ようこそ間違った教室へ   作:あもう

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優しさと言う毒

今日は12月16日、皆大好き冬休みが今日から始まるわけだ。まぁある人物にとっては今日からが地獄の学校生活の扉を開くスタートになりかねない訳だが。

 

「では以上で、ホームルームを終了します。分かってるとは思いますが冬休み中も当校の生徒としての自覚を持ち、節度ある一日を送るようにしてください。以上です。」

 

「おい、お前ら!この場に残れ!俺から話がある……坂上は帰っていいぞ。」

 

 

「言われなくても帰りますが……敬語を使いなさい、龍園。」

 

坂上先生の言葉を聞き流し、龍園は携帯を取り出す。それにしても坂上先生もかなり忍耐強いというか……なんというかだな。

 

原作通りならば龍園が遂に仕掛けるべき日がやって来たという事だ。

 

原作ではは2学期の終業式だったがそこは変わらなかったらしい。この日は午前で全ての行事が終わり、放課後となる。

 

部活動は休みであり、学校側も生徒に早く帰るよう促す日だ。つまり校内にほとんどの生徒が残らない。何かをするには持ってこいの日、という訳だ。

 

 

 

「あれだけ潰して回ったが、それでも5人近くは残ったか……確実な証拠も無いな。」

 

 

 

本当は軽井沢を利用せずに辿り着きたかったが、流石にXこと、綾小路も簡単に尻尾は掴ませなかった、黒幕X候補者リストは俺が前見たら残り2人だったのだが一体いつの間に増えたのだろうか。

 

クラスメイト達は龍園の呟きに怯えながらもその場に居座っている。裏切り者の件もあり、時任のような反発する生徒も割と従っているようだ。

 

 

 

「まぁ、逆に楽しみが増えたとでもいうべきか。」

 

 

おそらくだが、龍園は綾小路に目星を付けてはいるだろう。だが、今ここで絞り込むことに意味はない。むしろ頭を空っぽにしてXを迎え入れる方が刺激的で面白い。と思っているはずだ。

 

何故なら龍園はペーパーシャッフルの試験以降、ある行動を起こした。Dクラスで動かせる奴らを総動員させ、見張るべきターゲットに張り付かせた。須藤や三宅などの不良タイプから、平田などの問題が広がることを恐れる保守的な人間だけに絞った。

 

 

 

だが、平田や御門等のリーダー格は事あるごとに俺らが絡んだ生徒のカバーに入ったり、他の奴らへの尾行なども上手く撒かせたり、して守りに入っていた。Dクラスと言えどもリーダー格は優秀なのだろう。

 

 

 

「クク……」

 

 

 龍園は奇妙な笑いを浮かべている。それを見たクラスメイト達は怯えた表情をしている。他クラスからは次々と生徒達が教室を出て行くのを見届けていくのに自分達は出られない事を心のどこかで嘆いているかもしれないな。

 

 

今までのXのやり方は……龍園に似たやり方だ。つまり、Xと龍園の思考回路は似ているということだ。

 

龍園はおそらく俺以外にそんな人間が存在するのかと、興味が最高潮へと達していたのだろう。

 

 

龍園は今朝Xへと何かしらのメールを送って既読が着いたと言っていた。綾小路におそらく軽井沢の処刑予告が届いていることは間違いない。

 

今日これから起こることを知り、Xはどんな策を見せてくれるのか。それを楽しみにしているのだろう。

 

 

 

 

「時間ですね龍園さん。」

 

 

 

 準備を終えた石崎が、落ち着かない様子で話す。

 

 

 

「精々楽しめよ。石崎、俺の朝言った事をクラスのグループチャットに送れ。万が一にでも会話の内容が監視カメラにうつると面倒だからな。」

 

原作とは違いどうやらまさかのクラスメイト全員でリンチするようだ。綾小路もこれには驚きだろう。

 

龍園は鞄を石崎に持たせる。おそらく軽井沢を脅すのに使う何かしら、と言った所か。

 

「チャットの内容の通りだ、テメェらは俺に着いてこい。天野、全員が俺に着いてきてる事を確認して最後尾につけ。もし誰かしらが来てなかったり逃げたら無理やりにでも連れてこい。」

 

「あいよぉ。それにしてもやるとは思ってたがまさかクラス全員とは思わなかったぞ…。」

 

「お前の口ぶりから察するにXはある程度身体能力もありそうだからな。数で押し切ることにした。」

 

そう言いながら龍園は腰をあげる。

 

どうやら龍園は立ち上がり先導するようだ。

 

必要最大限の人数で虐めをするらしい。口は龍園という独裁者の前では割れない。と見たか、実際に裏切り者が処罰された直後だからか龍園に反抗するものはいなかった。反抗したら自分もスパイだと言っていると見られるかもしれないと上手いこと思わせている龍園の心理術の力だろう。

 

龍園がこれからやることは、この表向き暴力等を容認していないこの学校には到底似つかわしくない行動なのは間違えない。だが、それでもやるべきだろう。軽井沢の行いが今度は自分に返ってくるだけなのだから。

 

 

 

 

ホームルームも終わって30分もすれば、冬休みに突入した構内はほぼもぬけの殻だ。夏休み同様、生徒達は一斉に校舎を後にしている。

 

堂々と移動したところで、俺たちを意識する人間はほとんどいない。とはいえ流石にCクラス全員で1列になって動いているので奇妙ではあるが。百鬼夜行かな?

