歌姫の騎士   作:清涼みかん

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※ネタバレ要素がありますので、本編及びフィルムレッドを見てない人はブラウザバックをオススメします。


シャボンディ諸島と大将

ウタとエレジアを出航して数ヶ月が経った。もう航海に慣れてエレジアからシャボンディ諸島まであと少しという近海で、私は船の床に手をついて絶望していた。

 

逆にウタは2つの手配書を見比べて目をキラキラさせながら、新聞の一部も切り取って大事に保存をしている。

 

1枚は最悪の世代の一人『モンキー・D・ルフィ』の手配書だった。先日、司法の島『エニエスロビー』で大暴れし、この度3億の賞金首になった男である。

 

そして、ウタがエレジアに留まる前に色んな対決をして、一緒に村を駆け回った幼馴染らしい。嬉しそうにしながらウタはルフィに関する記事を切り取って新聞に穴を開けていく。

 

言わなくてもわかるだろうが、もう1枚はもちろんのこと私である。最初の手配書でも破格の1億5000万ベリーという賞金をかけられていたが塵も積もればなんとやら、いつの間にか“2億8000万ベリー”まで賞金が跳ね上がっていた。

 

心当たりがないと言えば嘘になる。あのモモンガ中将の1件をきっかけに私たちの前に現れた海軍船は合計5隻、いずれも全て丁寧に潰させていただいた。

 

5隻中2隻はウタが眠らせている間にトンズラし、残りの3隻は私が1人でぶっ潰した。いや、殺してはないよ?ちゃんと峰打ちで気絶させてるだけだからね?

 

更には億超の海賊団を3つほど潰している事だし、この金額は妥当かもしれない。

 

「ルフィも自由に生きてるんだね!これなんか悪く書いてるけどあいつなら『仲間を助けるためだ!』なんて言ってそうだもん!」

 

「仲間のためだけにCP9のいる司法の島に突撃するとか……中々無茶をする奴だね、君の幼馴染って」

 

「それを言ったらフェリもじゃない?海軍本部の大佐とかにも臆せず立ち向かうし、略奪してた海賊なんかにはキレながら一味全員を半殺しにしちゃうし…」

 

「それはそれ、これはこれよ。私の方がまだ無茶はしてない」

 

いつまでも項垂れている訳にも行かないので、シャボンディ諸島に向けて舵を切る。空は快晴、風が心地よい1日だ。

 

「あっ、シャボンディ諸島に着いたらいつもみたいに別々行動は厳禁だからね。常に私といること!」

 

「え〜?何で何で?1人で島を回りたい!みんなに歌を聞かせたい!」

 

「それで人身売買に捕まったら私が赤髪に何されるか分かったもんじゃない。それにあの島では“天竜人”をよく見かけるみたいだし、尚更1人行動は良くない」

 

「てんりゅーびと?って何?」

 

「今の世界政府を作った末裔のこと。好き勝手するもんだから世間一般では『ゴミクズ』扱いだね。口には出せないけど」

 

「なんでよ!?ガツンっと言っちゃえばいいじゃん!?同じ人間なんだし!?」

 

「同じ人間じゃない扱いだから天竜人なの。それに天竜人に手を出したら海軍本部の大将が直々に軍艦を引っ張ってくるからね?」

 

直接会って口には出来ないが、天竜人なんていなくなればいいのにっていうのが私の考えだ。同じ人間なのに命を軽く思ってあいつらは底辺だと思っている。

 

まっ、なんにせよ合わないのが1番だ。余計なことをしなければ目立つことは無いし、情報と物資だけ集めたらすぐ出航した方がいいだろう。

 

「おっ、見えてきたぞ!シャボンディ諸島だ!」

 

「おお!すっごい大きな木がいっぱい!」

 

この時、私は何事も起こらないと楽観視していた。しかしこれから起きる事件が世界そのものに歯向かうことになるとは思ってみなかった。

 

______________________

 

「なぁ、知ってるか?最悪の世代がこの島に集まってるらしいぜ?」

 

「まじか!そいつらって確か全員が億越えなんだろ?おっかねぇな」

 

