【ex】シリーズ開幕です。このシリーズは感動系を中心に作るので、それが合わないな。と思う人は本編とヤンデレ編をお楽しみください。
【ex】いらない“私”
“この船を降りよう”
そう思ったのは6歳の時だった。赤髪海賊団に私達は拾われた。容姿は全く異なるものの、海賊に攫われた2人の姉妹として“姉”がウタ、“妹”がフェリとして育てられた。
海賊船での生活を数年送っている時ふと思った『私、いらなくない?』と。
料理や洗濯とかの一般的な家事はできるものの、秀でて特にすごいと言えるものがなかった。そういうスペシャリストなんてこの船にはゴロゴロいる。
敵戦との戦いの時だってずっと守られてばかりで、ウタには『大丈夫、シャンクス達がすぐ終わらせてくれるよ!』とあやされてばかり。
ウタは赤髪海賊団の音楽家として皆に笑顔を届けている。それに比べて私は誰かの後ろに引っ付いて何かを手伝うくらいしか脳がなかった。
シャンクスや赤髪海賊団の皆だって宝石で着飾ったウタには褒め言葉を言うのに、私には優しそうに頭を撫でてくれるだけ。まるで腫れ物を扱うかのように。
「降りよう……みんなの迷惑になる……」
そう決心するが、子供が身一つで生き抜くにはなかなか厳しい世界。だから、私は準備に時間をかけた。
将来降りてもお金に困らないように、小さな宝箱に少しづつシャンクス達からもらったお宝を貯め続けた。そして、航海術や交渉術なんかも学んだ。
ある程度戦えるように皆のいない時間を見計らって、色々と戦闘技術なんかも学んだ。
あとはこれ以上名残惜しいものにならないよう、必死にシャンクス達との接触を避けた。露骨ではなく徐々に素っ気なくなるように装って関わる時間を削る。
最初は上手く突き放すことが出来なくて何度もシャンクスやベックマン達に不審がられたけど、時間が経てばそれも普通のことに変わった。
しかし、ウタはいつも以上に甘えさせようとしてくるし、シャンクス達は敵船から奪った宝石とか街で買ったぬいぐるみとかを多くくれるようになったのは変だと思ったが、気にしないことにした。
そして、そうこうしているうちに3年の月日が経った。私もウタも9歳になり、
拠点にしていたフーシャ村にはルフィっていう私達より2歳年下の子いた。よくウタとチキンレースなんかをしたり、シャンクスに「船に乗せてくれよぉ!」と駄々こねるほど無邪気で元気な子。
ウタとじゃれあっているのを遠巻きに見ている私にもよく声をかけて、強引に色々な場所へと何回も引っ張られたのをよく覚えている。
そんな日々を過ごしていくうちに、私の下船準備もほぼ最終段階まで完了していた。資金については当分困らないほどには溜まったし、色んなことを学んで実践したので生き抜く術も身についている。
だから次の航海で終わりにしようと思い、私達を乗せた船はエレジアへと向かった。
そこでもウタの歌声はたくさんの人から賞賛された。この国の国王であるゴードンさんからも『ここに留まらないか?』と言われるくらいウタの歌声は素晴らしかった。
そんな姉の姿に私は嫉妬も怒りも抱かない。『姉が秀でているのは当たり前、私がただ劣っているのだから』と認識していたから、ウタが褒められても私は何も思わなかった。それが自然であると思い込んでいた。
ただまぁ、ウタはこの島に留まるつもりは無いようで、このまま赤髪海賊団の音楽家としてシャンクス達について行くつもりだと、ベックマンさんから聞いた。
その日の夜は城でパーティーが開かれた。多くの人が各々の楽譜を持ってウタに笑顔で駆け寄っていく。シャンクス達も娘が人気者で満足そうに笑っていた。
(私もウタみたいに得意なことがあったらシャンクス達は笑って褒めてくれたかな?………いや、きっとない。ウタが特別で愛想があって可愛いから喜んでるだけだ。私みたいな無愛想な奴だと気分悪くしちゃうよね……)
そのままシャンクス達に気づかれないようトボトボと会場の端にあったソファに座って、チビチビとジュースを飲みながらパーティーの終わりを待っていた。
どうせ今回の航海でシャンクス達とはお別れするんだから変に目立たない方がいい、そう思って一人でいると……。
「どうした?気分でも優れないのか?」
「ベックマン……」