 

 

「それで……やる事は分かったけどどこに行くつもり……?」

 

 

 

今回の作戦は伊吹を含めて直前になるまで誰にも話していなかったようだ。スパイ対策のようだが……まぁ自分でXに宣戦布告しているわけだしほぼ意味は無いだろうが。

 

 

 

「気になるのか?」

 

「付き合わされる方の身にもなって。あんたが無茶するせいで、こっちはいつもハラハラしてるんだから。今回の内容も見つかったら大問題だし。」

 

 

 

伊吹に続いて石崎も真意が気になるのか距離を詰めてきた。いや、お前も聞いてないんかい!ちなみに大半のクラスメイトは奴隷貿易で輸出された奴隷のように歩いている。拒否権は無いらしい。

 

 

「軽井沢の話は覚えてるな。真鍋達がスパイとして利用された原因となった女だ。」

 

「Cクラスのやかましい高圧的なギャル女でしょ。それくらいは知ってる。」

 

「俺は今日、その軽井沢をメールで屋上に呼び出してる。もちろん俺からのメールだと分からせた上でな。」

 

「は? 屋上? それにあんたからの呼び出しって……軽井沢が来るわけないでしょ……あんたバカなの?」

 

「必ず来る。もし来なければ軽井沢の過去を暴露すると書いてやったからな。自分から今の固執している地位を捨てるわけがねぇ。」

 

 

過去に虐められていたなんて話が表に出れば、あいつの周囲は大騒ぎだ。今の地位が危ぶまれることを思えば、危険覚悟で乗り込んでくるしかない。特に原作より酷い今のDクラスなら尚のことだろう。正直何が起きるか分からない。

 

 

「もし軽井沢が来たとしても、それでXの正体を聞き出せると思うの?」

 

「まぁ普通には吐かないだろうな。だからこそ石崎達に持たせた袋の中身が役に立つしお前らを連れてきた訳だ。」

 

 

 

Xこと綾小路は軽井沢に、真鍋達を含む敵から守ることを約束させられているはずだ。 原作から多少ズレているとはいえこの部分の大元は変わっていないだろう。

 

 

「俺はXにもメールを送っている。今日これから軽井沢を呼び出し、お前の正体を聞き出してやる、ってな。そのためならどんな手でも使うと。軽井沢だけじゃなく同時にXにも脅しをかけた。」

 

「けどさ……あんたの脅しメールが軽井沢に届いてるのなら、それ学校側にチクられたらどうすんの?」

 

「出来やしねえよ。そんなことをすればこっちはストレートに軽井沢の過去を暴露するだけだ。どんな方法を取っても軽井沢には俺たちを抑え込む方法はねえのさ。肉を切らせて骨を断つしか無いわけだ。」

 

 

 

龍園の思考ではXの対抗策は、軽井沢かXが直接出向き龍園を説き伏せるか何かしらの契約を交わすこと、あるいは上手いこと逃げることだと思っているのだろう。

 

 

 

「最悪のシナリオは誰もここに来ないことだが……それはそれで軽井沢がどうなるのかを楽しめる。」

 

「リスクに見合ってると思えないけど。」

 

「そうでもない。軽井沢を潰すってことはXの手駒を潰すことにも繋がるのさ。奴は軽井沢を使って色々と悪知恵を働かせているみたいだからな。それにこれで軽井沢が自主退学でもしようものなら-300クラスポイント、Dクラスは今度こそ終わりだろうよ。」

 

 

Xが軽井沢を利用していることはペーパーシャッフルや裏切り者の1件を見れば分かるだろう。

 

 

「でも、仮に軽井沢が屋上に現れたとして……具体的にどうするわけ?」

 

「山下の話じゃ、軽井沢は過去に相当辛い虐めにあったようだ。過酷な経験をした人間は似たような環境下に置かれると理性を失うらしい。なら、その状況を再現して作ってやろうじゃないか。俺たちで盛大にもてなすのさ。そしてXの正体を話すまで執拗に責め続けてやる。最悪壊れちまっても構わねぇからな。」

 

「まさか……私達で軽井沢に何かするつもり? 正気じゃないんだけど。」

 

「無茶ですよ龍園さん。いくらあそこの屋上がとても広いからって数十人がかりで女子を虐めるなんて……そもそも屋上にはカメラがありますよ!」

 

「そんなことは百も承知だ。そのための対策は考えてある」

 

 

 

 屋上に続く階段を上る。

 

 その途中、背後で二の足を踏む伊吹や石崎達に龍園は振り返る。

 

 

 

「嫌だと思ってるか?逃げたいか?石崎。」

 

「に、逃げるなんてそんな。俺は龍園さんについていきますから。」

 

石崎は着いていく様子だ。

 

「お前はどうだ? 伊吹。」

 

「ここからの、あんたの策次第。危険だと思えば私は下がる。」

 

「残念だがここにいるお前ら全員に拒否権をやったつもりはねぇ……わかるな?」

 

龍園の脅しに全員が俯く。俺としては統率が取れてない虐めよりも統率が取れたいじめの方がマシだと思っている。軽井沢がこれから地獄みたいな目にあうだろうが俺はそれをさらに煮つめて学校側という希望も失い、その何千倍もの人間から侮蔑の視線を送られ、年で数えれるほどの期間をすごしてきた。

 

それに比べればいくらかマシだろう。

 

 俺は屋上に続く扉の前で伊吹たちを待機させ石崎から鞄を受け取る。

 

 中から必要な道具を取り出し、再び鞄を石崎に持たせた。

 

 

 

「それって……!?」

 

「待ってな。」

 

 

 

1人、龍園は屋上の扉を開いた。

 

