ようこそ間違った教室へ   作:あもう

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始動

今日は12月6日木曜日。Cクラスには異様な雰囲気が漂っていた。その雰囲気を発している『王』と呼ばれる男。…Cクラスのリーダー、龍園翔が教壇に腰を掛けクラスメイトを見下ろしている。これが授業中ならば減点ものだろう。

 

値踏みするような細い目と合えば、云わばまさに蛇に睨まれた蛙、龍園≒蛇は誰もが思ってるし間違えないだろう。蛇みたいな暴君に睨まれた彼らは身体を揺らすことしかできない振り子人間へと変わる。もちろん数名の例外はいるのだが。

 

自分たちの王から放たれる威圧感に怯えているのだ。その王を止められるであろう人間はこのクラスでは教師である坂上先生を除けば俺ぐらいだろうが俺は止める気がない。

 

というか寧ろ龍園と一緒に小一時間ぐらい説教したい気分だ。わざわざ1回見逃して身を切ってやったのに……何やってんだお前という感じである。

 

彼らは王の言葉を聞き逃さないように耳を傾け、かつまだかまだかと一心に時間が過ぎるのを待っていた。

 

 

 

「さて、俺としてもこんな話をするのは大変心苦しい所だが………このクラスに裏切者が現れた。」

 

「その前に龍園、監視カメラの範囲内だし教卓から一応降りといてくれ。」

 

明らかにシリアスな空気を出している龍園には悪いがこういう細かい所は注意して欲しい。龍園は優秀だがそれ故か慢心癖がある気がする。

 

「ククク、まぁいいだろう。一理あるからな。」

 

龍園は俺の発言に従い教卓の前に立つ。だが空気が弛緩する事はなかった。まぁ当たり前だが。

 

 

龍園の口から発されたクラスに裏切者の言葉。

 

会話の導入すらなくいきなり本題に入ることにクラスはやはりざわつく。ちなみにいつぞやにも言った気がするがいきなり本題を告げる事で相手の思考時間を減らすといったテクニックがある。ワザップレベルの小技である。

 

 

「まぁ、落ち着けよお前ら。大半は無関係なのは俺もわかってるからよ。」

 

 

 

ざわついたクラスメイトに龍園を守るように並ぶ生徒たちが反応を見せる。それを龍園が一声で圧を付けて止める。

 

ちなみに現状の時点の黒幕Xの候補者リストだが変更がなければ

 

黒幕X候補者リスト

 

 

・綾小路清隆

 

 

・高円寺六助

 

という事でもう最有力候補は2人しか居ないらしい。高円寺の可能性はどう頑張っても低い事ぐらい分かりそうなものだし、裏切り者を追い詰めているのは最後の確認の為って所か。後は内憂を残さない為。

 

龍園が指を鳴らす。俗に言う指パッチンと呼ばれる奴だ。あれが出来ないと音楽の授業が居残りの学校もあるらしいので地味に必須スキルだと思う。

 

指パッチンの音で石崎とアルベルトが扉を、小宮と近藤が龍園の両横に立ち、窓側には山脇が立つ。見れば全員が武闘派の生徒達だ。

 

万一逆らう生徒がいても、いつでも迎撃できる。ここから逃がすつもりは無いという合図だろう。まるでギロチンで首を撥ねられる処刑勧告を見ているようなそんな気分だ。

 

 

 

鉄拳制裁すら辞さないこの陣形を突破できるであろう唯一の人間はこのクラスでは俺だが、俺はダルそうにその場を見つめているだけである。よって誰も反旗を翻すことは出来ない。

 

 

ちなみに俺視点では黒幕Xもスパイも龍園が何をするかもある程度分かっているので、本当に無意味な時間である。シリアスな空気を出すのに協力でもしとくか。

 

 

「俺は最初話を聞いただけだが選択退学試験でのクラスメイトを救済する際の不自然な多額のプライベートポイント、それこそ干支試験だけじゃあ天野に渡す分を差し引いて500万程の差額があった。これは後で詳しく話すが黒幕XがAクラスを利用して用意したとみている。そして無事Dクラスは500クラスポイントを得た。

