八百万の試練
綿白神への訴えの裁判の日程を追って伝えるという話になってから2日、三学期の中でももう終わり近く、普通の学校であれば2年生へと進学し、新しいクラスで友達と同じになったり離れたりし、一喜一憂するのだろう。普通の学校ならば、だが。
この学校は普通では無い。この1年間、Aクラスから二人、我らが現Bクラスから一人、そしてDクラスから八名もの退学者が出ている。そして今年『学校側』がまだ一つ特別試験を残している。この特別試験が当然退学する可能性のある何かしらを含んでいるのは火を見るより明らかである。
ちなみに種子島は学校に来ていない。話を聞こうにも話せない、という訳だ。追跡を頼んだひより達も撒かれたらしい。撒いたという時点で既に怪しさ満載だが、このタイミングなのがどうもブラフ臭いようにも感じてしまう。まぁこちらはどうせ綿白神の部下でスパイでしたとかそんな感じだろう。それよりも特別試験である。
果たして原作通りかどうかも今のこの学校では分からない。そろそろ通達があるとは思うが.......。そんな事を考えていると扉を開けて三上先生が入って来た。左手に持った貼り紙を丸めたようなものを見て、俺は今日が通達の日である事を察する。これならば事前に準備しておいた『契約』も役に立ちそうだな。
「さて、今日は諸君に二つの話がある。一つ目だが.......今年度は現状、ずば抜けて『過去最大』の退学者を出す結果となっている。その為来年度、それを補う為の『措置』が施される。詳しい事は言えないが頭の片隅にでも置いといて欲しい。」
そういい三上先生が俺の方に一瞥をして来た。俺に関係がある.......のだろうか?まぁDクラスを退学させまくってるので関係はある.......のか?
そして来年度、つまり2年次から.......となるともしや『革命』に関係してくる何かしらか?現状では手札が少な過ぎて分からないな。一先ず後だ。
「そして二つ目だが.......本年度最後の特別試験を行う事になった。」
「どんな特別試験だろうとぶっ潰してやりますよ!そうだろ!お前ら!」
「「おぉ!!」」
特別試験に対しての言葉が出ても物怖じ一つ見せずに石崎がクラスを鼓舞し、引っ張る姿勢を見せる。この一年間、うちのクラスのメンバーはこのクラスの成長が感じ取られるいいワンシーンだな。
「はぁぁぁぁぁぁ!!!ふざけないでよ!!ゴミ北!」
残念ながら隣のクラスは一切の成長が見られない。今のは篠原かな?キレてる相手は堀北らしいが.......コイツらこの1年間何やってたの?
「ゴホンッ.......!!気を取り直して、今回の特別試験だが、この一年間を締めくくる最後の特別試験である。今回の特別試験のテーマはその為『総合力』だ。総合力、つまり知力、体力、学力、或いは運等、お前たちの持つ様々なポテンシャルを発揮する必要があるだろう。
私は君達の事は詳しく分からないが、それでも曲りなりにもこの実力史上主義の高校で一年間生き延びてきたんだ。それに値する力はあるように私は思っている。
さて、今年度最後の試験は『選抜種目総合試験』というものだ。ルールは順次説明していくが.......まずは、ルールに従って対決クラスを決めて行われることになっている。」
そういいながら三上先生は左手の紙をホワイトボードに貼るが、文面だけでは未だに理解の追いついていない生徒も多いようだ。三上先生もそれを感じ取ったのか、或いは想定通りの反応だったのか持ってきたカード2種類を生徒に見せる。マジシャンみたいなもち方してるな.......。
「それでは分かりやすくするため、これらの白いカードと黄色のカードを用いて説明していく。」
白いカードは14枚、何も書いていない白紙だった。そして同じ白でも何やら王冠マークが着いた紙が1枚ある。それに対して黄色の紙は39枚、それも俺達の名前が書かれている。諸伏の分がないがおそらく退学した為だろう。
「まずは白い方のカードから説明しよう。ここには、お前たちが話し合いをし、好きに決めた『種目』を1枚に着き、1個書き込んでいく。この種目は、あまりにマイナーであったりしない限りは極論何でもいい。
