スパイ系リコリス、一初アヤメの暗躍   作:秋葉とえ

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アニメのエピソードの合間の妄想。


幕間【出会いの4月】

 

 

 

 

 

【猫vsたきな round1】

 

 

 

「猫探し、ですか」

 

「そう、お猫様!にゃーご!」

 

 アランちゃんって言う子なんだってー、と猫の鳴き真似までして機嫌のいい千束とは裏腹に、たきなはとても不満げだった。

 たきながDAから左遷されて1週間、この支部での仕事は相も変わらず街のお困り相談のようなものばかり。DAに貢献して評価を上げ、本部へ復帰したいと願うたきなにとって、そうして過ごす日々はかなり焦れったいものに感じていた。

 今回の猫探しも、リコリスとしての評価に何の関係もないものだとため息をついたたきなに対して、千束は人差し指を立てて横に振る。

 

「ちっちっち〜。甘いな〜、たきなは」

 

「何がですか」

 

 その動作に少したきなはイラッとするも、続きを促す。千束はよくぞ聞いた、と言わんばかりに元気よく答えた。

 

「猫探しは、なんと!この私でも難しい超高難易度ミッションなのです!」

 

「そうですか」

 

「おいおい。もうちょっと乗ってくれてもいいじゃん」

 

 あっさり目を逸らしたたきなの腕を掴んで、千束は諭した。

 

「まあまあ、ここは騙されたと思って、ね?これも仕事なんだから」

 

 仕事ならば、と渋々たきなは了承した。

 こうして猫探しが始まったのだが、このときのたきなはまだ知らなかったのだ。猫という種のおそろしさを。

 

 

 

『ゴメンたきな、猫ちゃんそっち回った!塀の穴くぐってってる!』

 

「こちらから確認できました!私が前側に回り込みます!挟み撃ちしましょう!」

 

『よし来た!』

 

 あれから数時間が経過し、時刻は昼過ぎを示す現在。2人はリコリスとして鍛え上げられた身体能力を駆使して目標の猫を追いかけていた。猫を見つけるまではよかった。近隣住民の目撃情報をもとに猫の居そうな場所を虱潰しに歩くだけであっさりとその姿をとらえることが出来たのは運が良かったといえるだろう。

 しかし、猫を見つけてからは、もうかれこれ数十分はこうして追いかけっこを続けている。対人間暗殺のスペシャリストは猫の前にはあまりに無力だった。

 

 そして、やはり今回の挟み撃ち作戦も失敗に終わった。猫は塀や電柱を巧みに移動して屋根の上へと飛び移っていく。息も荒く膝に手をつくたきなに、千束は手を差し伸べた。たきなと同じように小一時間走り回っていたはずなのに疲れた様子はなく、全く息も切らしていない。

 

「たきな、大丈夫?」

 

「これが、はあっ、大、丈夫に、見えますか?」

 

 たきなは伸ばされた手を掴んで背筋を伸ばす。その様子を見た千束は腕時計で時間を確認すると、休憩を提案した。たきなは一も二もなく賛成した。

 

 

 

「まさか、猫も捕まえられないなんてリコリスとしてあまりに不甲斐ないです。この有様では本部への復帰など……」

 

「いやいや、おおげさだって!リコリスの訓練で猫の捕まえ方なんて教えられないし。多分、本部のリコリス、フキの奴だって捕まえられないんじゃない?」

 

 公園のベンチに座って水分補給をする2人。たきなはまさか自分が猫を捕まえられないとは思ってもみなかったので、かなり気落ちしていた。

 

「以前も猫探しをした事があるようですけれど、以前はどうやってつかまえたのですか?」

 

「つかまえたってより、運良く向こうから突っ込んできたからそこをキャッチ!って感じだったかな」

 

「あまり参考になりませんね……」

 

「あ!でも、必勝法がひとつあるよ。アヤメ呼ぶの」

 

「え、あの人を?」

 

 意外だ。実は猫のスペシャリストだったりするのだろうか。たきなはアヤメが猫を鮮やかにとらえる様を真剣に想像していた。

 

「スパイともなると、そのような特殊な訓練を受けるものなのですね」

 

「いや、そういうんじゃねぇから」

 

「では、どうやって?」

 

「それはねぇ……って、おー?」

 

 噂をすれば影とはよく言ったものだ。千束は道路の向こうに複数の買い物袋を持つアヤメとミカを見つけた。何故かミカ自身が買い出しに行っていたらしい。千束は2人に手を振りながら声をかけた。