「ただ、もうひとつ聞いた噂があんだけどよ?この島の近海で“歌姫”を見たっていう目撃情報があるらしいぞ」

 

「あの救済の歌姫か。いいなぁ、この島に来るんだったらお近付きになりたい」

 

「やめとけやめとけ。あの歌姫のボディーガードを知らねぇのか?お前なんて一瞬でスライスされちまうよ」

 

「あぁ、確か海軍船を3隻落として億超の海賊団を殲滅したっていう奴か。そんなおっかない奴がいるなら諦めた方がいいかもな…」

 

すまなかったな!おっかなくて!別に好きで落としてるわけじゃないからね!?全く…こういう展開を予測してウタ用のパーカー買っといて良かったわ、ホントに。

 

私?私は帽子とサングラスで誤魔化してるよ?いやぁ、何故か私って顔で覚えられてることが多くね?なんなら顔さえ見えなければあんまりバレないわけ。だからこんな軽装備なの。

 

とまぁ、シャボンディ諸島はこの噂で持ちっきりになっている。億越えルーキー達の噂が約4割、ウタの噂が6割といった感じ。

 

ここ数ヶ月でウタが行ってきたライブでファン数は劇的に増加。更に海賊団を潰して、島の人達の元気を取り戻すために歌っているからプラス面でもかなりの人達の心をキャッチしていた。

 

おかげでこういう大きな島では目立たないように顔を隠すこともしばしばある。

 

噂だけでこの程度なのだ。本格的にバレればめんどくさい事になりそうなので、やることを終えたら直ぐに島を出ようと決心していると、周りがにわかにどよめいた。

 

『む、麦わらのルフィが!天竜人を殴りやがったぁ!?!?』

 

……まじで馬鹿なんとちゃいますのあいつ?天竜人を殴った?言っちゃ悪いけどマジモンの馬鹿だろ。

 

『海軍本部から大将が来るぞぉぉぉぉぉ!』

 

周りにいた海賊たちが我先にと海岸へ走っていく。まるで波ように押し寄せる人を見送りながら振り返ると…

 

「ウタ、残念だけど私達もそろそろ……」

 

ウタの姿がなかった。同時にその事実を瞬時に理解した私は青ざめるが、意外にも思考は冷静だった。

 

あいつならこの場合どこに行く?決まってるだろこの騒動を引き起こした幼馴染の場所しかない!

 

そこからの行動は早かった。人の波が押し寄せる下のルートは完全に無視して、家の上を飛んで走る。目的地は1番のマングローブにある人身売買所。とにかく私は急いだ。

 

「いた!」

 

ウタの姿を発見する。人身売買所から少し離れた場所を人の波に逆らうようにして走っている。だが、この先のルートでは既に海軍が店を取り囲んでいた。

 

「ウタッ!」

 

「フェリ!ねぇ聞いた!あそこにルフィがいるんだって!」

 

「あそこまで叫ばれたら誰でも分かるよ」

 

「一緒に会いに行こうよ!久々に会うんだし、フェリのことも紹介したいからね」

 

「その配慮は嬉しいけど、周りを海軍が取り囲んでいるから会うのは撒いてからにしてよ?」

 

「そんなのフェリがいれば安心じゃん!」

 

「あんな数を相手にしながらあんたらを再会させてやれるほどの技量はないから諦めなさい」

 

ぷくぅと頬膨らませて何か言いたげな様子だったが、さすがに私の言っていることが正しいと判断して渋々ながら引き下がってくれた。

 

その後出てきた最悪の世代達によって海軍は蹴散らされたが、何せ派手にやった分砂埃が空中を舞い、逃げていく麦わらの一味の姿を完全に見失ってしまった。

 

仕方ないので、街から少し離れた静かな場所を中心に探していると海軍の船から砲撃が発射され、その弾の上に乗っていた人物が大砲の爆心地近くに降り立ったのを目にする。

 

「あれが海軍大将か…」

 

「みんな怯えてるけど、大将ってそんなにまずいの?」

 

「出来れば出会いたくない部類の人達。今の私じゃタイマンでも勝てるかどうかってくらいの相手だと考えてくれていいよ」

 

