スノウドロップ   作:宮棟メルカ

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 2話の内容を入れた茶番回...というか短編集に近いです。
 投稿ペースが落ちているのは私が最近『total Tank Simulator』というゲームにはまっているからです。


The more the merrier
嘘つきと疑惑Ⅰ


 1

 

「護衛?」

 

 あれから数日後、仕込みなどを終わらせて開店までの一休憩を入れていた時、不意にミズキが詩季に話しかけた。千束とたきなは()()()遅く来るように指示されているため、

 

「そ。ウォールナットってハッカー知ってる?」

 

「さあ?」

 

「ま、アンタはパソコンもまともに弄れないから掲示板とか見ないものね。凄腕のハッカーらしいわよ」

 

「そんなハッカーがどんな依頼を頼んできたんだ?」

 

「なんかヤバい奴らに狙われてるから暫く此処に匿うのよ。まあ、千束とたきなには国外逃亡って言っておくつもりだけど」

 

 詩季が首を傾げると、

 

「命を狙われている者がそのターゲットから外れるには死んだことにするのが一番、ってことよ」

 

 そう言って、ミズキはノンアルコールビールを開けて飲み始める。千束やミカの前で飲むと咎められるので、こういう誰もいない休みの合間に飲むのだとか。

 

「たきなはわからないけど、千束はほら、嘘つくの下手くそでしょ。だから私がそのウォールナットの振りをして囮になる、って寸法よ」

 

「へえ。珍しくやる気があるじゃないか」

 

 詩季がそう言うと、気のせいか、ミズキの目の色が変わる。

 

「そのウォールナット、前払いで相場の3倍近い金額を払ってくれたのよ。ミカにも頼んで分け前は私と詩季の分は割高よ」

 

「...待て。囮役が危険だから手当が出るのはわかるけど、なんでオレまで?」

 

「ん?ああ、詩季は当日別行動で囮をやってもらう予定だからねー。ほら、何しろあいつらからすれば大物なわけだし、影武者がいた方があの二人の負担も減るでしょ」

 

 そうミズキは言うが、戦力的には一人でその襲撃犯の半数を相手しなければならないのだ。どうにも、割に合っていない。

 

「だから、この件は内緒よ。一応、ソッチのインカムでウォールナットが直接指示してくれるから大丈夫だと思うけどね」

 

 それじゃあねー、と言って、ミズキは立ち上がって調理場に向かう。はあ、とため息をはいて、詩季も仕事に戻る。勝手に大役を押し付けられた、というのもあるが、一番は、

 

「よりにもよって、オレ一人、か」

 

 動きやすい制服や服は未だしも、扮装用の衣装で動くとなると当然動きにくくなる。千束やたきなのような、警護の心得がある人間が近場に入れば、多少は楽が出来るのだが。

 

「待て」

 

 思わず、そんな独り言が出た。ミズキとの会話を思い出す。

 

『命を狙われている者がそのターゲットから外れるには死んだことにするのが一番、ってことよ』

 

 ああ。確かにそれは正しい。裏社会では、念入りに死んだことを確認するための専門の職人すらいる。逆に、一度死んだ人間を再び探す人間は少ない。確認作業は数日ががりで見分することもあるし、逃がし屋や偽造する人間は死を演出するために数ヵ月単位で計画を得る。銃やスナイパーによる暗殺に需要があるのはそのためだ。爆弾を使っての殺害は、生死の確認がしにくい。倒れたターゲットを死体と誤認することや、何らかの偶然で助かってしまう場合もある。近距離からの銃撃やスナイパーによる狙撃と爆弾や自爆ドローンを使った暗殺が流行るのはそのためだ。因みに、ターゲットが救急車に運ばれる直前に爆弾を括りつけたドローンを飛ばし、救急車に突撃させて救急隊員諸共吹き飛ばす、というのが最近のトレンドである。

 ミズキの言い分的に、自分も殺され役だろう。万が一、ということもある。

 

「......はあ」

 

 ため息をつく。詩季自身金には其処まで困ってはいない。ガランサス時代の貯金はまだ十分あるし、なんならDAの情報部を少し脅してやれば金は手に入る。つまり、詩季にとってはなんの旨みもない仕事だ、ということであり、何ならただの貧乏くじということだった。

 入口から聞こえる千束の声。それを聞いて、詩季も立ちあがる。いつか、ミズキに仕返ししてやるという思いをぐっと堪えながら。

 

 

 


 

 2

 

「たきな。今日は詩季の家にご飯を食べに行こう!」

 

 業務時間が終わり、ミカから明日の作戦についての打ち合わせが終わったころ。着替えを済ませた千束が帰ろうとするたきなを引き留める。

 

「ほら、まともな歓迎会とかやってないしさ、詩季の部屋に食材持ってその場で料理しちゃおう、って」

 

「お断りします」

 

「えー」

 

「そうしたら、DAに戻れますか?」

 

「うーん...チームワークが高まって、たきなの復帰が早くなるかも、というのはあるかも」

 

 ふむ、と少したきなは思案する。たかが夕食をともにした程度でチームワークが高まるとはとても思えない。だが、DAでもチームメイトと同室で暮らすことで仲間意識を高めたりするというものもあるので、全否定は出来ない。そして、少しでもDAへの復帰が早くなるのならば、それに越したことはない。