年中屋上が解放されている学校は珍しいが、それには訳がある。

 

しっかりとした柵が備え付けられているだけじゃなく監視カメラも常備されているからだ。危険を伴う問題行動を起こせば、すぐに記録として残ることになる。

 

 当然、それが分かり切っているから生徒は大人しく屋上を利用する。だが、屋上は年中を通しての不人気スポットだ。この学校にはカフェやモールと、人気となる場所が無数にある。わざわざここに来ようと思う変わり者は龍園くらいなものだろう。

 

 だがカメラを設置している箇所は限定的。

 

 屋上に出た外側の扉の上にしか設置されていない。

 

隠れる死角の少ない屋上には1台で十分ということだが、逆に言えばこれが機能しなくなれば監視するものはなくなるというわけだ。

 

 監視カメラの真下に立ち、カメラのレンズを直視する。

 

そして予め用意しておいた黒のスプレー缶を手にし、それを屋上を見張る監視カメラに向けて噴射した。

 

屋上のカメラは校舎と同じでバンダルドームカメラだ。強化ポリカーボネイトのレンズカバーにスチールのボディは破壊行為に対して強い。だが防犯カメラを無効にできるのは何も破壊行為だけとは限らない。スプレー缶1本で十分だ。

 

スプレーは瞬く間にカメラのカバーに付着し、その視界を真っ黒に染めていく。

 

どんなに衝撃に強い頑丈なカメラでも映像は映らなくなる。

 

 

「これで監視する目はなくなった。わかるな、お前ら?」

 

 

 

龍園は学校側がどのような監視体制を敷いているかも下調べは済んでいると言っていた。

 

構内に設置されている何百台というカメラの内、リアルタイムにモニタリングされているのは主要な場所に限られている。すぐに異常事態に気づくことはないらしい。

 

特に今日は既にほとんどの生徒が帰路についている。尚更学校側の警戒は緩いって訳か。

 

 

 

「アルベルト。お前は少し降りたところで待機だ。軽井沢が来た時には通せ。逆に予期せぬ客人……教師連中が来た時にはすぐに俺に携帯で連絡しろ。」

 

 

 

 静かにうなずき、アルベルトが階段を降りて行く。念のために見張りを立てておけば、不測の事態にも対応できる。

 

 

「カメラを塗りつぶしたってわけね……懲罰もんじゃないの。」

 

「単なる悪戯だ。大したお咎めにはならねえよ。」

 

「あんたの読み通り軽井沢が来ればいいけどね。」

 

「来るさ。あいつにとっちゃ死活問題だ。放置なんてできやしねえよ。」

 

 

 後はただ、予定の時刻を待つだけだ。 尤も、大半の生徒は気乗りもせずただただその場にいさせられただけなのだが。

 

 

 

 午後2時が近づき、約束の時間の少し前、屋上の扉が開かれ一人の生徒が現れる。

 

冷たい風をその身に浴び、僅かに身体を硬直させる今日の主役。やはり来たか……。

 

 

「来ると思ってたぜ軽井沢。」

 

 

携帯の画面を消し、龍園はポケットに仕舞う。伊吹と石崎を始めとして、大半の生徒は多少緊張した様子で軽井沢に向き直る。

 

 

「……今朝あたしに送ってきたメール、アレどういう意味?」

 

「今更聞き返すことでもないだろ。内容を理解しているからこそここに来たはずだぜ。」

 

 

 

 俺が軽井沢に送ったメールの内容はこうだ。

 

 

 

『山下達からお前の過去は全て聞いた。放課後一人で屋上に来い。誰かに相談したりすれば、明日にはお前の過去に関する噂を学校中に暴露する。』

 

 

 

山下達の名前を出せば、それだけで軽井沢は内容を理解する。理解せざるを得ない。それにしてもこんだけの人数がいたら秘密もクソも無いから軽井沢の過去は無茶苦茶広まりそうな気がするけどな。

 

 

 

「約束通り黙って来たか? いや、黙って来るしかないよな。誰にも過去を知られるわけにはいかないんだからな。」

 

 

 

秘密を知る平田とXにだけは知らせを飛ばしたか可能性もあるがな。

 

とはいえ龍園はXにはメールを送っているからな、どちらにせよ知ることにはなる。そして平田はXの駒だから全てはXに行き着くわけだ。

 

 

 

「寒いからさっさと話を終わらせてほしいんだけど?」

 

「なら何でここに来た? 無視するのも手だったはずだぜ?」

 

「それは……根も葉もないことを言いふらされたくなかっただけだし。あのDクラスで何されるわかったものじゃないから。」

 

 

 

 平静を装っているようだが、それがハッタリだということは明白だ。

 

 

 

「根も葉もない噂?おい、石崎、伊吹、天野以外はちょっと後ろに行って離れてろ!……さてと、今ここに残ってるメンバーは皆知ってるぜ、お前が高校デビューの元いじめられっ子だってな? 」

 

「っ……」

 

 

 

隠し通そうとしても、真実を突かれれば態度に現れる。追撃は入れておくか。

 

「元イジメられっ子なのに俺を虐めてたのか、最低だなお前。」

 

「……もしあたしに何かしたら……すぐに学校に言いつけてやる。」

 

「おいおい、それができないからここに一人で来たんだろ? 誰の助けも呼べずにな。」

 

「ついで言うとお前らに俺がいじめられた時学校は何もしてくれなかっただろ?つまり訴えたところで見て見ぬふりをされるって事だぜ?」

 

 

