歌姫の騎士   作:清涼みかん

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※ネタバレ要素がありますので、本編及びフィルムレッドを見てない人はブラウザバックをオススメします。


親子と驚愕

『お前らなんて消えてしまえばいいの!』

 

……なんだ?

 

『何が⬛︎⬛︎だ!ここから居なくなれ!』

 

……なんで怒ってるの?

 

『お前らのせいで…!!どう責任を取るつもりだ!』

 

……なんで泣いてるの?

 

『お前さえ居なければ!私がこんなに⬛︎⬛︎することなんてなかったのに!』

 

……なんで憎まれるの?

 

無気力にふわふわと浮く感覚に身を預けながら、私はノイズが走る度に目の前に広がる人々の憎悪に歪んだ顔で罵詈雑言を吐かれる。

 

1部だけ聞こえない。それが何を示してるのかを考えられるほど、思考は回っていなかった。

 

長い映像が途切れると、次にたっていたのは見覚えのある雨が降るステージの上だった。……見間違えるはずのないここは“エレジア”だ。燃やし尽くされ、破壊された私の第2の故郷。

 

懐かしく思っていると、背中がゾクッと跳ねる。恐る恐る後ろを振り返ると、そこには眠りの世界に入った幾人もの人達がいた。

 

「な、に……これ…」

 

ジリジリと後ろへ下がり、ドンと壁にぶつかるとそのままズルズルと座り込んでしまう。感じる雨の冷たさが薄いから夢ではある……だが、“夢ではないほど”現実味を帯びていた。

 

まるで分からない現状に呆然としていると、ステージの横からカゴを持った人が歩いてきた。その姿を見て、私は再度驚愕に襲われる。

 

「ウタ……?」

 

「あれ!?なんで寝てないの?他のみんなは全員“新時代”へ連れていったのに……」

 

そう言いながら彼女は歌を歌った。曲の名前は『新時代』。とある配信の時にピンと来てその場で作り上げた歌だ。私が何度も何度もヘビロテさせられたので聞き間違えるはずがない。

 

優雅に1曲を歌い終えて再度私を見たウタは、目を点にした。

 

「なんで眠らないの?」

 

「えっと……もう眠ってるから?」

 

「なにそれ、新時代にいけないじゃん」

 

目の前にいるウタは、私の知っているウタじゃなかった。いつもの天真爛漫な笑顔ではなく、少しでも触れてしまえば崩れてしまうそうなほど痛々しい表情をしていた。

 

その結果が周りの状況だと言うのなら、深刻すぎる。ウタが何を企んでいるかは分からないけど、このまま続けさせちゃいけないと本能で悟った。

 

「ウタ、今なら引き返せる。直ぐにみんなを起こして……」

 

「なんで?」

 

冷たい一言だった。こっちを睨みつける瞳は濁り、体は怒りを表すかのように震えていた。

 

「ルフィも皆もあなたも!なんで分かってくれないの!?私はただ、“平和な新時代”を作りたいだけなのに!?現実が何よ!大切なのは心でしょ!?」

 

悲痛な叫びだ。でもそれが間違いであると断言出来る。人は楽しさや幸せだけでは生きていけない。時に苦しみを知り、時に悲しみを知り、時に挫けることもある。

 

確かに幸せだけの世界はいいかもしれない。でも、その先に待っているのはただ意志のない空っぽの未来だけだ。

 

「私は置いていかれた寂しかった!苦しかった!だから、この体が無くなってもみんなと楽しくいられる新時代を作ればいいんだよ!あなたもそうでしょ!?」

 

「……私は、違う」

 

「ッ!もういい!」

 

目に涙を浮かべながら小島の方へと歩いていくウタ。その手には短刀が握られていた。待って、その剣で何をするつもりなの!?ダメだよ!戻って!

