傭兵は、タバサに先を越されないうちに小屋のチェストの中を探る。
時を戻す前は紋章石を持っていかれた(もちろんタバサが悪いわけではないが…)ことで最悪極まりない撤退戦になったので、先に宝を確保しなければならない。
(…あった。紋章石と『破壊の杖』。…それにしても、杖にはとても見えないな…)
ベレトが『破壊の杖』に触れると、左手が光った。…武器屋の時と同じように武器の使い方がわかった彼は顔をしかめた。
(…なんとも言えない感覚だ。知識をいきなり頭に叩き込まれるのは勘弁してほしいんだが…)
「あー!ちょっと、見つけたんなら報告しなさいよ!」
ルイズはベレトを指さしながら注意した。
「ああ、とりあえず自分が持っていてもいいか?」
「なくさないでよ?」
「なくさないなくさない」
ルイズとベレトが話していると、外からキュルケの悲鳴が聞こえてくる。
屋根を吹っ飛ばしながら現れたゴーレムは、タバサやキュルケの魔法にもびくともしない…。
「…撤退」
タバサが風竜に乗るのを見届けたベレトは、ゴーレムの方へ進むルイズに立ちはだかる。
「…そこどいてよ。あいつを倒せば、誰もわたしをゼロなんて呼ばなくなる!!
誰かに、認めてもらえるの!邪魔しないで!!」
「……ルイズ、君はなぜ戦う」
「……プライドのためよ!何時も馬鹿にされた人間の気持ちなんて、あんたにはわかんないわ!!」
ベレトは目をそらさない。
「…自分は、君が誰かのために涙を流せることを知った。自分が泣けたのは父親の死に際くらいだったから、正直言って羨ましいな」
「…なに言ってるのよあんた…。なんの話?」
「…目の前の傭兵が君のことを認めてるって話だ。ルイズ、自分は君のような人間の力になりたい。
たとえ君が世界の敵になろうが、それを全力で肯定する!」
「…うん、半分も理解できなかったわ!!世界の敵とかどうとかは置いといて……認めて、くれるの?
なにもできないのに…ゼロなのに…?」
ベレトは力強く頷いた。人生を諦めるには、まだルイズは若すぎる。なにもできないなんて悲観する必要も、本当はないはずだ。
(自分にできるのは、彼女が自分の道を見つけるまで守り続けることだ。)
ベレトは天帝の剣を取り出し、その窪みに紋章石を装着する。
紋章石から溢れるエネルギーが刀身をオレンジに染め上げたのを、ルイズは呆けた顔で見ていた。
「…その剣、なに…?」
「…ちゃんと見ているんだ、ルイズ。…君の呼んだ使い魔がどれだけの力を持っているのかを!!」
じゃらりと剣が分割され、ベレトは剣を振り下ろす。
背後から襲い掛かった刃は、ゴーレムの右腕を両断した。腕を破壊されたゴーレムは、ベレトを脅威として認識する。
「う、うそお…!?見た、タバサ!!あんな武器見たことないわ!
ゴーレムの腕を斬り落とせるなんて、凄い切れ味よ!?」
上空から様子を見ていたキュルケは興奮していた。
タバサの方も興味があるのかじっとその戦いを見守っている。
「さて、次だ」
ゴーレムの鉄拳に、ベレトは天帝の剣を思い切り振り下ろす。
天帝の剣はゴーレムの鉄拳を縦に切り裂き、ベレトはその亀裂に剣を突き刺した。
「どうすんのソレ…!?」
「こうするに決まってるだろう、ルイズ。」
まっすぐに伸びた天帝の剣が敵の腕を肩まで二つに切り裂いた。
両腕を破壊されたゴーレムは唯一残された胴体によるボディプレスでベレト達を潰そうとする。
傭兵はそれを迎え撃った。
「…これで、終わりだ…!!」
剣を伸ばしたベレトの連撃が、ゴーレムの身体をバラバラにする。
これこそが炎の紋章を持ったベレト専用の戦技、『破天』。
ゴーレムが土に還っていくのを、ルイズは呆然と見ていたが、へなへなと座り込む。
「…か、勝ったの…?」
ベレトはうなずいた。ゴーレムが倒されたことを確認した風竜が降りてくる。
「やったわ、すごいかっこよかった!!」
キュルケは興奮して抱き着こうとするが、ベレトはひらりとかわす。
一方タバサは崩れたゴーレムの残骸を見て呟く。
「フーケは、どこ?」
全員が困った顔で悩んでいると、茂みからミス・ロングビルが現れた。
「ああ、よかった!みなさん無事でなによりです!」
「ミス・ロングビル!フーケは見つけましたか?」
ルイズが質問すると、彼女は首を振った。…そして、ベレトの持っている剣に嵌まっているものに気づく。
「それに付いているのは、『竜の宝玉』!?…なるほど、剣の一部だったんですね」
「ああ、『天帝の剣』というんだ。……
「………ええ、ぜひ!」
彼女は天帝の剣を渡されると…すっと遠のき四人に剣を突き付けた。
「ふふ、ご苦労様!なんて愚かな傭兵かしら!!」
「な…!?いったいどういうことですか!!?」
ルイズの質問に、彼女は歪んだ笑みで答える。
「さっきのゴーレムを操っていたのは、わたし」
「…ええ!?ってことは、あなたが…!!」
「そう、わたしが『土くれ』のフーケ。…まさか、剣でゴーレムが破壊されるなんてねえ…!!
