五月に突入してから、早くも一週間が経とうとしていた。
池や山内は黙って授業を受けている。須藤は学校には来ているものの居眠りを続行·····するかと思いきや、授業を受ける姿勢を取っていた。
あれから謝罪しに来ようとした人間は何人かはいたが避けた動きを数日していたら誰も近寄れなくなったらしい。表立った悪口も三馬鹿と阿保木、無向水ぐらいである。
『成績には一切反映されない』
あの茶柱先生の言葉に何人気づけているだろう·····
あの時オレたち一年生が小テストに取り組んだ理由は、今後の参考用だと先生に伝えられた。その意味が我々生徒にとってだと何人気付けるだろつか。
何故かDクラスの三バカトリオは一応、やる気を見せている。とはいえ、元々の学力が低い三人が今更真面目に授業を受けたところで内容は頭にこれっぽっちも入っておらず、とても退屈そうだ。
実を言うと、オレもちょっと眠い。昨日は夜遅くまでチェスを練習していたから睡眠不足なのだ。
幸いこれを乗り越えれば昼休みに入る。あと少し、あと少しの辛抱なんだ·····そう思いながらポケットからメンティアのパワースイート味を取り出す。
パワースイート味は甘すぎて目が覚めるなかなか珍しい味だ。数あるメンティアシリーズの中でも一番のお気に入りだ。
これととろけるカフェオレは譲れない。
各々が昼食のために席を立とうとしたその時だ。登壇した平田がクラス全体を見渡しながら口を開いた。
「皆、茶柱先生の言葉を覚えているよね。今日からテスト週間に入る。この中間テストでポイントが振り込まれる可能性が高いことは、皆納得してくれていると思う。けどその前に、まずは赤点を出さないことが先決だ。赤点者は即退学、そんなことは許してはならないと思う」
彼の判断は何一つ間違っていない。
「この前の小テストの点数が高かった上位数人で、勉強会を開くことにしたんだ。もちろん、強制はしない。けれど不安のある人は是非参加して欲しい」
平田はそこで、優しげな瞳を須藤に向ける。なるほど、今の台詞は彼に向けたのか。
彼の狙いは主に三つ。
一つ目は赤点者を出さないこと。
二つ目は一方的にとはいえ対立している生徒……特に須藤との仲を深めること。
三つ目はクラス全体として勉強会を開くことで、纏まりが皆無のDクラスの団結力を上げること。とはいえこれは多分、平田はそこまで期待していない。
平田と須藤の視線が交錯する。
「……ちっ」
が、すぐに須藤が逸らした。
彼とこのクラスで最も深い付き合いをしているだろうオレが断言するが、彼はプライドが非常に高い。
今更平田と手を取り合うことを、彼は嫌がるだろう。
「今日の五時から二時間、テスト当日まで毎日開く予定だ。途中参加も大歓迎だよ。逆に大丈夫だと判断したら抜けても構わない。僕からは以上だ。ごめんね、昼休みの時間を削っちゃって」
本当に大したものだ。
彼の演説が終わるや否や、赤点候補組の生徒は真っ先に飛び付く。他の生徒もぞろぞろと集まりつつあった。
だが、三バカトリオ。池、山内、そして須藤の三人は参加しないようだ。須藤以外の二人は少し迷っているみたいだったが……須藤程とはいえ、彼らも平田とは距離があるからな。
だから縋り付けないのだろう。哀れだ。このままだと退学と個人的には思うが、まあ、退学してくれたらそれに越したことはない。
兎にも角にも、Dクラスは最初の試練を一応は臨むことになりそうだ。
ちなみに俺はと言うと、皆も気まずいのかどう接していいか分からないから呼べないようだ。ちなみに小テストは全教科俺が満点を取り1位だったので赤点の心配はおそらくないだろう。
とはいえ、万が一という事もある。取り敢えず過去問を取りに動くか·····
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「あれ·····例の冤罪の子じゃない·····可哀想に冤罪でDクラスだってさ·····」
「学校側がプライベートポイント出してるらしいけど可哀想すぎでしょ·····」
食堂にきたが相変わらず周りにボソボソ言われているようだ。嫌悪の視線から同情の視線に変わったしまぁいいとしよう。
俺は近くの山菜定食を食べている先輩と思われる人の元に向かった。
「先輩、Dクラスですよね·····山菜定食美味しいですか?」
目の前の先輩は黒髪ロングストレートの大和撫子という言葉がに合いそうな人だ。たまにこの学校は女子を顔面偏差値で入れてるんじゃないかと本気で思う。
「えっと·····Cクラスだけど·····何かな?」
先輩は気まずそうに頬をかく。掴みから俺は大失敗である。
「Cクラスもポイントが無いんですか?」
「うん·····2年生はもうAクラスとそれ以外のクラスはだいぶ生活に差ができちゃってるからね、Bクラスはまだしも、CクラスとDクラスは大した差はないかな、あ、私は風谷 緑、よろしくね」
2年Cクラスだったらしい。ドヤ顔でDクラスですよねとか言って外すとか恥ずかしすぎる、原作知識だけで調子に乗るのは良くないなやっぱり
「あぁ·····1年Dクラスの天野聖です。単刀直入にお伺いします。先輩、過去問売って貰えませんか?」
俺は声のボリュームを落としお伺いを立てる。俺の事は噂になってるみたいだし、高額な金を請求されるかもしれない。今更ながら一人で来たのは失敗だったような気もするが、他に誰か連れてこれる訳でもないし仕方ないのかもしれない。
「セイント·····ってことはDクラスの例の子だよね?」
冤罪事件はどうやら先輩間にも広がっているらしいが、詳細までは知らないし知らないフリをしておこう。
「例の子ってどーゆー事ですか?」
「冤罪のせいでDクラスに落とされて、しかも虐められて1ヶ月たってやっと冤罪を教えてもらったけどDクラスからまだ逆恨みみたいなので虐められてるって聞いてるよ。金のカツアゲや暴力は勿論、ありとあらゆる虐めをされてるんでしょ?」
「え?まぁ間違っては無い·····のか?」
言われてみれば須藤からは未だ金は帰ってきてないし、暴力もまぁ受けてる。逆恨みも三馬鹿辺りにはされていそうだが·····まぁいいや。
「やっぱそうだよね、小テスト付きで過去問はあげるけどそんな子からお金なんか取れないよ、はい、これ私の連絡先ね」
「え?いいんですか?」
この人達極貧生活送ってるのにこれでいいのか·····?
「いいのいいの!これから大変だと思うけど頑張ってね!!」
「は、はぁ·····」
こうして俺は運良く美少女先輩の連絡先と過去問を手に入れる事に成功するのだった。まさか日頃のイジメで得をするとは思わなかったな。それにしても
「先輩とご飯食べてるぞ」
「やっぱり冤罪のせいで友達いないんだよ·····可哀想に」
「それにしてもDクラスは最低最悪のクラスだな」
目線があちこちから来て飯すらゆっくり食えないのだけは辞めて欲しい。
俺は逃げるように食堂を出ていった。
Dクラスを
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許すな!
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許してあげよう