今日は4月30日、プールから十数日がたち虐めはどんどん深刻化していった。椅子の中に納豆が入っていたり、靴箱が落書きされていたり、寮の部屋に深夜3時にどこからか電話をかけられたり、偽物のラブレターを突っ込まれたりだ。
平田や櫛田、綾小路や松下、高円寺などごく一部の生徒は虐めには加担こそしないが止める気配もない。2割の傍観と八割のいじめの主犯格で構成されたクラスとなっていた。先生ももちろん傍観である。或いは気付いていないか。
四時限目のチャイムが鳴った。授業は日本史。オレたちDクラスの担任、茶柱先生が授業担当となっている。ちなみに茶柱先生の時だけは何故か表立った虐めはして来ないが、単純に担任に見つかると面倒だからだろう。
普通なら担任の先生の前では猫の皮を被ろうとするものだが、このクラスではそれの当てはまるベクトルが少し違い、生徒たちの高いテンションは止まらない。
虐めも表立っては無いが勿論表立たないものがある。またシューズの中に画鋲と納豆入ってるし·····食物は大事にして欲しいものである、
先生はそんな惨状に何も言わず、無表情を貫いていた。
虐め、気づいてないのだろうか·····
「静かにしろー。今日はちょっとだけ真面目に授業を受けて貰うぞ」
「どういう意味っすか、佐枝ちゃんセンセー」
池の調子に乗った声がクラス中に響く、何故か発言したあとで俺を睨んでくるが八つ当たりである。
虐めを見過ごしてるからなのか、しまいには、そんな舐めているとしか思えない渾名で呼ばれ始めている。
「月末に近いからな、今から小テストを行う。後ろに配ってくれ」
あくまでも事務的に、茶柱先生は一番前の生徒たちにプリントを配っていく。前の生徒から受け取り確認すると、主要五科目の問題が載った、如何にもな小テストだった。
普段は俺への連絡プリントなどゴミ箱に捨てられているのだが、回収するものだとわかっているからなのか、茶柱先生の時だからなのか回された。
「えぇ〜聞いてないよ〜。ずる〜い」佐藤が声をあげる。俺、と言うよりも俺の椅子の下に設置した水がマンパンに入ったバケツを見ているらしい。犯人はコイツだろう。
「今回の小テストはあくまでも今後の参考用だ。成績表には一切反映されることがない。だから安心して取り組め。
ああ……、カンニングだけはするなよ? その場合は問答無用で退学処分とするからな。まあ、そんなバカな行為をする生徒が居るとは思ってないが」
……妙に含みのある言葉である。特に気になるのは、成績には一切反映されるところは無いの『成績には』の部分だ。俺の思い違いでなければ、小テストの成績は成績表に反映されるのが道理のはず。つまり過去問の指標ってことなのだろう。
ただ、今回の小テストは今後の参考用とも茶柱先生は言っていたから、気にすることでもないのか?まぁどうせ0だしこのクラスはゴミで世の中クソだしいいや。
いきなりの小テストに生徒たちはブーイングしていたが、流石に真面目に取り組むことを決意し、俺を皆で睨んでからやがて喧騒は静寂へと収まっていった。だから八つ当たりだっての·····
そのことに内心安堵しながら、オレも問題に目を通す。一科目四問、全二十問、一問あたり五点配当の合計百点満点。
小テストと聞いて身構えていたのだが……思わず脱力する程に簡単だった。受験の時よりも明らかにランクが落ちている。何故か小テストに刺されている画鋲は抜いておく。相変わらず本堂は画鋲が大好きらしい。
しかしそんな思い込みは、最後の問題を目にした途端にガラリと変わった。ラストの三問は桁違いの難易度だったのだ。特に数学の問題は、複雑な式を何個も組まないと解けそうにない。が、前世で何とか解いてるしまぁ大丈夫だろう。
軽く深呼吸。シャープペンシルを握り直す。
ま、前世の受験の時と同様に取り組めば問題はないだろう。
問題の横に書いてある「犯罪者のクズが退学しろ!!」という言葉は消しておこう。
茶柱先生は一応のカンニング防止対策なのか、教室内を巡回して見張っていた。当然、オレの横も通る。
彼女はその時立ち止まった。鋭い、見定めるような視線を感じる。虐めに早く気づいてくれないかな·····
終業のチャイムが鳴るまで、オレはテストの問題文と睨めっこしている振りをしておく。なんか周りから圧を感じるがいつもの事だろう。
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「お前、茶柱にチクっただろ」
「チクってねぇよ」
食堂で須藤や池、山内たちに囲まれ、自販機傍の廊下で座り込まされ脅されていた。
そんな最中、山内がジリジリと距離を詰めてきたのだ。なんとなく嫌な予感がして撤退しようとするが、その先にある自販機とぶつかってしまう。これはカツアゲか?