 

「おーい!せんせー!アヤメー!」

 

「あ、千束先輩だ」

 

「ん?おー、千束かー!」

 

 それに気づいたミカとアヤメは横断歩道を渡って2人と合流した。

 

「先生、買い出し行くなら言ってくれれば良かったのに。お店は?」

 

「ミズキに任せてある。悪いな、さっき足りないものに気づいたんだ」

 

「店主が店を開けていていいものなのですか?」

 

 普通ならミカよりミズキが行くものではないかとたきなは疑問をぶつけると、ミカは困ったように笑った。

 

「当然、良くはない。だが、肝心のミズキが今日はかなり飲んでいてな……。店番の方なら常連さんたちが見守ってくれると言うので言葉に甘えて置いてきた」

 

 あの酔っぱらいめ……。千束はミズキのだらしなさに頭を抱える。そういうとこがモテないんだぞ、とも思った。

 

「で、僕は偶然通りかかったので荷物持ちです」

 

「うーん、アヤメが言う〈偶然〉は〈計画通り〉にしか聞こえない」

 

「ははは、酷い言われよう。ところで、先輩方はここで何を?」

 

「猫探しの合間の休憩。もうすばしっこいのなんの。そう、丁度こんな感じの子で……」

 

 と、アヤメの足元に近寄っていた猫に気がついた。

 

「って、あー、その子ー!!」

 

 叫び声に驚いた猫は、一瞬ギョッとしたように固まるとアヤメの体をするりと駆け上がった。わ、と声を上げたアヤメの肩の上に乗ると、彼女の頭を盾にして覗き込むような形で千束を見つめる。その様子を見てたきなは驚いていた。

 

「逃げない、ですね」

 

 先程までの猫の様子から考えれば、一目散に逃げ出してもいてもおかしくない。それなのに、今は警戒するにとどまっている。

 

「よし、アヤメ。そのままお願いね!私、依頼主さんに連絡するから」

 

 千束は端末を取り出して依頼主に電話をかけ始める。その横で、たきなは不思議そうにアヤメを観察していた。

 

 

 

 依頼主がリコリコまで受け取りに来てくれることになったので、千束達はそのまま4人で店に戻った。店はあれから常連さん以外の来店はなくトラブルも起きなかったそうで、ミカはホッと肩を撫で下ろした。

 

「ありがとうございます!見つかるとしてももう数日くらいは掛かるだろうと思っていたのですが、まさか、こんなにも早く見つけてくださるなんて」

 

「いいえー、大したことじゃないですよ!」

 

 来店した飼い主が猫を受け取りに来た。千束が話をしていると、常連客も集まってきて、話の内容は次第に猫談義に移り変わっていった。

 

「この子の模様、ちょっとフクロウみたいにも見えるでしょう?」

 

「たしかに、言われてみるとフクロウ……あ、だから、アランちゃんって言うんですね!」

 

「そうなの、アラン機関にあやかってつけた名前よ」

 

 たきなが猫談義で盛り上がる客や千束を眺めていると、飼い主が彼女にも近づいてお礼を述べた。

 

「あなたもありがとうね。大変だったでしょう」

 

「いえ、私は……」

 

 何もしていない。たきながそう告げようとしたところで、飼い主は時計に気づき慌てだした。

 

「あ、こんな時間!ごめんなさい、これから行かなきゃ行けないところがあったの」

 

 重ねてお礼を述べると、菓子折りと謝礼金を渡して飼い主は店を出ていってしまった。

 

「わ!このお菓子めっちゃ良いとこのやつだよ!たきなも見てみ……たきな、どうかした?」

 

 たきなはぼうっと出口を見つめていた。声をかけた千束の方を振り返ると、ぽつりと言葉をこぼした。

 

「私、何もしていないのにお礼を言われてしまいました」

 

「何もしていないって、そんなことないよ。私たちあーんなに頑張ったんだから。お礼受け取ってもバチは当たらないよ」

 

 千束はたきなが落ち込んでいると思い、励ましの言葉をかけるが、たきなはそれでもどこか浮かない様子だった。

 

「ですが、結局アヤメさんが来たから捕まえられただけで、私が今回の任務に貢献したとは思えません」

 

 ですので、とたきなは決意を込めた眼差しで千束を見た。

 

「次に猫探しの任務があれば、絶対に私の手で捕まえてみせます」

 