 

そして次は体育祭、黒幕Xは参加表を上手いこと利用して全てのクラスをかみ合わせやがった。平田がやった可能性も考えたが、日頃の生活で露呈したあいつの甘さを見れば別の人間の存在を疑う。加えてペーパーシャッフルでの策、あれは完全にクラスメイトを足切りとして切り捨てた策だった。オレに潰されるように仕向けたとも言っていい。

 

平田は場合によってはクラスメイトを切り捨てるだろうがそれでも無意味には切り捨てたりはしない。暴君の様な気質も使いこなしていて一見どんな選択でも取れそうに見えるがそれでも俺に言わせればまだまだ甘い。中途半端だ。」

 

 

 

何をやらせても中途半端で甘い人間。平田の実力を認めた上で龍園はそう評価する。

 

 

 

「クク、やっぱ別の誰かが裏に潜んでいるよなぁ。それも随分と腹黒いのがよぉ!とはいえもう大体の候補は絞れたがなぁ!」

 

 

龍園は一人高笑いをする。ラジコンを操作する子供みたいだ。

 

クラスメイトはその笑顔に戦慄する。ある意味不幸な奴らだと思う。

 

 

そんなピリついた雰囲気の中、Cクラスの参謀の一人である金田が龍園に告げる。

 

 

 

「なるほど。その別の誰かというのが、Dクラスを裏で操っている人物でCクラスに裏切者を作った張本人ということですか?」

 

 

 

「そう言うことだ金田、正解だ。」

 

 

 

「しかし龍園氏、差し出がましいのですがそれらの証拠はあるのですか? 

 

平田氏は相当賢く、リーダーシップもあり、汚い手段にも必要とあれば出られると思います。彼以外にDクラスで暗躍出来る者がいるとは到底思えないです。……いや、二名思いつきますがそれでも裏で動くタイプではないでしょう。」

 

 

 

「もっともな疑問だな。その2名ってのは御門と高円寺か、アイツらの確認は既に済ませてあるがほぼシロだな。

 

そして、これが証拠だ。天野が用意してあるDクラスへのスパイからペーパーシャッフルの時に俺達の問題が共有されていたって話を聞いた。配られたプリントがこれだ。」

 

 

 

 龍園は携帯を取り出すととある画像ファイルを開く。

 

そこには俺達のクラスが出した全ての問題の問題用紙と解答用紙と解答をコピーしたものが写っていた。

 

論より証拠。疑っていた生徒達もそれが事実である事を信じ始めた。

 

クラスに裏切者がいる。もしかすると今自分の隣に座っている人間かもしれない。Cクラスの生徒達は目線で無実を証明しようとする。龍園はガン無視するのだが。

 

 

 

「これでお前ら全員を集めた理由が分かっただろう? そして今からその裏切者を処刑するのもな。気分は処刑人だぜ、全く。」

 

 

「 待て、龍園。」

 

「どうした時任、何か言いたいことがあるのか?」

 

 

時任は度胸の塊のような奴だ。龍園のやり方にもよく反発している。だが今回は何に反発することがあるんだ…?

 

 

 

「お前が裏切り者で芝居をしている可能性もある筈だ。お前を信用出来るとでも?」

 

単純に時任の問題だった。龍園はそこまで馬鹿では無いだろう。

 

「クク、俺が裏切り者ならそもそもこんな集会は開かねぇし証拠も自ら開示しねぇよ。完全に自殺行為だろうが。」

 

 

龍園の正論に時任は黙り込む。そして次に口を開いたのは小宮だ、

 

 

 

「裏切り者は天野なんじゃないか?あいつはそもそもDクラスの出身だろ。逃げるためのプライベートポイントだってある。現状いちばん怪しいと思う。」

 

 

 

「クク、確かに天野は元々はDクラスにいた、だがな……天野は裏切り者じゃあねぇよ。

 

そもそも天野が裏切り者ならやる理由がねぇからな。そんな事をするぐらいだったらわざわざCクラスに来ずとも色々方法もあっただろうよ。場合によっちゃこの場も突破出来るだろうからな。何よりいじめの件はお前も知ってんだろ?」