スポーツ、テスト、ゲーム、クイズなど何でもいい。ただし、マイナー過ぎたり、設備の用意が困難だと判断される場合は却下とする。また、個人の主観により勝敗が別れるものも却下だ。
あくまでもはっきり結果が出るものに限定される。また、勝敗のつけ方やルールなども決めて構わない。だが、しかしながら引き分けは許可されない。必ず白黒つけられるようなルールでなければならない。
そしてこの王冠の着いた紙は他の紙とは少々扱いが異なるが.......これは後で説明しよう。」
原作より物量が増えてしまった.......やる種目は増えないといいが.......長期戦になりそうだな。
「そしてお前達には種目以外にも『司令塔』という役割を1人用意しなければならない。
司令塔はある特定の場合を除き、種目に直接参加はできないが、大人数を束ね臨機応変な対応が求められたり、『介入』と呼ばれる、手助けをする事が出来る。こちらも各々で決めてもらい、白い紙に書いて提出して貰う。
もう既に皆わかっていると思うが、司令塔は重要な役割だ。例えば解けない問題を解いたりなどが出来る、1度だけ代わりに代役として出場して貰う、のようにな。これになるメリットは勝利時にポイントがもらえること。デメリットはポイントが減る事と.......通算勝利数が勝負する相手のクラスより下の場合は退学してもらう。
詳しくはルールを纏めた冊子を後で配布するのでそちらを読んで欲しい。」
退学は恐らくプライベートポイントで残れるのでウチは問題無い。だが.......問題はそこでは無い、か。
「そして決めてもらう種目は14+1種類だが、試験当日の3日前ににその内の7種目を『本命』として提出してもらう。つまり、相手のクラスの7つと自クラスの7つ、合わせて14種目の中から勝負する種目は選ばれる、という事だ。当日はこの中から9種目と、この王冠の紙2枚の計11種目で行う。」
残りの7つはブラフなのだが.......あの王冠の紙は何者だ?あの紙のルール次第で話は大きく変わりそうだな。
「11種目の内、途中で勝敗がついたとしても最後の1種目まで争われる。クラスポイントの変動にかかわってくるからだ。つまり、勝敗が確定しようとも競い合わねばならない。14種目の受け付けは今から2週間いっぱいが最終受付になる。これを過ぎると学校側が適当に作ったものを割り当てることになる。尤も、そんな失敗をする事は無いと思うが……念のためにも言っておく。」
そんなことはどうでもいい、さっさと王冠の紙について説明しろ。
「また、同一クラス内では種目が同じものは2つ登録できない。例えるならば2点先取のサッカーを種目にしていれば、PKルールのサッカーは登録できない、という事になる。そして1度決めた種目は取り消せない。慎重に選ぶことが要求されるだろう。
また、選出するメンバーを選ぶ際は、一部を除きクラスのメンバーの出場回数をある程度合わせる為に、出場回数が少ない生徒から出してもらう事になるが.......今回は余りにもDクラスのみ人数に偏りがあるので、特別に各クラスからDクラスの残り人数である32名を選抜し、そのメンバーだけで戦ってもらう。」
要は足切りか、こっちとしては下が酷いので追い風であるが.......Dクラスは足切り不可能なようだ。
「また、司令塔になった生徒には今日の放課後、多目的室に集まってもらい、くじ引きで選ばれた1人にクラスを選んでもらうことになる。くじに勝った時にどのクラスを選ぶのか、クラス全員でよく相談して決めておくように。」
Aクラス一択である。異論は言わせない。
「また、この試験は一つの種目で勝利する度に対戦相手からクラスポイントを50ポイント奪う事が出来る。つまりそのクラスと100ポイントの差を縮める、或いは広げられる訳だ。また、最終的に総合的に勝利数の多いクラスに学校から200クラスポイントを配布する。
