつけるが……これがアルベルトの景色か。景色がブラックルームだよ。
役割分担としては、一之瀬クラスの奴らが棒を守る側になって、俺達で攻めるという形。男子だけだから1クラス20人ずつ…とはいえAクラスは18人、Dクラスは17人と5人分相手のが少ないから意外と早めに勝てそうではある。。
『1年、男子、棒倒し。第1試合、開始10秒前、9、8、7、6、5、4、3、2、1、スタート』
「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
須藤の咆哮でスタートのタイミングの把握がこちらは僅かに遅れてしまいスタートする。あいつこんなに頭脳派だったっけか。
俺たちはアルベルトを筆頭に小宮、近藤、石崎、龍園が突っ込み、俺たちがその後ろについて行く形だ。
「来た!しっかり押し返せ!!」
敵は……Dクラスが守ってる側みたいだ。暴君モードの平田が指示を出してる。守りの葛城は木山と後ろでドンパチやっていた。それにしても今一瞬AクラスとBクラスの争いの所から憎悪の視線を感じたような……気の所為だろうか。
「オラァー!!!」
石崎が走ってる勢いそのままに突撃して、棒の前に居る数人を押し込んでいく。1人でも軽く押し込めた所に、アルベルトまで加わり、あっさりと棒に手が届く距離まで近付けたみたいだ。さらにそこに小宮と近藤が突撃する。
「何しやがんだテメェ!」
「落ち着いて!須藤くん!」
「助けてでござるぅ…。」
三宅に止められて遠ざけられてる石崎と、手や足を抑えられても動き続けてるアルベルト。石崎と三宅は1対1の交換ってところか。アルベルトと他18名は棒を握りしめ、前側に全体重をかけて倒そうと揺さぶってる。対するDクラスだが須藤が全力で抵抗をしている。御門は何故か攻める側に居て、高円寺は見学してるので須藤しか抵抗できるやつはいないだろうけども……。
アルベルトと須藤は拮抗していた……と言うよりは綾小路がバレないように力を込めて拮抗させている様だ。あいつ結局脅されたんだろうか……いまいち見えてこないな。
「小宮、近藤、やれ。」
龍園の指示が出ると小宮と近藤は地面から砂煙を出した。
「うわぁぁぁ、なんだこれ、目が、目がァァァァァァ。」
須藤が目をやられた事により、咄嗟に手を話す。綾小路も諦めたのか力を抜いたらしい。そのおかげかサングラスをしていた俺達龍園クラスが棒を倒して勝利が確定する。
『1年、棒倒し。第1試合は白組の勝利です。それぞれの陣地に戻って下さい』
意外と熱戦だったな。人がゴチャゴチャしていたが結局数人だけの力で決定した競技となった。男子でこの分なら女子はもっと楽に倒せそうだと思ったけどよく良く考えればこれ男子専用競技だったな。女子とのくんずほぐれつ作戦は不可能である。まぁ絶対学校側から許可は出ないだろうが。
「龍園さんお疲れ様っす!砂煙作戦見事でした!」
石崎の格好だが完全にマフィアか何かである。殺しとかやってそうだな。
「今回のカモフラージュだ。次で潰すぞ、あいつ。」
小宮が潰すとか言ってた気がするがこのタイミングで潰すらしい。狙いは誰にするつもりなのやら。
「アイツら卑怯だぞ!砂煙とかよォ!」
Dクラスから須藤の大声が聞こえる。
「まさかサングラスはそのために付けていたとはね。でも大丈夫!次は皆も気をつけていけばいいよ。同じ手は2度喰らわない、そうだろ?」
平田は優しく鼓舞するが……誰潰す気なんだ本当に。
「勿論だぜ!」
「Aのやつもさっさと倒してくれよなぁー!そしたら勝てたのによォ。」
「てか、高円寺のヤツさえ居れば勝てたろ。何やってんだよアイツ。」
「御門もなんで攻めてんだよ。」
「御門の奴バカみたいに突っ込んで来やがって。守りも気をつけろってんだ」
「知るか、守ってばっかじゃ勝てねぇだろ低細胞共が。」
「まぁそれもそうか。」
今の暴言セーフなんかこいつら……やっぱ潰れればいいのに。
「高円寺だけじゃなく、退学した沖谷、本堂、山内まで居ないんだからな。20人でも少ないのに俺達は16人。Aクラスからも二人いない。これなら、人数だけで見れば勝ち目も無いだろう。Aクラスからもう少し回してもらいたいがあっちも人数は少ねぇしなぁ……。」
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『1年、男子、棒倒し。第2試合、開始60秒前です。』
第2試合、2本先取だからこれに勝ったら俺達の勝ち。龍園はここらで誰かしらを潰すつもりらしい。
「Dクラスは馬鹿だな、大声で作戦を漏らしやがったぞ。あんな奴らに律儀に負けてやる必要はねぇよ。潰すぞ。」
「当然っすよ龍園さん!」