「ならいいけど·····チクんじゃねぇぞ犯罪者が」
「お前に人権なんてねぇんだからな」
「ケッ!雑魚のくせに」
三馬鹿は捨て台詞を残して帰って行った·····てか須藤いい加減金返してくれねぇかな
こいつらは小テストが出来なかったから俺に憂さ晴らしをしているのだろう。明日とか地獄でしかないな。そう思いながら、俺は重い足取りで寮へと向かうのだった。
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五月最初の授業開始を告げるチャイムが学校中に鳴り響く。
学校など来たくなかったんだが·····今日もしっかりと画鋲黒板消しバケツの3点セットを喰らいながら片付ける、それが終わるのと同時に一年D組担任の茶柱先生が室内に入ってきた。手にはポスターの筒を持っていて、彼女の表情はいつもと同じく……いや、いつも以上に険しい。
それはDクラスの生徒もそうだ。仮に先生が来ようと自分の道を堂々と進んでいたあいつらもまた、厳しさと·····不安に包まれていた。
異様な静寂が場を支配していて、ちょっとの物音も赦されない。そんな張り詰めた空気。虐めがバレたかもしれないと思っているのか数人こちらを睨んでくるが俺はなんも言ってない。
「佐枝ちゃんセンセー! 生理でも止まったんですか?」
そんな空気を断ち切るためか、池が自分の席でおちょくるように問い掛けた。こいつ相変わらずサイテーだな。
彼自身の武器であるコミュニケーション能力を活かそうとしたのだろうが……残念なことに笑い一つすら湧かなかった。むしろ空気は重くなる一方だ。笑いを撮れなかったのが不満なのか池が俺を睨んでくる。八つ当たりだってのに、何度目だよお前
「これより朝のSHRを始める。が、その前に何か聞きたいことがあるはずだ。始める前に受け付けよう。質問がある生徒は挙手するように」
茶柱先生は池のセクハラ発言を大人の余裕で無視し、そんなことを言った。まるで、質問があるのを確信している素振りだ。
実際、半数以上の生徒がおずおずと手を挙げた。
「あの、今朝確認したらポイントが振り込まれてなかったんですけど。毎月一日に支給されるんじゃないんですか? 焦りましたよ、ジュース買えなかったんで……」
「ほう。ポイントが振り込まれていなかったのか。それは大問題だ。本堂以外に振り込まれていない生徒はどれだけ居る?」
面白そうに口を歪ませて嗤わらう茶柱先生に、この場に居る大勢の人間が恐怖を覚えただろう。事実、彼女が現在覗かせている顔は、昨日までのそれとは明らかに逸脱していた。
兎にも角にも、質問されたら答えなくてはならない。先程は半数の人間が手を挙げたが、今度は生徒四十人……いや、高円寺と俺を除く三十八人が手を挙げた。
まさか彼だけ支給されている、なんてことはまずないだろう。高円寺という人間は『自由人』としてクラスに定着している。つまり気分の問題だろう。ちなみに俺はと言うと発言権は愚か手を挙げる権利すら貰えてない。
「そうか、これだけの生徒がポイントを支給されていないのか。·····だが安心しろ、ポイントは毎月一日に振り込まれている。学校側で念のため確認しているが、こちらの不備は一切ない。本堂。席に座れ」
「えっ? で、でも振り込まれてないし……」
気が動転している本堂は、茶柱先生の命令を無視した立ったままの姿勢で山内と顔を見合わせた後、俺を睨む。
だから知らんっての·····
