「お腹空いた〜」
「島までそろそろだからちょっと我慢しなさい」
「ヤダヤダ!お腹すいたもん!」
「全く……ほら、最後のりんご」
エレジアを飛び出して早2週間が経った。船の食料を切り崩しながら何とかやってきたが、今ウタにあげたリンゴで食料は底を尽きた。なので、物資補給も兼ねて今は近くの島に向かっていた。
「島に着いたら島の人達のために歌ってもいいかな?」
「迷惑にならないならいいよ。食料の買い出しとか情報収集は私がやっとくからウタは好きにしてて」
「やった!」
ガッツポーズをとるウタを横目に島が見えて来たので船の舵を慎重に操作していく。難なく港に着くと、ウタは船から飛び出して街の中へと走っていった。
久しぶりの航海で海賊だった時のことを思い出したのか、ウタは随分とウキウキしていた。止めるまもなく街の方へ消えていった彼女に私はため息を吐いた。
あんまり1人行動させたくはないが、この島は基本的に温厚な島なので物資補給の間くらい目を離しても問題は無いだろう。
「さて、食料を集めてから酒場に行くとしますか」
大きめの袋をふたつ持って私は街へと出掛けた。それなりに大きな街だったので結構珍しいものがズラっと並んでいるから、目移りするのは仕方ないと思う。
とりあえず、ものを買うベリーに関してはここ8年間でエレジアに流れ着いた宝石とかを売り払って手に入れた。日持ちする食料と水などを優先的に購入して船の中に預けた後はすぐに酒場へと向かった。
扉を押してはいると、昼時だったので大人の数は少なくはあったが所々昼飯を食べている人達がいた。
酒場に入ってきたのが島では見た事のない人物だったのでジロジロとして視線が飛んできたが、私はそれをサラッと無視して店主の所へと一直線に向かった。
「ねぇねぇ、ちょっと教えて欲しいことがあるんだけど…」
「ここはお前さんみたいなガキンチョが来るところじゃないよ。いいから回れ右して帰りな」
「そういうテンプレはいいから要件だけ言うね」
「話聞いてるかな!?!?」
店主のめんどくさいやり取りはバッサリと切り捨てる。だってのらりくらり時間が長くなるだけだもん。ここはキッパリ要件を伝えた方が耳を傾けてくれるというもの。
「赤髪のシャンクス、もしくはここら一帯で有力な海賊の情報があったら教えてくれない?」
その一言に酒場はまるで凍りついたかのように静かになった。あれ?気づかない間にダジャレでも混ざってたかな?
「…お前さん海賊にでもなりたいのか?」
「いや、私ともう一人の子がただ要件があるだけ」
「なら、やめとけ。四皇に近づこうなんざ自殺行為だ」
「それでもだよ。覚悟はある」
真っ直ぐ見つめてくる瞳にやられたのか酒場の店主は一息ついて新聞を開くと、ある一面を見せてきた。
「赤髪の動向は知らんが、ここから南に進んだ島で四皇を見たって言う目撃情報があったみたいだ。まずはそこへ行ってみるといい」
「そうなんだ……分かった!ありがとう!」
「ただ、やばいと思ったらすぐに逃げるんだぞ。海の上で命を守るれるのは自分自身だからな」
親切な酒場の店主にお礼だけ言うと、私は酒場を去った。早速有力な情報を手に入れられたので内心ウッキウキである。
酒場ではみんな静まり返っていたが、全員の表情が一致するという奇妙な現象が起こっていた。なぜなら…
「可愛かったなぁ…あの子」
「あぁ、つい告白したくなる程美しかったぜ」
「踏まれたい…」
店内の客全員がフェリの容姿に一目惚れしていたからである。ちなみに既婚で愛妻家の店主は変態的な客たちの様子を、ジト目で見ながらため息を吐いていた。
………………
………
…
「ウタは広場にいるって言ってたよね……おっと、分かりやすいなぁ」
街の中心部まで歩いてくると、一際目立つ人集りが見えた。それと一緒に聞こえてくる歌声で私はウタがあの場所にいるのを把握すると、観客たちに紛れて彼女の歌を聞き入る。
歌い終えると大人の観客たちからは拍手喝采、子供たちからは「ねぇねぇ!もっかい歌って!」とアンコールをねだられていた。
「すごい人気だね。さすがは歌姫様ってところかな?」
「いきなりからかわないでよ、フェリ……もう用事は済ましたの?」