そして最後にだが.......この王冠のカードについてだ。これは必ず1VS1で行われる種目にしてもらう必要があり、この1というのは、互いのクラスの司令塔にやってもらう。内容は各々で考えてもいいが、この王冠のカードはどちらのものも強制で採用される為、手堅いものを選んでおくといいだろう。
さて、これが詳しい要項だ、質問があれば随時来るように、これで説明は以上だ。」
俺は配られてきた要項を見る。
要項の内容を端的に纏めるとこうだ。
・各クラスは14+1種目を選び出す。その際、マイナー過ぎるもの、勝敗のつかないもの、設備が大掛かりなもの、個人の主観により決着をつけるものは不可能。
・王冠のカードは必ず採用されて、司令塔同士で1VS1で行われる。
・選んだ残りの14種類の内、本命は7種目。残りの7種目はブラフとなる。
・途中で勝敗がはっきりしても、試験は最後まで続行。
・1回につきクラスポイント50が負けた側から勝った側に渡される(実質100ポイント差が着く。)
・同一クラス内で同じ種目は2つ登録できない。
・メンバーは極力均一に使用する、ただし32人を選抜とする。
・司令塔が存在し、この試験の全てに関与できる。この介入方法もルールとして定める事が出来る。
・司令塔は勝てればポイントを得るが、勝負するクラスに負けると退学。(クラスポイントのマイナスは発生しない。)
・勝負するクラスは司令塔がくじ引きで決める。
・種目、司令塔、いずれも選べなかった場合は学校側がランダムに指名する。
・マイナー過ぎるのはダメ。
・基本的なルールには従おう。
ちなみに一応だが現在のクラスポイントに関しては、
Aクラス1681ポイント▶1750ポイント
Cクラス(元Bクラス)1504ポイント▶1600ポイント
Bクラス(元Cクラス)1566ポイント▶1650ポイント
Dクラス234ポイント▶300ポイント
となっている。なんだか妙に綺麗に揃った事に俺は気味悪さを感じているが.......これも革命の下準備なのか?分からんなぁ.......。俺は今回の試験でプライベートポイントを使ってある『要望』を星ノ宮先生に送っておく。プライベートポイントは.......50万か.......割とゴッソリ取られたなぁ.......。
他のルールは細かい所だと、
・試験当日は多目的室にて司令塔が種目進行を行う。
・練習含めて、学校内にある施設は大半は使えるが、例外はある。(他クラス・他学年の教室等、他のクラスと鉢合わせるもの、職員室など生徒が立ち入れない場所。)
・種目に参加する人数は交代要員を除き申請する10種目で全て違っていなければならない
・各生徒が出場できる種目は原則1つまでだが、クラス全員が種目に参加した場合は2回目以降の参加を許可する。
・司令塔は全ての種目に関与する権限を持つ。どのように関与するかは種目を決めるクラスが定め、学校側が承認して初めて採用される。
まぁこんな所か、それにしても.......これは司令塔をやれる人間は少ないのでは無いか.......?俺はさておき.......Dクラスは堀北がいるにしても、他はきついだろうな。幸いにも種子島はいない。今のうちにメンバーを確約させて種子島を入れないようにしたい所だな。
「皆、聞いてくれ、取り敢えず司令塔は俺がやる。問題はないか?」
「てかそれしか無いだろ、天野さん.....天野がやらなきゃ誰かしらが退学するんだぞ?退学したいヤツなんかいるのかよ?」
俺の意見に石崎が上手いこと合わせてくれる。こういう所で気が利くのは彼の長所だろう。
「おい待てよ石崎、確かに退学したい奴は居ないだろうが、退学するべき奴はいるんじゃねぇのか?」
だが、時任が待ったをかける。どうせ相手は龍園だろう、黙ってて欲しい所だ。
「もし居たとして.....それが何に繋がるって言うんだよ?」
どうやら石崎の方は理解が追いついて居ないらしい。頭を傾げている。とはいえ言葉の意味を理解した生徒が大半のようで、中には脅えて居る者もいる。
「そいつを全員で優待者に仕立てあげるってのはどうだ?そうすれば勝てたらラッキー、負けてもクラスから不要な生徒を処分するからどっちに転がってもメリットになるだろ。」
