世間では、大半の学生は冬休み、という単語を聞いた瞬間に喜ぶだろう。課題の存在を思い出して頭を抱える者もいるかもしれないが、それでもそれが少数である事に変わりは無い。
普通ならばスキーに行ったり、雪だるまを作ったり等して友達とクリスマスを過ごしたり、門松を立てて新年のお祝いをしたりするのだろう。だが、オレ、綾小路清隆には生憎とそんな友達と呼べる友達はいなかった。
今日は用事があるためケヤキモールへと向かう。オレは自分が買った1着しかない私服に袖を通し用意をする。平田の取り巻きの女子たちにファッションセンスが無いと批判された代物だが軽く外に出る分にはなんの問題も無いはずだ。
オレはそのまま自分の部屋から出て待ち合わせ場所へと向かう。待ち合わせ場所は寮の入口のエントランスだ。
「遅いんですけど……。」
どうやら待ち合わせ相手……軽井沢恵は既に到着していたらしい。頬を膨らませながらこちらを見てくる。
今日外出するのは他でも無く天野という男からの依頼の一つだ。内容は「メンヘラ、あるいはヤンデレ化した軽井沢の沈静化」というものだ。天野と言えども一昨日のサイズエリアの一件で相当メンタルを削られたらしい。
軽井沢の格好はまさに今風……と言うやつだろう。今年の流行りらしい薄桃色のロングカーディガンとピンクのミニスカート、他にもピンクを基調とした色合いだった。
「えぇ……まだその格好から変えてなかったの…。」
軽井沢がオレに訝しげな視線を向ける。オレの格好はよほどダサいらしい。
「そんなジャケット買うのはロックシンガーか厨二病だけだと思っていた……取り敢えず新しい服を買うところから始めた方がいいって……私が見繕ってあげるからさ。」
そう言いながら軽井沢も満更では無さそうだ。屋上での一件で天野に完全に依存し、オレには失望したものだと思っていたがそういう訳でも無いらしい。おそらくはオレの想像以上に許す強さを得たと見ていいだろう。
そのままオレ達は二人でケヤキモールへと行くために寮を出る。そこでオレ達は違和感を感じた。あちこちに堀北元生徒会長と南雲がお互いを向き合ったところを横から見た写真が写っているポスターが貼ってあったからだ。
詳しくは分からないが堀北学と南雲雅は投票数で勝負をするらしい。何かしらを賭けているのか、それともただの遊びかは分からないが。
「相変わらず生徒会長同士凄いバチバチしてる……って清隆、書くの?」
「ああ、堀北元生徒会長には世話になったからな。」
オレは匿名の投票用紙を1枚取り、堀北学の名前を書いて投票箱に入れる。尤もオレの一票で何かしらが動くとは到底思えないが。コレが焼け石に水と言うやつだろう。
「ふーん…なら私も書こっかな。」
オレと同じ堀北学の名前を軽井沢も書く。オレは軽井沢のと合わせて2人分の投票用紙を投票箱に入れる。
「……清隆!これみて!」
軽井沢はポスターを凝視してなにかに気づいたらしい。軽井沢が指を指したところを見ると、ポスターの下側には勝った方が賞金50万と書いてある。恐らく賭けの内容だろう。特にオレが大それた動きをする事は無いが、やはり投票しておいて良かったのかもしれないな。この程度なら天野にもバレやしないだろう。
そんな事を考えているうちに最初の目的地である服屋に着いた。安くて質のいい有名なブランドらしいがオレにはよく分からなかった。
「清隆!これ着てみよ!これ!」
そう言って軽井沢に進められたのはTレックスのマークでおなじみのクロックスが有名なあの会社のTシャツだ。全体的に黒を基調としていて胸元にワンポイントと言わんばかりに白のTレックスが縫い付けてある。胸ポケットが着いているのは有難いところだ。
「……5600プライベートポイントか…。」
オレの学生証端末には今500万プライベートポイント程入っている。部活に所属している先輩を片っ端から潰して稼いだ金だ。尤もそのせいでかなりの部活から出禁を食らってしまったが……。とはいえ3年Aクラスのいる部活主体で狙って稼いだため、まだまだ部活は残っている。
「清隆……ポイントある?」
「まぁある程度はあるが……」
とはいえわざわざ軽井沢に500万プライベートポイントもあると伝える必要は無い。どうもこの学校はプライベートポイントやクラスポイントのレートが高めなので稼ぐのは容易だ。
「じゃあこれとこれとこれも!清隆はちゃっちゃと試着室で着替えてきて!」