想定外も想定外だけれどこの武器は素晴らしい…!!」
タバサは杖を振ろうとするが、フーケが制止する。
「おっと、動かない方がいいわ。たった一振りするだけでゴーレムを両断できる剣よ?
そんな一撃を受けたら人間なんてひとたまりもないでしょうねえ?…杖を遠くに捨てなさい!」
ルイズ達は杖を放り投げた。続けてフーケが指示をする。
「そこの使い魔は武器を全て捨てな!」
ベレトは二本の剣と籠手を捨てる。
「…フーケ、なぜこんな回りくどいことをした?お前ほど悪知恵が働くなら、こんなことをしなくても逃げきれたはずだ」
「そうねえ…冥途の土産に説明してあげる。…わたしは二つの宝を奪った。
そこまではいいんだけれど、使い方がわからなかったのよ。振っても魔法をかけてもうんともすんともいわないから困ってたわ。
使い方がわからなければそれはがらくただものね」
ベレトは飛び出そうとしたルイズを抑えながら、続きを促す。
「…使い方がわからなかったわたしは、あなたたちにこれらの宝を使わせようと考えた」
「…なるほどねー、だからあたしたち学生をここまで誘導したの?
学院にいる人間なら使い方を知ってる可能性があるから」
「そうよ。知らなかったら全員ゴーレムで始末する予定だったけれど、少なくとも『竜の宝玉』の使い方はわかった。
ええ、感謝しているわ」
フーケは笑みを深めた。
「それじゃあお別れの時間ね。さよなら」
全員が目をつむった…ベレトを除いて。
「あら、勇気があるのね」
「ああ、それは脅威足りえないからな」
フーケはとっさに天帝の剣を振る。…が、ベレトが使ったときは変幻自在に伸びた剣はなにも反応しなかった。
彼女の腕に激痛が走り、血が噴き出したフーケは絶叫しながら剣を落としてしまう。
「ぎゃあああああ!!??」
銀の剣を即座に拾ったベレトは雷光のごとき速さでフーケに接近し、彼女の側頭部に蹴りを放つ。
崩れ落ちたフーケにベレトが声をかける。
「その剣は自分以外には使えない。無理やり使おうとすれば拒絶反応で身体が傷つく」
ベレトは気絶したフーケから天帝の剣を取り戻すと、ルイズ達に微笑んだ。
「土くれのフーケから宝を取り戻した、帰ろう」
フーケを捕らえ、さらに宝を取り戻した四人の報告を、オスマンはじっと聞いていた。
「なんてことじゃ…。まさかミス・ロングビルが土くれのフーケじゃったとは。
…美人ってこわいのお…」
「どこで採用したんですか?」
コルベールに尋ねられたオスマンは歯切れが悪そうに口をもごもごする。
「街の居酒屋で給仕をしとった彼女をセクハラしたんじゃが、怒らんかったので秘書をやってみらんかと誘ったんじゃ」
「くたばれエロジジイ」
「なんじゃとう!?君だってでれでれしとったではないか!!美人に頼られて、ホレられとるんじゃないかと思うのは当然のこと!!」
「うぐぅ…否定しきれない…。(…フーケに宝物庫の弱点言ったことはだまっとこう…)」
漫才をしていた二人は、四人からの冷たい視線に気づき咳払いで誤魔化した。
「さて、よくぞ『破壊の杖』と『竜の宝玉』を取り戻し、フーケを捕らえてくれた。これにて一件落着じゃ。
後日、この功績に応じた名誉が与えられるじゃろう。…具体的に言うとシュヴァリエじゃ。ミス・タバサには精霊勲章が授与されるじゃろう」
「…ええと、それって…わたしの使い魔にも…?」
「いや、彼は平民じゃからの…。残念じゃがそういうわけにもいかん。」
ルイズはベレトをチラ見するが、あまり気にしてない様子なのでほっとする。
「……さて、今宵は『フリッグの舞踏会』じゃ。君らの活躍のおかげで例年通り執り行うことができる、感謝するぞ。
ささ、用意をしてきなさい」
ベレトが動く気配がないのを見て、ルイズは声をかけた。
「ほら、いくわよ?」
「…すまないが、先に行っておいてくれ。聞きたいことが山ほどある」
「……そう?」
ルイズ達が出ていったのを見届けたベレトは、オスマンに問いかける。
「…さて、オスマン殿。どこで『竜の宝玉』を手に入れた?」
「…というと?」
「自分はこの世界の住人ではない。…それは『竜の宝玉』…紋章石に対しても同じだ」