マズイ流れだな.....万が一にもこれを可決させるわけには行かない。
「時任、それは初めから勝負を捨てているようなものだと俺は思う。まだ何も決まって無いうちから後手後手に回るのは良くないだろ。」
「それはそうなんだが.....とにかく、こういう考え方もあるって事だけ覚えて置いてくれ。」
時任の内心としては龍園を推薦したかったが、実力を認めようにもプライドが邪魔して諦めた、という所か。
「分かっている.....その上で今回は俺が司令塔をやる。理由は単純、今回はAクラスをぶっ潰しに行くからだ。」
Aクラス、という言葉にクラス中が沸き立つ。中にはブーイングも混ざっているが....。
「Aクラス?それこそ初めから勝ちを捨ててるんじゃないのか?」
最もな時任の意見だが、ここを押し通す訳には行かない。
「いや、俺はAクラスと戦うべきだと考えている。勿論Dクラスとやり合った方が勝ちは拾えるだろうが、それでもAクラスとの差は縮まりつつある。ここで確実に叩いておきたいと思う。今しかチャンスは無いんだ。」
「だが、Aクラスと現Cクラスがやり合えばポイントはある程度拮抗するはずだ。違うか?」
「その通りだ.....だが、既に対Aクラス用の戦術は思いついているし、その為に現Cクラスとは契約を結んできた。俺は今回の試験、Aクラスとの力の差を見極めるいい試験だと考えているし、契約の報酬のプライベートポイントも得られて一石二鳥な筈だ。」
俺はそういい契約書を時任に見せる。
契約書
1.木山誠の所属するクラスは天野聖に毎月一日に50万プライベートポイントを贈呈する。
2.この契約はいついかなる場合でも変更出来ない。
この話でポイントなのはあくまでも『Bクラス』では無い事だ。木山は恐らくは革命について知らないのだろう。大喜びで結んでくれた。
「これだと.....天野が得をするだけ.....いや、負けた場合は天野のがプロテクトポイントを失うからある意味釣り合っているのか。」
「そうだな、加えて、俺はこのクラスならAクラスに勝てると思っているんだが.....時任はそうは思わないのか?」
「.....正直勝てるかもしれないが、Dクラスとやり合ったクラスがAクラスを取る事になるだろうと危惧している。」
最もな事だ。大半の人間も同じ思考だろう。
「いや、そんな事もないと思うぞ。今回のDクラスは.....一味違うらしいからな。」
ハッタリである。多分そんなことは無い。まぁ綾小路を使えばどうとでもなるしいいんだこれぐらい、うん。
「そうなのか.....それならば俺から言うことはもう何も無いな。メンバーの選定はどうするんだ?」
何やら納得してくれたらしい。よし、話を逸らそう。メンバーの選定は.....正直大体決まっているんだけどな。
取り敢えずうちは吉田と諸伏が居ないので6人抜けばいい計算になるな。
「取り敢えず6人メンバーから外す事になるが、種子島と山下は先ず外すだろ。」
裏切り者候補なんかチームに入れると帰って結束力が鈍る。ついでに2人とも使えないし。後は単純にスペックで選ぶ感じになるだろうな。
「んであと抜くのは.....野村、山脇、西野、漆原かな。残りの32人が今回のメンバーだ。メンバーから外れた6人には、Aクラスを付けて情報を得てきてもらう。頼んだぞ。」
種子島と山下を除く、残りの4人は頷いてくれたが.....まぁ山下はゴミだな。
「それじゃ各自何かしら今回の試験で使えそうないい感じの種目を宿題として考えてきてくれ。今日はこれで解散だ。」
そのまま生徒達は帰路に着いた。明日は裁判、そしてくじ引きが待っている。俺はその対策を考えながら寮へと戻るのだった。
冤罪が無かった世界線がifルートとして
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みたい
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みたくない