こう言っておけばXに頼るぐらいしか軽井沢にはできない。もし、軽井沢が龍園との会話を録音しようが録画しようが、そんなもの切り札にはなりえない。過去を暴露されることを一番恐れているからな。龍園たちがその事実を漏らさない限り、どこまでも無抵抗でいるしかない。

 

それに少なからず俺に対しては罪の意識があるはずだ。軽井沢への復讐のテーマはこの罪の意識を兎に角大きくしまくる事だな。そのためのプランは既に沢山用意してある。

 

『軽井沢が虐められていた過去』

 

 

 この武器は扱い方を分かっていれば何も恐れることはない。だが、諸刃の剣ではある。

 

 これを使ってしまえば軽井沢が使い物にならなくなる代わりに、Xに辿り着くことが遠くなってしまうからだそしてそれは龍園の望む所では無いだろう。

 

 

 

「単刀直入に行こうか。お前の裏に隠れている奴の正体を話せ。そうすれば過去のことは全て黙っておいてやる。」

 

「意味、分かんないんだけど…何それ。あのDクラスだよ?」

 

 

 軽井沢は明らかに今までよりも動揺を見せる。

 

 俺がCクラスに潜む存在を探していることは、既に軽井沢も知っている。

 

 だがその存在と自分が繋がっている事実を掴まれているとは思っていなかったはずだ。

 

 

「お前は真鍋達に虐められていたところをXに助けられたんだろ?」

 

「は、はぁ!? 違うし」

 

「今更隠しても無駄なんだよ。こっちには幾つかの証拠もある。」

 

「……証拠?」

 

 

どうやら軽井沢は思ったよりもXから詳細は聞かされていないようだ。俺の方を1度チラッと見たが俺が首を横に振ったらすぐに視線を戻した。

 

龍園は蛇のようにゆっくりと、一手一手扱いを誤らないように軽井沢を追い詰めていく。

 

 

 

「お前の裏にいるXがどうやって真鍋からお前を守ったと思う?」

 

「知らない。あたしは虐められてもいないし、そもそもXとか言われても……。」

 

「分かった分かった。認めないなら先に結論を教えてやるよ。」

 

 

 そうしなきゃ、軽井沢も認められないようだからな。

 

 

「Xは真鍋達の弱みを突いたのさ。お前を虐めた事実をバラされたくなければ大人しくしておけってな。そうやって口を封じたのさ。」

 

 

何も答えず、軽井沢は龍園を睨みつけてくるだけだった。これに関しては既に軽井沢は知っているはずだろう。

 

 

「なるほどな、Xがどうやって真鍋達を封じたのは知っているわけだ。」

 

「あ、あたしは何も言ってない。」

 

「言葉ではな。だが目ではしっかり真実を話してんだよ。」

 

龍園は話を続ける。

 

 

「そこまでなら、ああよくある話だ。だがXはそれだけじゃ飽き足らず、ペーパーシャッフルの時には俺を裏切るような真似まで真鍋達にさせたんだぜ? スパイになって情報を提供しろってな。もちろん、従わなければ虐めた事実を暴露するって脅してな。」

 

「何それ。マジでさっきから言ってる意味が分からないんだけど……」

 

「目が泳いでるぜ?ペーパーシャッフルの件は初耳だったみたいだな。」

 

俺は暫し熟考して、軽井沢恵への復讐の内容を決定した。他人からは甘く見えるだろうが、軽井沢にとっては苦痛だろうからな。

 

「俺が欲しているのは、俺に攻撃を仕掛けてきたXの正体だけだ。本来お前の過去になんて興味はない。大人しく正体を教えるのが賢い選択だと思わないか?」

 

「何回聞かれても答えは同じ。あたしは何も知らない。というか、あんたが言ってるのって平田君なんじゃないの? クラスを率いてるのは知ってるでしょ、何回もあんたとも戦ってるんだし。」

 

「平田はXじゃねえ。あいつは手荒な手段にこそ出れるがそもそもがいい子ちゃんタイプだ。脅すという発想には至らないでその場で和解させようとするはずだ。つまりはそういうことだ、平田とXは別人だ。」

 

 

表向きは平田や御門がクラスを率いて、その裏でXは暗躍している。というのがDクラスの今の絵面だ。最も御門は自分の利益の為だけにやっているが。

 

もちろん、そのことは軽井沢も知っているだろう。だからこそ引きずり出してやるつもりなのだろう。

 

 

 

「お前も寒いだろ。さっさと話を終わらせて帰りたくないか?」

 

「何も話すことなんてないわよ。」

 

「そうか。Xを庇うんだったら仕方ないな。お前のことを全て暴露しても良いんだな?」

 

「っ……」

 

 

 軽井沢は長考に入るが、そんなことをさせるほど龍園は甘くない。

 

 

 

「無駄な知恵を絞っても意味ないんだよ。お前が考えて打開できる状況じゃない。お前が今取れる選択肢の中で一番正しいのは、お前の裏にいる奴の名前を吐くこと。それだけだ。」

 

 

 そうすれば、少なくとも軽井沢の秘密だけは守られる。

 

 Xを切り捨てる他に自分が助かる道はない。そう誘導する。

 

 

 

「……もし、仮にあんたの言う存在がいたとしても……あんたに真実は確かめられる?」

 

「嘘をついたことが分かれば後で過去を暴露する。それだけだ。」

 

 

 軽井沢は洗いざらい全て話すしか道はない。

 

 だが、軽井沢は強気に反論してきた。

 

 

「あたしだって馬鹿じゃない。今真実を話そうと、いずれあんたはまたあたしを脅してくる。ことあるごとに利用されるなんて真っ平ごめんよ。」

 