 

 

小宮はそれを聞いて黙り込む。小宮の事は悪い意味で覚えておこう。

 

 

「おい天野、ちなみにお前は裏切り者と黒幕Xの正体に正直どこまで気付いている。」

 

 

ここで俺に聞くか……いまいちこいつも考えている事が分からないタイプか。

 

 

 

「まぁどちらも予想が付いているし、もっと言えばお前がその後何をするのか、そしてどうなるかもだいたい予想が付いているけど……それをこの場で言うのもつまらんだろ。」

 

龍園とはこう言う男なのだから仕方ない。これがあいつの生き様だ。

 

「ククク、よく分かってんじゃねぇか…さて、それじゃあ順番にやっていこうか。」

 

 

 

「まず俺はペーパーシャッフルの問題文は各々の担当者金田、椎名、天野に頼んで作ってもらった訳だが…まぁこいつらが共謀して裏切りでもしなきゃ全教科の問題文は用意出来ない。内容は俺も知らないからな。」

 

 

 

「待て!その理論なら誰も知る術が無いじゃないか。」

 

 

 

時任の発言は間違っている。知る術はあるのだから……奇しくも原作でその黒幕Xがやった方法に近しいが……。

 

時任の意思表示を確認した龍園はもう一度クラスメイトの表情を楽しそうに観察し始める。

 

 

 

「まぁ黙って見てろよ時任。

 

さて、最初で最後の警告だ。裏切った奴はこの場で名乗り上げろ。

 

 今なら、オレの寛大な心で許してやるよ。」

 

 

 

 迷わずストレートな質問。当然のように誰も言葉を発しない。

 

 

 

「まぁ、オレのクラスを裏切るような奴だ。それなりに肝っ玉は据わっているんだろうなぁ!おい!」

 

 

 

 視線を逸らし無関係を装う者、他の誰かだろうと視線を右往左往させる者。

 

 あるいは注目を浴びないように気配を殺す者。

 

 龍園は彼らの一挙一動を見逃さないような執念深い観察をもう一度行う。

 

 そして引き裂いたような笑みを浮かべた。龍園は教壇から降り、教卓前に座る女子生徒に顔を近づける。

 

 

 

「山下、随分と顔色が悪いな。」

 

 

 

「ひっ!?」

 

 

 

 山下紗希。Cクラスに所属する女子生徒。

 

 大人しそうな雰囲気は争いを好まない性格を連想させる。

 

 そんな彼女が『暴力』をちらつかせる龍園に睨まれれば涙目になって震えあがることしかできない。

 

 

 

「お前だな。横流しをしたのは。」

 

 

 

 それが確定した事実のように龍園は告げた。

 

 

 

「……ち、違う! 私、私じゃない!」

 

 

 

 絞りだしたようなかすれた声に龍園は満足そうな笑みを浮かべた。その笑みには自虐性が浮かんでいた。

 

 

 

 

「とぼけでも無駄なんだよ。もうネタは上がってんだからな。」

 

 

 

「……そ、それは……」

 

 

 

「ククク、諦めろよ……さて、時任は知る術なんか無いと言っていたが先生にペーパーシャッフルの問題用紙を見に来た生徒がいなかったか聞いてみるか?それでお前の名前が出たらビンゴだぜ?」

 

 

 

 既に目を合わせられない。

 

 龍園は見たくないものを逸らすように頭を下げる彼女を見下ろした後、視線を動かす。

 

 そこにはもう1人の怯えた表情を浮かべる男子生徒が1人。

 

 元々知っていたかのように次の標的を決めた。

 

 龍園はカツカツとわざとらしく足音を立ててその男子生徒の前へと歩みを進め、そして止まった。

 

 

 

「あっ……あっ…………。」

 

 

 

「どうした、随分と息が荒いな吉田。」

 

 

 

 恐ろしい状況に体だけでなく喉も震え、まともに声を出せない吉田攻節。

 

龍園という王の前で処刑される罪人となるであろう吉田。

 