 

「ウタ!?」

 

手を伸ばして起き上がると、そこは見慣れない船室だった。荒い息を整えながら「大丈夫、あれは夢…あれは夢だ…」と自分に言い聞かせて落ち着かせる。

 

一通り、頭の中を落ち着かせると寝ていたベッドから地面に足をつける。どれくらいに眠っていたのかは分からないが、体を動かす分には何ともなかった。

 

「これは……」

 

ベッドの近くにあった机の上には1枚の紙が、その内容は【甲板に来てくれ】という一言だけだった。その紙を折ってポケット中にしまうと、扉に向かって歩き出す。

 

そっと部屋のドアノブを捻って開ける。通路の左右を確認してみるが、端までの距離が長い。これは少し大きめの船に乗っていると認識して間違いなさそうだ。

 

とりあえず、指示されたように甲板へ向かう。とは言っても、どこの誰の船かも分からぬ以上迷う羽目になるのは仕方ない。長い迷路のような船内を歩くこと5分ほどで、外へと繋がる扉を見つけた。

 

外から数人の気配と話し声が聞こえてくる。手当をしてくれたからいい人たちであることは分かるのだが、外の様子が尋常では無い雰囲気だった。しかし、意を決して扉に手をかけて開いた。

 

「グラララ!鼻ったれが、恩人を治療して何が悪い?」

 

「あいつは俺の“家族”だ!あんたのところに預けるくらいなら俺らの船に連れ戻す!」

 

覇気ダダ漏れの状態で、口論を展開する白ひげと赤髪のシャンクス。後ろでパタンと扉が閉まったが、誰もこっちには意識を向けてこない。

 

しかし、私の頭の中では赤髪のシャンクスが言った『俺らの船に連れ戻す』という一言で私の頭の中で何かがプッチンした。

 

ズンズンと嵐のような覇気の中を歩く。そこでようやく1番隊隊長のマルコが私に気づき、続々と私の方へ目を向ける人が増えてくるが睨み合う2人は私に気づいていなかった。

 

「この……ッ」

 

“馬鹿オヤジがぁ”!!

 

ゴッ!と重々しい音を立てて赤髪のシャンクスが地面に倒れ伏した。私が今蹴ったのは足のすね。しかも覇気付きの全力である。

 

「おわぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

 

「「「「お、お頭ァ!?!?」」」」

 

「ふんッ!!」

 

蹴られた脛を押えて悲鳴をあげる赤髪のシャンクスにクルーたちはありえないものを見るような目をし、白ひげと白ひげ海賊団の皆さんは呆気に取られている。

 

しかし、そんな事頭に血が昇った私には関係の無い事だった。

 

「何が『船に連れ戻す』だ!あの子を無責任に10年間も放っておいてよくそんなセリフが出てきたな!!?」

 

ビクゥ!?と言った様子でカチコチに固まる赤髪海賊団。私が何を言いたいのか瞬時に理解したようで、もう聞き入る体勢に入っているが、シャンクスだけ地面を転げ回っている。

 

「あの子が何回涙を流したと思ってる!?何回あんたらを想って歌を歌ったと思ってる!?『ごめんなさい』の一言がないのにあの子の親面知るんじゃない!」

 

響き渡る私の言葉に“家族”を大切にする白ひげ海賊団の皆さんは「うんうん、確かにそれは赤髪が悪いな」と頷いている。反して赤髪海賊団の人達はバツの悪い顔をしている。

 

そして、ようやく脛の痛みが治った赤髪のシャンクスは顔色を悪くしながら立ち上がった。

 

「くっ、それは事情があって……」

 

「聞いてるよ。ウタを置いてった理由くらい」

 

「ゴードンか……なら、分かるだろう?あの子に罪を被せる訳にはいかない」

 

「だからといって、大好きな人達から引き離されるのがどんなに辛いことか分からないわけじゃないでしょ」

 

それはそうだ。実際シャンクスだってあの時は泣いてたし、仲睦まじい親子を見ていたら何度もウタのことを思い浮かべていた。辛さが分からないはずがない。

 

「責任を感じてるならまずは謝ってください。あの子をもう悲しませないで」

 

「………」

 

数秒の静寂。そして、シャンクスは「分かった…」と返事をすれば、1番隊隊長のマルコの所へ向かい、色々と話をしていた。話を聞いたマルコは1度ため息を吐くものの「そこで待ってろよい」と残して船内に入っていった。

 

「戦争の時から思ってたんだが……お前本当に肝が据わってるな」

 