「うん、すぐにでも出航できるって言いたいけど……この様子だと1日くらい後でもいいかも。だから無理しないでよ?」
「分かってるって!みんな〜!もう一曲行くよ!」
彼女の歌を待ち望んでいる街の人たちや楽しそうに歌う歌姫を見ていると、引き止める気にはなれなかった。そのままウタが次の曲を歌おうとすると、港の方から騒ぎ声が聞こえてきた。
「か、海賊だぁ!」
男の人が叫びながら走ってきた方を見ると、港には帆にドクロマークが描かれた帆船が停められていた。街の人達は慌てたふためき、子供たちはウタの方に集まって震えている。
「ウタ、ちょっと行ってくる」
「それなら私も…」
「いや、ウタはここで皆を守ってあげて。この場所と街の人達は任せたから」
「うん、分かった!気をつけてね!」
ウタに見送られながら私は港の方へ走り出した。そのすぐ後ろではウタが皆を落ち着かせるために喋る声が聞こえてくる。
あの場所で一番カリスマ性があって落ち着いてるのはウタだからな。多分、街の人たちも冷静さを取り戻してくれるだろう。……下手に武器とかを持って加勢に来られてもちょっと困るからね。
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「野郎ども!金目のもんと食料をありったけ奪ってこい!」
「「「「「「おおおぉぉぉぉ!!!」」」」」」
海賊たちの船長が号令を叫ぶと、船員たちの活き活きとした声が響き渡った。それぞれが剣や銃を手に取って街へと攻め込む。
自分も宝石などを奪うために船から降りて歩みを進めようとしたが、前を見ると船員たちの歩みが止まっていることに気づいた船長は先頭の方を覗くと、一人の
(ありゃ、いい女だな。
こんな島にこれほどの美女がいたとは思ってもみなかった船長は、あれやこれやと使い道を考えていると一人の船員が女に近づいた。
「おい、殺されたくなかったらそこをど……ぶべらぁ!?」
剣を突きつけて脅そうとしたその船員は、予想もしていなかった下から
「いい女だと思ったんだがなぁ……邪魔するってんならそいつを殺せ!」
1人、また一人と雄叫びを上げて女へと襲いかかったが、当の本人は呑気に気絶させた船員の剣を手に取って満足気な顔をしていた。
「あのボロサーベルよりは使えそうじゃん!弱っちそうな海賊のくせして装備は中々なんだね!」
「なんだとぉ!?」
完全に煽っているセリフで一番最初に突撃した男が怒りに任せて上から剣を振り下ろすが、女はそれをヒョイっと横にステップして回避する。
すれ違う際に男の足を引っ掛けて転ばすと、同時に刃のない部分で峰を叩いてあっという間に気絶させた。その一連の動作を見て他の船員たちの勢いが止まった。
船長も只者ではないと悟り、女を観察するがダラリとした構えのまま何も行動を起こさない。攻めてこない限りは手を出すつもりは無いのか?と考えていると、先に女が口を開いた。
「ねぇ、あなた達って“悪い海賊”?それとも“いい海賊”?」
質問の意味が分からなかった。ただ、自分たちがいい海賊では無いということだけははっきりしている。だからこそ何故そんなことを聞くのか訳が分からなかった。
「俺たちは略奪しに来てるんだぜ?いい海賊なわけねぇだろ」
「そうだよね……残念だよ」
ほんとに残念そうにため息を吐く女。そして、虫けらを見るような目で船長たちを見ると……
「じゃ、全員仲良く海軍に捕まろっか?」
「舐めるんじゃねぇぞ。行くぞ!お前ら!」
その一言に船長たちは完全にキレた。自分たちを見る目も相まって「女1人で何が出来る!?」と言わんばかりに全員で襲いかかったが、女は余裕の表情で剣を構える。
「怪我しても文句は言わないでね?」
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「ゥゥ…」
「な、な…!?」
地面に倒れ伏す部下を見て船長は怯えきっていた。船員数十名で一斉に攻めた結果、全滅するまでものの数分も掛からなかった。ちぎっては投げてという言葉が似合うくらいの圧勝だ。
「ふぅ…」
一息吐いて私は剣を鞘の中に戻した。もちろん海賊から強奪した剣である。
