スノウドロップ   作:宮棟メルカ

3 / 16
プロローグⅢ

 

 1

 

 黒い外套を羽織った魔術師は言った。

 直死の魔眼。

 ソレは、ありとあらゆるものの『死』という結末を視る究極の未来視。

 『死』という概念を『線』や『点』という形で捉え、それを通すことで、万物に死を与える。

 故に、詩季にはある程度、生物の生命力を知ることが出来た。

 重症を負った者や、病によって蝕われている者、自らの死を望む者。余命僅かな者には、『線』が多い。

 しかし、目の前で目を輝かせながら、甘さの権化のようなパフェを食べている少女は違った。

 一見して健康体。精気に満ち溢れている。

 そんな人間が、何故こんなにも『()』にまとわりついているのか。

 

「どうしたの?一口食べて固まって」

 

 詩季を覗き込みながら、千束が言う。

 

「......ああ。単にぼー、としていただけ」

 

 まあともかく。

 今の問題はこの異様なまでに甘いパフェを処理するか、である。

 甘いものは好きだが、此処まで甘いものを食べたことはない。話題作りのために色んな唐辛子を突っ込んでひたすらに辛さを追求したものの甘いバージョン。思わず、よくこんなもの食べれるな、なんて思う。

 

「千束は...平気そうだな」

 

 そんな呟きにはてなマークを頭に浮かべる千束。よくもまあ、こんなものを食べられるものだ。

 ミネラルウォーターで口の中の生クリームやらカスタードクリームを流し込む。ああ、甘い。

 

「でもまあ、これで全部回ったのか?」

 

 保育園。日本語学校。日本のギャング,,,,,,所謂暴力団の事務所。もはやリコリスというよりなんでも屋のような役回りだ。

 

「一応これで終わりかな。そういえば、あの時言っていたけど、詩季って何語喋れるの?」

 

 日本語学校に臨時教師めいたことをやっていたときだった。

 ロシア語が出来るか、と聞かれたときに、残念ながら、他の言語なら喋れると回答したのだ。

 

「英語とドイツ語、アラビア語とヘブライ語は簡単なものだけ。他にも中東の民族言語を少し、片言でいいなら話せる」

 

 ガランサス自体、中東から子供を集めて構成員を集めている節がある。近年、日本は移民に寛容な国になってきている。しかし、その中に雇われテロリストが日本に渡航している。そして仲間で組織を作り、テロを起こす。

 そんな彼らに紛れ、計画を頓挫させるために働く使い捨ての歯車。命令されれば、銃で人を殺し、殺されることをよしとする子供たち。

 連絡要員としても重宝される彼らと話す機会もそれなりにあった。こっちに来て日本の文化を学ぶ過程で、日本語を教えたこともある。

 最も、詩季が教えた少年たちは一年前の()()()()で全員死んでしまっているが。

 

「DAで教える外国語とは全然違うんだ」

 

「まあな。ガランサスなんて、そんなものだ」

 

 命の単価は、リコリスやリリベルよりも安い。

 そして、詩季や彼らの価値もまた、安い。

 必要ならば、簡単に捨てられる。それは構わない。覚悟の上だ。

 だが、ガランサス内の内部闘争に付き合わされるのは、筋が違う。

 彼らと同じ歯車である、一介の人間が言えたことではないのだが。

 

「んー、じゃあリコリコに戻ろっか。そのパフェどうする?私が食べよっか?」

 

「いや、いいよ。後3分くらい待ってくれれば食べ終える」

 

 そう言って、詩季はスプーンを使って食べる。時刻は10時。

 なんか、これを食べたら昼飯なんかいらない気がするなー、なんて。

 そう思いながら、スプーンを進めた。

 

 

 


 

 2

 

「たっだいまー!」

 

 リコリコに戻ってきたのは、丁度12時になった頃だった。客入りは少ない。二人が来た時には、畳のテーブル席に三人の家族連れがいるだけだ。

 しかし、千束が入ってきた瞬間、数人の客が千束に声をかけた。本人の人柄もあるだろうが、やはり人望があるらしい。

 

「お帰り。ああ、あと詩季。少しこっちに来てくれ」

 

 洗いものをしていたミカが詩季を呼ぶ。詩季がついていくと、其処には紺色の着物があった。

 

「......これを着ろと?」

 

「一応、喫茶店だからな。任務以外は喫茶店の仕事をしてもらう。もちろん、給料は出る」

 

 その辺りは融通が利くのか、と思った。

 DAの実行部隊であるリコリスやリリベルに給料はでない。基本的に自由に使える金が出ない。明細書をしかるべき場所に出すか、必要に応じてクレジットカードを貰えることもあるが、任務に関係ないこと以外には使えない。

 よって、基本的に欲しい私物はただで貰えるものか、申請書を出すほかない。

 

「それ自体は構わないが、料理は出来ないよ」

 

「ああ、それに関しては大丈夫だ。ウェイターをやってもらうつもりだからな」

 

 ほれ、とミカは千束を指す。

 其処には、ミズキが作った料理を客の元に届けている千束の姿があった。

 

「千束みたいに愛想は良くはないぞ。オレ」

 

「ふむ......少し演技っぽくでもいいから、任務のときのようにやってみてくれないか?」

 

 そういわれて、詩季は目の辺りを少し揉んだ後、

 

「......お客様。ご注文はお決まりですか?......こんな感じでいいのか?」

 

「......ああ」

 

 少し間を開けて、ミカは頷く。

 

「どうかしたのか?」

 

「妙に手馴れているな、と思っただけだ。意外とこういう役をすることがあるのか?」

 

「いや、今のが初めてだよ。ガランサスじゃ役を作って何年もかけて潜入して暗殺、なんて滅多にないからな」

 

 そんなことを話していると、ドタドタと誰かが走ってくる音がする。

 

「今の声誰!?もの凄いイケメンボイスがこっちから聞こえてきたんだけど!?」

 

 目を血眼にして入ってきたミズキが、部屋中を見回す。それを見て、ミカと詩季が顔を見合わせる。ミカがアイコンタクトを送り、なんとなく詩季はそれを察した。

 

「お客様。ご注文はいかがですか?」

 

 直後、ミズキはギランとした視線で詩季を見た。

 例えるならば、飢餓状態の肉食動物が弱った獲物を見たときに向けるであろう視線、とか。

 

「今の今の!詩季、次は私の名前を今の感じで呼んでみて!」

 

「はぁ?なんでそんな面倒なこと......」

 

「いいから!」

 

 がっしりと詩季の両腕を握り、此方を見る。何処まで必死なんだこいつと思い、両腕を振り払ってやろうと行動に移す前に、

 

「なぁーにが名前呼んでみてだ未成年にまで手を出すな酔っ払い」

 

「痛ったー!なにすんのよ!」

 

 バシンッ、と千束がミズキの頭を叩く。頭を抑え、若干涙目になりながら言い合いを始める。ふとドアの隙間から店内を見ると、既に客は全員帰っていた。その辺りは流石にわきまえているらしい。

 詩季がミカを見やると、ミカもミカで肩をすくめている。

 互いに苦労人だな、なんて、これから起きるであろう苦労に思わずため息をつきながら、詩季は二人の言い合いを巻き込まれない程度に離れてミカと見守ることにした。




 多分次話辺り人を選ぶ話になります。
 まあ型月タグ入っているので察してください。
 因みに私はFateシリーズをプレイしてません。
 あくまでも空の境界(文庫)、月姫(漫画とリメイク版)、CANAAN(アニメと漫画)程度の知識しかありませんのでご容赦ください。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。