ゼロと師   作:シャザ

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1章 アルビオン反乱

 ルイズは夢を見ていた。生まれ故郷のラ・ヴァリエールの領地でのことだ。

 いつも落ちこぼれの彼女は母に姉たちと比べられて叱られていた。…そういう時彼女はいつも、中庭の池に浮かぶ小舟に逃げ込むのである。

 そこは、彼女にとって唯一の安全地帯だったのかもしれない。

 

(…わたしだって、おねえさまたちみたいに魔法がつかいたいな…。そしたら怒られることもなくなるのに…)

 

「泣いているのかい、ルイズ」

 

 毛布にくるまっていた彼女は声の主の少年が誰か知っていた。

 つばの広い羽根つき帽子をつけたかっこいい年上の貴族で、最近近所の領地を相続した子爵。

 みっともないところを見られちゃったと、ルイズは顔を隠した。

 

「あわわ、いらしてたの子爵さま!」

 

「ああ、きみのお父上に呼ばれてね」

 

 小さなルイズは胸がポカポカとあったかくなった。…だってそれは自分と大いに関係あることだからだ。

 

「…子爵さまはいけないひとね」

 

「…ルイズ、きみはぼくのことが嫌いかい?」

 

 ふるふると首を振ったルイズはまだ六歳、彼のことは嫌いではないけれどよくわかんないのだ。

 恋とか愛なんてものは、小さな少女には遠いところで起きていることと同じくらい実感がない。

 その様子に子爵はにっこりと笑う。

 

「ミ・レィディ、そろそろ晩餐会が始まるよ。手を貸してあげよう」

 

「…でも、おかあさまに怒られてたとこを逃げちゃったから…」

 

「大丈夫、ぼくからお父上にとりなすよ」

 

 ルイズは差し伸べられた手に胸が高鳴った。

 その手を取ろうとしたその時、風で帽子が飛んで行った。…濃い緑の髪の青年がそこに立っている。

 困惑するルイズは十六歳の姿になっていた。

 

「…あ、あれぇ!?なんで(せんせぇ)がここに…?」

 

「…ほら、行くぞルイズ」

 

「い、行くってどこに?」

 

 ベレトはふむ…と数秒考えこむ。

 

「…君が望む場所に」

 

「……とりあえず座って、(せんせぇ)。わたしね、決めたわ」

 

 彼女は傭兵に座るよう促すと自分の目標を語る。…その様子をベレトは静かに聞いていた。

 ルイズは夢だと気付いていたが、そのまま話を続ける。

 

(せんせぇ)、わたしを見ていてね」

 

「………ああ」

 

 

 うーんと寝言を言うルイズの睡眠妨害にならないように剣の手入れをしていたベレトは、ふと少女の方を向く。

 なにやら自分の名前が呼ばれたような気がしたのだ。手を止めていたベレトに、ソティスが話しかける

 

「…どうしたのじゃ?剣の手入れはまだ済んでおらぬぞ」

 

「ああ、なんだかルイズが寝言で呼んでたような」

 

「気のせいじゃろ。それよりそのうるさいなまくらを研いでやらんか」

 

「相棒、もう研いでくれねーのか??」

 

 研いでも研いでも錆が落ちないデルフリンガーに、ベレトはため息をつく。

 

「そうは言っても、ここまでやって錆が落ちないとなると…。君になにか原因があるんじゃないか、デルフ…」

 

「そんなー。俺だって傷つくんだぜ相棒!」

 

「…そういえば、君にも聞いておきたいことがあったな。…君の前の相棒についてだ。

つまりそれは、ガンダールヴってことでいいのか」

 

「……ガンダールヴ…。…ああ、そのハズだ。…もうほとんど忘れちまって、そいつの顔もおもいだせねえが…。

わりぃな、相棒」

 

 錆だらけのデルフリンガーは、もはや何百年も昔のことなど忘れかけているようだ。

 

「いいよ、前の相棒の話は聞きたかったけれど…思い出したらまた話してくれ」

 

「ああ、そうさせてもらうぜ」

 

 デルフを鞘に納めたベレトは、ソティスの方を向くとにっこりと笑顔になった。

 

「…む?わしと話したいのか?」

 

「ああ、あの紋章石と『破壊の杖』のことで。…あれらも自分たちと同じで、この世界のものではないんだよな。

自分はルイズに呼ばれたけれど、誰が何のために持ち込んだんだろう…」

 

「あの『破壊の杖』とやらについてはわしもわからんぞ。そもそも使ってるところを見てないのじゃからイメージもできぬ。

じゃが、あの紋章石についてはなんとなーくわかったことがある」

 