「やっぱり弱っちい海賊団だったね」
「な、なんなんだよお前!!?」
ガタガタと震えながら尻もちをついて指を指してくる海賊団の船長。私はにっこりと笑みを浮かべながらその船長の方へ1歩1歩近づいていくと、船長は「ひぃッ!?」と言いながら下がっていく。
やがて壁にぶつかって後ろに下がれなくしてやると、後一歩の所まで詰め寄った。そして、震える船長に向かってこう伝える。
「私は海賊嫌いの旅人でありながら“未来の歌姫の騎士”とでも言っておこうかな?だからあなたは運が良かった方だよ。本当なら気絶程度じゃすまなかったんだからね?」
とびっきりの笑顔で伝えると、船長は泡吹いて気絶した。情けないなぁ…こんなのが海賊とは世も末だな。
そう思いながら海賊団のヤツらをロープで縛り上げていると、ぞろぞろと男の人達が農具を片手にこっちへ歩いてきていた。
そして目の前の状況に目を点にする大人たちの中からウタが飛び出してきた。不意の出来事に油断していた私はモロにその突撃を腹部にくらった。
「あっ、ごめん」
「か、海賊よりもいい一撃を……」
お腹を押さえて膝を着く。武装色抜きとはいえ鍛え抜いた体にここまでダメージを負わすとは……
「あんたがやってくれたのか?」
若い男の問いかけに私は首を縦振った。口で伝えても良かったが、ウタから貰った一撃でお腹を強打したせいで言葉にできるほどの余裕を無くしていた。
そして、私の答えに集まった街の人達はワッと盛り上がった。「倒してくれてありがとう!」と何人もの人達に感謝された。
「ぜひ礼をさせてくれ!街の者一同全員で貴女方を歓迎しよう!」
そこからは流れに流れて宴が始まってしまった。大量の料理と酒が並べられて飲めや食えやのどんちゃん騒ぎの雰囲気が街中を包んだ。
ウタは宴の中心で歌って皆を盛り上げる。全員がウタの歌で騒いでいるのを横目にジョッキを片手に持って私はそっとその場を離れた。
「………」
夜の星空を見上げながら今日のことを思い出す。本来なら私の故郷と同じく襲われるはずだったこの街を救えるほど、この数年間で強くなった。
実を言うと胸の中ではスカッとしていた。あの時の海賊を追い詰める感覚は何よりも得がたいものだったが、同時に虚しいものだった。
しんみりと1人で月見酒していると急に目の前が真っ暗になり、目元がじんわりと暖かいもので包まれた。
「だ〜れだ?」
聞き覚えしかない声が後ろから聞こえてくる。
「何してるの?未来の歌姫」
「えへへ、らしくない友達へのイタズラで〜す!」
振り返ればにこやかな笑顔を浮かべるウタ。こういう笑顔を見ていると、悩みも忘れてしまうというものだ。
「なんだか悲しい顔してどうしたの?」
「なんでかなぁ?強くなって皆を守れるようになったのに……どうしてこんなに虚しいんだろう」
不思議と涙が出ていた。ここ数年で1度も泣かさなかった涙が一気込み上げる。そんな私をウタは抱きとめて優しく撫でてくれた。
「ごめん…ごめんね…」
「謝らなくていいよ。でも、たまには私に甘えてよね」
優しく包んでくれるウタの中で私は眠るまで泣き続けた。朝になって目覚めたらウタの抱き枕になっていた事実に頭が真っ白になったのはここだけの話だ。
これ以降、航海の途中でウタが甘えてきたり甘えさせようとすることが何故か増えた。それに隙あれば引っ付いてくるようにもなった。
私のドギマギする回数が増えたのは言うまでもなかろう。
最後の方がなんか雑っぽくなってしまってすいません。最後のフェリの心境とかは読むあなた方の想像にお任せします。
アンケートに関しては現在“男の娘ルート”が人気ですね。次の話でアンケートは打ち切りなので投票したい人はそれまでにどうぞ。
内容的には男でも女でも行けるような内容にしていますので、勘違いとかに関しては後々回収していきます。
フェリは男の娘?それとも女の子?
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女の子:ウタちゃん微ヤンデレルート
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男の娘:親バカシャンクス暴走ルート