抵抗すればするほど、それは己の首を絞めることになる。

 

だから素直にその事実を受け入れ、全てを話すのが何よりも楽になれる方法だろう。。

 

 

 

「ご、ごめんなさい。ぼ、僕……も……命令されて……。」

 

 

 

「安心しろよ。許してやる。それより誰に命令された?」

 

 

 

「そ、それは……」

 

 

 

 真鍋は怯えながら周囲を確認する。

 

 クラスメイトは思いもよらぬ生徒が裏切り者だったことに理解が追い付いてなかった。

 

まず山下はCクラスの女子カーストでは高い位置にいる

 

容姿は特段整っているわけではないが、最近の成長度合いから山下……と言うよりも真鍋グループの株が上がった。基本は真鍋に顔色を合わせている。

 

そういう見方では、自分の立ち位置に細心の注意を向けながら生活する普通の女子高生だ。

 

だが、そんな彼女でも龍園に見つかってしまった。とはいえこれは元々聞いていた話でもある。特にこちらに俺は驚いてはいなかった。むしろほかの真鍋と薮の成長に喜んだぐらいだ。原作の三バカ見たく須藤枠(?)の真鍋と池枠(?)の薮は成長したが山内枠(確定)の山下はダメだったってオチだな。

 

 

ところで吉田、お前は何があったら脅されたんだ…?というか何をやらかした。綾小路から特に聞いていないんだが……というかそもそも誰だっけレベルで影が薄い。たぶんカーストは最下層、友達も居らずぼっちだろう。

 

……というか名前攻節って…どんな名前だよ。いやキラキラネームの俺が言える話じゃないけどお前はこっち側の人間だろ。

 

 

「周りに言えない程の事をやっちまったって訳か……ククク、いいだろう。」

 

 

そう言うと、龍園は教卓へ戻って座る。だから座るなってのに。

 

 

前に戻ると、クラス全員に向けて発言する。

 

 

「裏切り者は見つかった。だが、Cクラスに裏切り者を作ったDクラスの奴……そうだな、Xとでもしようか。

 

 Xの目処は大半付いている。コイツらに確認を取れば確信に変わる訳だ。よってたった今から、Cクラスの標的はDクラスのXへ変わった。

 

Dクラスが二度と再起できないようにXは叩き潰す。その為の準備を屋上でする。日程とお前らの仕事は追って連絡してやるよ。今日はもう帰っていいぞ。手間を取らせたな。」

 

 

 

素早く要点だけを述べると、ここで起きたことを話すなという脅しを告げた後に解散が促される。

 

 部活が迫っていたり、予定がある生徒は逃げるようにやや駆け足で教室から出ていく。

 

 

 

「山下、吉田、今からすべて吐いてもらうが、もちろん拒否権はない。嘘を吐いた時は分かってるよなぁ?」

 

 

 

龍園に対して2人は怯えた表情をする。真鍋と薮は帰ってしまったが個人的にはご褒美をあげたいぐらいだ。今度なんか奢ってやるとしよう。甘いパフェなんかが良いかもな。女子だし……。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

龍園の優しさという名の脅しによって、大半の生徒は帰宅し終えたため、教室内には容疑者である山下と吉田、裁判官兼処刑人として龍園、ボディガードの石崎と伊吹、頭脳派検事の金田、威圧感を出す置物としてアルベルトが残る。

 

俺は弁護人である。異議あり!と言ってアイツらの有罪をさらに重くしてやることにしよう。俺は優しいな。

 

さて、アルベルトの扱いが若干雑になってしまったが、石崎とアルベルトは容疑者を逃がさないように退路を防ぐ。…龍園も扱い雑だしセーフだな。うん。

 

教卓に座る龍園の左右に伊吹と金田が取り調べの見張りをするように立っている。…あれ?俺いらなくね?