ただそれは、彼らだけじゃない。殆どの生徒が近くの友人と俺を睨んでいた。俺の信用性はゼロである。
皆からすれば先生の言葉を信じるなら、ポイントは振り込まれていることになる。ただ──学生証カードのポイントは昨日から増加されていないのも事実。
だから朝のSHRの時間帯で一斉に振り込まれるものとばかりに思っていたのだが……それはどうやら違うようだ。という事は俺が虐めを訴えたに違いない、と思っているというところだろう。
「──お前らは本当に愚かだな」
唐突に、茶柱先生は教師として失格の罵声を俺たちに浴びせた。けれど誰もそれを指摘できない。
怒り? あるいは悦び? 不気味な気配を携えた彼女に皆はただただ口を半開きにするしかないようだ。1部はまだ俺を睨んでやがる。
「座れ、本堂。仏の顔は三度までだが、私の顔は二度までだ」
「さ、佐枝ちゃん先生……?」
今まで聞いたことがない厳しい口調に呑まれた本堂はしばらく呆然としていたが、本能が見聞色を鍛えすぎて未来を予測したのか、数秒後にはズルッと席に着席する。
着地というか脱力というか·····全力脱力タイムズというか·····オレイカルコスの結界に魂取られたというか·····そんな感じだった。それにしても俺の顔は何度までなんだろうか。
「もう一度だけ言おう。ポイントは確実に振り込まれた。それは間違いない。このクラスだけ忘れられた、などという幻想や可能性も皆無だ。分かったか」
「えぇ、分かったかって言われましても……。な、なぁ?」
本堂は不満げな様子を見せ、クラスメイトに同意を求める。だからこっちを睨むなっての
あそこまで強調されたということは、そろそろ始まるのだろう。地獄の晩餐会。
この一年D組に振り込まれたポイントは原作通りゼロポイントらしい。
「ははは、なるほどねティーチャー。私は理解出来たよ、この謎解きがね」
高円寺が声高に笑う。彼は授業だけは静かに受けている印象があったのだが……今は授業ではないと認識したらしく、入学初日のように両足を机の上に乗せて爪を研ぎ出した。あいつは俺を睨んだりしないからありがたい。
そして親切心なのか、本堂を指さして言った。
「簡単なことだよ本堂ボーイ」
「はあ? っていうか、その『本堂ボーイ』はやめろよ」
本堂の訴えに『自由人』は耳を貸さずに続ける。
「つまりだ、私たちDクラスは1ポイントも支給されていないのさ」
「おいおい、それはないだろ。だって毎月一日に十万ポイント振り込まれるって……」
「そんな言葉を私は一度も耳にしたことは無いね。そうだろう?」
高円寺の言葉は止まらない。教卓で静観の構えを取っていた茶柱先生をも、彼は巻き込んだ。
「態度に問題がありすぎるが·····高円寺の言う通りだ。まったく、これだけヒントを与えた状態で他者に教えられて気付くとは、嘆かわしいものだ。私の見立てでは、自分で気付いたのは……たった数名か·····チエ·····星ノ宮先生の話では天野は学校開始2週間程度で気づいたらしいがな。」
そして茶柱先生の暴言も止まらない。高円寺の態度に問題があると彼女は言ったけれど、俺から言わせてみれば彼女も十分に問題があるように見える。そして俺の方に視線が集まる。頼むから黙ってて欲しかった。今度ゲロ飲み屋先生はお仕置決定である。
彼女が侮辱した大勢の生徒は突然の出来事に脳の処理が追い付かず、呆然としていた。
その直後Bクラスから殺意が飛んで来たような·····まさかな?