「龍園氏の仰る通りです。」
「次も俺達が攻める、が、アイツらの中からも機動力があるヤツ数人も使う。そして誰かしらを潰す。潰し方は……小宮、近藤、わかるな?」
「もちろんです!」
そう言いながら一之瀬クラスの男子達を眺める龍園。そのまま程なくして柴田を含め5人ほど連れてこられた。
まぁ勝てば何でも良いというのはその通りだ。試合も次で終わるだろう。そんな俺の目論見は外れることになる。
「やれやれ、私が力を貸してあげようじゃないかねぇ……私も攻めさせてもらおうじゃないかぁ。」
Dクラスの攻める陣営に休んでいた高円寺が加わったのだ。こんなん誰が予想つくんだよ。
『1年、男子、棒倒し。第2試合、開始10秒前、9、8、7、6、5、4、3、2、1、スタート』
高円寺の直前での参加に俺たちは不安視しながら、棒倒しに参加するのだった。
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明らかに先程より増えてる棒周辺の人数、でもまぁ流石に全員が守ってる訳じゃないとはいえ攻める人数が10人というのは一体全体どういう事だってばよ。
一之瀬クラスの5人と、俺達のクラスから15人ほどが先行して突撃して行った。まっすぐ棒を推し進めている。俺もその一員だ。龍園達5人はと言うと、
「喰らえ!砂煙だ!」
まず近藤と金田が砂煙を出す。
「クククク、上出来だ。」
そして石崎と龍園が砂煙に紛れてバレないように闇討ちする。小宮だが、Aクラスの誰かしらを巻き込み二人で戦線離脱している。
棒倒しって本来は100人から150人ずつとかで対決するみたいだし、40人ずつだとやっぱ人が少ないのだろう。人数が少なければ少ないほど個の力で決まりやすいようになっている。。
俺達には最強黒人ゴーレムのアルベルトが居るのだが、須藤の努力と人数日によって拮抗している。
「うぉおおおお!!!!今度こそ俺達が勝つ!!!」
先程のように須藤が咆哮を放つ、耳栓も用意しておくべきだったか。まぁ味方の被害の方が大きそうだが。
「よっしゃ行け~!アルベルト~!」
石崎の歓声を受けながらアルベルトが腰に力を入れて更に押す力を強くする。
棒を下から上に押し上げるように、棒を守ってる奴らに剥がされそうになったりするので下の方で棒を押す。もう人がもみくちゃ状態で、何が何なのかは分からない。どさくさに紛れて人を殴っても気付かれないだろう。だからこそ今龍園達がやっているのだろうが。
守りの方をチラッと見てみるとあと少しで負けそうだった、御門高円寺綾小路の力は恐ろしいな。それを龍園も確認したらしい。
「よし!こっち側に引け!」
龍園の指示通り俺たちは言われた方に引く。まぁ疑問に思っている奴も多かったが。
せっかく棒に近付いたのになんで……と誰もが思っていることだろう、龍園は石崎とアルベルトと一緒に後ろに下がっていくと、棒は倒れる。但し、倒れる側にはAクラスの生徒が何人かいたが。
守ってた側は力の方向の一貫性に対処が少し遅れ、しかもテコの原理が加算され、ついでにアルベルトの全力も加わった棒倒しにどうしようもなく引っ張られる。棒はグラグラとぐらつき倒れようとする……が、高円寺達のが1歩早かったらしく俺たちが倒し着る前に高円寺達が倒していた。
「いよっしゃー!!!俺達の勝ちだ!!」
池が大声で騒ぐがお前何もしてないだろうよ。
『1年、棒倒し。第2試合は赤組の勝利です。』
だが、俺達が引っ張った棒はAクラスの生徒の方向へと倒れていく。否、Aクラスの奴らが押した棒が倒れたので傍から見れば確実に自滅である。それのせいなのかAクラスの生徒の腕や足が何人か下敷きになってしまったようだ。復讐したいのはそっちじゃないんだけどなぁ……。
『1年、男子、棒倒し。第3試合、開始60秒前です。』
「飽きたねぇ……本気を出そうか。」
高円寺の不穏な言葉が出るが俺は聞かなかった事にする。Aクラスの負傷した数人と、小宮とそれに巻き込まれたAクラスの奴は残念ながら見学になってしまったが人数ではさらにこちらは有利だろう。
「お前ら、作戦は今まで通りだ。行くぞ。」
俺達は龍園の指示に頷く。
『1年、男子、棒倒し。第2試合、開始10秒前、9、8、7、6、5、4、3、2、1、スタート』
俺達はいつもの通り棒を倒しにかかる……がそう上手くは行かなかった。須藤と本気を出したと思われる綾小路の力とアルベルトと俺たちの力が拮抗する。だがあくまでもそれはこちら側だけの話だ、俺達が怪我をさせるなどをやる間も無く、守り側が本気を出した高円寺と御門によって崩壊させられてしまい俺たちは負けてしまう。Bクラスは身体能力がそう強くない奴が多いのかもしれない。
