ゼロと師   作:シャザ

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1章 逆襲のフーケ

 朝食をとったベレトは、散歩がてらラ・ロシェールの街並みを見て回ることにした。

 十分後、ベレトは何者かの敵意ある視線に気づく。

 

(………ワルド、ではないな…。しかも視線は複数ある…。……先日殺した傭兵の仲間だろうか…?)

 

 ベレトは一瞬戦おうかと考えたものの、その前にソティスがくぎを刺してきた。

 

「今戦おうとしとらんかったか…?」

 

「……そ、そんなことはないぞ」

 

「………その言葉、信じるぞ?…まあ、いつ襲撃されてもいいように、警戒だけはしておいたほうがいいかもしれんが」

 

 ソティスは満足そうに笑った。視線を感じながらも、ベレトは明日乗るフネを見に行ってみることにした。

 それは、巨大な枯れ樹を利用した船着き場…と思われる場所にあった。

 フネらしき物体が木の実のようにぶら下がっているのだ。

 

「船がまるで木の実のようになっておるのー」

 

「…あれ、どうやって動くんだろうな…」

 

「あら、せんせ。こんなとこでどうしたの?」

 

 不思議そうにフネを見上げているベレトに、キュルケが声をかけてきた。

 

「キュルケ。…いや、自分のいた場所では見たことのないものだから、じっくり見てただけだ」

 

「へー、フネを見るのは初めてなんだ?」

 

「自分の知ってる船は水辺に浮かばせて使うものだった」

 

「このハルケギニアには風石っていう、風の魔力が入った石っころがあるのよ。なにも特殊なことはしてないわ、ただ浮かんでるだけ」

 

 ハルケギニアでは珍しくもないのだろう、キュルケは一般常識のように説明する。

 

「どうせ明日までは動かないんだし、街の方にもどりましょ?」

 

「そうするか。どこかで軽く食べるとしよう」

 

 

 キュルケ、タバサ、ギーシュと昼食を取った後、ベレトは宿に戻りルイズを探してみることにした。

 彼女は、ベレトとワルドが決闘をしていた練兵場で、自身のレイピアを素振りしている。

 

「てい、やあ!……違うわね…。もっとひねりを入れるのかしら…」

 

「ルイズ、熱心だな」

 

「わ、(せんせぇ)!…ええと、いつから見てた…?」

 

「…いまさっき来たばかりだ。…今の構えは…」

 

 ルイズは顔を赤くして俯いた。

 

「……(せんせぇ)の剣技、見よう見まねで練習してたの」

 

「…ルイズ、自分の剣は体術を混ぜてるから慣れないうちは真似はしない方がいいぞ。変な癖がつきかねないから」

 

(せんせぇ)は体術も得意なのね」

 

 ベレトは頷いた。彼は軽くシャドーボクシングをしながらルイズに講義を始める。

 

「長い時間戦っていると、武器が壊れてしまうことがある。…強力な一撃を受けたり、戦技を使えば消耗もそれだけ早い。

壊れた武器は戦闘では役に立たなくなるから、いざというときは素手でも戦えるように鍛えたんだ」

 

「へー、(せんせぇ)ってそういう基礎は誰から教わったの?」

 

「父親からだ。名前はジェラルト、騎馬に乗って戦場を駆ける上級騎士(パラディン)だった」

 

 ベレトは懐かしそうに目を細めると、父親の事を語る。

 

「普段は酒を飲んだくれてることが多かったけども、戦場では恐ろしく強かった。

…『壊刃』のジェラルトを知らない傭兵はいない程に」

 

「…壊刃?」

 

「敵を武器ごと粉砕するからついた二つ名だ」

 

「…武器ごと?」

 

「うん、武器ごと。長年戦ってきた経験と勘の鋭さで戦場を蹂躙する、凄い戦士だったよ」

 

 ルイズは気づいた。…先ほどから過去形でベレトは話しているのだ。

 

「…その人、今は?」

 

「…………暗殺された。もう、七年になる」

 

「あ、ごめんなさい(せんせぇ)…。嫌なことを思い出させて…」

 

「謝らなくていい、こちらこそ湿っぽい話をしてしまった。

さて、それじゃもう少し剣の練習をしよう、ルイズ」

 

 

 その日の夜、傭兵は楽しそうに騒ぐギーシュ達から離れ、夜空に浮かぶ月をじっと見ていた。

 その手には数本の串焼きを持っていて、月を肴に安酒を呑む彼にルイズは声をかける。

 

(せんせぇ)、なにしてるの?」

 

「月見酒。…今日は月が一つだから、久しぶりに呑もうかなと思って」

 

「ふーん…キュルケ達の方に混ざらないの?」

 

 ルイズが何気なく質問すると、ベレトは酔いで顔を赤らめながら笑う。

 

「ふふ、たまには一人で呑むのも楽しいぞ、ルイズ」

 