「……なるほどのお…。あれは、紋章石というのか…。…三十年前のことじゃ。
わしは、火竜に襲われた。長い時を生き、そのブレスをまともに受ければ灰も残らん怪物じゃ。
…今思っても奇妙じゃ。繁殖期は過ぎていたはずなのにそれと劣らぬ獰猛さでわしを襲ってきたんじゃからな…」
ため息をついたオスマンは、当時のことを思い出すように続きを語る。
「…殺される寸前だったわしを救ったのは、あの『破壊の杖』の持ち主じゃ。彼はもう一本の『破壊の杖』を火竜に放ち、一撃で粉砕した。
…今でもはっきりと、彼の動きは脳に焼き付いておる。」
「……その命の恩人は、今どこに?」
「…死んだよ。酷いけがをしていてな…複数の金属の欠片が身体に突き刺さっていて、わしらメイジでも治せんかった。
わしはその二本の『破壊の杖』を、彼が使ったものは彼の墓に埋め、もう一本を恩人の形見としてしまいこんだのじゃ」
「…話を聞く限りだと紋章石には関係なさそうだが…、続きがあるのか?」
「そうじゃ。命の恩人の墓を作ったわしは、火竜に襲われた近辺を調べた。…そこで見つけたのが君が紋章石とよぶ石じゃ。
火竜は近くの生物を皆殺しにしておった…まるで、その紋章石を守るかのように…」
ベレトは少し落ち込んだ。これではなにもわからないのと同じだからだ。
「…その人も、別の世界から来たんだろうか。自分のいた世界ともまた違う、未知の技術を持った迷い人…」
「…彼は、死ぬまでうわごとのように『元の世界に帰りたい』と繰り返しておった。
…すまんのう、どうやって彼がこのハルケギニアに来たのか…それすらもわからんのじゃ」
「そう、か…」
ベレトの近くにふよふよ浮いていたソティスが口を開いた。
「おぬし!せっかくじゃからその手についた妙な力についても聞いとくべきじゃ!」
「…ところで、コレについてなんですが知ってることはありますか?」
ベレトは左手のルーンをオスマンに見せる。
「…うむ、コレのことならば知っておるぞ。伝説の使い魔ガンダールヴの証じゃ。
ありとあらゆる武器を使いこなし、主人を守ると伝えられておる」
「素人が一流の戦士に化けるわけか。伝説になるのも当然の力だな…」
「ガンダールヴは特別な使い魔じゃ、なぜ今頃になって発現したかはわしにもわからんということは理解してもらいたいのぉ…」
「…わかりました。時間を取らせて申し訳ない、オールド・オスマン」
「ほっほっほ!舞踏会、楽しんでくれたまえ!」
アルヴィーズの食堂の上の階は大きなホールになっており、着飾った生徒や教師が歓談している。
ベレトは『フリッグの舞踏会』を彼なりに楽しんでいた。テーブルの上の料理に舌鼓をうっていたのである。
「前から思っておったがよく食うのー。おぬしその体のどこに大量の料理が入るんじゃ…?」
「いやあ…イイ食いっぷりだね相棒」
ソティスはベレトの食いっぷりに苦笑いしているが、背中に吊るしたデルフは感心している。
「気合が入ってるな、平民も貴族も。…問題なく舞踏会ができてよかった、この料理が食べられるだけでもフーケを捕らえた甲斐がある」
「おや、先生!」
食事中の傭兵はギーシュに呼びかけられた。フォークを皿の上においたベレトは暇つぶしに彼と話をする。
「…ルイズは一緒じゃないのかい?珍しいこともあるんだね」
「四六時中一緒というわけでもないさ。それに女性の準備というのは男の数倍時間がかかるとどこかで聞いた覚えがある。
気長に待つのもいいものだ」
「うーん、そういうものかね?…おや、見てくれ先生!キュルケがこっちにきてる」
「………やっぱり帰ろうかな…」
楽しそうにこちらに向かってくるキュルケは、複数人の男たちを引き連れていた。
「ハ~イ、楽しんでるせんせっ?」
「後ろに群がってるのが気になってしょうがないだが…」
「ああ、後でダンスをする約束なのよ。あなたもどうかしら」
ベレトはこの群がってる連中と仲間になりたくないのでもっともな理由をつけて断った。
「いや、やめとく。彼らの後に踊れる時間が残ってるとは思えないし」
「…あら、そう?(…本命は釣れず、かぁ…。ま、いっか)」
キュルケは群がる男どもにエスコートされていった。