「…というと?」

 

「…複製ではないということじゃ。闇の中でうごめいとった地虫どもなら紋章の力を持ったレプリカを造れそうな気もするが…。

わしにはわかる、これは…おぬしの中にあった紋章石そのものよ」

 

 ベレトの左胸、心臓のある位置に彼女は触れようとするが、実体のないソティスはすり抜けてしまう。

 

「…ああ、もしかしたら。…志半ばで討たれた、異世界のおぬしのものかもしれぬな…。

…いかんな。こうしてここにある時点で、嫌な想像ばかりしてしまう」

 

「…でも、こうして生きてられるのは紋章石があったからだ」

 

「そうじゃな。…なんとも複雑な気分ではあるが、よく生き延びてくれた」

 

 ソティスは微笑んだ。月の光に照らされた幼い姿の女神は、ハッとするほど美しい。

 その時、ルイズがもごもごとベッドから出てきた。寝ぼけ眼でベレトを見つめていたが、すぐに口を開く。

 

「…おはよ。……寝てないの?」

 

「いや、少し寝たものの目が覚めてしまってな。さっきまで剣の手入れをしていた」

 

「そう。…ねえ(せんせぇ)、頼みたいことがあるの。……剣を教えて!」

 

「…別にいいが…。…どういう風の吹き回しなのか聞いても?」

 

 ルイズは頬を軽く掻くとその問いに答える。

 

「…(せんせぇ)は認めてくれたけど、このままゼロのルイズで居続けるわけにもいかないわ。

今すぐ魔法が使えないならいっそ武器を使えればって思ったの」

 

「…驚いたな、魔法が使えなくてもいいのか?」

 

「よくないわ!でも、まずはできることを増やしたいの。このまま待っているだけじゃ何も変わらないから」

 

「…そうだな。……といっても自分の剣以外は持ってないから、どこかで手に入れる必要がある」

 

「うーん、今持ってるお金で買えるかしら…」

 

「どちらにせよ、武器を探すのはまた今度だ」

 

 ベレトはわら束のところに戻る。

 

「それじゃ、もうひと眠りしておこうか。明日も授業があるんだろう?」

 

「そーね。…じゃあおやすみ」

 

 

 フーケの襲撃から一週間後、朝食を食べた生徒たちが集まる教室はざわめいていた。

 最近フーケが捕らえられたという情報は彼らも知っていたが、捕らえたのは貴族ではないらしいという噂が流れ始めていたからだ。

 …その情報源はキュルケだった。生徒たちにとって彼女の口から出る情報が真実かは興味がない。楽しければそれでいいのである。

 

「…さっきから見られている気がするな…」

 

「無視しなさい、無視!…~~♪」

 

 ルイズは腰にぶら下げたレイピアに上機嫌だった。虚無の曜日に古市で見つけたそれは、かつてフーケ対策に貴族たちが従者へ与えていたものだ。

 フーケが捕まり安心した金持ちたちはすぐに武器を手放し、市場に多くの剣が出回った。

 ルイズが武器が欲しいと言った二日後、ベレトはほぼ投げやり気味に安売りしていたレイピアを発見し彼女に見せた。

 彼女は新品同然のそれを一目で気に入ったので購入。ベレトから手入れの方法を教わった翌日、ルイズは早速腰に下げてみたのである。

 

「あら?ルイズ、それどうしたの?」

 

「…キュルケ。ただのレイピアよ、魔法なんてかかってないわ」

 

「……へー?せんせいに近づきたいから?…形から入るタイプだったのね」

 

「…悪い?」

 

 キュルケは意地悪そうな笑みを浮かべる。まるで新しいおもちゃを手に入れた子供のようだったからだ。

 彼女は性格が悪いのでこういういじりがいのあるやつが大好きなのだ…。

 

「あら、いいじゃない。魔法も使えないゼロのルイズにはお似合いよ?

いっそ貴族もやめて平民になっちゃえば??」

 

「ふんっ!今のうちに言ってなさい、二度とゼロなんて言えなくしてやるわ!」

 

「…………。…ねえせんせ、ヴァリエールがおかしくなったんだけど…。

挑発に乗ってこないわ」

 

「そもそも挑発をしないでほしいんだが」

 

 そうやって話していると、教室にミスタ・ギトーが現れた。

 フーケの一件ではミセス・シュヴルーズを責め、オスマンになだめられた教師である。

 まだ若そうなのになんだか陰気なオーラを纏っているためか人気はない。

 

「では授業を始める。…知っての通り、私の二つ名は『疾風』。疾風のギトーだ。

…では、最強の系統がなにか知っているかねミス・ツェルプストー」

 