「…わたしも一緒にいいかしら」

 

 ルイズは視線を逸らす。

 

「…ワルドに、結婚しようって言われたわ。…どうすればいいの、(せんせぇ)…」

 

「ルイズ…。…相談には乗るけど、最後には君が決めるべきだ。…どうして悩んでるんだ?」

 

「……ワルドのことがわからなくなったわ。あの人の言ってるわたしと、今の自分があまりにかけ離れてて…。

変なことばかり言って、はぐらかしてるみたい…」

 

「例えば?」

 

 ルイズは昨夜のワルドの言葉を思い出しながら答える。

 

「…わたしが立派なメイジになって始祖ブリミルの再来に例えられるとか、(せんせぇ)がガンダールヴとか…」

 

「…ガンダールヴではあるな…。学園長から聞いたからおそらく事実だ」

 

「……ちょっと!わたし聞いてないんだけど…!?」

 

「ごめん、言い忘れてた」

 

 ベレト達が楽しそうに話していると、突然月が見えなくなる。

 雲が覆い隠した…というわけではない。月が巨大なゴーレムの後ろに隠れてしまったのだ。…ベレトは、そんなことができるメイジを一人知っていた。

 

「久しぶり…というわけでもないか。…土くれのフーケ!」

 

「ふふふ、覚えてくれたのね。…あの時蹴りつけられた恨み、晴らしにきたよ!!」

 

 ベレトは食べ終えた串をフーケに向けて投擲する。投げナイフの要領で飛んでいった串は、仮面のメイジの風で防がれる。

 …先日、生き残っていた傭兵を殺したメイジだ。

 

「…そいつは誰だ」

 

 ベレトの質問に、フーケはニヤリと笑った。

 

「彼がわたしを外に出してくれたのよ、美人はもっと世の中のために役立たなくては…て言ってね?」

 

「うわ、余計なことを…。で、そのゴーレムで何する気よ?」

 

 ルイズの質問に、フーケは狂的な笑みで答える。

 

「こうするに決まってるでしょう!!」

 

 フーケのゴーレムが岩でできたベランダを破壊する。

 

「ここら辺は岩だらけだからねェ!土がないからって安心したかい?」

 

「黙れ、今度は生け捕りじゃなくて叩き切る!」

 

 ベレトはルイズの手を掴み、宿の一階にいる仲間に合流する。

 そこは、戦場と化していた。フーケと仮面の男が雇った傭兵たちが、宿にいる貴族たちを皆殺しにする勢いで襲い掛かっている。

 あちこちで悲鳴と血しぶきが上がる中ワルド達は応戦するが、敵は魔法の範囲外から矢を撃ち続けている。

 ベレトはテーブルを盾にしてその場を凌ぐキュルケ達に駆け寄った。

 

「無事か、誰も欠けてないな!?」

 

「ええ、とりあえずは無事よ、せんせ!」

 

 貴族の客が矢で殺されていくのを横目に見ながら、キュルケは気丈に笑う。

 でっぷり太った店の主人が脳天を撃たれ絶命するのを見てしまったギーシュが涙目で叫んだ。

 

「わああああ!!もうダメじゃないかコレ!?」

 

「…まいったな、このままでは全滅もありえるぞ…」

 

 ワルドは困った顔で続けた。

 

「どうやら、敵はアルビオンの反乱軍が寄こした手駒のようだ。…精神力が尽きたら最後、奴らはぼくたちを虐殺するだろう。

……いいか、諸君。こういった任務では、半数が目的地に着けば成功とされている」

 

 本を読んでいたタバサが本を閉じ、自身とキュルケ、ギーシュを指さす。

 

「…おとり」

 

「……いや、ここはベレトを置いて行った方がいいのではないか?」

 

 ワルドの言葉に、タバサは首を振った。

 

「…おとりに戦力を割くのは効率的じゃない」

 

「……そうか、わかった。行くぞ二人とも、これから彼女たちが敵を引き付けておく間に、裏口から出て桟橋に向かう!」

 

 ルイズは目を丸くして驚いた。

 

「え、でも…!」

 

「別にいいわよ、あたしたちは何しにアルビオンに行くか知らないし?…貸し一つねせんせッ!」

 

「……ああ、もし生き延びたらみんなで食事でもしよう!」

 

 ベレト達が裏口に向かうのを、三人は見届ける。キュルケはギーシュに命令した。

 

「……ギーシュ、厨房に揚げ物用の鍋があるから取ってきて」

 

「いいけど、何をするんだい?」

 

 ギーシュの質問に、キュルケは…獰猛に笑った。

 

「連中にキツイのを喰らわせる下準備よ」

 

 ギーシュのワルキューレが鍋を持ってくると、化粧を直しながら彼女は次の指示を出す。

 

「んじゃ、入り口にぶん投げて中身をぶちまけなさい!」

 