 

 

 

「質問だ。お前らに指示を出した人間が誰だか分かっているのか?」

 

 

 

 その問いかけに吉田と山下は首を左右に振って否定する。

 

 

 

「お前たちがCクラスを裏切った理由は何だ?」

 

 

 

「そ、それは……」

 

 

 

「今さら隠す必要はない。それともまだ抵抗するのか?」

 

 

 

 軽い口調であるが、その威圧感に吉田と山下は再び震えてしまう。

 

どうしようもないこの状況を解決するには、なす術もなく真実を口にするしかなかった。とは言っても全部話すのは山下になりそうだが。

 

 

 

「D……Dクラスの軽井沢恵って知ってる?」

 

 

 

「名前と顔はな。平田の女だろ」

 

 

 

「あの子。その、今でこそ強気な態度だけど……昔はいじめられていたみたいで……。」

 

 

 

「ほう、それで?」

 

 

 

「リカが、軽井沢に酷い扱いを受けていたから、仕返ししようと……。」

 

 

 

 真鍋は怯えながらも、自分たちのしたことを話していく。

 

 事の原因は軽井沢によるCクラスの女子、諸藤リカへの酷い扱い。

 

 それを根拠にして真鍋たちは軽井沢に仕返ししようとしたが、弱みを握られる結果となった。

 

 その弱みとは、仕返しとして行った暴力行為を撮影されてしまったこと。

 

 それを基に脅された。

 

 事実が明るみになれば真鍋たちが停学以上の処分を受けてしまう。

 

 加えて、Cクラスに被害を与えてしまうので龍園に叱責される。

 

学校と龍園、双方に怯えていた所を俺にみつかり、全てを洗いざらい話させられた事。

 

そして俺が軽井沢と黒幕Xと取引をしてその脅し元だった動画をバックアップ込で削除させた事。

 

 

そして、こちら側の傷を減らすのと相手の鬱憤を減らすために諸藤を退学させた事。

 

だが、山下はフラストレーションが溜まっていたらしく、再度軽井沢に手を出してしまった。それも男子である吉田を引き連れて。

 

吉田は山下に唆されたらしい。女経験の無さが裏目に出た形だ。ハニートラップ対策講座でも今度開いた方がいいのだろうか?

 

 

「なるほどな。随分と面白い遊びをしたもんだ……それなら天野は黒幕Xと会ってるから予想どころか確信が付いてるじゃねぇか……あ、言わなくていいぞ。コイツらから聞いて俺なりの予想を立てて俺の目で確かめてぇからな。」

 

言わなくていいのはありがたい、屋上でリンチするまで楽しみにしておきたいんだろうなこいつは。

 

「それでこの結果なら馬鹿としか言えないでしょ。阿呆らしい。山下は天野に1回助けて貰ってるのに同じ事繰り返してまた脅されるし、吉田は……もうちょっと女の耐性つけな。」

 

吉田を見る目が可哀想なものを見るそれになっていた。ある意味こっちのが酷くないか?

 

 

「責めてやるな伊吹。人間ってやつは追い込まれると弱い生き物だ。吉田は……まぁ、ひとまず帰っていいぞ。」

 

それを聞いた吉田は逃げるように帰って行った。

 

そして既に山下達を許すと決めている龍園はこれ以上山下を責め立てることはしなかった。

 

 

 

「重要なのはここからだ。暴力行為を働いた時、誰かに見られたか?」

 

 

 

「……うん。船上試験が終わった後、私たちが軽井沢に2回仕返しを行ったの。

 

 それで1回目の時は、Dクラスの平田くんと三宅くん、幸村くんと綾小路くんに見られた。

 

それで3回目は…新学期が始まってから学校でやったんだけど…その時は確かに誰もいなかったはずだった。勿論監視カメラはないところでやった。」

 

 

 

浮上する4人の名前。

 

 

 

「だが、2回目は名前も知らない協力者の連絡のおかげですんなりと仕返しが上手く行き、3回目はバレないように上手いことやったと思っていたわけだな。」

 

 

 

「……後日その時の写真が送られてきて、脅された。2回ともね。」

 

 

 

「その写真は?」

 

 

 

「勿論消したよ! そ、そうじゃなきゃ、私っ、だから……。」

 

 

 

証拠となる物は既にないと山下は必死に言葉を紡ぐ。

 

 

 

「分かった。これで状況の把握は完了だ。」

 

 

 

「名前の挙がった4名の誰かがXと見て良いですね。とは言え裏切り者の幸村氏の線は低そうですが。」

 

 

 

 これまで一言も発さず状況を見守っていた金田が口を開く。

 

 

「というか、その4人の中じゃダントツで平田が怪しくないか? 軽井沢は平田の彼女なんだろ? 

