スノウドロップ   作:宮棟メルカ

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 アンケートへの解答ありがとうございました。今後も出す予定のアンケート次第で以外と主人公と主人公やメインキャラの生死が変わったり、bad endになったりします。
 そして原作で出てきた銃を一覧できるサイトを見つけたので、各々の銃は出来る限り名前を表記します。尚、私はあまり銃に詳しくないので間違いがありましたらメッセージまたはコメントでご指摘ください。 


新しい夜明けⅣ

 1

 

 それらは、じりじりと包囲網を縮めてくる。数は50以上。真っ当に相手をすることは避けたいが、護衛対象がいる以上、一人以上の戦力を割かなければならない。

 それに、これだけの数に囲まれて籠城というのはゾっとしない。此処には機関銃も手榴弾も存在しない。たきなはともかく、千束の持つ銃は装弾数が7発。それも、あの人モドキを止めるに威力が足りる部類なのかもわからない。

 そもそも、あれは銃撃如きで止まるものなのか。それは人型ではありながら、人とは在り方が違う何か。それに人間らしい臓器があるのか。そもそも痛みを感じる痛覚があるのか。

 

「千束。たきなと護衛対象を連れてリコリコまで逃げろ。ミカなら軽機関銃くらい武器庫に用意しているだろうからな。そっちでもしもに備えろ」

 

 詩季は千束の方を向かずに言う。正直、他の方を向く余裕はない。

 

「詩季は、どうするの?」

 

「死なない程度に足止めをする」

 

「詩季!」

 

 正面道路を塞ぐ集団の内、一人が詩季目掛けて走る。囲んでいる光景だけ見れば、ホラー映画のノロマなゾンビそのものだったが、此方に向かってくる姿そのものは人以上の激しさで襲い掛かってくる。

 首を目掛けて突き出されたナイフを、首を傾げて躱す。すれ違うのと同時に、腕に通った『線』を通す。

 落ちる腕。しかし、切断面にも肉や骨の他に歯車らしきものがあった。

 そしてやはり痛覚はないらしく、片腕を失くしたことでバランスを崩しながら、それでも襲い掛かろうとするソレの『点』を突くことで完全に殺す。直後、それの死体が塵のように消えた。 

 これなら殺せる。数は多いが、殺せるのならば勝機はある。

 

「千束!」

 

 たきなが叫ぶ。千束が振り返ると、バットを持ったスーツ姿の男が千束に向かって走っていた。

 咄嗟に、千束は銃を撃つ。頭に1発、胸に2発。腹部に3発。しかし、男は少しよろけるだけで、倒れる様子はない。

 

「嘘でしょっ!?」

 

 振り下ろされたバットを咄嗟に避ける。千束は予備のマガジンをバッグから取り出してリロードをする。再び千束が銃を構えるが、

 

「えっ?」

 

 ストン、と。

 男の胸に、ナイフが刺さっていた。一瞬にも満たない硬直。塵になる男。

 目の前で、詩季が人を殺した。

 一瞬、足元がぐらつく。

 知ってはいた。詩季が、ガランサスやリリベルでどんな仕事をしていたかを。だが、此処に来てからは自分の我儘に付き合ってくれた。不殺。致命傷を負わせず、自分たちの手が届く限り、誰一人死なせないという自分のルール。ナイフを得物とする詩季に、どれだけ無理をさせていたかも、それなりに理解していたつもりだ。

 だから、本当にそれが人間ではない何かであったとしても、ヒト型のものを躊躇なく殺した詩季に、少しの喪失感を覚えた。

 

「......詩季...」

 

「千束。コレは人間じゃない。人間は、こんな死に方をしない」

 

「わかってる。......ごめん」

 

 何が?と詩季が聞くが、千束は答えられなかった。

 自分を助けようとしたのは、彼なりの善意だ。それはわかっている。だが、そのために、彼に殺人紛いのことをさせてしまった、というのは千束の中では重荷として圧し掛かっていた。

 

「さっき言った通り、さっさと逃げろ。篠原沙保里の安全が最優先だ」

 

「でも!」

 

「時間がない。気のせいか、連中の数、増えてるぞ」

 

「千束。雪城さんの判断は正しいです。これ以上は沙保里さんの命の保証は出来ません」

 

 そうたきなが言った。そうは言いつつも、本当でいいんですか、と詩季に目線で問いかける。ちらりと気絶した沙保里を見て、たきなに目を移す。それだけで、十分だった。

 

「行きましょう、千束。どういう原理か知りませんが、あれを止められるのは雪城さんだけです」

 

 車に寄りかかるようにして眠る沙保里をたきなはひょいと担ぎ、千束に促す。

 二人に言われたことで、漸く千束も詩季の提案に応じる気になったらしく、リコリコの方を向く。完全に納得しているわけではないだろう。だが、その上で千束はその選択をした。

 

「詩季」

 

「わかってる。無理はするな、だろ?」

 

「違うよ。...生きて帰ってこい、かな」

 