「おー!…で、なんで化粧直しをしてるんだ?」

 

「主演女優がすっぴんじゃ、カッコつかないで…しょ!!」

 

 キュルケはギーシュが撒いた中身…油を魔法で引火させる。…燃え盛る炎がバリケードのようになったのを見て、突撃しようとした傭兵たちが動揺した。

 

「な、なんだあああ!!?」

 

「そーれ、もう一発!」

 

 キュルケが再び杖を振ると、傭兵たちに炎が襲い掛かった。

 

「「「ギャアアアアアアア!!!」」」

 

「アッハッハ!なかなかいい眺めね!!」

 

「容赦ないな君!!」

 

 火だるまになってのたうち回る敵に、キュルケは大笑いする。その様子を見ていたフーケは舌打ちした。

 

「チィッ!やっぱり金で動く雑魚は駄目だね!」

 

「放っておけ、分散させればそれでいい」

 

 仮面の男に、頭に血が登ったフーケは反論する。

 

「アンタはそれでよくてもこっちはよくないんだよ!!もういい、わたしが出る!」

 

「そうか、こちらはラ・ヴァリエールの娘を追う。残った連中に用はない、煮るなり焼くなり勝手にしろ」

 

「…ふん、よくわかんないやつ…。さて、リベンジといこうじゃないか…!」

 

 フーケはゴーレムの拳を宿に叩きつけると、宿の入り口が木っ端みじんになってしまった。

 追撃しようとしていたギーシュのゴーレムがあっけなく踏みつぶされる。

 

「ありゃ、そういえばフーケがいたんだっけ…」

 

「まとめて潰してやるよ、小娘どもッ!!」

 

 キュルケは考える。この状況を打開するには、ゴーレムを仕留める必要があるが…前回は手も足も出なかったのだ。

 

「…どうする、タバサ」

 

「………こまった」

 

「…ああ、僕はここで死ぬんだな…。こうなったら突撃してッ二人が逃げる時間を稼ぐしか…!!」

 

 ギーシュが錯乱してよくわからないたわごとを抜かすので、キュルケは呆れた目で彼を見る。

 

「バカね、それで稼げる時間なんてたかが知れてるわ、やめときなさい」

 

「で、でも…!!」

 

 タバサはゴーレムを見て何かを閃くと、ギーシュの袖を引っ張る。

 

「…思いついた」

 

 

 ゴーレムの肩に乗ったフーケは、いつの間にかゴーレムの体に花びらがまとわりついているのを見て首をかしげる。

 …どうやらあの少年が必死になって薔薇の造花を振っていることに気づくと、彼女は馬鹿にするように鼻を鳴らす。

 

「ふん、着飾ってくれてありがとう!次はお前たちの血で飾り付けてやるよ!!」

 

 ゴーレムが拳を叩きつけようとすると…まとわりついた花びらがぬらりとした液体に変化し濡れる。

 ……彼女はその液体の正体がすぐにわかった。

 

(このにおい…油!!?)

 

「けしとべッ!」

 

 キュルケの放った『炎球』が油まみれのゴーレムを大炎上させる。その勢いはすさまじく、ゴーレムは瞬く間に力を失い崩れ落ちた。

 生き残った傭兵たちは我先に逃げていく。勝利したキュルケ達は、手を取り合って喜びを分かち合った。

 

「やった、大金星よあたしたち!!」

 

「はははは!!僕のおかげだね!…あいたっ」

 

「タバサが思いつかなきゃ特攻してたでしょうがあんた!調子に乗るな!」

 

 キュルケがギーシュを小突いていると、燃え尽きそうなゴーレムを背にフーケが現れた。

 ズタボロのローブと煤だらけの顔で美人が台無しになってしまっている。

 

「こんの…ジャリガキどもがぁ…!!よくもこのわたしに恥をかかせたわねェ…!?」

 

「…あら、まだ生きてたか。さて、とどめを刺しちゃいましょうか♪」

 

 キュルケが杖を振るが、なにも出ない。…ガス欠である。

 

「あっちゃー。ねえタバサ、精神力残ってる?」

 

「……今日はもうむり」

 

「ぼ、僕には聞かないのかね?」

 

 ギーシュがそう言ったがキュルケは鼻で笑った。

 

「『ドット』のあんたが残ってるわけないじゃん」

 

「ひ、酷い!そのとおりだけども!」

 

 どうやらフーケにも精神力は残っていないらしく、魔法を使わずにキュルケ達に近づいてきた。

 

「…こうなったら殴り合いで決着つけようかしらね。覚悟しなさい、お ば さ ん ?」

 

「誰が、おばさんだ小娘ええええ!!わたしはまだ二十三よッ!!」

 

 二人の殴り合いを、タバサはどうでもよさそうに一瞥すると本の続きを読み始めた。

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