 

 彼女を傷つけられた仕返しに脅したってのが筋通ってる気がするんだよな。」

 

 

 

「それはどうでしょうか。僕としては綾小路氏の方が怪しい気がします。

 

 彼は平田氏と一緒にいることが多い。それに体育祭で運動が、ペーパーシャッフルで勉強が出来ることが露呈した。まだまだ隠していることがあるかもしれません。」

 

 

 

「綾小路が? あれはただのお人よしな感じがするけどね。何回か絡む機会があったけど、ただの根暗なお人好しだった気がするけど……」

 

 

 

 石崎、金田、伊吹とそれぞれの意見を順々に言っていく。

 

 龍園はやや真剣な顔つきで何かを思考した後、腰掛けていた教壇から降りる。

 

 

 

「黙れお前ら。その4人はXの可能性が高いだけだ。写真を撮ったのはその4人の誰かで間違いないが、それだけの情報で安直にXと結び付けるな。

 

 オレの見立てじゃ、Xは相当頭が回る。体育祭でオレの策をすべて把握した上で対抗策を事前に取っていやがったんだ。予測能力は坂柳と同等と仮定した方が良い。

 

 加えて、ペーパーシャッフルで退学になったヤツらのぞんざいな使い方。オレに傷つけられることを歓迎したような使い方から見ても周りの奴らは駒としか見てない。

 

今名前が挙がった4人もXの駒である可能性も十二分にある。クク、この腹黒さ、Xはオレや坂柳と似た思考をしていると睨んでいいな。」

 

 

 

 4人の誰かがXの可能性は確かに大いにある。

 

 だが、写真を撮影した誰かがXに意見を求め、行動を実行した。その可能性も否定できない。

 

 

「Xは上手く身を隠しやがったつもりなんだろうが……」

 

 

 Dクラスのカーストトップ男子である平田。体育祭で見せたレベルの高い運動神経とペーパーシャッフルで見せたレベルの高い学力と平田と良く一緒にいることが特徴的な綾小路。同じく学力の高い上にAクラスに実際に流した幸村。デートの少ない三宅。

 

 龍園の頭の中では全員グレーなだけで黒とは断定できない。

 

 体育祭のことを考慮すれば、御門や突然出てきた高円寺や他の活躍した選手、天野と手を結んでいるDクラスの裏切者だってグレーだ。

 

もっと言えば坂柳のように運動こそできないが頭が回るタイプが潜んでいる可能性も否定できない。

 

候補が多すぎる。断定できるような情報も残していない。

 

だからこそ、Xは上手く隠れたつもりだと評価した。

 

だがXの誤算は2つあるだろう。

 

1つはDクラスが想像の100倍無能だらけで隠れ蓑が少なかったこと。こればっかりは配属の運が無かったと見るべきだろう。

 

そしてもう1つは天野の存在。だが、恐らく天野にも何かしらの誓約を設けているとみて間違えない。

 

 

「クク、だがオレから逃げられると思うなよ。必ず炙り出してやる。……ちなみに俺から見ても綾小路の線は濃いと思っているがな。どうにも腑に落ちねぇ。」

 

 

 

暴君はまるでこれから起こる出来事に期待を寄せるかのように笑う。

 

状況は未だ整理しただけ。ここからもう一押ししてXへの手がかりを掴む必要があると思っているのだろう。最も黒幕Xは綾小路で正解だが。

 

龍園は次の策を打つために携帯を動かす。

 

今回の事件のキーパーソンである軽井沢恵という生贄を使い、最高のディナーショーを始めるために……。

優勢世代は

  • 本編にガッツリ出して欲しい
  • 天野兄の偉業を語る程度の登場でいい
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