軽井沢に強引に服を持たされ、試着室に入れさせられてしまう。
……ガス抜きのため、仕方ないか。
オレは言われた通りの格好に着替える。それにしてもジーパンの存在は知ってはいたが……履くのは初めてだな。そしてこの黒の上着は名前はよく知らないが高いブランドだった気がする。値札を見ると15000プライベートポイントもしていた。
……嘘だろ。オレは渋々といった形で着替え、試着室を出る。似合っているのかはよく分からない。ホワイトルームにファッション雑誌なんて無かったし、ファッションは不必要なものとして切り捨てられていたからな。
「……これでいいのか?」
オレは言われた通りに着替え、試着室のカーテンを開ける。それを見た軽井沢は顔を真っ赤にして照れている……のか?チャックでも空いていたのだろうかと思い下を見るが特にそんな事は無かった。
「清隆……かっこいい…。それ買ったら屋上での事は許してあげる。」
それはなんとも嬉しい提案だ。幸いポイントにも余裕がある。買う事にしよう。幾ら『天野の前で軽井沢を捨てたフリ』をする為とは言え、屋上での一件は軽井沢の心に深い傷をつけてしまっただろうしな。
「全部で16600プライベートポイントのお支払いです。」
オレは言われるがままに16600プライベートポイントを支払った。そのままオレは軽井沢に見繕って貰った服で店を出る。隣の軽井沢の顔は少し赤い気がするが……屋上の一件で風邪でも引いてしまったのかもしれないな。風邪薬を買っていくとしよう。
「軽井沢、少しトイレに行ってきていいか?」
「えぇ…女の子とのデートでそれはデリカシー無さすぎなんですけど。」
オレは考えてみたがそもそも女の子とのデートについては詳しくない、軽井沢がそう言うならそうなんだろう。
「すまない。すぐ戻ってくる。」
オレはトイレに行くふりをして風邪薬を買いに行く。近くのドラッグストアに寄るとそこには見知った人間が居た。なぜだか分からないが咄嗟にオレは隠れてしまった。
「木山、何故お前はあの場で執拗に一之瀬を責めた?俺にはそれが分からん。」
見知った人間というのは神崎だ。だが何処か喧騒なオーラを纏っていた。話の内容からして先日の一之瀬の事か……?確かにBクラスでやるべきやり方では無かったので違和感を覚えた。
「南雲先輩の指示の元動いただけだ。俺は南雲先輩に着いていく。」
「嘘をつけ。お前にそんな気はサラサラ無い事ぐらい俺にはわかる。本当に南雲先輩に付き従っているフリをする為だけなのか?」
先日の様子とは違い、どうやら木山は南雲に呑まれた、という訳では無いらしい。
「まぁ……今一度うちのクラスの忠誠心の確認って所だな。それに……どうせ直ぐにクラス分けなんて意味が無くなるさ。」
「どう言う意味だ……それは!」
木山の発言は傍から聞いているものからしたら心底意味不明なものに聞こえるが、オレはそれを聞いて驚いた。その情報を知っているのは天野と学校側、それと天野が話した人間以外には居ないはずだ。あの場に盗聴器やその類のものは無かった。
木山に話したのは天野の計画の一端なのか……?だとしたら今以上に俺は天野を測りかねている事になる。現状ですら天野の行動の方向性が何とかわかる程度でしかない。だからこそ軽井沢に二重スパイをさせているのだがここにも見えないパイプをつないでいるのだろうか…だとしたら一之瀬の件はマッチポンプか?
次から次へと嫌な方へと考えが進んでいくが勿論可能性はそれだけではない。学校、ないしはオレにも分からない第三者という可能性もある。
学校側ならばそれはそれで機密漏洩の大問題だろうが、坂柳理事長の娘である坂柳有栖や、この学校に及ぶ権力を持つ綿白神姫華なら知り得ていてもおかしくは無い。だが現状そのどちらとも木山が手を結んでいる様子は見られない。
「まぁお前がわかる必要も無いか。とはいえ1年の間は少なくとも同じ釜の飯を食う仲間だからな。俺としても一之瀬を徹底的に潰すのは不本意な所もあるが……まぁ現にこのようなやり方で俺達はAクラスと肉薄した結果を出した、違うか?」
「いや、お前の言う通りだ……だが、今後を見て無意味な行為だと感じたら……その時はわかるな?」
「怖いことを言うな……俺だって不本意なんだからよ。」
それだけを言い残して木山は何処かへと向かっていった。あの言いぶりではまるで誰かしらの指示だから仕方なく従っているようにも聞こえる。南雲に与しているわけではないとすると…誰だ?