落ち着きを保っているのは平田、高円寺……あとは櫛田と堀北か。
「……先生、質問良いでしょうか? 腑に落ちないことが多々あります」
「平田か。自分のポイントを守るため……そういうわけではなさそうだな。あくまでもクラスメイトのために……と。良いだろう、質問を許可する」
「ありがとうございます。……何故ポイントが振り込まれなかったんですか? その情報が開示されなければ、僕たちは誰一人として納得できません」
「平田。聡いお前ならある程度は予想がついているはずだ。違うか?」
「……良いから教えてください。先生、これは僕たち生徒の権利じゃないでしょうか?」
珍しく平田が熱くなっているな。
生徒の問い詰めに教師は嫌な顔せず、ますます唇を三日月型に歪ませる。月光は出てこない。月光を吐くのはゲロ飲み屋先生だけのようだ。
またBクラスから殺意が·····そろそろ辞めておくか·····
茶柱先生は「ククッ」と一度嗤ってから。
「権利か。お前の言う通りだな、それでは答えよう。·····九十八回。そして、三百九十一回。最後に千十二回、この回数がお前たちに分かるか?」
「一体、なんだよ……」
「そんなの聞き覚え無いぜ」
「私も」
「理解不能だわー」
「犯罪者の犯罪歴じゃね」
「それしかねぇよな」
なわけあるか、てめぇらの遅刻とかだろ。
「ふむ、まあ流石に分からないか。なにせ、本人たちに自覚が無いのだから当たり前と言われればそれまでだが。·····遅刻欠席、九十八回。私語や携帯を触った回数三百九十一回。天野を虐めたり暴言を吐いた、睨んだと思われる回数千十二回、ひと月。たったひと月だぞ? 随分と好き勝手にやらかしたものだな。この学校では、クラスの成績がそのままポイントに反映される。それだけのことだ。·····入学式の日、私はお前たちに言ったはずだ。この学校は、実力で生徒を測ると。そしてお前たちは先月、評価ゼロという評価を受けた。ある意味尊敬するよ。」
壊れた機械のように、感情の起伏が見えない淡々とした説明。最後に狂気的な笑みを浮かべ乾いた拍手をする。
この学校に入学してから一ヶ月間。誰もが内心は疑問に思っていたはずだ。そしてその答えが今、紐解かれていく。最悪な形、ではあるが。
十万ポイント。つまり十万円。その巨額をお前たち一年D組は見事にドブに捨てたのだ。俺はって?こいつらからDクラスの一員扱いされてない。
遅かれ早かれ、独自のペースで状況の深刻さを理解させられていく生徒たち。その中で唯一、行動に移す生徒が居た。
堀北だ。机の上にノートを開き、開示された情報を書き込んでいく。動揺は見られない。
「茶柱先生。僕たちはそんな説明をされた覚えはありません……」
「ほう。確かにお前の言う通り、私はそんな説明は一切していない。だが聞くが、お前たちは説明されなければ理解出来ないのか?」
「当たり前です。予め説明さえされていれば遅刻や私語は行わず、ポイントは減点されませんでした」
「それはおかしな話だな。例えばこれが理不尽なものだったらお前のその主張も通るだろう。だがもう一度聞こう。お前ら高校生は、小、中学校で遅刻はするな、私語はするなと言われなかったのか?」
「そ、それは……」
言葉を詰まらせる平田に、茶柱先生はさらに追い打ちを掛ける。
「身に覚えがあるだろう。義務教育の九年間……いや、幼稚園の頃からお前らは嫌になるほど言われたはずだ。高校からは義務教育じゃない、お前たちは自分の意思で当校を志望し、そして合格した。そのことについては素直に称賛しよう。事実当校の倍率はとても高く、狭き門だった。その門を見事に潜り抜けたお前たちは、そんなことすらも分からないのか? 自己責任だ、甘んじて受け入れろ」
「……」
正論だ。茶柱先生の言ったことは正しい。この世に絶対悪があるように、その逆も然りだ。ところで俺の虐めは?