「…はぁ?そんなの自分の系統以外を言うメイジがいます?」

 

「ふん、青二才め。そんなに言うならご自慢の『火』で私を焦がせるが試してみたまえ」

 

「……火傷じゃすみませんよ」

 

 キュルケは杖を抜く。その様子をみたギトーは挑発する。

 

「本気できたまえ。その赤毛がそ め も の ではないならね」

 

 カチンときた彼女は一メートル以上の火炎球を生み出すとギトーに向けて放つ。

 ギトーは余裕を崩さずに杖を一振りした。

 …たったそれだけで火球はあっけなく鋭い疾風に切り裂かれ、キュルケは吹き飛んだ。

 ガシャンと机を巻き込んだ彼女が血を吐きながら睨むのを、ギトーは満足そうに見つめた。

 

「諸君、これこそが最強の系統である『風』だ。すべてを薙ぎ払う暴風の前には、『火』も『水』も『土』も無力!!

…試したことはないが、伝説の系統『虚無』ですら吹き飛ばせるに違いない!!それこそが『風』だ!」

 

 自信満々に自説を垂れ流すギトーに、ベレトは手を挙げる。

 

「…なにかね?平民のきさまに質問の権利を与えた覚えは……」

 

「ならなんでフーケの時率先して捕まえようとしなかったんだ?」

 

「………ハァ?」

 

「最強の系統なんだろう?貴方の理屈が真実なら、フーケのゴーレムなんか何の脅威にもならないはずだ。

…強さだけでなく弱さも語れないなら、教師としてそこに立ってはいけない。…その場所は、くだらない自尊心を満たすための舞台じゃないぞ…!」

 

「き、きさま…!フーケごときを捕らえていい気になっているようだなァ…!

身の程を知れ、平民風情が!!」

 

 ギラリと血走った目で杖を向けたギトーに、ベレトは銀の剣を抜く。

 殺気が教室に充満し、生徒たちは生唾を飲んだ。

 

「吹き飛ぶがいい、平民!!」

 

 ギトーの放った暴風を、ベレトは銀の剣で斬り上げた。

 

「…はッ!!」

 

 ベレトの剣が鋭い疾風の一撃の中心点を切り裂く。…戦技の一つ、『風薙ぎ』。

 本来であればその剣に風を纏わせ敵を遠くに吹き飛ばすことで敵の反撃を防ぐ戦技だが、うまく使えば風の魔法を敵に跳ね返したり相殺できるのだ。

 

「……吹き飛ばすのではなかったか、ミスタ・ギトー?」

 

「…チィッ!その程度の『風』は小手調べよ、ここからが『風』の神髄だ!!」

 

 にらみ合う両者の沈黙は、突然の侵入者によって破られた。

 やけに気合の入った格好をしているコルベールである。金髪のカツラで寂しい頭を『武装』している。

 

「ミスタ・ギトー!失礼しますぞ!」

 

「…帰り給え、ミスタ・コルベール。…授業中だ」

 

 コルベールは魔法で荒れた教室を一瞥するとため息をつく。

 

「…私には生徒を放って決闘しているようにしか見えないですなぁ…」

 

「……ぐっ…!」

 

「ええ、生徒の皆さんにお知らせです。今日の授業は全て中止です!!」

 

 数秒の沈黙の後、生徒から大歓声が上がった。

 コルベールはもったいぶった調子でのけぞる。…そのせいでカツラが床に落ちた。

 

「……すべりやすい」

 

 タバサがコルベールを指さして放った一言で、教室が爆笑に包まれた。

 傷を応急手当てしたキュルケが笑いながらタバサの肩をぽんぽん叩いて言った。

 

「あなた、たまに言うわねー」

 

 当然のことながらコルベールは怒りだす。

 

「ええい、黙りなさいこわっぱども!!大口で下品に笑うなど言語道断ですぞ!

せめてこっそり笑いなさい、王室に今の光景なんぞ見せたら教育が疑われてしまう!!」

 

 教室中はおとなしくなった。…が、傭兵は楽しそうに笑顔でコルベールに忠告する。

 

「そんな明らかにカツラだとバレるようなものよりもっとさりげないのを付けた方がいいと思うぞ、ミスタ・コルベール。……ふふっ」

 

「今笑ったの気づいてますよ!?…えー、おほん。

…今日はこの学院にとって良き日であります。

…恐れ多くも、先王陛下の忘れ形見、我がトリステインがハルケギニアに誇れる可憐な花、アンリエッタ姫殿下がこの魔法学院に行幸なされるのです」

 

 生徒たちがざわめくのを、ベレトは興味深そうに見守っていた。

 

(どんな人間なんだろうか、その姫殿下は。…一癖あるのは確かなんだろうが…)

 

「そういうわけでこれから全力で歓迎式典の準備を行います。生徒諸君は正装し、門に整列すること!