「いや、これでもかなり心臓がバックバクなんですよ?」

 

白ひげさんは茶化すように言ってくるが、これはマジである。四皇の喧嘩に水をさして、脛を蹴り説教をする。

 

世界三大戦力のひとつにすることじゃないなとは思うが、あそこで赤髪を蹴ってなかったら拗れる気がしたのだ。ウタとシャンクスの。

 

これでも私は抑えた方だ。出来ればもっと言ってやりたいことはあったが、ここから先はあの子の番。結局、親子で話し合わないとこの問題は解決しないのだ。

 

マルコさんが船内に戻っていって約十数分ほど経つと、扉が開きマルコさんと共にウタが現れた。白ひげさん曰く、私より3日ほど早く起きたようでその後は私を付きっきりで看病していてくれたようだ。

 

赤髪のシャンクスが頂上戦争後にこの船に来たのが今日初めてらしい。会って話し合えばいいものの、ウタは「フェリが目覚めてから言いたい」と知らぬふりをして貰えるよう頼み込んだそうだ。

 

「あ〜……」

 

「その様子だと心当たりがありそうだな?」

 

「まぁ、そこら辺は見てからのお楽しみということで…」

 

あははは……と苦笑いする私に何かを悟った白ひげは酒と一緒に言葉を飲み込んだ。何があるかは分からないが、とても愉快なことが起きるということだけは分かった。

 

ゆっくりとウタはシャンクスに近づいていく。実に10年振りの再会だが、その雰囲気はとても気まずかった。固まった空気の中、先に口を開いたのはウタだ。

 

「久しぶりだね…シャンクス……」

 

「あぁ、そうだな…」

 

とても親子とは思えない会話に固唾を飲んで見守っていると、ウタはさらに言葉を続ける。

 

「寂しかった」

 

「……」

 

「苦しかった」

 

「…………」

 

「ねぇ、なんで私を置いていったの?」

 

「それは……」

 

いい言い訳が見つからないのか、シャンクスの目線は泳いでいる。その様子にウタは『相変わらずだね』と言わんばかりにため息を吐く。

 

「隠さなくていいよ。全部知ってるから」

 

「ッ……ウタ、お前どうやって…」

 

「録画機能のついた映像電伝虫を拾ってそれで知った。あの日、エレジアを滅ぼしたのは私なんでしょ?」

 

「……その通りだ」

 

重々しげに答えたシャンクスの体に抱きつくように引っ付いたウタの顔は見えない。しかし、遠目からでも分かるように小さく震えていた。おそらく泣いているのかもしれない。

 

「罪を被せないように、私が罪悪感で潰れないように私を置いていったのかもしれないけど……私は連れて行って欲しかった!」

 

「ウタ……」

 

「赤髪海賊団は私の唯一の家族なんだよ!?たとえ私が多くの人を手にかけても、皆となら目を背けずに前を向けるよ!」

 

強く心の内を晒していくウタに、シャンクスは優し笑みを浮かべてそれを受け止めていた。一通り叫びたいことを叫んだウタは1度を息を整える。

 

「ねぇ、シャンクス。私は今でもみんなの家族なの?」

 

「当たり前だ。お前は俺の…俺たちの大切な娘だ」

 

「じゃあ、これからは私から離れない?」

 

「離さないさ。もうお前を孤独にさせるようなことはしない。約束する」

 

「分かった。なら、もう私は泣かない」

 

「強くなったな…」

 

膝を着いて娘を抱くシャンクスに「あれ?シャンクス泣いてるの?」と楽しそうにウタは笑っていた。赤髪海賊団の皆さんは「良かった良かった…」とその光景を見つめ、白ひげ海賊団の1部の方は目から滝のような涙を流していた。……感受性が豊かな人達だなぁ。

 

「よし!じゃあこれで“悲しいパート”はおしまい!」

 

「「「「「「「「???」」」」」」」」

 

シャンクスの腕からするりと抜けて立ち上がったウタの言葉に全員が首を傾げた。これから起こることを全て知っている私と、今か今かと笑顔で待っている白ひげさんがとても場違いに見えたのは仕方の無い事だ。

 