「……ん?んん?」

 

 なんか思ってたのと違うぞ。千束は首を捻った。

 

 

 

 

【酔っ払いの理由】

 

 

 

「ところで、なんでミズキは昼間っから泣きながら飲んでるわけ?」

 

 千束はカウンターで突っ伏す酔っ払いを指差す。常連客の北村は行儀が悪いと注意する。

 

「えーと、こういうの本人以外の口から広めちゃうのもよくないと思うんだけど」

 

「言っちゃっていいよ、北村さん。私が許可します」

 

「えー?あ、でも、どうせ後で聞くことになるもんね。千束ちゃんならいいか」

 

 北村は、ミズキが飲みながら喚いていた愚痴の内容を整理して話し出す。どうやら、昨日の合コンが原因らしい。

 

「昨日の合コン女性側に1人、急用でキャンセルがあったみたいで。代わりに人数合わせにお願いした人が来てくれたんだけど……」

 

「その女にミズキちゃんは負けちまったのさ」

 

「負けてねぇしぃ!」

 

 少しだけ言いづらそうにしていた北村の代わりに、もう1人の常連客、後藤が助け舟を出した。突っ伏しながらも聞いていたらしいミズキは急に起き上がるとそれに反論した。

 

「許せないのよ、あの女。こちとら、真剣な気持ちで合コンに望んでるって言うのに、「私は壁の花とでも思ってください」みたいな態度で!」

 

「予定外の参加だったから周りを立てたんじゃないか。奥ゆかしくていい女だ」

 

「そう!そんな感じで男共はこぞってあの女にデレデレしやがって、あの女も誘われたら「こ、困ります。明日も仕事なので」みたいな感じで全然強くないから押されちゃって!」

 

「それその人悪くないんじゃないかな」

 

「そう!悪くないのよ!だから、悔しいんじゃない!」

 

 許せねぇ、私もチヤホヤされたい、と言いながら酒瓶を抱き込むとまた突っ伏してしまったミズキを見て、そういえば、と千束は思い出した。

 

「もしかして、その合コンってアヤメがセッティングするって言ってたヤツ?」

 

「ちょっと先輩」

 

「あ、ごめん」

 

「ええ!?アヤメちゃん未成年だよね、そんなことまで出来ちゃうの!?」

 

 案の定、北村は大層驚いていた。裏の知り合いの内ではあけすけに怪しいアヤメであったが、それでも一般人の前ではきっちり隠す姿勢を見せていた。千束に抗議の視線を送ると即興で言い訳を作り出す。

 

「ちょっと語弊があります。実は僕の保護者って、すごい営業マンなんです。そういう人について回って育ったので、僕もそういうのに向いた美味しいお店を知ってるんです。それに今回の参加者を集めたのは、ミズキさんが前に勤めていた職場の人ですよ」

 

 すごい営業マン(仮)もミズキの前の職場の人も、どちらもアヤメ自身のことである。お店は仕事で使ったことのある場所を選び、参加者はDA関係者に声をかけた。

 

「びっくりした。アヤメちゃん大人なところあるから」

 

「なんなら、酒の味も分かってそうだよな」

 

「そんな、酒を分かってそうな僕の知るオススメのお店があるんですけど」

 

「お、それは気になるな。どこだ?」

 

 上手いこと話を流したアヤメの手腕に、千束は伊達にスパイじゃないと感心した。常連客のノリが軽いこともあるかもしれないが。

 それよりも、アヤメの言い訳を聞いて、千束はひとつ気になることがあった。

 

(DA関係者かぁ……もし知り合いとか参加してたらって思ったらなんか面白いかも)

 

 それでも、楠木司令だけは絶対にないだろうと除外した千束だった。

 

 

 *

 

 

「クシュッ」

 

 DAの司令室にてくしゃみの音が響いた。くしゃみの主は楠木の秘書だった。楠木は、周囲に謝罪する彼女にからかう様な言葉をかけた。

 

「昨日の人気者は、今日も噂が耐えないらしいな」

 

「え?……ええ!?司令、なんで知ってるんですか!?」

 

 大きな声を出してしまった彼女はまた小さくすみません、と謝った。

 昨日、秘書は突然に合コンのピンチヒッターとして呼ばれ、上手く断ることができずに参加する羽目になった。合コンの経験も興味も薄かった秘書は何故か男たちに言い寄られ、とても気まずい思いをした。

