『午前の部で失格になった1年Dクラス伊集院 照ですが、協議の結果、1年Dクラスから1年Cクラスに30クラスポイントが支払われることとなりました。』
俺達が昼飯を受け取りに行こうとすると、そんな無機質なアナウンスが流れた。これにより
旧)Aクラス……1912ポイント(坂柳は確定で最下位なので-50ポイントは確定)
(旧)Bクラス…1160ポイント
(旧)Cクラス…1362ポイント→1392ポイント
(旧)Dクラス……470ポイント→440ポイント
となる事が確定する。Dクラスは疫病神だらけだな……綾小路には同情しかない。
俺はアナウンスを聞き内心で閃光のハサウェイを踊りたい気分になりながら、教師が配布する弁当を貰いに行く。坂上先生は胃を痛めてるらしく余り動かない方がいいらしいので、配布する先生は必然的に真嶋先生と星之宮先生と茶柱になる。
とは言っても俺も例の『最近の卒業生の暴力事件とクラスポイントのデータ』の確認をする為にも星之宮先生一択なのだが……。
俺は星之宮先生の元に弁当を受け取りに向かった。星之宮先生の所へと向かうとBクラスの面々と一部のCクラスの生徒がちょうど弁当を受け取り何処かに行こうとしていた所のようだ……都合が良いな。
「星之宮先生、例のやつはどうなってますか?あと弁当ください。」
「例のアレね……体育祭が終わったら渡すね。それにしても……わざわざ先生から貰いに来るなんて天野君も隅に置けないなぁ…つんつん」
つんつんされるのは悪い気はしないんだが……早く弁当を渡して欲しい。
「星之宮先生、俺達はこの後天野と話したい事がありますので天野を連れて行ってもいいですか?」
つんつんされている俺を助けに来たのは救世主葛城だった。何故か後ろに椎名と櫛田がいるが……何故だ。
「ハイハイ、それじゃ天野君またね〜。」
星之宮先生の顔にはわかってるよね?と書いてある気がするが無視だ無視!無視無視のんのんだ!俺達は人気の無い毒舌塔で飯を食べる為に弁当を持って向かった……のだが…
「なんで櫛田と椎名はいるんだ?俺は葛城と二人で話すつもりだったんだが……。」
「桔梗ってよんでほしいな。」
櫛田が真顔でこちらを見てくる……なにか断ったら後ろから刺される未来が見えた。
「わ、わかった…それで桔梗と椎名はなんでここにいるんだ?」
「それなら私も聖君って呼ぶのでひよりって呼んでください。」
椎名改めてひよりの爆弾発言のせいで櫛田がちょっとキレてるような……まぁ多分気の所為だろう。
「わ、わかった……それで桔梗とひよりはどうしてここにいるんだ?」
「どうやらお前と一緒に昼飯を食べるつもりだったらしい。俺としては別に聞かれて困るような話でも無いからな。お前が嫌というならば別だが。」
葛城はなんというか……割と堂々とした人間のようだ。
「まぁいいか……それで、お前は出身が静岡だったっけか?」
俺達は特別棟の誰もいない空き教室の一室に入る。弁当は支給品だが美味しそうな具材ばかりである。
「それは奇遇ですね葛城君、私も昔静岡に住んでましたよ。」
マジか……静岡って天才の聖地かなにかなのか?
「へぇ〜……初知りだわ。それで葛城、体育祭で言ってたのはどういう意味だ?」
「あぁ、それは……俺の昔の事について俺と天野に起きたあの事件について話す必要がある。大丈夫か?」
「まぁ大丈夫だ。」
そして……葛城は語り出した、まるで原点に遡るように……
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〜葛城side〜
俺は天野の言葉を受け、自分の原点に遡り、話す事にした。
「俺には、病弱な妹が居てな……昔妹は虐められていた。体が弱いからなのか……それともほかの理由なのか、それは分からない。だが俺は兄として妹を守りたかった。
だがそう上手くはいかなくてな……俺の目の前でこそ虐めは減ったが、俺のいない所では結局行われていたらしい。妹は結局持病が悪化して病院の一室で暮らすようになってしまった。それが虐めのせいなのかは定かでは無いがな。」
俺は辛そうにしていながらも気丈に振舞っていた妹の顔を思い出す。昔なら思い出すだけでも辛かったかもしれない。
「俺は……そんな妹を見て思った、思ってしまったのだ……妹を虐めたヤツらに復讐をしたいとな。」
今の天野のように俺はあの時復讐に走ろうとしていた。本人は知らないだろうがそんな自分を正しい方向に変えてくれた恩人が今、冤罪を被せられ虐めに合い復讐をしようとしている。それを見逃せるような人間にはなって居ない。
「俺は心の中に復讐心を抱えながら、どうやって復讐しようかとばかり考えていた。それに気付いた妹の制止も、悲しそうな顔も見て見ぬふりをしてな。
俺はその後に銀行へ行ったんだ。妹の月の治療費を銀行から下ろす為にな。俺は当時中学生だったが、父親が銀行で働いていたからな。父親に頼んで父親から治療費を貰うつもりだったんだ。
そこからはお前も知っての通り、程なくして銀行強盗が押し入って来た。俺の父親はナイフを持った銀行強盗に怯えながらも俺を庇う様にして位置どっていた。俺はその時自分はどうして俺の父のように妹を守ってあげられなかったのだろうと後悔した。」
ナイフを持った銀行強盗は恐怖そのものだった。もう二度とあんな体験はないだろうがそれでも怖いものだ。
「俺は……恥ずかしい事だがナイフを持った銀行強盗に恐怖で足が竦んでしまって何も出来なかった。それは周りも同じだったのだろう。皆恐怖を浮かべていた。当然の反応だ。
銀行強盗は兄の会社が銀行が融資をしてくれなかったせいで倒産、そして兄は自殺してしまったらしくてな……銀行に復讐をしたかったらしい。銀行員に対して糾弾するように語っていた。
逆恨みのような部分もあるが、その時にそれでも俺がやろうとしている復讐は同じ事だと俺は気付けなかった。あそこまではやらないという理性があるから大丈夫。妹の為だから仕方が無い、と自分に言い訳をしてな。何処か他人事の様に思っていたんだ。」
それを聞いている椎名が体を震わせているような気がした。感受性が高いのかもしれないな。