「クク、確かにな。真鍋達がやられたように俺がお前を利用しない保証はどこにもないな。だが、だったらどうする?」

 

「あたしはあんたに何も答えない。」

 

 

 軽井沢は沈黙することが唯一の正解だと判断したか。

 

 悪くはないが、最善とは言えない選択だろう。

 

 

 

「黙ったままなら暴露する、そう言ったら?」

 

「あんたはあたしの裏に誰かいると思っている。だけど確実な正体に近づけないからあたしに接触してきた。なら、簡単にそのチャンスを捨てるとは思えない。」

 

「なるほど。聞き出す前にお前の過去を暴露してしまえば、お前は口を割る理由はなくなるな。俺が探しているXに辿り着くのが遅くなるかもしれない。」

 

 

そう言うこと、と軽井沢は視線を逸らした。

 

 

 

「俺としては、別にお前の口からXの正体が割れなくても問題ない。ゆっくり時間をかけるだけだからな。だがお前は、正体を突き止めるチャンスはこれからいくらでもあることを計算に入れていないみたいだな。」

 

「でもそれは、今後も仕掛けてくればの話でしょ。そのXがあんたに正体を探られていることに気づけば、正体を晒さないよう注意するのは当たり前のことじゃないの?」

 

 

思ったよりもやるな。頭の回転も原作通り早く上手いこと合わせる力は一定数あるらしい。まぁ及第点は挙げられそうだな。

 

Xが龍園と似たような思考の持ち主なら、軽井沢に利用価値を感じたからこそ助けたのだろう。他人を利用することを厭わない性格の持ち主。つまり軽井沢をも平気で切りうる。

 

それに、軽井沢の言う通り一旦正体を隠すことを優先する可能性は捨てきれない。

 

万一、これ以降Xが完全に潜ってしまえば、龍園の楽しみは大きく損なわれるように見えるわけだ。

 

 

 

「……上手く自衛手段を考えた上で、ここまで単身乗り込んできたか。」

 

「分かった? あたしを大人しく返すことが最善だと思わない?」 

 

 

 そう言う軽井沢に、龍園は視線を向けずに考える。

 

 携帯には誰からの連絡もない。俺がXに宛てたメールも不発……

 

 そうなれば、多少の危険は覚悟で次の段階に移るだろう、この男ならば、そしてそれを俺もXも予測し、それぞれ自分の手を打つことになる。

 

 

「要はお前にXの正体を吐かせればいいわけだろ? 十中八九お前が正体を知っているのなら、ここで聞き出すのがベストな選択だ。」

 

 

 お前が悪いんだぜX。軽井沢を救うことと正体を隠すことを天秤にかけた結果だ。

 

 

「……脅しが聞かないのに、どうやって口を割らせるわけ?」

 

「決まってるだろ。昔から口を割らせるのは拷問ってのが相場だ。」

 

「龍園さん、やっぱり本気で……?」

 

「伊吹、軽井沢を押さえろ。」

 

「何で私が。自分でやればいいでしょ。」

 

 

 

 これからすることに対して気乗りしない伊吹が指示に背く。

 

 

 

「やれ。いいな。」

 

「私は加担しない。どう考えても危険すぎる賭けじゃない。」

 

「全ての責任は俺が持ってやるから安心しろ。それにお前らに拒否権は無いはずだ。だから遠慮なくやれ伊吹」

 

「ち……。」

 

 

 

 反抗的な息吹にもう一度命令し、実行させる。

 

 伊吹は舌打ちしながら軽井沢に近づいていく。

 

 

 

「な、何よ…。」

 

「こっちにもいろいろ事情がある。悪いわね。」

 

 

 

 素早く軽井沢の後ろに回り、伊吹が両手を拘束する。

 

 

 

「痛っ!」

 

 

 

 悲鳴を上げる軽井沢。

 

 伊吹は心底嫌そうにしながらも、軽井沢の抵抗を全て抑え込む。

 

 格闘技経験のある伊吹に抑えられては軽井沢に成す術はない。

 

 

 

「石崎、バケツに水を汲んで来い。とりあえず2杯だ。一つ下の階のトイレなら、この時間利用する奴はまずいない。男子トイレに清掃用バケツが二つある。」

 

「え? 水、ですか。一体何に……。」

 

「お前まで俺に反抗するのか?」

 

「い、いえ。すぐに持ってきます!」

 

 

 慌てた石崎が、前のめりに転びそうになりながらも伊吹の横を駆け抜けていく。俺はその光景をただただ眺めていたが今のところは興醒めしかねないレベルだ。生温すぎる。俺は龍園に少し期待し過ぎていたのかもしれないな。もっとエグいのを思いついてくれると思ってたんだが……好奇心が先を急ぎ過ぎたか。

 

 

 

「石崎が戻るまでの間、もう少し雑談に興じようじゃないか。」

 

「嫌よ! 放して!」

 

 

 軽井沢は懸命に暴れるも、伊吹の拘束から抜け出すことはできない。

 

身柄を押さえたのは逃がさないためじゃない。これから起こることへの恐怖を増幅させるための下準備だろう。まぁ俺に言わせればまだまだ生温いが。

 

現に軽井沢は自分に起こることを予感したのか、必死の抵抗、最後の悪あがきを見せる。

 

 

 

「マジで指一本触れたら言いつけてやるからね!」

 

「ククク、ここにきて随分と強気だな。今回もXが守ってくれると思っているのか?」

 

 

 何度聞かれても同じだと、存在の有無については頑なに認めようとしない。

 

 