「…ところでギーシュ、君二股してた女の子たちに謝ったか?」
「謝ったよ。思い切りひっぱたかれて、それ以降女子が近づかなくなった。噂って一日も経たずに広がり切るんだね…」
「まあ人の心を傷つけた授業料だと思えばいいさ。大人になってやってたら殺されてたかもしれない」
「…そうだね」
そうやってギーシュと話していると、ホールの扉が開かれホワイトドレスに身を包んだルイズが入場した。
到着を告げる衛士の大きな声が会場に響き渡ると、参加者が全てそろったことを確認した楽士たちは音楽を奏で始める。
バッチリおめかししたルイズの美貌に驚いた男たちがダンスを申し込む。普段バカにしてノーマークだったくせに少女の美貌にメロメロになっている彼らはあまりに見る目がない。
「…そこどいて」
ルイズは愚かな男たちの誘いに見向きもせず、ベレトのいるバルコニーへと足を進める。
それに気づいたギーシュはベレトの背をたたく。
「おや、先生。どうも彼女の目当ては君らしいぞ?……じゃあ、また後で」
「…ああ、ダンスの相手、見つかるといいな」
「ずいぶん楽しそうね、なにを話してたの?」
ルイズはベレトに尋ねるが、彼は笑ってごまかした。男同士の雑談なんて女子が聞いたところで楽しくないだろうと判断したのだ。
「…踊らないのか?」
「相手がいないわ」
「…さっき山ほど誘われてたように見えたが…」
ルイズはその疑問に答えずに、すっと手を差し伸べた。
「踊ってあげてもよろしくてよ?」
「そういう言い方すると自分はここでずっとごはんを食べるだけの置物になるぞ。
…第一、ダンスは苦手だ」
「ええ…。………………しょうがないわね…。…わ、わたしと一曲踊りませんか?」
恥ずかしそうに顔を赤らめるルイズはベレトから見ても魅力的に映った。
「…生徒に恥をかかせるわけにもいかないな。さあ、踊ろうか」
ベレトは彼女の手をとり、ホールの中央に向かう。傭兵は口では苦手だと言っていたものの、完璧にルイズに合わせてみせた。
「…ねえ、あんたはどこからきたの?あんな剣見たことないし、無茶苦茶強いし」
「…別の世界から来た、と言っても信じられないと思うが」
「……信じるわ。別の世界って、どんな場所?」
「…やっと戦争に一区切りついたばかりなんだ。行方不明になってみんな不安にしてしまったかもしれないな…。
…でもきっと大丈夫だ。自分がいなくとも教え子たちは未来を創っていけると信じている」
「……帰りたくは、ない?」
ベレトは悲しそうな顔で笑みを浮かべた。ルイズはきゅっと胸が締め付けられる感覚を覚える。
「できることなら帰りたいが、帰る方法もまだわからないからな…。なに、気長に探してみるよ」
「…そう。しばらくはわたしの使い魔ってことでいいのね?」
「ああ、それは安心してほしい。…ところで、なにか言いたげだな?」
「あんたの呼び方、考えなきゃいけないなあって思ってたの。…一つ候補はあるんだけど、一回呼んでみても、いい…?」
「……まあ、微妙だったら後で一緒に考えようか」
ルイズは緊張しているのか深呼吸をして落ち着こうと努力している。
彼女が決心するのにさほど時間はかからなかった。
「…せ、
「!!!??」
驚いたベレトはルイズに足を踏まれ悶絶する。足を動かすのをうっかり忘れたのだ。
「ちょ、ちょっと!?だ、大丈夫…!?」
「い、いったぁ…!あー、びっくりした…。まさか、また
「え、もしかして迷惑だった!?」
「…いや、大丈夫だ。…これからよろしく、ルイズ。」
「ええ、
再び踊りだした二人を、女神と剣が見守っている。
「ほっほっほ、楽しそうじゃのー」
「おでれーた!!主人のダンス相手をつとめる使い魔なんざ初めて見たぜ!!たいしたもんだ!!」
<今回のボス>
【土くれ】 フーケ
本人は戦わず、彼女のゴーレムと戦闘。普通に放った『トライアングル』の魔法では傷一つ付かないタフな敵。
風花雪月でよく出てくる9マス魔獣と同程度の戦闘力がある。
ステータスとしては力と魔防が高く、素早さが低い。
障壁のせいで守備が硬くなっているため、計略が使えれば有利に戦えるだろう。
…ベレトは天帝の剣でごり押したが…。