「……人のこと散々非常識とか言いながら海軍本部の最高戦力相手にその判断を下せるフェリも大概だと思うんだけど」

 

「そうかなぁ?」

 

結構冷静に考えた感じの判断なんだけど。勝てる見込みはあんまり見えないけど逃げたりするくらいならできる気がする。今の三大将は全員“自然系の能力者”って聞くし、武装色を会得していれば攻撃も当たるはずだ。

 

勝てはしなくとも負けはしない……はず。

 

それはそうと走り回っているうちに人の数が全然いなくなっていた。看板はボロボロだし、そこら辺に建物とかはないから無法地帯なのかもしれない。

 

「結構奥まで来たけど全然人がいないな。ここら辺で1回引き返す?」

 

「もうちょっと進んでみていいかな?何だかルフィがこっちにいる感じがするの」

 

「そっか…。じゃあ、あの建物がある所まで行ってみよう」

 

坂が急すぎる丘の上に鎮座する店に向かって歩き始めると、私たちの後ろに何かが落下してきた。煙が舞って何が落ちてきたのかを確認する前に、煙の中で閃光が光ると一筋の光が私達に真っ直ぐ飛んできた。

 

「ッ!」

 

腰の剣を抜いて即武装色の覇気を使い、光をはじき飛ばした。弾かれた光は後ろのヤルキマンマングローブにぶつかって爆発する。光が収まると小さなへこみがマングローブに出来上がっていた。

 

「こ、怖!?普通いきなりあんなの打ってくる!?」

 

「人間じゃないみたいだし、仕方ないんじゃないかな?」

 

「へぇ、そう……って人間じゃないの!?」

 

煙が晴れれるとまるでクマのような大男が姿を表した。私の見聞色で調べたから間違いない。人間らしい鼓動や雰囲気をまるで感じることが出来ないし、あからさま口からシューって煙が出てるし。

 

「2億8000万ベリー、“歌姫の守り手” カミラ=フェリを発見。捕縛体制に移行する」

 

「ご丁寧に敵対宣言してくれたところ悪いけど。君じゃ私には勝てないよ?」

 

無表情のままこちらに右手開いてを向けてくる大熊さん(仮称)。すると掌にある筒状のものにピピピッ!と光が収束して、今にも先程の光線が放たれそうになるが…。

 

「溜めが長い!」

 

剣を握ってない左腕から繰り出された拳の一撃が大熊さんの顔面に突き刺さり、後ろへとぶっ飛んだ。そのまま仰向けに倒れると、光が空の方に向かって放たれて爆発する。こう見ると花火に見えなくもない。

 

「ふ、フェリ?今、人の体から聞こえちゃいけない音が聞こえたような気がするんだけど?なんて言うかこう『ガキィン』って感じの……」

 

「やー、意外と硬かったよ。やっぱり体も鋼鉄製?」

 

ムクリと何も無かったかのように立ち上がる大熊さんだったが、先程の一撃が聞いたのか顔面に凹みが出来上がっていた。解れた服の間からはメタリックな鉄の色が見える。

 

やっぱりメカだった模様。武装色越しで殴ったおかげで鉄のような痛みは感じなかったが、今までで1番手応えが硬かった。

 

「捕獲は不可能。殲滅作戦に移行する」

 

「おっ」

 

大熊さんがその場から瞬時に私との距離を縮める。捕獲を目的としたビームでの戦闘法では不利だと悟り、ガタイを活かした殲滅戦に移行したようだ。

 

対応としては間違っちゃいないが、問題は相手が私という点だった。振り上げられた拳が私の真上から落ちてくるが、それに対抗するように繰り出しのは蹴りだった。

 

真上に弾かれるように跳ね上げられた腕に表情は変えずとも脳内でエラー起こしている大熊さん。その一瞬で十分だった。

 

「鉄製じゃあまだまだ柔いな」

 

肩から脇腹に向かっての袈裟斬りで大熊さんの体がバチバチと発光し、うつぶせで倒れ伏した後に体中の至る所が電気を帯びて光ったが、それも数秒のことで直ぐに辺りは静まり返った。のだが……