「そして……面白く無かったのか銀行強盗は近くにいた俺と同い年ぐらいの一人の少女を人質に取った。手に本を持った氷のような髪の色をした少女だった。
その少女は助けを求めるように周りを見た……が、誰も動けなかった。それを見た銀行強盗は嘲笑うように言ったんだ。『今ならこのガキの代わりに人質になる奴がいるならこのガキは解放してやるよ!』とな。
俺達は皆が皆銀行強盗の何をするか分からない狂気性と男が手に持ったナイフに脅えていた。俺もその1人だ。その少女は周りに何度も『助けてください!お願いします!』と言ったが、誰も彼もが恐怖で脅えて身代わりになろうとはしていなかった。
だが、俺と同じぐらいの年の一人の少年が怯えながら立ち上がったのだ。恐怖で脅えて顔は真っ青だったし、腕も足も震えていた。『俺が代わりに人質になります。』と震えた声で言っていたのを銀行強盗が笑っていたが、俺達には誰も笑うものなど当然居なかった。
その少年がお前だ、天野、俺は我が身可愛さに何もする事ができなかった。お前も俺と同じように自分が傷つくのが怖かったはずだ。それなのにその恐怖に打ち勝ち、お前は目の前の少女の身代わりとなった。」
俺には無かった勇気を、優しさを目の前の男は持っていた。決して度胸があるわけでも、命知らずだった訳でも無い。ただ1歩前に踏み出して見せた凄い男が目の前の天野だ。だからこそ俺はコイツに言わなければいけない。
それを聞いていた椎名が少し震えながらも答える。
「その……少女と言うのは私です……。葛城君も……聖君もあの場に居たんですね。正直今の今まで気付いていませんでした。あの時は私も恐怖で頭が真っ白でしたから。」
俺はそれを聞いて驚いた。まさかあの時銀行にいた人間がこの場に三人もいるとは……。天野も驚いているようだ。
「そうなのか……力が及ばずすまなかった。」
「いえ……葛城君が謝らないでください。それよりも話を続けてください。」
俺は椎名の言う通り話を続ける事にした。
「そうだな……続けるとしよう。お前は椎名の身代わりとなり、脅えながらも銀行強盗の人質となった。そして遅れて警察が到着し、銀行強盗はお前の首筋にナイフを突き付けていた。
俺はそれを見て人質になったのが自分でなかった事に心のどこかで安堵した、してしまったんだ。どうしようもない自己嫌悪を感じた。
そうしてお前が気を見計らって銀行強盗の腕を噛み、銀行強盗がナイフを落とした所を警察は逮捕した。あの時銀行強盗は天野に『何故俺の復讐の邪魔をする!?兄さんのためにやっただけなのに。』と言っていたのを見て、俺は自分が妹に虐めたヤツらにやろうとしていたのは同じような事なのかもしれないと気づいたんだ。
そして俺は…それを聞いた天野、お前が言った『復讐は自分のためのエゴにしかならない。本当に誰かの為を思うなら、その人に出来なかった分だけ他の人に優しく手を差し伸べて同じような目に合って苦しむ人を1人でも減らすことこそ自分が大事な人のために出来る事だ。』と言ったお前の言葉はあの時の俺を大きく良い方向に変えてくれた。今も大事にしている。
その後……俺は妹と話し、虐めをしたヤツらと妹は和解した。今では病気で苦しむ妹の何よりの心の支えとなってくれている。俺がこの学校に来ても、妹の事はアイツらに任せられると思うぐらいに俺も信頼出来る奴らとなって、だ。
お前が俺に復讐では無く優しく手を差し伸べる事で苦しんでいる妹を救う術を教えてくれたんだ。
だが今のお前は……復讐に走ろうとしている。それが誰かの為になる事は無いと言ったお前が、だ。俺は昔のお前が言ったように、目の前で辛い目にあって復讐に走るほどに追い詰められて困っているお前に手を差し伸べたいんだ。
俺は…お前を苦しみから救いたい、その為にももう復讐なんてバカな事は辞めるべきだ。」
俺の言葉は……天野に届いたのだろうか、目の前の正義感の強い男は、自分が一度こうと決めたら曲げないのかもしれない。俺の言葉が届くかどうかも分からない。復讐を望みつつも、他の周りに優しく手を差し伸べられる目の前の男のままならいいだろう。
だがもし、天野が復讐に取り憑かれて、自分を見失ってしまった時には……俺が止めるしかない。
結局俺の話を聞いた天野は「参考にさせてもらう。今日はありがとう。」とだけ言い残し、椎名と櫛田と教室を去って行ってしまった。
俺の言葉は…どれだけ天野に届くのだろうか。不安感を煽るような蒸し蒸しとした嫌な空気だけが、その場に留まっていた。
体育祭、勝つのは……?
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坂柳派閥だ!
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綿白神派閥だ!
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一之瀬派閥だ!
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木山派閥だ!
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龍園達Cクラスだ!
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オリ主だ!
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平田グループだ!
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櫛田グループだ!
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篠原グループだ!
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御門グループだ!
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高円寺だ!
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今は亡き葛城だ!