隣に座ってきたのは副船長のベックマンだった。いつもならくわえているはずのタバコをしていない。多分、パーティーだから気を使っているのだろう。
「私は大丈夫。ウタのことを褒めてあげて…」
「………なぁ、悩み事があるなら聞くぞ?」
「えっ…?」
「お前、随分前から俺らを避けてるだろ?何か気に入らないことでもしたか?」
「してない!してないよ!」
「じゃあなんで俺たちを避ける?」
「うっ……」
ここで下手に勘づかれたら全てが水の泡になる。でも、舌戦でベックマンに勝てるわけが無い。この場から逃げ出せる言葉を探してオロオロしていると、ウタがこっちに近づいてきた。
「フェリ!楽しんでる!?」
「う、うん…とっても楽しいよ、ウタ」
「そっか!じゃあまだまだ歌うからちゃんと聞いてね!」
にぱっと天真爛漫な笑顔を見せるウタ。実際彼女のあの明るさに会場の人達は大いに盛り上がっている。やっぱり自分とは違う“人を惹きつける才能”が彼女にはあった。
でも、ウタが話しかけてくれたおかげでベックマンの追求を逃れられた。感謝しかないが、このまますみっこで聞いてようと思っていると、私の横にある楽譜にウタは目をつける。
「この楽譜、フェリが見つけたの?次はこれを歌ってみようかな」
そう言いながらウタは古いボロボロになった楽譜に手を伸ばす。その瞬間、私の背中がゾクリと泡立った。『その楽譜に触れさせたらいけない!』と体の本能がそう叫んだ。
「ダメッ!!」
バシンと反射的にウタの手を叩いてしまった。必死すぎて何をしたか一瞬分からなかったものの、シャンクスやウタが向けてくる目を見て我に返るとその楽譜を抱えてその場を走り去った。
「ッ!」
「お、おい!?フェリ!?」
シャンクスが声をかけるが私は振り返らずに走った。そのままどこに行けばいいのかも分からず走っていると、初めて来たお城のせいで迷子になってしまう。
人気がないのを確認すると壁にもたれ掛かるようにズルズルとその場に座り込む。
(やっちゃった……)
さっきの行動を振り返って、自分がどれだけのことをしてしまったのかを自覚した。もっとやりようがあったはずなのに、あんな傷つけるような方法してしまった自分に吐き気がする。
私だって役立たずの割に大人しくしていた。嫌われたら即船を降ろされるかもしれないから、最低限怒らせないように接してきたはずなのに、あんな態度を取ってしまった。
(嫌われて降りるのだけは嫌だったなぁ…)
そう思っていると、ひとつの雫が地面に落ちる。これが自分の涙だと気づいたのはすぐだった。流さないように振舞ってきたのに、“嫌われる”と分かったら何故か涙がポロポロと流れた。
数分もの間ずっとすすり泣いていると、シャンクスが私の前に立っていた。
「フェリ…」
「ぐすっ……ごめんなさい…」
「ッ!?謝らなくていい!」
ギュッと包むようにシャンクスは優しく抱いてくれた。あんなにウタに酷いことをしたのに優しくしてくれるなんて、やはりシャンクスはお人好しだ。
「ここにいたのか!?」
シャンクスの腕の中で泣いていると、ゴードンさんが慌てた様子でこちらに駆け寄ってきた。
「どうしたゴードン?そんなに慌てて」
「君の持っている楽譜を見せてくれないかい!?」
「これ…ですか?」
「やはりか……すまない。君のおかげでエレジアは救われたようだ」
「えっ?」
深々と礼をしてくるゴードンさんに私もシャンクスも戸惑いを隠せない。たった一つの楽譜を持ち去っただけで島を救ったなどということを信じろという方が無理な話だ。
しかし、ゴードンさんから詳細を聞くとこの楽譜は『Tot Musica』といい、過去に1度テレジアを崩壊させた『歌の魔王』が封印された楽譜らしい。
もし、あの場でウタウタの実を食べたウタがこの楽譜を歌っていたらと考えるだけで恐ろしかった。
「よくやったな」
「シャンクス……」
私はギュッと抱きしめてくれるシャンクスの腕の中でウトウトと睡魔に襲われて眠ってしまった。ただ、褒めてくれたシャンクスの言葉がチクリと私の胸に刺さったのをこの時は感じていなかった。
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その後、私が目覚めるといつも通りの天井が見えた。
どうやら私が眠っている間に朝が来て、既にエレジアから出航したらしい。長く居座りすぎるとまたウタが魔王に狙われるかもしれないと危惧したからだ。