 参加者の1人の女性の手助けがあってなんとか誘いを断れたので、その人物にはとても感謝している。

 

「その合コンの発端はアヤメだ。任務のついでに現場で見守っていたと聞いたが、気づかなかったか?」

 

「全く気がつきませんでした……というより、任務、ですか?」

 

 合コン会場が任務と重なることがあるのだろうか。秘書は少し胡乱気だ。

 

「参加者の中に怪しい奴が紛れ込んでいたそうだ」

 

「まさか」

 

「調べによりスパイだと分かった。既に殺害済みだ」

 

 そういえば、男たちの中に1人だけやけにしつこく誘う者がいた。もしかして、あの男だとしたら。秘書はそう思うとゾッとした。

 

「アヤメから、危険な目に合わせてしまったとして詫びが届いている」

 

「お詫びよりも、そういう可能性があるなら事前に教えて貰える方がよかったです……」

 

 

 

 後に秘書の元は届けられたのはお土産の地獄蒸しプリンだった。男は地獄行きになったというメッセージだろうか。秘書は賞味期限のギリギリまで、食べることを躊躇してしまうのだった。

 

 

 

 

 

【ボドゲ会の大型新人】

 

 

 

 喫茶リコリコの定休日前の閉店後によく開催されるボドゲ大会。今回、この集まりに初めて参加する人物がいた。最近初めて店に訪れたばかりの客、吉松シンジだった。

 

「私はまだ常連でもないのに、参加させて貰って良かったのかい?」

 

「遠慮しないで、吉松さん。私たちみんな始まりはそうでも、気づけば常連になってるもんだから」

 

「そうだよ、ヨシさん!たきなのお客様第1号なんだから是非とも常連になってもらわないと!」

 

 その肝心のたきなは、ボードゲームに参加せず真っ直ぐ帰宅してしまった。曰く、ボードゲームはDA復帰に関係ない、とのことである。

 たきなが帰ってしまい常連達が悲しんでいたところに、突然アヤメが吉松を連れて入店したので、ミカは驚いてコーヒーを吹き出しかけた。

 

「すみません。つい、見知った顔だったので声をかけてしまって」

 

「いや、私としてもこんな面白い催しがあると知れて嬉しいよ。呼んでくれてありがとう、アヤメくん」

 

「どういたしまして」

 

 ミカは声を潜めて吉松に聞いた。

 

「……どういう風の吹き回しだ……?」

 

「……私が君や千束と遊びに興じたいと思うのは、いけないことかな……?」

 

「……いや、そんなことは……」

 

 などと囁きあっていると、阿部から声がかかる。

 

「じゃあ、お堅い話もそこそこに。吉松さん、ボードゲームの経験は?」

 

「いいえ、全くの初心者ですよ」

 

「それなら、簡単なやつからやりましょうか。まずは、これなんてどうです?」

 

 こうして、吉松を交えてボドゲ大会は始まった。

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

「コヨーテ」

 

「どれどれ……ぐわー!またやられたー!」

 

「ええ?ヨシさん強すぎるよー?」

 

 あれから数時間、様々なゲームに挑戦した吉松は驚くことにほぼ無敗の成績を誇っていた。心理戦の駆け引きや運の見極めが上手く、腕に覚えのあった常連たちは次々と敗北させられている。

 

「期待の超大型新人ね……実はボドゲのプロだったりするのかしら」

 

「ボドゲのプロって、そんなのいないよ」

 

「ははは、褒められて悪い気はしないね」

 

「……シンジ、本当に遊びに来ただけなのか……?」

 

 意外にも楽しんでいる様子を見て、吉松に含みがあると疑っていたミカは少し肩の力を抜いた。

 そんなとき、ゲームを続けようとした吉松の端末に連絡が入る。失礼、といって店の外に出た吉松は姫蒲からの着信に応じた。

 

「どうしたんだい、姫蒲くん」

 

『この時間になったらご連絡をいただける予定でしたが、ご連絡がなかったので確認の電話です』

 

 あー、と吉松は苦笑い。

 

「思ったより白熱してしまってね。待たせてすまないね、そろそろ切り上げるよ」

 

『私のことはお気になさらず。それでは失礼します』

 

 通話を切ると、横からコーヒーが差し出される。

 

「どうぞ、ミカさんのいれたコーヒーです。もう春とはいえ、夜は冷えますから」

 

「ありがとう、アヤメくん」

 