「さらに私はお前たちに聞きたい。お前たちはおよそ一ヶ月前、十万円支給されたことに対して驚いていたな? そう、当然だ。そして私は、あの巨額はお前たちに対する褒美だと答えたな。そしたらお前たちは勝手に来月からも十万円貰えると錯覚した。愚かにも程がある。どうして高校一年生になったばかりの若者に、なんの制約もなしにそんな大金が与えられると思った? 東京都高度育成高等学校は、知っての通り国主導で作られた。その理念は、次世代に活躍する若者を支援するためだ。·····常識で考えろ。何故疑問を疑問のまま放置する?」
「ではせめて、ポイントの増減についての詳細を教えて下さい。今後の参考にします」
「それは出来ない相談だな。人事考課、つまり詳細な査定内容は教えられないことになっている。社会も同様だ。例えばお前がこの学校を卒業して、会社に入社するとしよう。その時の詳しい査定結果を告げるか否かは、その会社が決めることだ。·····しかし、そうだな。ここまで悲惨だとあまりにも憐れだ。私もお前たちが憎くて冷たく対応しているわけじゃない。一つアドバイスをしてやろう」
俺に言わせればそんなオーラじゃないが·····
しかし平田や櫛田は違うようだ。自分がクラスの心の支えとなるべきだと思っているからなのだろうか。茶柱先生のアドバイスとやらに希望を見出すべく、聞く姿勢を取る。
「お前たちが改心して、遅刻や私語を無くし、マイナスポイントをゼロに抑えたとしても、減ることはあっても増えることは無い。つまり来月振り込まれるポイントもゼロだ。だが裏を返せば、どれだけ遅刻や私語をしたとしても関係ない。虐めは過度な場合は停学はあるがこのぐらいなら遅刻や私語と同じ扱いだし、仮に停学になってもモール等への出入りは自由だ、どうだ? 覚えておいて損はないぞ?」
「先生、それは……ッ」
希望から絶望。それを自分の体で体験している彼の心境は、一体どのようなものなのか……。てか俺への虐めは見て見ぬふりをされてるらしい。最悪の担任だな。
一部の生徒が戸惑いの声を上げる。彼らは分かっていない。茶柱先生のありがたいアドバイスのその真意が。
彼女は……いや、学校側は恐らくここで試しているのだ。この先、オレたちがどのような選択をするか。だからこそ敢えて逆効果の説明をし、生徒のやる気を出来るだけ削いでいる。
とても効果的なやり方だ。
人間は実態が不明瞭な希望よりも、目に見える絶望に恐怖し、心折れる。
そしてその絶望はもう、すぐそこまで広がっていた。
SHRの終わりを告げるチャイムが鳴るが、茶柱先生は話を終わらせない。いや、終わらせられない。
「ちなみに今他クラスでも話しているだろうが、お前らが散々言っている天野の件だがあれは国の最高裁も含めて全くの冤罪だと言うことが分かっている。
つまりだ、お前らが犯罪者犯罪者と罵っていたのは普通の人間だったという訳だ。しかも天野は金の無い親に他人がやった犯罪を金目当てで押し付けられている可哀想な人物だったのに、だ。お前らは最低のクズだな。
被害を受けたと言い放っているAクラスの女子から聞いたのかもしれないがお前らのやったことは最低最悪だな。
しかも4月の時点でこのシステムに気付き、教師に確認を行ったのは天野一人だった訳だ。お前達は本当に愚かだな。」
茶柱が地獄のような笑みを浮かべる。クラスメイトは後悔するもの、焦るもの、仕返しに怯えるものなど反応は様々である。何故か堀北はこっちをガン見してくる。
ちなみに俺はと言うとこの1ヶ月で地獄みたいな仕打ちにあい続けた、そのせいか思想は前より過激になった気がする。
「時間を取りすぎてしまったな。これで学校のシステムは理解出来たはずだ。·····これを見ろ」
手にしていた筒から厚手の紙を取り出し、ホワイトボードに磁石で貼り付ける。
生徒たちは茫然自失といった様子でその紙を見ていた。