天野が例の『革命』を学校に通達したのは恐らくペーパーシャッフル後だろう。つまりその前にクラスポイントの差をギリギリまで詰めていたAクラスの線は薄いだろう。
もし仮にペーパーシャッフル後にAクラスの下に着くレベルならば恐らく一之瀬を倒す事は出来ない。坂柳有栖ならば自分で潰すだろうし、綿白神姫華は結果や作戦と比べると実力不足だ。弱くは無いがそれでも神崎程度。三輪が作戦の意図を手引きしているのだろう。
次にCクラス、こちらは龍園は無関係なのは間違えないので可能性としてあるのは天野だが……天野の思考回路は分かるようで分からない。どうにも何種類かの思考回路が合わさってできているような印象を受けてしまう。
次にDクラス、こちらは現状平田と櫛田の共同である仲良しグループと、御門のその他エトセトラをまとめたグループの2種類あるが、まず平田グループの線は無いと見ていいだろう。可能性としてあるのは御門グループだが……御門の性格からして一之瀬を潰したければもっと徹底的にやる筈だ。どうにもやり口と性格が合わない、可能性は低そうだ。
最後にBクラスだが……そのBクラスのリーダーは木山なはずだ…そして今の会話を聞く以上神埼では無いだろう。一之瀬が自分でやっていたらそれこそサイコパスだがまず無いだろう。木山の側近である八雲や、頭のキレそうな濱口の線もあるが……前者は情報が少なすぎて不明、後者は思考パターンが違う。他にBクラスの可能性がありそうなのは……
…………まさか、そういう事なのか?だとするとオレが入学当初に天野を使ってやろうとしていた事と同じだとするならば……、それ自体は別にそこまで珍しい発想ではない。だが天野の『革命』への気付きの早さ、クラスポイントの詰め具合、Aクラスとの状況…綿白神派のやり方…まさかそういう事なのか?
オレの中である一つの恐ろしい仮説が浮かんだ。だが余りにも証拠に乏しい上に馬鹿げた仮説だ。そしてもし仮にそうだとするならばそれを行っているのは誰だ……?そんな事を出来る人間がこの学年にいるのか?
今一度人間を整理して考える、普段なら馬鹿げた仮説だと頭から弾き飛ばすはずだが、なにか取っ掛りのようなものを覚える。そしてもしこの仮説が本当ならば天野は全くのシロだろう。Aクラス以外の誰かしらに恐ろしい人間が潜んでいる事になる。だが国立の高校でそんな事が可能なのか?
三輪の存在もある、Aクラス以外と決めつけるのは早計か。何れにしても情報が必要だな。
オレは軽井沢のために薬局で風邪薬を買って戻る。戻る最中、オレは自分の思いついたバカげた仮説が何故か頭から離れそうに無かった。
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「遅い清隆……ってえ?風邪薬?」
軽井沢は俺の右手に持っているものを見て驚いた様子だ。
「さっきから顔が赤いからな。風邪を引いたんじゃないかと思ってな。もちろん恵が元気ならそれでいいんだが。」
「いや顔が赤いのは風邪じゃなくて……ってけぇぇぇぇぇぃぃぃぃぃぃぃ!?」
突然の名前呼びにさらに顔が赤くなり、大声で叫ぶ軽井沢、周りからバカップルを見るような視線が突き刺さる。
「お前がオレを名前呼びするからな。オレもお前を名前で呼ぶ事にした。」
「……不意打ちは卑怯!…まぁ特別に許してあげるけどね。」
「助かる。それで、次はどこに行く?」
「そうだな……次は…」
オレが軽井沢に返事をしようとするとケータイがなる。電話のようだ、それも非通知の。イタズラの線も考えたが一応オレは出る事にした。
『もしもし』
声を掛けて数秒経っても反応が無い。矢張りイタズラ電話だったのだろうか?