 死ぬつもりはないよ、と詩季は嗤って返す。

 直後だった。全方位から、囲っていたヒトが詩季に殺到する。千束やたきながまるで見えていないように避け、群衆として襲い掛かる。統率はなく、暴徒のように無秩序に振りかざされる凶器。振り返る余裕は千束とたきなにはなかった。ただ走る。いち早く沙保里を安全な場所に届け、詩季を助けに行くことしか千束の頭にはなかった。

 全力で走り、リコリコにつくまで何分かかったかも、千束はわからなかった。一般人をつれてきた千束たちに驚くミカとミズキに事情を説明するたきなを後目に、千束は予備のマガジンをバッグに入れる。

 今にも駆け出しそうな千束を、ミカが止める。

 

「待ちなさい。千束」

 

「でも!」

 

「少し落ち着け。それでは助けられる命も助けられん」

 

 ミカは千束の肩に手を置く。

 微かに震える、千束。

 

「詩季が不安なのはわかる。だがまずは、一度落ち着け。裏に原付がある。それと、」

 

 そう言って、ミカはカウンターの下からレミントン870を取り出し、千束に渡す。以前、この店によくリリベルが襲撃をかけていた時に自衛用にミカが用意したものであり、千束の使う非殺傷弾でありながら当たった時の反動は比べ物にならない。

 

「持っていきなさい。さすがにKSGは武器庫をあけなければならないが、それならすぐ使える」

 

「ありがとう、先生。たきな、沙保里さんをお願い」

 

「はい」

 

 そうたきなが返事を返すと、千束は走って外に出ていく。エンジン音が響き、遠ざかっていった。

 

 

 


 

 2

 

 数は、30を越えてから覚えていない。

 ひたすらに切断する。誰でもお構いなしに殺していく。

 バットを振り下ろす学生服の男の首にある『線』を切断する。

 包丁を構えて突進してくるエプロン姿の女の『点』を突く。

 あまりに脆い。

 作業に等しい行為だった。無策に向かってくるヒトを、ただ殺すだけ。ヒト型のものを殺すという、最初にあった抵抗感は完全に消え失せている。練習と同じだ。どれだけ上手く『線』にナイフを通すことが出来るか。どれだけ速く『点』を突けるか。

 振りかざされるゴルフクラブを弾き、そのまま『点』にナイフを通す。そのままナイフを走らせ、その背後にいた最後の一人の首と右腕にあった『線』を切断する。そして、無防備になった背後に見える『点』にナイフを突き入れた。

 その体が倒れる前には、もう塵になっている。

 もう此処には自分以外、誰もいない。

 体を包んでいた熱が消えていくのを知覚する。それに少しの不快感。

 一面に広がる灰色/赤色

 隙間なく敷き詰められた、灰の絨毯/血肉の絨毯

 目の前に広がる懐かしい光景。

 思わず、笑いがこぼれた。

 かち、かち、かち、かち。

 歯車がずれるような、ピントが合うような、妙な感覚。

 ああ、本当に──どうしようもない。

 

「それがおまえの『起源』だ。雪城詩季」

 

 背後から、重苦しい声が響いた。振り向くと、昔、何処かで見たことがあるような、黒い外套を着た男が立っていた。

 長身でがっしりとした体格であり、何か難解な問題を思考し続ける哲学者のような表情をしている。

 

「......『起源』?」

 

「人でいう前世──人や生物、物としての形を得るより更に先にある方向性。根源の渦の混沌の中で生じた衝動。それを我々は『起源』と呼ぶ

 わかりやすく言葉にするのならば、本能とでもいうべきものだろう」

 

 男はゆっくりと此方に歩いてくる。詩季はナイフを構えるが、意味はないと詩季自身でも感じていた。

 男には、『死』がとても薄い。『線』や『点』の数が少ない人間は見たことがあったが、その何方も集中しなければ見えないほどに希薄なのだ。

 最早生きているのか、死人が喋っているのかすらわからない。だが、男の歩みには人としての意志があった。先ほどのヒトとは違う。明確な意志がある。

 男はコートに覆われた右腕を上げて、徐々に近づいてくる。そして詩季の目の前で立ち止まった。

 

「おまえも理解している筈だ。何故おまえにだけ『線』が見えるのか。この三年間、感じてきた物足りなさの正体を。

 その飢えは、常人である内には一生満たされない。

 既にお前は『起源』を自覚している筈だ。

 だが、『起源』を覚醒させなければ意味がない。

 何にも囚われぬ超越者としての能力。常軌を逸した生命としての特別性──欲しくはないか」

 

 男の言葉は、まるで文字のように詩季の頭に響いた。

 飽和した詩季の思考に焼き付けるための、暗示を含んだ言葉。

 詩季が何かを応えようとしたときだった。

 

「詩季!」

 