ここで今日初めて、堀北が懐疑的な声を出す。
「……これは、クラスの成績……?」
堀北の解釈は合っているだろう。
そこにはAクラスからDクラスの名前と、現在所有しているであろうポイントが表示されていた。
オレたちDクラスはもちろんゼロ。Cクラスが590。Bクラスが780。そしてAクラスが──なんと驚くことに960。1000ポイントが十万円相当に値する訳だが、原作より他クラスが高いのは俺の影響か原作改変か·····わからんところである。
「綾小路くん。おかしいと思わない?」
「同意だな。綺麗にも程がある」
近くの席から聞こえてくる会話、こいつらは気づいたらしい。
「学校側はお前たちの行動に一切文句は言わない。事実、ポイントの使用方法について制限は掛けなかったし、自由に使えとも言っただろ」
「こんなのってあんまりっすよ! これじゃ生活出来ませんって!」
池がクラスの意見を纏めてそう叫んだ。
ポイントを全て消費した生徒に至っては、阿鼻叫喚と化していた。俺の友人はいないし揃いも揃って虐めに加担か傍観してたヤツらだ。ざまぁみろとしか思えなかった。俺の心も荒んでしまったかもな。
噂だけでここまで虐められるとは正直思って見なかったしな。
「良く見ろバカ共。それはお前たちだけだ。現に、他のクラスは問題なくポイントが残っているだろ。Dクラスの次に下なのはCクラスだが、それでも一ヶ月過ごすには十分すぎる大金だ」
「先生、ちょっとおかしいですよ! なんでオレらだけ……」
「だから自業自得だと言っている……と言いたいところだが、中々の着眼点だな池。そう、お前の言う通り……Dクラスだけがゼロポイントだ」
「どうして僕たちだけ、こんなにも歴然とした差になっているんですか?」
平田の問いかけに、茶柱先生は満足そうに一度首肯する。
トップのAクラスとの差は960ポイント。あまりにもおかしい。
「須藤。お前は入学初日、上級生に絡まれたな?」
「あ? 何でンなことを知ってんだよ」
「良いから答えろ」
「……確かにムカつく奴らに絡まれたけどよ……」
茶柱先生がそのことを知っているのは、やはりコンビニの監視カメラから送られてきた映像によってだろう。あるいは、あの時何もしなかった店員が学校側に直接報告したかのどちらかだ。
「良かったな須藤。もしあいつらを殴りでもしていたら停学だったぞ」
「……停学だと……?」
「ああ、そうだ。あいつらはそれが狙いだったのだろうが·····後でコンビニの店員に謝罪することだな。」
「……それはするがよ。その話がどう繋がんだよ」
「上級生に言われなかったか? 『不良品』だとな」
「ああ? それが何だよ!」
須藤の苛立ちを無視して、茶柱先生は話の対象を彼からあいつらDクラス全体に向けた。俺はもうこいつらを仲間だと思いたくない。
「そう、須藤は『不良品』だと言われた。ただここで注釈するが、『不良品』はお前たち全員だ。──ここまで言えば、分かるだろう? お前たちがどうしてDクラスに配属されたのかがな」
「俺たちが『不良品』? Dクラスに選ばれた理由? 知らねぇよ、適当じゃねえの?」「普通クラス分けってそうだよね?」
「冤罪野郎のせいじゃねぇの」
あだ名は冤罪野郎に変わったらしい。
多分俺は冤罪事件のせいでDクラスなのだろう。
「当校では優秀な生徒から順にAクラスに配属している。逆に不出来な生徒はDクラスだ。
ま、この制度は近年各高校でも内密ながら実施されている所もあるし、大手塾でもそうだろう。つまりこのクラスは、最悪の『不良品』が集まる最後の砦というわけだ。
そしてお前たちは·····この一ヶ月でそれを証明してみせた。
ちなみに天野だけは冤罪のせいでDクラスになったが、予め損害賠償として他のクラスに移れるポイントに加えて虐めを受けるであろう分の補償額を用意してあるから他のクラスに移れるぞ。わかってると思うがカツアゲは即退学だぞ?」