いいですな!しっかり杖を磨いておくとなお良しですぞ!」

 

 

 魔法学院の正門を、煌びやかな馬車が通る。それを引くのは王家の紋章にもなっているユニコーンだ。

 王女一行が現れたのを見た生徒たちは、一斉に杖を掲げる。

 

「トリステイン王国王女、アンリエッタ姫殿下のおなーりー!!」

 

 しかし、現れたのは王女ではなくおっさんだった。枢機卿のマザリーニである。

 この男、トリステインの民から人気がない。生徒たちが一斉に鼻を鳴らして馬鹿にする程度の人望であった。

 マザリーニは慣れてるのか、気にする様子もなく王女の手を取る。

 

(…なるほど、確かに可憐な花と呼ばれるだけはある)

 

 …ベレトも思わず目を丸くする程度には、アンリエッタは美人だった。

 

「あれがトリステインの王女?…あたしの方が美人ね!」

 

「…キュルケ、そういうことはあんまり言うものじゃないぞ」

 

「あら、せんせはああいうのが好み?」

 

「…ご想像にお任せするよ…いたいっ!」

 

 ベレトはルイズに足を踏まれた。キュルケと話してたのが気に食わなかったのかとベレトは考えたが、ルイズは彼を見ていなかった。

 

「……ルイズ、何を見てるんだ…?」

 

 ぽやーっとしている彼女の視線を辿ると、その先には羽根帽子を被った凛々しい貴族の姿があった。

 おそらくは王女殿下の護衛騎士なのだろう、幻獣グリフォンに跨っている。

 ルイズの顔は赤く染まっていた。

 

 

 夕方、ベレトは講義のためにヴェストリの広場にいた。いつも室内なのに今日は外なので、ギーシュは疑問に思った。

 

「先生、今日は何をするんだい?」

 

「ああ、今回は知識じゃなく経験を積もう。ギーシュ、今日のルイズを見て、なにか気づかないか?」

 

 ギーシュはルイズを観察するが、彼にはいつものルイズに見えた。

 

「…いつものルイズに見えるんだけど…。ヒントはないのかい?」

 

「はぁ……。しょうがないな…、ヒントは腰だ」

 

「…こし……」

 

 ギーシュはルイズに近づくと彼女のスカートをめくろうとする。ルイズの蹴りがギーシュの腹部に深く突き刺さった。

 

「きゃあああああ!?なにすんのよ変態!!」

 

「ぐあああああ!!??」

 

「なにしてるんだ二人とも…」

 

 ベレトは呆れた顔で生徒たちを見る。

 

「なんでスカートの中を確かめようとするんだ、そこまで近かったら視界に入ってると思うんだが…」

 

「し、視界…?…あ!ルイズ、その剣はいったい…」

 

 ルイズはどや顔をして説明する。

 

「ふふん!わたし、(せんせぇ)に剣を教わることにしたのよ!」

 

「へー、確かに先生の剣技はすごいけど、教わってなんとかなるのかい?」

 

「任せてくれ、どんなへなちょこでもある程度はなんとかなるレベルには教えられる。

…まあ、どこまで熱心にやるかはルイズ次第だが」

 

 しかし、あまりベレトは心配していなかった。ルイズが真面目なことは、この二週間でよくわかっている。

 

「今日は初めてだから、型の練習がいいか」

 

「僕はどうすれば?」

 

「ワルキューレを一体だけ出してから槍の訓練かな。精密操作ができるようになれば戦略の幅もぐっと広がるだろう」

 

 ギーシュはワルキューレを創る。ゴーレムの手には青銅の槍が握られていた。

 

「じゃあ、手本の型を披露するから真似をしてみてくれ」

 

「わかったわ、(せんせぇ)!」

 

 その後はアクシデントもなく終わり、ベレト達は自身の部屋に戻る。

 …この時の彼はまだ知らなかった。国の存亡を賭けた戦いに巻き込まれるとは。






《細身のレイピア》

 威力:5 命中:95 必殺:5 射程:1 重さ:4 武器レベル:E 耐久:40

 ルイズ専用の武器。鉄の剣の上位互換で、非常に軽い。
 レイピアなので重装と騎馬への特攻ももちろんある。
 …本編では許されない性能してる気もする…。
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