『1年、棒倒し。第3試合は赤組の勝利です。よってこの試合は赤組の勝ちとします。』
「龍園さん……すいません。」
「気にするな、Aの何人かは潰せたんだ。こっちとしちゃそれで十分だ。」
龍園の優しさ…?が見え隠れした発言だが復讐したいのはそっちではない。
他の武道派じゃない奴らも、みんな自分達が回せた砂埃で汚れてる、なんだか歴戦の傭兵感あるな。
ちなみにAクラスからは小宮と相打ちを食らった奴も含めて6人がリタイアとなった。大してこちらは小宮一人、十分だろう。
目の前に居るDクラスの疲れ果てた顔とAクラスの絶望した顔を見るとどっちが勝ったのかもうよく分からねぇな。
「ククク……ザコ共。高々棒倒しに勝って喜んでんじゃねぇぞ。いや、お前ら不良品にはそっちのがお似合いだなぁ…クククク。せいぜいゴミみたいな一勝を拾っておくんだな。」
龍園は悪魔のような笑みを浮かべ喧嘩売りまくりの挑発を吹っかける。なかなかに頭のいい戦法だ。砂埃を被りまくっている龍園が、久しぶりに見るクソ偉そうな挑発モードでDクラスに近付いていった。
「なんだよテメェ!……俺達が勝ったんだぞ!!」
「だったらなんだ?不良品なのは変わらねぇだろ。雑魚が。」
「なっ、てめぇら調子に乗ってんじゃねぇぞ!」
「盗撮魔に人権なんかねぇんだよ。クククク。」
「テメェ!!」
池が龍園に殴り掛かろうとするのを平田が制止する。
それにしても池ってこんなに挑発弱かったっけ。
「待って池くん!これが彼らのやり方だよ、挑発に乗っちゃダメだ!」
「なっ、平田……でもコイツら煽ってきやがった!」
「お?なんだ?殴らねーのか?お前みたいな盗撮魔クラスの足でまといだろ。お前みたいなクズばっかりだもんなぁ…Dクラスは。全員退学した方が良いんじゃねーのか?」
「この……クソが!盗撮はテメェらに嵌められたんだよ!ぶっ殺してやるよ!!!」
「へぇ、そうかよ。……どこにも証拠がねぇのに言い掛かりはやめてくれよ。同じ学年の仲間だろ?」
「テメェ!巫山戯んな!」
「万引き犯、盗撮犯、暴行犯、器物破損、虐め、クズばっかりだな。ほんと笑っちまうぜ!」
「全部テメェのせいだろうが!ふざけんな!」
コイツ……一切反省してねぇな。
「いや虐めはお前らのせいだろ。みっともないから黙ってた方がいいだろお前。」
「う、うるせぇ……うるせぇよ!!盗撮だって……お前さえ居なければ…クソっ!」
池の論破合戦の敗北が決定した瞬間だった。
「なんの事だ?嘘は良くないぞ。大体お前らが俺を虐めた事は俺は忘れねぇからな。大体盗撮のカメラを見つけたのは噂じゃあ櫛田と松下らしいじゃねぇか。お前らのクラスの女子なんだがどうやったら俺のせいになるんだ?教えてくれよ。」
勿論櫛田や松下がクラスを裏切ってるなんて夢にも思わないだろう。池は契約の問題もあって黙るしかない。
「千秋は……お前に騙されてるんだ!!!!!桔梗ちゃんだって多分そうだ!お前が脅したんだろ!このクズ!」
確かこいつは……松下が好きな伊集院だったか。松下の名前に反応したっぽいな。
「そんなに気になるなら本人達に聞いてみればいいさ。というか脅す脅すと言ってるが暴行カツアゲ脅しなんかを虐めでしたのはお前らじゃねぇか。挙句の果てにまた冤罪を擦り付けようとしやがって……救いようがねぇな。」
「ふ、ふざけるな!あれはぜーんぶ篠原のせいだ!俺達のせいにするんじゃねぇ!!」
何故か責任を擦り付けられる篠原だが可哀想とは思えない。惨めだなコイツら。
「ふざけないでよ!!なんで私だけのせいになるのよ!!あんただって犯罪者に人権は無いとか言ってたじゃない!」
私『だけ』のせいじゃない。か、つまりこいつも関与してると自白したようなものだな。
「私だけって事は篠原もやったって事だろ。ブスはこれだから……やれやれだな。」
というか篠原は何故ここにいるのだろうか…次の競技のために来たのかもしれないな。
「ふざけないでよ!犯罪者になりかけてるクズが!」
冤罪を犯罪者になりかけてるとか言うのはどうなんだろうか……こいつの人生どうやって終わらせようかね……。
「は?犯罪者は池だろ、俺じゃない、というか虐めをするクズが他人にクズという権利はない。分かったら黙れブス。」
「池みたいな盗撮犯と一緒にしないでよ!というかブス…?私はブスじゃない!可愛い女の子よ!」
かわいいの定義を一から探して来いよこいつ……。
「自意識過剰のブスでブタ女だろ。」
俺は哀れんだ目線で篠原を見てあげる。コイツらと話しているとやっぱりストレスだわ。
「ふざけんじゃないわよ!」
篠原は怒りのボルテージが限界に達したのか、俺に平手打ちを放ってきた。当然だがここはグラウンド。周りの人間は大勢見ている。それは先生もだ。