ウタはガッとシャンクスの白シャツを掴んで引っ張る。「どこでそんなの覚えたんだ……」と言わんばかりの表情を見せるシャンクスに対して、ウタは1度深く深く息を吸う。

 

「私を10年間も1人にして!怒ってないわけないでしょうが!」

 

「このあほ!マヌケ!意気地無し!大っ嫌い!」

 

「シャンクスの『変態髭面色気バカ親父ぃ』!!!」

 

バッチン!と、とても良い音を出したウタのビンタを食らったシャンクスはよろよろと後ろに下がると、急に膝から崩れ去って俯いた。

 

「お、お頭…?どうしたん………えっ!?」

 

シャンクスが崩れ落ちてから数十秒経ってもビクともしない様子に、1人のクルーが恐る恐る近づいて声をかけてみる。すると、そのクルーは尻もちをついてしまった。

 

「し、死んでる……」

 

「「「「「「えっ!??」」」」」」

 

否、死んではいないが気絶してるだけである。しかし、皆が驚きに固まる。まさか四皇である赤髪のシャンクスが娘の一撃で沈むとは思ってもみなかったからだ。

 

しかし、ウタの一撃は見事にシャンクスの精神にクリティカルヒットした。その証拠に今にも灰になって消えてしまいそうなほど白くなった赤髪のシャンクスが目の前にいる。

 

「フェリ〜〜!私やったよ!」

 

「うん、すごいね…。実の父親とはいえ四皇を一撃だなんて……」

 

教えた私も戦慄してしまう。完全に“シャンクスの親バカ度”と“ウタの遠慮の無さ”が予想以上だった。でもまぁ、これでいいかもしれない。置いてかれた子供の気持ちを少しは分かっただろう。

 

「よくやったねぇ」と突撃してきたウタを受け止めて頭を撫でてあげると、気持ちよさそうに目を細める。猫かな?

 

「これでその嬢ちゃんはその鼻ったれの船に戻る訳だが……お前はどうする?行き先がないならうちの船に乗ってもいいぞ?」

 

「え〜!?ダメだよ!フェリは私と一緒に新時代を作るんだから!」

 

「グラララ!そうかそうか!ぜひうちの“息子”にと思ったのだがな!」

 

豪快に笑いながら酒を口に運ぶ白ひげに、ウタは警戒しながら「フシャー!」と言ってる。やっぱり猫かもしれん。

 

そこで「ん?」と疑問に思ったのはマルコだった。

 

「なぁ親父。そいつが仲間になるなら女だし“娘”じゃねぇのかよい?なんだって息子なんて…」

 

「息子に決まってるだろ?こいつは()だからな」

 

白ひげの言葉にみんなの動きが完全に固まった。ウタも私に抱きついたままビクともしない。そこで数秒経って、今度は赤髪海賊団の人たちが苦笑いし始めた。

 

「し、白ひげも冗談は言うんだな…。まさか男だなんて……」

 

「えっ、男ですけど」

 

「「「「「「「「「えっ…」」」」」」」」」

 

驚愕の表情でみんな視線が集まる。も、もしかして…今の今までみんな…。

 

「私を女だって思ってたんですかぁ!!??」

 

「「「「「「「当たり前だァァァ!!」」」」」」」

 

海の果てまで届きそうな絶叫が白ひげの海賊船から響き渡った。私はてっきりみんな男だって思ってると思っていた。しかし、聞いてみればやれ容姿やら声やらが完全に女のそれということ。

 

こうして、赤髪海賊団と白ひげ海賊団の衝突は幕を閉じた。灰になったシャンクスを置き去りにして、白ひげは高らかに「まぁ、とにかく無事を祝って宴だァ!野郎ども!」と叫ぶのだった。




はい、どうも作者で〜す。

この時期になって忙しくなってきたので、少し間を空けての投稿になりました。一応、この小説は不定期更新なんでそこはご了承ください。

2年の修行期間ではそろそろ本編にそわないオリジナル展開を入れていこうと思ってるのでお楽しみに!

(言い訳:最近になって【ガンダムUC】を見始めたり、ルウタ作品を漁ったりしていましたけど、毎日頑張って書いたんです……許してくだせぇ)
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