「これは俺の勝手な推理だが、お前はCクラスを陰で操るXに、もしもの時はその身を守ることを約束されているんじゃないのか?」

 

 

 

 軽井沢の目が泳ぐ。隠そうと思ってもそう簡単に隠せるものじゃない。

 

 

「そうでなきゃ話の辻褄が合わないのさ。他クラスの女子からも恨まれがちな強気な性格が災いして、真鍋達以外からもターゲットにされる可能性はあるからなぁ。」

 

 

 伊吹は軽井沢から視線を龍園へと移す。

 

 

「真実を知る人間に対し日々不安を覚えて仕方がないはずだ。だが、お前は今日まで誰にもその事実を悟らせずに虐められることもなくやって来た。何故だ? それはお前に味方し助けてくれる存在が常に背後に張り付いていたからに他ならない。」

 

「それがXだってわけ?」

 

「今はな。だが──最初からそうだったわけじゃない。Xは真鍋達と軽井沢が接触したことで初めて真実を知ったはずだからな。俺が思うに……お前は平田を彼氏にしてその身を守って来たんじゃないのか?」

 

 

 軽井沢の瞳孔が開く。

 

 

 

「ち、ちが……」

 

「違わないだろ。あんまり俺を甘く見るなよ軽井沢。」

 

 

 

 瞳を覗き込む。軽井沢の奥に眠るであろう闇を引きずり出す。

 

 きっと同じようにしたであろう、Xのように。

 

 

 

「ひっ……!?」

 

 

 

やっと少しは楽しめそうになってきたな。

 

 

 

「ふぅ、ふぅ。お、お待たせしましたっ。」

 

 

 

 慌てて水を汲みに行った石崎が、数分で戻ってきた。

 

 8割ほど水の入ったバケツ。

 

 俺は、石崎に目で合図する。

 

 伊吹が軽井沢を前に押し出すようにして離れる。

 

 そして石崎は俺に命じられるまま、バケツの水を軽井沢の頭に思い切り被せた。

 

 

 

「っっ!?」

 

 

 

 真冬の寒空の下、浴びる水は心の芯まで冷やしてしまうだろう。

 

 あまりの衝撃とショックに、軽井沢はその場に崩れ落ち体を震わせた。

 

 両腕で自らの体を抱きしめるように押さえる。

 

 先程までの強気な姿はバケツの水一杯で消え失せた。

 

 

 

「思い出すか? お前が前の学校で受けてきた洗礼を。」

 

「い、いや……!」

 

 

 

 耳を塞ぐ。

 

 軽井沢は何かに怯えるように身体を震わせた。

 

 

 

「こんなもんじゃ済まさないぜ。徹底してお前を壊してやる。」

 

 

 

 携帯を取り出し、龍園は録画を始めると俺は軽井沢の濡れた前髪を掴み上げた。

 

 目から生気が抜け出て行くのが分かる。

 

 今、軽井沢の中には過去のいじめがフラッシュバックしているだろう。

 

ちなみに現状に点数を龍園にプレゼントしてあげるなら35点ぐらいか。水をかけるまでは5点だったけどな。

 

 

「徹底的に虐められてきた上に、天野のような絶対的な力もないお前が、よくDクラスで頭角を現したもんだ。感心するぜ。」

 

 

 

確かに元は弱者だった奴が、自力で頭角を現し新しい自分を構築した。平田を利用しXに守られ今日まで立場を維持し続けた。それは誇れるものだろう。まぁその理論で行くと俺がトップなのだが。

 

 

 

「出来ることじゃねぇよ、そう簡単には……だからこそ俺は天野を引き抜いた訳だが。」

 

 

 

 一度虐められた奴は卑屈になる。繰り返されるほど根は深くなる。

 

 そうなるように虐めによって教育されているのだからそれは仕方がない。

 

 

「ある種、俺にも負けない肝の座った女ってことかもな。だが、人間の本質って奴はそう簡単には変わらない。変われないんだよ。お前は潜在的に虐められる人間であって、虐める人間じゃない。それをよく思い出せ。」

 

 

 

 石崎の足元に残されたもう一つのバケツを手に取り、今度は俺が軽井沢に水を被せた。

 

 

 

「~~~~!?」

 

 

 

 声にならない声を上げ、軽井沢が強烈に身体を縮み上がらせる。

 

 

 

「石崎。もう一度行ってこい。」

 

「は、はいっ。」

 

 

 

 転がった2つのバケツを拾い上げ、石崎は屋上から出て行った。

 

 

それを見た俺は電話をする振りをして一旦屋上から出る、龍園も電話だと思ったのか咎めはしない。だが俺のやる事は単純明快でアリバイ作りだ。俺は石崎を追いかける。

 

「石崎、半分水汲むの手伝うぜ。」

 

「あ、天野さん……ありがとうございます。」

 

石崎としても今回の事に思う所があるのか珍しくこれ以上は話しかけてこず、気まずい沈黙が流れる。むしろ好都合だろう。

 

「石崎、水入れといたから運んでくれ。俺はトイレに行ったら戻るから。」

 

「わかりました!」

 

そして俺はトイレ……ではなく逆向きに監視カメラの無い方の階段を高速でダッシュし……窓から監視カメラに映らないように靴を持って脱出する。

 

そして俺は外で靴を履き、そのまま下駄箱に行き、今度は監視カメラにちゃんと映るようにして靴を入れる。こうする事で俺はこれまで外にいたというアリバイが出来、虐めの加担者にはならなくて済むだろう。

 