『…綾小路清隆、お前は南雲雅をどう思う?』
どうとは……なんとも答えにくい質問だ。だが天野に今年はある程度協力する事になっている以上、オレは堀北学側の陣営なのは間違えないだろう。現に堀北学から今年度限りという条件付きで協力の依頼を頼まれているしな。
『アンタは誰だ……何故そんなことをオレに聞く。』
『お前が南雲降ろしの協力者の二人のうちの一人だと聞いた。お前と会いたい。』
『誰かも分からない以上YESとは言えないな。』
罠の可能性もある、当然の話だろう。
『……15:15分に第六東都公園のテニスコート前で待つ。15分経って来なかった場合はお前が南雲に与していると報告する。』
それだけ残して電話は切れてしまった。この場合報告の相手は堀北学と考えていいだろう。それに声である程度の予測はついた。
現在の時刻は15:00、今このケヤキモールから向かってもギリギリの時間……か。
「恵、悪いが今から第六東都公園のテニスコートに向かう事になった。着いてきてくれ。」
「え……うん、わかったけどなんの用?」
軽井沢は若干戸惑いつつも着いてきてくれるらしい。誰か分からない以上こちらとしても軽井沢以外の手札を見せる必要は無い。
南雲降ろしとなると平田を使う事は出来ない。平田に着いている須藤や女子たちも同様だろう。
そして佐倉と森では南雲降ろしに使い道は見えてこない。綾小路グループはそもそもこのような揉め事を巻き込むべきでは無いだろう。他の手札は使えなさそうだった。
櫛田と松下……あと佐藤と王もなのだろうか?天野の手札はDクラスに見えているだけでもこれだけある。Cクラス内は勿論、一之瀬にも手を出し始めている。こうしてみると差は開く一方か。そろそろオレも他クラスの手札が必要かもしれない。アイツが接触してきた以上近いうちにオレを退学させるために誰かしらが送り込まれるのは間違えないだろうからな。
オレはそのまま少し急ぎめにテニスコートへと向かった。
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テニスコートに着いた時刻は15分ちょうど、正確には15分50秒ぐらいだが些細な差だろう。
「清隆……結局何でテニスコートに来たのか教えて欲しいんだけど……」
オレは質問をしてくる軽井沢を目で制し、辺りを見渡す。人の気配は微かにするがそう多くはない。恐らく一人か二人、と言った所だろう。
オレ達はテニスコートの前で待つが5分たっても誰も現れそうに無かった。あちらも出方を伺っているのか、それともオレ達がただのカップルだと思っているのか……それとも警戒しているのか。
仕方ない、少し揺さぶるか。
「軽井沢、帰るぞ。」
オレは軽井沢に帰る事を告げてその場を去ろうとする。これでも出てこないのならばそれまでと言うことだ。
「待て、待たせたな。」
そう言って出てきたのは2人の男女。一人は電話の主である見知った顔、現生徒会副会長にして元2年Aクラス、桐山叶斗だ。そしてもう一人は協力者なのだろうが名前は分からなかった。黒髪ロングのストレートで大和撫子を連想させる見た目だ。
……オレがまじまじと見ていると、軽井沢に軽く脇腹をつつかれた。これが嫉妬と言うやつか。
「1年Dクラス、綾小路清隆、こちらは同じく1年Dクラスの軽井沢恵です。」
軽井沢は俺の紹介とともに一礼をする。
「こちらは2年Bクラス桐山叶斗だ……と言っても知っているだろうがな、そしてこちらが……」
「2年Cクラス、風谷緑です。気軽に緑ちゃんって呼んでね!」
隣の女子生徒は風谷というらしい。何処かで聞き覚えのある名前な様な気がするが思い出せそうにも無かった。
「……それしても、南雲降ろしに協力するのがまさか副会長とは思いませんでしたよ。」
正直意外だった。いや、意外では無いのかもしれないが……。
「長話は避けさせてもらう。本題に入る。」
「構いません。」
もとよりこちらもそのつもりだ。
「俺は、南雲を生徒会長になどさせたくなかったが、それでも阻止する事はできなかった。その結果1年を頼るしかないと言う虚しい有様だ。」
「南雲の方針と影響力についてはある程度聞いています。その上でお聞きしたいのですが桐山副会長も風谷先輩も『チャンス』に賭けるべきでは?」
オレがそう言うと桐山は苦虫を噛み潰したような顔になった。
「本当の話なら……な。だが、俺は南雲を信じられない。アイツにそんな気はサラサラないと思っている。」
「私は別にAクラスになる為にこの学校にいる訳じゃないからね。極論この学校に居てなおかつ頼まれた事をやれればいいから。」