「……ッ」
堀北が大きく顔を強張こわばらせた。彼女が自分のことを優秀だと自負しているのは誰が見ても明らかだろう。。
そしてそのプライドはあっさりと打ち砕かれた。
「しかし同時に感心もした。当校が創立されてから、たったの一ヶ月で十万ポイントを根こそぎなくしたのはお前たちが初めてだぞ。おめでとう、お前たちは図らずも偉業を達成したわけだ。おめでとう。」
わざとらしく手を叩く茶柱先生。乾いた拍手が静寂を纏うクラスに鳴り響く。
それを見た堀北が、それはもう恐ろしい形相で先生を睨む。とても怖い。1部の生徒は俺を睨む、大して怖くない。
「だが安心しろ。流石に生徒を死なせるわけにもいかないからな。寮はタダで使えるし、コンビニや自販機、食堂には無料商品がある。それを使えば良い。それかもしくは、ポイントを他の生徒から貰う方法もあるぞ?」
慰めにもならない皮肉だな。
確かに人としての生活は出来るだろうが……今どきの高校生がそんな節操な暮らしに満足出来るはずがない。まるで監獄である。散々俺の事を犯罪者呼ばわりしてたヤツらが監獄みたいな生活とは最高に皮肉が聞いている。
それにポイントを貰えば良いと簡単に言うが、この状況で誰が讓渡してくれるというのか。
「……良く理解したぜ。これから俺たちは、他のクラスの奴らからバカにされるってことか」
ガンッ! 机を足で蹴ったのは須藤だった。うるさいから抑えて欲しい。
けれど彼の気持ちも分からなくはない。不名誉な偉業を達成したお前達Dクラスが他所のクラスから馬鹿にされるのは必然だろう。
「なんだ須藤。お前も体裁は気にするんだな。だったら上のクラスに昇進出来るよう頑張ってくれ」
「あ?」
「クラスのポイントはそのままクラスのランクに反映される、というわけだ。例えばお前たちDクラスが600ポイント以上残していたらCクラスに。有り得ないとは思うが、仮に970ポイント以上残していたら一気にAクラスだ。どうだ、やる気が出るだろう」
言ってる張本人がやる気を起こさせない声で言っているのだが……。それにしても最高に皮肉が利いてるな
「次に残念な知らせがある。·····これを見ろ」
茶柱先生はそう言いながら、新たな紙をホワイトボードに貼り付けた。クラス全員の名前と、その横には数字が表示されていた。
「これは以前行われた小テストの結果だ。見ろ、この惨憺さんたんたる結果を。お前たち、中学時代は何をしていた? いやはや、本当、笑いが込み上げてくる。」
嗤われても文句が言えない数字の羅列。
一部の上位を除き、大半の生徒は六十点前後の点数しか取れていない。
一番最下層に位置するのは、阿保木の三点。誰だか知らんがやべぇな……。次点で須藤の十四点、池の二十四点と続く。平均点は……六十五点前後といったところか。
「良かったな。これが成績には反映されない小テストで。もし本番だったら七人はこのクラスから退学だったぞ」
「ちょっ、待って下さい! え、退学って……退学ってことですか!?」
「退学を退学とも理解出来ないぐらい冷静さを欠いているようだがその解釈で間違いない。·····ああ、そう言えば言ってなかったか。これから定期テストで一科目でも赤点を取ったら退学して貰うことになる。注意するように。」
「「「はああああああああ──!?」」」
七人の赤点の生徒が驚愕の悲鳴を上げた。
三十二点の本堂上で、茶柱先生はわざとらしく赤線を引く。つまり彼以下の七人は退学になっていたのか。
となると、平均点は六十四点か。
「ふっざけんなよ佐枝ちゃんセンセー! 退学なんて冗談じゃ……!」
「私に言われても困る。それに安心しろ池。今回はその通達も込めて成績には反映されてないだろ。ここから勉強すれば良いだけのことだ」
「んな……!?」
「ティーチャーの言う通り、このクラスには愚か者が多いようだねえ」