 

「す、すごぉぉぉい!」

 

ウタが大声で歓声あげるけど、そんなことをしている場合じゃなさそうだ。こんなのが一体だけしかこの島に配置されていないわけが無い。急がないと麦わらの一味たちの元へ向かっているかもしれない。

 

『全員!!逃げることだけを考えろ!!』

 

噂をすればなんとやら、麦わらのルフィの声が聞こえてくるが言っている言葉に焦りを覚える。

 

「ウタ!」

 

「うん!」

 

阿吽の呼吸でウタを抱えると、直ぐに声の聞こえた方へと走り出す。前方では光が何度も点滅し、その度に地面が揺れ動いた。私達と戦場を遮るマングローブを超える。

 

そこにはさっき倒したはずの大熊さんがまた居て、その下で麦わらのルフィが膝をついているが……

 

「さらばだ」

 

大熊さんが叩くと同時にその場からパッと姿を消した。

 

「ルフィ!?」

 

ウタが絶叫をあげる。そりゃそうだ、目の前で幼馴染が消されたら誰だってああいう反応をするだろう。かく言う私も彼との面識はないが、剣を持つ手に力が篭もる。

 

「おやおや〜?これまた珍しい客が来たねぇ」

 

こちらを見て癖がある喋りをするのは、黄色いストライブスーツを着て、サングラスをかけている長身の男だった。

 

「大将 黄猿ッ!」

 

「麦わらを捕まえ損ねてどうしようかと思ったけど、これはいい手土産が来てくれたねぇ」

 

ブチッと堪忍袋の緒が切れる。ウタの大事な幼馴染を傷つけるのみならず、再会すら出来ずにこの場から消したこと。そして、ウタの事を『ちょうどいい手土産』扱いしたことにキレていた。

 

剣を鞘から引き抜く。姿を見せたのは光さえ吸い込んでしまいそうな綺麗な黒刀だった。剣抜くと私はマングローブの上にウタを下ろす。

 

「ウタはここにいて」

 

「な、何で!?私だって戦えッ!?」

 

「いいから“ここにいて”」

 

強く脅してしまう形でウタを止めることになってしまった。後で嫌われてもいい、今この瞬間の中で彼女を守り抜くことの方が大事なのだ。私はマングローブからジャンプして地面に降りる。

 

私の視界に写っているのは4人。さっき戦った大熊さん、何やら変な格好をしているずんぐりむっくり、海軍本部“大将”黄猿、剣を持って成り行きを見ている白髪のおじいさん。

 

おじいさんに関しては敵ではなさそう、明確に私達の“行く末を見ているだけ”だけだ。しかし、他3人は完全に敵視を向けてきている。ならば私がとる行動はひとつ。

 

「死ぬ気でかかってこい!!」

 

死闘だ。海軍大将と将校クラスの実力のある3人を相手にする完全なアウェーでしかないが、何故か不思議と負ける気はしなかった。

 




はい、数ヶ月ほど飛ばして一気にシャボンディー諸島までやってきました。新世界から偉大なる航路に来ているので、ちゃんと魚人島を経由しています。その辺の回収また2年後に。

※前回のプロフィールで記載し忘れていたので、ここに書いておきます。

『コピコピの実』(超人系)
相手に触れるor能力を受けることで、相手の悪魔の実の能力の“体質”を得ることが出来る。ウタウタの実をコピーすれば『歌が上手くなる』、ゴムゴムの実をコピーすれば『体がゴム人間になる(伸縮差はオリジナルの半分)』と言ったように、オリジナルと比べて効力は半分となってしまう。

動物系も変形形態は一種類しかなく、しかも変身できるのは体の一部のみ。自然系も体質を得ることで物理的な攻撃は効かなくなるが、能力を体外に放出することは不可能。

フェリの意思で能力を解除できるが、また別の能力を得た場合には上書きされるため、前の能力は消される。

????の実
フェリが食べた本当の悪魔の実の名前。図鑑には『コピコピの実』として記されているが、本来の名前はこっち。世界政府すら把握しきれていない非常に珍しい悪魔の実。
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