俺はまた同じ道を走って屋上に戻る。だがその前に、俺がこれから行動するために綾小路と龍園にいくつかチャットを送る。

 

まずは綾小路だが、聞いたところ3時になったらこちらへと向かうらしい。現在は2時15分か……まぁそろそろだな。

 

元々話し合いをして、俺は他の奴らのように殴り合いに参加しない事以外は自由とされている。これから俺が取ろうとする行動を縛られてはいない訳だったが……一応綾小路にこれからやる事の内容を送る。

 

俺が起こす『革命』の内容もあるし、綾小路は原作通りならばこの頃辺りに茶柱の脅しが嘘だと分かり、クラス闘争をしない決意をするはずだ。尤も、ホワイトルームからの資格として月城が来て、三学期にまた引き戻されるのだが……まぁ何はともあれ、今綾小路にとって駒はもう必要無くなる。

 

綾小路も協力して軽井沢に冷たい言葉を吐き捨て切り捨てる宣言をしてくれるらしい。

 

軽井沢の生殺与奪の件はあっさりとくれた。余程Dクラスと茶柱にストレスが溜まっていたのかもしれないが、それは俺には分からないことだ。

 

次に龍園、龍園は俺がXの事を知っており、不戦条約のようなものを結ぶ代わりにペーパーシャッフルではあれだけの退学者を出せたと説明してある。

 

そのため俺はXが3時に来る事を龍園に伝えておく。龍園としては楽しみが減ってしまうかもしれないが、Xの正体を知れるというアドレナリンが誤魔化してくれるだろう。

 

その上で、龍園にも俺がやろうとしている軽井沢への『処罰』を簡略化して送る。そして程なくして了承の返信が来る。元々軽井沢はどうでも良いのだろう。

 

俺は、双方からの許可を得た上で屋上へと向かい、その扉を勢いよく開ける。

 

「え……あぁ……天野…くん……ごめんね……私……」

 

「ククク、戻ってきたか。今こいつにXは来ないことを伝えてやったばっかりだぜ。」

 

ちなみに大きな音を開けてわざと入ったのは軽井沢に一瞬期待させるためだ。人間長い事絶望にいると体が絶望に慣れてくる。だからこそ一瞬、ほんの一瞬だけ希望の光を入れる事で淡い期待をさせる。そしてそれを摘み取り再度絶望へと陥れる。

 

これは希望においても同様だ。ゴミみたいな毎日が続くよりも普通の日からある日突然地獄に突き落とされた瞬間のが人は心にダメージを負う。辛くなり、苦しくなる。痛みも苦しみもずっと同じ事を続けるとどこかで慣れが、耐性がついてしまうのだ。それを防ぐためにもたまに希望を入れてそれを閉ざしてあげる……するとあら不思議!前よりも深い絶望へと落ちていく。

 

 

何度も同じような事を言ってしまったが、結局軽井沢にする処罰はそういう方向性だと言うことだ。副産物として罪悪感を何処までも攻めるってのもあるが。そちらに向くように龍園に仕向けさせているのでそっちは問題無いだろう。ちなみに大半の生徒はX戦に向けて戦力の足しにするために呼んだのか、それとも見せしめか。分からないが何もせずただただ怯えてその光景を見るだけだった。

 

「ククク、お前らが天野にやった事がこれ以上に酷い事をやったって事とコイツがクズだってことを教えてやったらお前に謝る以外何も話せなくなっちまったんだよ。本当に不良品だな…ククク。」

 

「天野……くん……ごめん……ね……私の……せいで……」

 

 

軽井沢は完全に瞳からハイライトを失っている。時刻は35分程度か……そろそろいい頃合いだろう。念の為5分前行動はしておきたいしな。

 

俺は石崎が水をかけようとするタイミングで飛び込んで軽井沢を庇うように飛び込む。結果、石崎がかけた水は俺に被さる事になる。石崎は顔を真っ青にしていた。

 

「そ…そんな、天野さん、なんで。」

 

石崎は軽井沢以上に顔色が悪くなってしまった。こいつ、大丈夫か?

 

石崎が心配だがひとまず置いておこう。ごめんな石崎、教えといてあげればよかったな。この行動を見た龍園以外の奴は皆驚いていた。だが何より驚きが顕著だったのは俺が庇っている目の前の軽井沢だろう。目から光が戻ってきている。

 

「え……なんで……」

 

意味がわからないという顔をしている。まぁ軽井沢視点仇を恩で返されてるわけだからな。意味は分からないか。まぁ教えてやるつもりも無いが。

 

 

「軽井沢…大丈夫だ、大丈夫。俺に任せてくれ。……龍園!もうこんな無意味な事はやめるんだ!これ以上軽井沢を追い詰めてもXは出てきやしない!問題になる可能性だってある!それに何より……軽井沢が可哀想じゃないか!自分が虐められたからと言って他人を虐めていい理由になんかならないんだ!」

 

お察しの通り茶番である。ちなみに龍園もそれは分かっている上で乗ってもらう。これは今後のCクラスの為でもある。

 

龍園は原作とは違い、自分たちが負ける場合も視野に入れている。ある意味成長だろう。もし龍園が敗れ、リーダーを降りなければ行けなくなった場合、次のリーダーの筆頭候補は俺だろう。

 

そうなった時、2代目リーダーも龍園の言いなりだった。よりも、2代目リーダーは龍園のような非道な行いに反対していた正義感の強い男だ!という評判だった方がのちのち他クラスと交渉したり裏切ったりするのにも役に立つだろう。

 