口をパクパクとする池に、高円寺が尊大にもそう煽った。足を机に乗せ、爪切りをしている、切った爪が風に飛ばされて隣の篠原はすごく嫌そうだ。
「なんだと高円寺! お前だってどうせ赤点組だろが!」
「フッ。君の目は節穴かな池ボーイ。よく見たまえ。ああ、無駄な労力を減らすため、上から見るが良い」
「はあ? ……えっ、マジかよ!」
高円寺六助の名前は、堂々の二位に名を載せていた。「バカキャラだと思っていたのに……!」と悔しがる池たち七人だが、そうでもない。
彼は授業だけは真面目に受けていた。非常識だが変なとこで常識はあるらしい、
高円寺は常に微笑む。まるで自分こそ絶対だと言わんかのように。
「それからもう一つ付け加えよう。お前たちがこの学校を志望したのは、高い進学率、就職率を誇る噂を聞いたからだろう。事実、その噂は間違っていない。そして当校は、生徒が望む未来を叶えると、そう謳っている。だが……世の中そんなに上手くいくはずがない。·····Aクラスだけが、その恩恵を得られる。それ以外の生徒の将来は確約出来ないとだけ、言っておこう。もちろん、人間として必要最低限のことはする。ただ、それだけだ。あとは自分でやってくれ」
「先生! そんな話は聞いていません!」
幸村が茶柱先生に苦情を訴える。彼は高円寺より2点下で4位だ。
「みっともないねぇ。幸村ボーイ、これは私のありがたいアドバイスだが、男が慌てふためくモノほど惨めなものは無い」
「……!? お前はDクラスに割り当てられて悔しくないのかよ!」
「何を悔しがる必要があるんだい? 私は私のことを最も理解している。学校側が私のポテンシャルを測れなかった、それだけのこと。仮に学校側が私に退学しろと言うのなら、私は喜んで退学しよう。その後泣きついてくるのは百パーセント学校側だからね」
唯我独尊ここに極まり、だな。
幸村は高円寺の言葉に食い下がるが、『自由人』の前では為す術もなかった。
だがおそらく大半の生徒も学力や運動神経だけでないと把握しているのだろう。
幸村からすれば頭の良さは今回の小テストで十分発揮している、何故なら彼の得点は九十点。
テストの最後の三問は、普通の高校一年生では解けない難問だった。一問各五点配当だったあのテストで九十点だということは、一問は解いてみせたことになる。
また、高円寺は学力、運動能力の高さは学年でもトップクラスだろう。
それに、須藤。確かに彼は学力の面では『バカ』の蔑称が付けられるだろう。けれど、こと運動能力においては高円寺と対抗出来る程だ。特にバスケットボールに関しては才能があり、ここ最近は一軍に混じって練習もしているらしい。入学してたった一ヶ月でこれは凄まじいことだ。
さらに堀北。才色兼備の女性であることは間違いない。
他にも櫛田や平田も有能だろう。
それらを考慮するに、恐らくDクラスの生徒は何かしらの欠陥を持っているのだ。だからこそ『不良品』となってしまう。一部原作でもわからんかったやつもいるがまぁいいや。
「浮かれた気分は払拭されたようでなによりだ。それだけでこの茶番劇にも意味はあったのだろうな。
中間テストまで残り三週間。勉強するもしないも自由だ。たださっきも言ったが、赤点を取ったら問答無用で退学処分なのでそのつもりで。
赤点を回避したければ、必死に勉強するんだな。安心しろ。お前たち全員が赤点を回避する方法はあると、私は確信している。それではSHRは終わりだ。好きに過ごすが良い。」
茶柱先生はそう言って、教室を出て行った。扉の閉会音だけが響き、重い空気が流れ、言葉を発せない。
無理もない、全員が全員、この過酷すぎる状況と向かい合わなくてはならないのだから。俺以外は
取り敢えず一時限目の用意をしようと思い立ったところで、皆の目線がこっちに向いた。
·····逃げよう。
俺は1時間目の担当の先生に休む事を告げ、寮に逃げるのだった。
Dクラスを
-
許すな!
-
許してあげよう