 千束の声が、思考の空白を埋めた。直後、詩季はナイフを振るう。狙いは男が差し上げた右腕。頭に鋭い痛みが走る。目の奥を火花が散る。それでも、詩季は男を視る。其処までして漸く、男の死を捉えることが出来た。

 鈍い音を立てて、落ちる右腕。

 

「なに」

 

 男は驚きを漏らして、後退しながら左腕を差し出す。咄嗟に、詩季は横へ飛んだ。

 

「、粛」

 

 短い韻だった。

 その一言で、先ほどまで詩季のいた空間がねじれた。

 

「成程。私は迂闊だ。私が既に止まった生命であっても、こうやって生存させる源を断つ。それが直死の魔眼か。確かに、この場所ならば私は不利か。だが──其処の女を、殺すことは出来る」

 

 男の顔が、嗤いに歪む。握りこんでいた左腕が開かれ、再び握ろうとする。

 瞬間、詩季は勢いよく飛びかかる。男はナイフを腕で弾く。詩季はその勢いのまま跳び、男の後ろに着地する。銃声が鳴り響く。千束の使う非殺傷弾を、男は弾丸の機動を読んだ上で回避してみせた。背後から、詩季はナイフを振るう。しかし、男の死を詩季が貫くよりも先に、男の蹴りが詩季の横腹を蹴り上げる方が先だった。

 

「ぐぅッ......!!」

 

 そのままコンクリートの壁に叩きつけられた。一瞬、視界が白く染まる。それでも、まだ『線』は見えた。相手に迫るための足は動いた。ナイフを持つ右腕が動いた。

 そして、殺意も十分にあった。

 だが、詩季が飛びかかるための体勢を作り、飛びかかろうとする前に、男は消えていた。

 

「消えた......?」

 

 千束が呆然と呟く。どんな原理かはわからない。ただ、『線』も何も映らない。本当に、蜃気楼のように消えてしまっていた。

 

「大丈夫?」

 かけよる千束。しかし、それを見届けるまでもなく、詩季は意識を手放した。

 

 

 

 


 

 3

 

 結論からすれば、あの時の男やヒト型の正体はわからずしまいだった。何しろ、唯一の証拠は塵と化して消えているのだから。

 あの男が言っていた『起源』という言葉。もう少し、千束が来るのが遅れていたらどうなっていたのか、というのは安易に想像がついた。

 もし、自分が其方側に行ってしまったのなら。

 千束は、雪城詩季をきちんと殺してくれるだろうか。

 答えなど決まっている。多分ノーだ。

 でももし、そうやって自分が死を望むようになった時。

 自分を終わらせてくれるのは、慣れ親しんだ相棒が、丁度いいのだ。

 

 という話はさておいて。それから一日後。

 

「イチャついてんのをひけらかすからこうなるのよ」

 

 千束の携帯に保存された、沙保里とその恋人の写真をみながら、ミズキは言う。

 

「僻まない」

 

「僻みじゃないわ!SNSへの無自覚な投稿はトラブルのもとになるって言ってるのよ!」

 

 そう叫ぶが、羨望やら嫉妬やらが混じっていたのは事実だった。

 どれどれ、と探すミカ。詩季がその写真の端を指さす。

 

「リコリスの突入の3時間前だと。思いっきり出し抜かれたな」

 

「その女を襲ったやつらはどうしたのよ」

 

 ミズキがそう聞くと、千束はあっけらかんとした様子で、

 

「クリーナーが持ってった」

 

「あんた、またクリーナー使ったの!?高いのよぉ!?」

 

「DAに渡したら殺されちゃうでしょ」

 

 がっくし、とミズキがうなだれる。

 

「DAもあいつらのこと追ってるんでしょ?私たちが先に見つければ、たきなの復帰が叶うんじゃない?そう思わない?たきな!」

 

「やります!」

 

 食い気味に、リコリコの制服である和装に身を包んだたきなが奥から顔を出した。青を基調とした和服と、長い髪はツインテールに纏め、印象がかなり変わって見えた。

 

「おおー!かーわーいーいー!」

 

 椅子から立ち上がった千束が、たきなに抱き着く。

 

「ミズキも先生も詩季も集まって!」

 

 千束にせかされ、記念撮影をする。

 

「早速SNSにアップしたわー」

 

 喜々としてスマートフォンをいじる千束に、ミズキは呆れたように言った。

 

「君はさっきの話を聞いていたのかね。無自覚な投稿は──」

 

「大丈夫だって。此処には向かいのビルはないよ」

 

 そんな事を言っていると、ガラリ、とドアが開く。

 

「ほらお客さん!練習通りに!」

 

 金髪に高そうなスーツを着た男が入店した。

 

「やあ、ミカ」

 

 そう、男はミカに親しげに声を掛ける。たきな以外は見知った顔だった。

 

「「「いらっしゃいませ」」」

 

 そして、今日も一日が始まる。




 原作1話終了。次は2話ですかね。
 一応、ネタ枠と息抜きでリコリス・リコイル版『おしえてシエル先生』も考えています。
 
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