スノウドロップ   作:宮棟メルカ

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新しい夜明けⅡ

 0-1

 

 照りつける日差し。変わらぬ街並み。

 たった3年程度では変化しないもの。

 だが、万物には全て終わりがある。

 生命。街並み。意志(ミーム)にだって、終わりがある。その変化を成長と呼ぶか、退廃と呼ぶか。寿命と呼ぶか、忘却と呼ぶかは、人それぞれだが。

 彼女達との関わりにも、終わりがある。

 そういったことの『死』は見えないが。

 それが自分自身の終わりと別れ、何方の方が早いのだろう。

 なんて。

 柄にもないことを、考えてしまうのだ。

 

 

 


 

 1

 

 リコリコから数分ほど走り、大した渋滞にも捕まることもなく目的地に着く。

 住宅街からほんの少し離れた、巨大な学校。中等部、高等部制の学園。その校門前に、彼女はいた。薄茶色の髪に茜色の瞳。何処か気怠げな雰囲気を纏った少女がいた。

 宮棟有栖。

 詩季が千束やミカ、ミズキとは違い、DAやリコリス、ガランサス絡みではなく、普通の表の人間として接する唯一の人だった。

 単にあの時、運ばれた病院で偶然出会った少女。

 度々、詩季の部屋に訪れて、お菓子を食べて、少し話した程度の仲。

 退院後、連絡は取らず、詩季も有栖も互いのことなど忘れ、各々の生活に戻っていった。

 しかし、丁度2年前。有栖が漸くまともに病院から出られて、学校というものに通うことが出来るようになった頃。学校をさぼって訪れた暇つぶし先がリコリコという、あまり人の入りが多くない喫茶店だった。

 多少気づくのに時間はかかったが、それなりの友人として話をするようになった。

 そして現在。時折体調を崩したりする有栖を駅まで運んだり、リコリコまで運んだり病院まで運ぶ運転手...というには少し深い中だが、その程度の認識だった。

 詩季は車を歩道に寄せる。そして窓を開けて、冗談めかして、言ってやった。

 

「お客様。行先は何処にしましょうか?」

 

 詩季がそんな冗談を言えるのも、ある意味彼女の前だけだった。

 

 

 

 


 

 0-2

 

 人間は大人になるにつれ、誰もが仮面をつける。猫を被る、と言い直してもいいかもしれない。

 少なくとも『詩季(オレ)』はそうだと思っているし、そうであって欲しいという願望も持ち合わせている。

 『雪城詩季』という人間は、少なくとも千束やミカ、ミズキと出会うのがもしあの病院であったのならば、もう少しマトモな人間に直してもらえたのかもしれない。

 だが、そんな子供時代を、詩季は昔に捨てることにした。ガランサスとしての詩季と、リリベルだった詩季が決めたことだった。

 子供ではいられない、という思春期にあるという焦燥感よりも早く、使命感とも違う。『■■詩季』という人間の本性が、そうさせた。『雪城詩季』という内面(ソフト)が、崩壊しないように。

 ソレが開き始めたのはいつだろうか。目覚めた時か、或いは仕事として人を殺していた時か。それとも、あの化け物(クモ)と殺し合った時か。詳しい時期はわからない。

 たまに思うことがある。

 今の詩季は、本当の詩季なのか、と。

 

 

 


 

 2

 

「詩季?」

 

 対面に座っていた有栖が、耐えきれなくなって声を掛ける。

 

「......ん」

 

 詩季は目を開ける。

 ミネラルウォーターと近くのコンビニから買ってきたプリンを頬張る有栖がいた。怪訝な目で詩季を見る有栖。

 

「......寝てたか。オレ」

 

「寝てた、というより、何か考え込んでいた、という感じだったね。...全く、世話を任せられている分際で、ボクを放っておいて、他に現を抜かしていいのかい?」

 

 有栖はジト目で非難する。

 

「文句があるならお前の両親とミカにどうぞ。

 大体、プリンを食べる元気があるなら貧血を起こしたわけじゃないんだろ。さてはさぼりだな。お前」

 

 そう詩季が返すと、有栖は所在なさそうに此方を見る。

 

「軽い貧血だったのは、本当さ。......ほら、わかるだろう?一昨年は殆ど、去年だって半分近く学校にいなかったんだから、友人もいなければ知り合いすらいない。そんな人間が、居心地いいと思うかい?」

 

 有栖の通う学園は私立であり、殆ど出席日数が関係ないらしい。詩季も疑ってはいたが、実際に進級しているからそうなのだろう。更に言えば、大半を病室だったり自宅のベッドの上で過ごしている癖に、勉強は出来るのもあるのだろう。本人曰く、「他にやることがなかったらしい」が、元々有栖は賢い人間だ、ということもあるかもしれないが。

 

「それについてはごもっともだ。お前の体質は知っているつもりだよ。

 だけど、オレが呼ばれるうちの三回に二回以上は大した用事でもないのに呼び出して、挙句にリコリコやらオレの家に入り浸っているのはどういう了見なんだ?」

 

「そんな不服そうな顔をしているわりに、毎回すんなり入れるよね。君ってもしかしてツンデレというやつだったりするのかな?」

 

「単なる諦めだよ。後、今の言葉以上にゾっとするから二度と吐かないで欲しいね」

 

 互いにクスリ、と笑う。

 いつも通り。日常の会話。純粋に、詩季も有栖もそれを楽しむことができた。

 もしも、と有栖は思う。

 もし、詩季と自分に物理的かつ心理的な”壁”がなければ、どうなっていたのだろうか。

 そう思い至り、思わず有栖は笑う。そうだったのならば、たぶん関わることなんてなかっただろう。あの時、詩季が病院に運ばれて、同い年くらい(本当は幾つかは自分より年上らしいけれど)の少年がやってきて。

 そんな偶然がなければ、知り合うことすらなかった。だから、彼に抱く親愛はおそらく正しいものだろう。

 そんな風に思いながら、今を楽しむ。

 

「どうかしたのか?」

 

 そんな風に詩季は此方を見る。

 

「なんにも。単に、キミは女誑しだな、とね」

 

 失礼なことを、とため息をつく詩季。それを見ながら、有栖はあの喫茶店の店員の少女に同情する。

 中途半端に優しい癖に。聡いのか疎いのか、それもわからない。

 まあ、ともかく。

 今は、この時間を楽しもう、なんて。純粋に、有栖はそう思った。




 見切り発車ということもあって、ネタが思い浮かんでは消えてゆく...
 選択式のマルチエンドにしようか、短編扱いで書きたいことを時系列に関係なく書くか思案中。
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