「ウタ、あの時はごめんなさい」
私は起きてからすぐにウタに謝った。必死だったとはいえ手を叩いてしまったのだ。1発くらいビンタされてもいいくらいに覚悟しながら謝ると、ウタは昨日のシャンクスみたいにハグしてきた。
「謝らないで!フェリが止めてなかった私、取り返しのつかないことをしてた!だから、止めてくれて本当にありがとう!」
「ッ……う、うん」
ウタにお礼を言われて瞬間、ズキッと胸の奥で何かが刺さるような“痛み”を感じた。今まで感じたことの無い痛みに歪みそうになった顔を必死に誤魔化して返事をする。
そこからフーシャ村へ向かう航海で何度も皆から「ありがとう」と言われる度に胸の奥がズキズキと傷んだ。最初は慣れて隠すことできたけれど、段々回数を重ねるごとに深く抉るような痛みに変わっていった。
「……」
とある夜、私は寝付けずに船首のほうで海を眺めていた。どこまでも続く地平線の先にワンピースがある。そういう夢を求めてシャンクス達は海賊をしてるんだなぁ。と思えば自分がどれだけちっぽけな存在かが嫌という程分かってしまう。
「スゥ……」
どうして あの日遊んだ海のにおいは
どうして すぎる季節に消えてしまうの
またおんなじ歌を歌うたび
あなたを誘うでしょう
信じられる? 信じられる?
あの星あかりを 海の広さを
信じられる? 信じられるかい?
朝を待つ この羽に吹く
追い風の いざなう空を
ウタがよく歌うこの曲、私が歌っても不器用にしか聞こえなかった。さすがに歌だけでは寂しいので、ステップを踏んで踊りをつける。そして、最後の歌詞を歌い終えると、後からパチパチパチと拍手する音が聞こえた。
「ベックマン……」
「いい歌と踊りだったじゃねぇか。天使の舞かと思ったぜ」
「おだてても何も出ないよ…」
タバコの吸殻を海に捨てながらベックマンはこっちに近づいてくる。
「なぁ、この前の続きなんだが……」
「その話はもうやめて…」
「そうか…。お前が嫌なら仕方ない」
随分とあっさり引き下がったことに驚いたが、ベックマンは私の頭をワシャワシャと撫でてくれた。
「辛ぇことの一つや二つくらい人間なら誰でも持ってるもんさ。いちいち気にしてたらキリがない」
「ベック…」
「それはそうと言い忘れてたんだが、あの時ウタを助けてくれて“ありがとな”」
「ぅッ………」
まただ。またこの痛みが胸に重くのしかかった。今まで以上の痛みに私は表情を隠しきれずに、歪んだ顔をしてしまった。その一瞬を逃すほどベックマンは甘くない。
「お、おい!?どうした!?」
「……大丈夫、気にしないで」
「馬鹿野郎!そんな顔して平気なわけねぇだろ!?」
「気にしないでって言ってるの!!!」
思いっきりベックマンの腕を振り払った。ほっといてと言っているのに心配してくるところにイラついてしまった私は、はっとすぐに冷静になるが取り返しのつかないことをしてしまったと理解し、「……ごめん」と一言だけ残して居心地の悪いこの場を直ぐに離れようとした。
だが、その歩みをベックマンが腕を引いて止めた。
「なぁ?フェリ、本当に何も無いのか?お前がそんな顔をするのは見たくないんだよ。俺たちは“家族”だ、なら何でも相談に乗ってやる」
優しく諭すように伝えてきたベックマン。だけど、ぐちゃぐちゃになってしまった私の思考は何の考えもなく反射的に言葉にしてしまう。
「大丈夫だよベックマン。すぐに
「ッ!?!?あっ!おい待て!?」
今度こそ手を振り払って、ベックマンの元から走り去った。その日以来、私は極力ベックマンと会うことを避けた。ベックマンはあの後声をかけようとしてきたが、「ウタ、あっち行こ」や「シャンクスお願いがあるの」みたいに人を巻き込むようにして何度も躱した。
シャンクスはベックマンに「なんかしたのか?」と聞いていたが、「いや、何も?」と言っていた。恐らく私と一体一で話をつけるつもりなのだろう。
耐え続ける生活に辛くなってきた頃、とある島に停泊することになった。原因は食材の不足、毎日毎日宴のやりすぎで倉庫の備蓄が底をついていたのだ。
「じゃあ、俺たちは行ってくるけど……フェリはほんとに残るのか?一緒に来ればいいじゃないか」
「そうだよフェリ!この島に可愛いものが沢山あるかもしれないんだよ!?」