 アヤメから差し出されたカップを受け取り、口をつける。ああ、本当に美味しいコーヒーだ。吉松はミカと合わなかった10年の時の流れを感じて溜息をついた。

 そんな様子を見たアヤメは話を切り出した。

 

「ミカさんとは知り合いだったそうですね」

 

「ミカが自分から話したのかい?」

 

「いいえ。お二人がこっそり仲良さげなので、気になってミカさんから無理やり聞き出しちゃいました」

 

「そうか、どこまで聞いたかは知らないが、この話は秘密にしておいてくれるかい」

 

「ええ、もちろんですよ。アラン機関の吉松シンジさん」

 

 カチャリと銃が向けられる音。吉松はそちらには目も向けずに尋ねた。

 

「その話もミカから?」

 

「いえ、独自で調べました」

 

「そうか。優秀だな」

 

「……あなたの目的はなんですか。何故、今になって現れる」

 

 吉松はそこで初めてアヤメを見据えると、真剣な表情でその目的を端的に口にした。

 

「千束の使命」

 

「………」

 

「その様子だと君は知っているみたいだね」

 

 アヤメは吉松を強く睨みつける。吉松はその視線を受けて微笑んだ。

 

「君の目的も、千束だろう?」

 

「……だからといって、僕が協力すると思いますか?」

 

「さあ?だが、今の君は私を殺すことも出来ない。そうだろう?」

 

 そう問われたアヤメはほうっと息を吐いて、銃をしまった。

 

「しばらくは相互不干渉で行きましょう」

 

「助かるよ」

 

「よく言いますね、ここまで織り込み済みでしょう」

 

「なんのことかな。まあ、似たもの同士、仲良くやろうじゃないか」

 

 アヤメは苦虫を噛み潰したような顔になった。

 

「あなたに似ていると言われると不快です」

 

 アヤメはそこで気になることをひとつ思い出したので、本人に確認してしまうことにした。

 

「どうして、分かっていて僕の誘いについてきたんですか」

 

「私も、ミカや千束と遊んでみたかったのさ」

 

「……よく嘘つき呼ばわりされたり、言動を疑われたりしませんか?」

 

「やっぱり君もそうなのかい?」

 

「そういうところ嫌いです」

 

 

 

 二人は扉をくぐって店内に入った。先程までの剣呑な空気は存在しなかったように振る舞う姿はまさしく、似たもの同士であった。

 

「えー!ヨシさん帰っちゃうのー?」

 

「と言っても、もうそろそろいい時間だろ」

 

「私たち、明日もボドゲしに来るからそろそろ帰りましょう」

 

「伊藤さんは明日に締切あるんじゃなかったの?」

 

 吉松が帰ることを告げると、常連客も頃合だと片付けを始める。そうして、全員で片付けを終えると退店して行った。吉松も迎えの車が来たので乗りこもうとすると、見送りに出てきた千束に声をかけられた。

 

「ヨシさーん!また来てくださいねー!」

 

「ああ、また必ず来るよ」

 

 吉松はそう返してドアを閉めた。千束は走り出していった車が見えなくなるまで見つめていた。

 

「……また、来てくれるといいな……」

 

 千束はそっと呟いた。それを横で見ていたアヤメは千束に励ましの言葉をかけた。

 

「来てくれますよ。そのために仕事を頑張るって言ってましたから」

 

「ほんと!?あ、そういえば、さっき外でなに話してたの?コーヒー渡しに行ったら全然戻って来ないんだもん、なんかお話してたんでしょー」

 

 ねえ教えてよー、とやかましい千束を見ていると、アヤメはつい可笑しくなって笑ってしまう。

 

「ミカさんと千束先輩の、過去の笑える失敗談を教えあってたんですよ」

 

「えー!?プライバシー保護どうなってんだよー!」

 

 逃げるように店内に戻ったアヤメを追いかけて千束も店に入っていった。

 

 

 

 吉松は帰りの車の中で、運転席に座る部下の姫蒲に声をかけられた。

 

「ボードゲーム大会。楽しんだご様子ですね」

 

「そう見えるかい?」

 

「ええ、とても。先程から足を揺らしていらっしゃいますから」

 

 吉松は自分の行動を自覚して足を止めた。しかし、照れ臭そうに笑うと、

 

「ああ、とても。楽しかったよ」

 

 と、言葉を返した。

 

 

 

 

 

 





シンジ、生きろ。
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