「こら!辞めなさい!取り敢えずこの件は天野が煽った節もあった、それでも池や伊集院も似たような揉め方もしていたが……、それでも暴力行為は即失格だ。篠原さつき、お前は失格とする。」
こちらに最速で詰め寄ってきた真嶋先生により、篠原の失格が告げられる。
「先生、篠原を訴えたら成立しますか?」
軽いビンタとはいえ立派な暴力だ。これなら成立するかもしれない。
「あっちが暴力を振るったのは事実だ。成立する。本来ならばこの手の揉め事は監視カメラ等で審議をして執り行うが……今回は全校生徒、並びに教師の前で行った以上言い逃れは出来ないだろう。」
真嶋先生の言う通りだとするとこの場で判決が決まるということか。
「本来ならば生徒会が判断をするべき事だ。堀北!判決はどうする?」
真嶋先生は堀北生徒会長を呼ぶ。まぁ何はともあれ篠原が殴ったのは事実、そして口喧嘩の内容も周りは声が聞こえているかは怪しいものだ。それに俺が虐められていた話は学年でも周知の事実。となれば当然Dクラスの噂が悪くなる。
「あいつ、虐めをしてたってさっき大声で言ってなかったか?最低だな。」
「いまさっきビンタしてたよ!本当に酷い。」
「多人数で1人を虐めるなんて本当にクズだな。」
言われてみれば居なくなってるな、Cクラスは…。
「静粛に!判決を言渡す。現場は俺もこの目で目撃していた。天野、池、伊集院は口喧嘩こそしていたが暴力は振るっていない。お前らは厳重注意としておく。だが篠原、お前は天野をビンタした。公衆の面前だから言い訳も出来ないだろうな。……反省はしているのか?」
「は?悪いのはアイツでしょ!冤罪野郎の癖に調子に乗ってるんだから!」
篠原の発言に学年中……ひいてはクラスからもゴミを見るような視線が集まる。
「……反省は、していなさそうだな。今後の反省を促すためにも1年Dクラスはクラスポイントを30ポイント1年Bクラスに譲渡するものとする。また、篠原は3日間の停学とし、今回の体育祭のこれ以上の参加は禁止とする。この場にいる他の奴らもこの場は解散しろ。」
「はァァァァァ?あたしが?なんであたしがァァァァ!!!」
「決定を取り消すつもりは無い。反省する事だな。」
堀北兄はそれだけ言い残し去っていった。篠原はゴミを見るような目線で学年中から見られるが、それを無視して俺と池や伊集院はその場を後にした。
これで学年のクラスポイントは
旧)Aクラス……1912ポイント(坂柳は確定で最下位なので-50ポイントは確定)
(旧)Bクラス…1160ポイント
(旧)Cクラス…1332ポイント→1362ポイント
(旧)Dクラス……500ポイント→470ポイント
となった。疫病神篠原の居場所は最早クラス中どころか学年中にも無いだろう。
俺は泣き崩れた状態から茶柱に運ばれていく篠原を見て、「この程度ですむと思うなよ、クソアマ」とさらなる苛立ちの感情を覚えるのだった。
体育祭、勝つのは……?
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坂柳派閥だ!
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綿白神派閥だ!
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一之瀬派閥だ!
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木山派閥だ!
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龍園達Cクラスだ!
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オリ主だ!
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平田グループだ!
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櫛田グループだ!
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篠原グループだ!
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御門グループだ!
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高円寺だ!
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今は亡き葛城だ!