「うん、でもちょっと気分が優れなくて…」
「そうか……まぁ、無理はしないでくれよ?他の奴にも気をつけるよう言っておくから」
そう言い残すと、シャンクス達は街の方へと出かけた。
チャンスだと私は思った。この島は広くかなり平和的な島であると有名なのは下調べ済み。しかも、街中もかなりの人で混みあっていて見つけるのは困難である。
幹部もシャンクス達と一緒に出払って残っているのは最近になって入ってきた船員だけ。逃げ出すには好都合だった。
すぐに出れるようこの日までに準備は終わらせておいた。出る前に何度も中身は確認して、不備がないことは確認済みである。
「これでよし…っと」
最後にウタの机の上に手紙を置いて、私は部屋の外へ出た。
甲板には一応見張りがついてはいるが、久々に平和な島についたということで随分気が抜けていた。油断さえしなければ見つかることは無いだろう。
港の近くで数人の船員達が立ち話をしていたが、荷物の陰に隠れて私はその場を後にした。ここで長年避けるために費やしてきたスキルが役に立った。
あとは逃げるだけ。シャンクスなら数日くらいは追いかけてくるだろうが、念のために次の島へ渡る準備だけはしておこうと思いながら私は長年乗ってきたレッドフォース号を後にした。
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ドサッと買ってきたはずの荷物が手の中から落ちる。シャンクスを含む幹部たちはありえないその情報に放心してしまっているが、ヤソップが「しっかりしろ!お頭!」と叫んだおかげで正気を取り戻した。
「フェリが……なんで……」
「それが分からねぇんだよ!?いつの間にか居なくなってたんだ!ずっと部屋から出てこないから変だなとは思ってたんだけどさ!」
自分の愛する娘が居なくなったという知らせを聞いて最初は疑ってしまったが、船内を慌ただしく駆け巡る船員達を見ていると、それも冗談ではないと気付かされた。
「うそ…フェリ……ひっぐ…どこいったの?わたしがきらいになったの?ちゃんとあやまるから……ぐすっ…もどってきてよ……フェリ……うわああぁぁぁぁん!」
「しっかりしろウタ!フェリなら大丈夫!必ずお頭達が見つけてくれる!」
ウタは居なくなった最愛の妹に嫌われたと思い、大粒の涙を流しながらその場に泣き崩れた。
「まさか人攫いか!?」
「それはねぇ!この船番をしている奴らはちゃんと人がいねぇか見ていたはずだ!もしかしたらフェリは……」
「『自分の意思で出ていた』って言いたいのか?ヤソップ」
その言葉に近くにいた者は全員どよめいた。
「どうゆう事だ!?ベック!?」
「早めに俺らが気づいてやるべきだったのかもしれないな。3年前から急に素っ気なくなったのを覚えているか?」
全員に心当たりのある事だった。甘えてくるように寄ってきていたフェリが、いつ間にか1歩後ろに立って誰にも関わろうとしないようにしていた。
最初は「そういう時期なんだろう」ということで不用意に刺激しないようにしていたが、それが危うい合図だなんて誰が思っただろう。
白にも見える銀髪に細い体。身長はウタよりも低く、庇護欲を掻き立てるような顔立ちにシャンクス達はフェリをとても丁寧に育ててきたはずだった。
それがフェリ自信を傷つけているとも気づかず。
少なくともベックマンは数日前から異変に気づいていた。気づいていて何もしなかったことに、1番この中で後悔しているのはベックマンだった。
「探そう!まだ一日も経ってねぇ!それならまだ島内に留まっているはずだ!全員で探しに行くぞ!」
「「「「「「おおおおおぉぉぉぉぉ!!」」」」」」
シャンクスと赤髪海賊団の全員は朝になっても手分けして島内を探し回ったが、数日経っても愛しの愛娘の姿を見つけた者は一人もいなかった。
この日、赤髪海賊団きっての天使の片翼が姿を見せないようになった。
はい、どうも『思い立ったが吉日』が座右の銘の作者です。
いや〜、座右の銘に従って書きました。お好きな方のために定期的に更新していこうと思っています。もちろん、『本編』『ifルート』共に更新していくつもりです。応援よろしくお願いします。
追記:film REDの4DX見に行きました!かなり楽しみたし、40億巻も貰えたのでホクホク顔です。