風谷先輩の目は何かこの場に無いものを見ているようにも思えた。
「桐山副会長はそれなのに生徒会に所属しているんですか?」
「逆に聞くが辞めてどうする。俺は南雲をこれ以上付け上がらせるべきでは無いと考えている。」
「そうですか。まぁ一応理には叶っていますが……桐山副会長はなぜそこまで南雲を憎んでいるんですか?」
桐山は恐ろしい程に南雲に憎悪を抱いているのが伝わってくる。並々ならぬものだ。
「俺の彼女が……南雲に退学させられたからだ。俺は、南雲の非道さを許すつもりは無い。加えて俺は堀北元生徒会長に憧れて生徒会に入った身だ。この学校の伝統が損なわれるような事は避けたい。」
先程から伝統を守るため、彼女が退学させられた、南雲を信じられないと敵対する理由がコロコロ変わっている。何処まで信用できるかは怪しいものだ。
「まぁ…君たちの気持ちもわかるけど信じていいと思うよ。彼女が退学になったって話は少なくとも本当だしね。」
風谷先輩が横からそうアドバイスをする。尤も何処まで本当かは見えて来ないが。この人は桐山副会長以上に心の内が読めない。南雲に敵対してるかすら怪しいが南雲のスパイのような風格も無い。何が目的でこの場に来たのかすら分からない始末だ。とは言えこの場でそれを聞ける訳でも無い。恐らくはぐらかされて終わりだろう。
「なるほど……」
「ともかくだ、お前達に情報を流す価値がないと判断したらその時点で終わりだ。俺の立場も危うい。今後は匿名のメールアドレスを作ってやり取りするがいいな?」
「構いません。オレとしてもそうして欲しいですね。」
オレとしても目立つ事は裂けたい。
「それでは俺達は行く、くれぐれも……わかるよな?」
その言葉を残して桐山達は去っていった。
「恵、今日の所はオレ達も帰るとしよう。」
「うん、分かった。」
そうしてオレは軽井沢と適度な距離を保ち帰り道を進む。その途中にあるケヤキモール近くの木のイルミネーションを見て今日はクリスマスだと言うことを思い出した。
「そういえば今日はクリスマスだったか……忘れていた。」
「えぇ!?……だからデートに今日誘ったんじゃないの?私そう言うことだと思って期待してきたんですけど…最低。」
軽井沢が頬を膨らませながらこちらをジト目で見てくる。
「すまない。今から何かしらを買ってくるから少し待っていてくれ。」
「それ全然嬉しくないんですけど……まぁ何も無いよりはマシだけど。」
オレはそうして近くのアクセサリー店に向かう。余り軽井沢を待たせる訳にも行かないので店員さんに適当に見繕ってもらうとしよう。
「すいません、女子人気の高いものはどれですか?」
「そうですね……最近だとコレとか人気ですよ。」
そう言って店員さんが指をさしたのは銀色の作りに真ん中に小さなパールの着いた指輪だ。高そうな見た目なだけあり4万プライベートポイントという中々の額だった。指輪の値段の相場は詳しく知らないが店員さん曰くこれでも安い方らしい。
あまり長引かせる訳にも行かないだろう。オレは言われた通りの指輪を買っていくことにした。そのままプレゼント用の包装紙に積めてもらい、店員さんに会釈をして店を出る。
その帰り道、杖を着いた銀髪の少女と出会う。確か彼女が坂柳有栖だったか。
「お久しぶりですね。綾小路清隆くん。ここで出会ったのもなにかの縁、少しお話しましょう。私としてもあの時の衝撃を共有したいと思いつい話しかけてしまいました。まるで告白の前触れみたいですよね。」
何が要件なのかは知らないが長くなりそうだ。先に軽井沢の方を片付けたいのでさっさと終わらせて欲しいのだが。
「一応待たせている人がいるんだ。手短に頼む。」
「それでは…改めましてお久しぶりです綾小路くん、8年と314日ぶりですね。」
「冗談だろ、俺はお前なんて知らない。」
坂柳有栖とはここで話すのが初めてのはずだ。少なくともオレの記憶には無い。
「ふふふ、そうでしょうね。私だけが一方的に知っていますから。」
コツン、コツンと杖の音だけが鳴り響く。そのまま坂柳有栖は歩を進める。オレは恵を待たせないためにもそうそうに切り上げさせてもらう事にした。
「ホワイトルーム。」
坂柳有栖が発した単語が耳から脳へと信号として流れ出た時、オレは思わず足を止めてしまった。坂柳理事長の娘ならば知っていてもおかしくは無いが、坂柳理事長は話してないような素振りだった。自分で調べたのかもしれない。坂柳有栖が知っていることに驚きは無いが、それでも、その単語を聞いた時、オレが金縛りの様に動けなくなってしまったのも事実だ。