そしてクラスメイト全員の前だ。龍園がこのままリーダーになるなら龍園が鞭ならば俺が飴となり、Cクラスの善性枠として龍園のやり方に不満を持つ生徒の捌け口となり、第二第三の裏切りの確率を減らす事にも繋がる。

 

他にも軽井沢を庇う事でさらにスパイを増やせるなんて利点も一応あるが、正直これらは龍園にとってのメリットでしか無い。

 

俺としてはメリットデメリット以前に復讐が優先なのだ。そのための第1ステップとしてXに移り変わり、軽井沢恵の依存先を俺に仕向ける必要がある。

 

罪悪感を責めながら依存させる事で、軽井沢の中での俺の価値と依存度を肥大化させていく。そして、某メンヘラ女やヤンデレ女のように、俺に完全に依存させる。俺無しでは生き死にすら危ういレベルにまで依存させられたらベストだがそう上手くは行かないだろう。

 

そして、俺に対する軽井沢の依存がかなり重症になった事を確信したタイミングで切り捨てる。虐めの事も勿論暴露し、虐めが始まる。

 

俺という絶対的な希望をいきなり失い、地獄に落ちる。しかも俺を虐めたのが原因なので、悪いのは自分である。罪の意識があるので俺を恨む事は出来ないだろう。俺の予測が正しければ自分で自分を恨むはずだ。

 

そして、軽井沢恵は3年終了を目前に自主退学する。この時Aクラスだったりすれば、退学した事に着いての後悔の念も増えてなお良し、と言ったところだろう。

 

軽井沢復讐計画の全貌はこんな感じだ。勿論協力者は龍園一人だがこれで十分だろう。

 

「あ?クラスメイトの前でひよったか?2度は言わねぇ、どけ。」

 

龍園が圧を俺に向ける。その圧にクラスメイトも軽井沢も萎縮する。

 

「できない。これ以上軽井沢が傷付くのを見ていられない。」

 

「天野…くん……」

 

瞳からハイライトが戻りつつある軽井沢の俺を見る目は子供が仮面ライダーやプリキュアのようなヒーローを見るそれと同じだった。まぁ救世主なんだから無理も無いか。

 

「どかねぇか……喰らえ!」

 

龍園は俺の頬に殴りを入れる。俺はそれに合わせてタイミングよく吹き飛び、派手に転がり受身を取る。それを見ていたクラスメイト達には再度龍園の怖さが思い知らされた事だろう。狙っても無かったとんだピエロムーブだがプラスに働くのでよしとしよう。

 

「あ、天野くん……!天野くん!」

 

軽井沢がこちらに駆け寄ってくる。龍園もあたかも興醒めだと言わんばかりの表情をして扉に視線を向ける。

 

「ちっ、興醒めだな。あの裏切り者と不良品は放っておいて、Xが来るのを待つとするか。」

 

龍園が今まで割と気ままに動いていた事もあって、クラスメイトも疑問に持つ者は少ないだろう。

 

だが俺はまた計算ミスをした。龍園の圧を絶対視し過ぎたのかもしれない。

 

軽井沢以外にも飛ばされた俺に駆け寄って来るものがいた。椎名、真鍋、薮、伊吹、木下の5人だ。種子島もこちらを心配してオロオロしていたが龍園の一睨みで黙らされてしまった。アルベルトもこの場にいたら似たような行動をしていたかもしれないが今は見張りなので分からない。

 

 

Dクラスから来たよそ者で、冤罪とはいえ、犯罪者の汚名をかけられ、周りから虐められ、奇異の視線に晒され、復讐にある意味取り憑かれたとも言える自己中な俺のような人間にも心配してくれる人はいたらしい。

 

「虐められてた事を言いたいなら言えばいい。……だからもう天野君に手を出さないで。」

 

いや言っちゃダメだよそれ……軽井沢としては俺を庇ってるつもりなのかもしれないけどまた俺の計算狂うじゃんかそれだと……何サラッと成長イベント作ってんだコイツ。なんか止めないと不味い気がする。

 

「軽井沢……ダメだ……俺は…いいからっ。」

 

俺はあたかも死にかけて最後の力を振り絞った様な声を出す。それを見かねたのか伊吹が援護の言葉を出す。

 

「龍園、あんたやりすぎ、どう考えても天野が正しいから。」

 

ごめんなさい茶番なんです演技なんです。軽井沢の罪悪感を痛める為の構成なのになぜ今俺の罪悪感が痛んでいるのだろう。嬉しい誤算だけど嬉しくない。

 

「龍園君、あなたがこれ以上軽井沢さんと聖くんに手を出すことは私たちが許しません。」

 

意見は同じだと言わんばかりに椎名が言う。龍園側を向いているので、顔は見えないが強い覚悟を持った顔をしているのだろう。

 

残りの4人(軽井沢含む)も同じようで頷いていた。

 

なんというか……龍園には後で謝罪しておこう。まさかこんな事になろうとは誰が予想が着くんだこれ。自己評価を低く見積もりすぎたか……?虐められて卑屈になっていたのは俺の方だったのかもしれない。

 

「チッ、好きにしろ、俺はXさえ潰せればそれでいい。」

 

軽井沢は今何を思っているのだろうか……とはいえXに前ほどの信頼を持てなくなった事は確かだろう。

 

時計を確認すると56分を示していた。ちなみに俺は瀕死のフリをしている。こうする事で殴り合いイベントに参加しなくて済むからである。

 

そして……3時丁度に勢いよく屋上のドアが開いた。

 

 

優勢世代は

  • 本編にガッツリ出して欲しい
  • 天野兄の偉業を語る程度の登場でいい
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