 

「......わかりました」

 

「よし、じゃあ早速スーパーに行こう!」

 

「ですが雪城さんって料理出来るんですか?」

 

 たきなはそう聞いた。詩季が厨房に立っている姿を、たきなは一度も見たことない。基本はホールスタッフに徹するか、それとも休んでいるかだ。見るからに料理をするような柄にはと到底見れない。

 

「本当に、簡単な料理ならかなりの出来だよ。パフェとかになると......ははは」

 

 思わず、というように苦笑いをする千束。その辺り、気にならなくもないたきなだったが、

 

「じゃあ早く行こう!お金は私持ちだからたきなも好きなのを入れてね!」

 

 殆ど誤魔化されるように、千束に引っ張られながらスーパーマーケットに向かって二人は歩き始めた。

 

 

 


 

 3

 

「............」

 

「......千束」

 

 玄関のドアを掴んだまま固まる千束に、たきなは思わず声を掛ける。

 食料を買い終え、其処から20分ほど歩いた先の高級住宅街に、詩季の住むマンションはあった。

 詩季の住む部屋のインターホンを押すが、一向に声が返ってくる様子がないので、ダメ元でドアノブを捻ってみると、鍵もチェーンも掛かってはいなかったらしく、ドアは開いた。

 問題は其処からだった。暗い1メートルほどの廊下とその先のリビング。玄関にある一足の靴。それは、いつも詩季の履いているスニーカーではなく、何処かの高校指定のローファーだった、ということだった。

 

「......あれー、おかしいな。部屋を間違えたかな」

 

「いえ。間違ってはいないはずですが」

 

 千束とたきなはドアについた表札を見る。雪城。滅多にない苗字が其処に掲げられていた。

 

「......よし、入ろう」

 

「いや。部屋主の同意なく入るのは──」

 

「大丈夫大丈夫。それにほら、これは確認だよ。たきな」

 

「確認って何の確認ですか」

 

 呆れながらたきなが聞くと、

 

「信用の問題だよ。詩季が夜な夜な女子高生を連れ込んでるなんて詩季への信用問題に繋がるでしょうよ。だからほら、此処は詩季の潔白を証明するためにさ」

 

 たきなが止めるより先に、お邪魔しますー!と言って玄関に入っていく千束。たきなからすれば、別に年齢的には近いだろうからそれくらい気にすることでもないだろうに、とも思うため、其処まで気にすることでもないだろうに。

 詩季の部屋は簡素なものだった。よくあるワンルーム。簡素なベッドと箪笥、炬燵があるだけだった。

 千束はその部屋の入口で固まっていた。千束に目線はそのベッドに注がれており、そのベッドには不自然な膨らみがあり、薄茶色の髪が見えていた。

 

「......ん...。詩季?」

 

 寝ぼけているような声が聞こえる。女性だ。

 

「千束。帰りましょう。あんまり、人の恋路に口えお挟むのはよくないかと」

 

 たきなはそう千束に言うが、反応はない。顔が驚きと戸惑い、赤くなったり青くなったりを繰り返してる。そうすると、

 

「......君たちは...ああ、リコリコの。詩季に何か用かい?」

 

 少し目が冴えたのか、ベッドに潜っていた少女は顔を少し出して言う。見るからに、具合が悪そうだった。茜色の髪を見て、ふとたきなは思い出す。たまに来店する常連で、いつもリンゴジュースやお茶を飲んでいく少女だった。確かに、たまに具合悪そうで、詩季が駅まで送り届けていたか。

 

「どうしたんだい?其処の黒髪......えっと、井ノ上さんだったかな。錦木さん、心此処に在らず、って感じだけど」

 

「あ、えっと...貴女は、詩季さんの恋人かなにかですか?」

 

 いまだにフリーズしたままの千束に変わり、たきなが聞くと、少女は首を傾げて、

 

「違うよ。あくまでも友人さ。たまにこう動けなくなることがあってね。そういう時はこうやって休ませて貰っているんだよ。別に、そういうやましいやましい関係じゃないよ」

 

「......あ、えっと、え?なんで有栖さんが此処にいるの!?」

 

 漸く帰ってきた千束が、少女──有栖に問う。

 

「だから、放課後に具合を悪くしたから詩季に此処まで運んでもらっただけだけど。というか、今は何時だい?」

 

 そう聞く有栖に、たきなはスマホを起動して時間を見る。午後7時。此処からなら、今すぐ駅まで車かバイクで送らなければ間に合わないだろう。

 

「午後7時過ぎです。有栖さんは何か宛があるんですか。もしないならば、近くのホテルまではついていきますが」

 

「別にいいかな。どうせ、詩季が泊めてくれるだろうからね」

 

 何の気もなさそうに放ったその言葉に、千束が再び固まる。

 どうせ?何度も泊まったことがあるのか?

 

「有栖さん」

 

 何だい、と返す有栖。千束は至って真面目な面持ちで言った。

 

「今日は少し女子会をしよう」

 

 そんな様子を見ながら、たきなは思う。もう本来の目的から離れているから帰ってもいいのでは、と。

 そう思い、玄関の方を見ると、

 

「......何してるんだ。お前ら」

 

 ビニール袋を片手に下げた詩季が、怪訝な目で三人を見ているのだった。




 
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