「嫌なものですよね、相手だけが持つ情報に振り回されるのは……、でも懐かしい再会をしたので挨拶をしない訳には行かないと思ったんです。」
「お前は……。」
ホワイトルームの事を知っているのは理解出来てもオレは坂柳有栖とは会ったことなど無いはずなのだが……。
「無理もありません、貴方は私を知らないから、でも私は貴方を知っている。これも不思議な縁、なんでしょうね。このような場所で貴方に再開するなんて、これも運命、なんですかね。正直言って二度とお会いすることはないと思っていましたから。
でもこれで全ての謎が解けました。選択退学試験、体育祭、ペーパーシャッフル、そしてDクラスの退学騒動にCクラスとの騒動、その全てが平田洋介の作戦とはどうにも思えませんでした。貴方が裏で糸を引いていたんですね。」
「なんの事だか…うちには高円寺や御門もいるからな。」
「彼らならば裏で糸を引かずとも表立って動くでしょう。他の参謀は櫛田桔梗さんですか?それとも堀北鈴音さん?何れにしても貴方が出てきた以上関係ありませんけどね。」
……どうやら本当に坂柳有栖は俺を知っているらしい。
「安心してください、一先ず誰にも言うつもりはありませんから。他の方々にも邪魔はされたくありませんしね。……偽りの天才を葬る役割は私にこそふさわしい。学校生活の楽しみがまたひとつ増えてしまいました。」
「一つだけ聞いてもいいか?」
「あなたからしつもんを頂けて光栄です。貴方の事を私が知っている理由でもお聞きしたいのですか?」
「いや……そんな事はどうでもいい、ただ一つだけ聞きたい。
お前にオレが葬れるのか?」
そう問いかけた。オレとしても葬れる人間である事を切に願う。それはアイツの敗北でもあるからだ。自分自信に存在する矛盾を是非とも壊して欲しいものだ。
「ふふふ……貴方のお父様が作り上げた最高傑作を壊してこそ私の悲願も達成されますからね。それでは私はこれで……」
こうしてコツン、コツンと坂柳の杖の音がどんどん遠ざかって行く。それを確認した俺は反対の方向に急いで歩を進める。
「さてと……軽井沢は今頃怒ってそうだな。」
「その通り、よく分かってるじゃん清隆。」
俺が進んで来た道の逆方向から軽井沢が頭に青筋を浮かべながらやってきた。必要経費と割り切るしかないな。
「すまない……これはクリスマスプレゼントだ。気に入らなかったら捨ててくれ。」
そう言って俺は買ってきた指輪を渡す。どうやら雪が降り出したらしい。粉雪レベルの大きさだが明日には積もるかもな。
「仕方ないから貰ってあげるけど……え!?指輪!?嘘でしょ!?……そういうことなの?え?」
軽井沢は何やら困惑しているようだがそこまで大袈裟だろうか。
「ええと……雪の降るクリスマスの日にこの木の前で告白したら絶対に成功するって噂のある木の前で、雪の降っているクリスマスの日に、け、け、け、結婚指輪ってそういう事なの……いや、別に私は満更でも無いけどさ……清隆がどうしてもって言うなら……良いけど。」
軽井沢に言われてようやく自分の行いを理解する。確かにクリスマスは特別な日で、男が女に指輪を渡すのは結婚を申し込む時の事もある。加えて雪と目の前の言い伝えのある木……これらは失念していたが、いずれにせよ勘違いに値する状況証拠がこれだけあれば勘違いするのも無理はない、か。
「……それも悪くないのかもしれないな。」
それが叶わない未来だと分かりつつも、オレは静かに呟く。もしもホワイトルームに戻らなくて、軽井沢と二人で生活していたら……そんなキャンバスを思い描けない自分がいるのもまた事実だ。結局ホワイトルームから出てもオレの心は未だにホワイトルームの中に閉じ込められているのかもしれないな。
「え、ぇぇぇぇぇぇえぇ!!!!……まぁ、考えといてあげるって言うか。うん、考えとく、考えとくからぁぁぁぁぁ!!!」
そう言って軽井沢は指輪を左手の薬指に着けてそのまま何処かへと走り去ってしまった。さっきの独り言はどうやら聞かれていたらしい。
「……帰るか。」
オレは何処かにホワイトルームに戻らなくてもいい未来に期待している自分がいる事を自分自身でも意外に思いながら、帰路に着くのだった。
優勢世代は
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本編にガッツリ出して欲しい
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天野兄の偉業を語る程度の登場でいい