ゼロと師   作:シャザ

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 今回、スカウトキャラとそのペアエンドについて言及があります。


1章 白の国アルビオン

 キュルケ達がフーケと戦闘をしていたその時、月明かりが照らす道をルイズ達は走っていた。

 桟橋にたどり着いた三人を、数人の傭兵が立ちはだかる。

 

「おい、見つけたぞ!宿にいた連中だ、全員殺せ!!」

 

「くっ…、見つかったか!」

 

 ベレトはデルフリンガーを抜き、傭兵たちに突き付ける。

 

「すぐに突破するぞ、増援が来る前にだ!」

 

「わ、わかったわ(せんせぇ)!」

 

 ルイズもレイピアを構える。…彼女にとって初めての実戦である。

 その顔に緊張が走るのを、敵の傭兵はニヤニヤしながら嘲笑った。

 

「ひひひ、こんなガキ一匹殺すだけで300エキューか、ボロイ仕事だぜェ…!」

 

「う、あんたなんかやっつけてやるんだから…!!」

 

「ひひひひ、この斧で頭をかち割ってやるぜェ!」

 

 傭兵は見るからに重そうな斧をルイズに振り下ろすが、彼女はその一撃を軽く逸らす。

 …いくら強力な一撃だろうが、当たらなければ意味がない。ルイズは確信する、この男は見た目相応の強さは持っていない…でくの坊だということに。

 

「…遅いっ!!」

 

 ルイズは振り下ろした傭兵の右腕をレイピアで貫く。

 

「ぎゃあッ!?は、速え!?」

 

(…この後どうすればいいのかしら。もう戦えない相手にとどめを刺すより、情報を吐かせた方がいいとは思うけど…)

 

 ルイズが冷たい目で傭兵を見ていると、そいつは命乞いを始めた。

 

「た、助けてくれ、見逃してくれ!お、俺は命令されただけなんだ、ホントはこんなことしたくないんだよォ!!」

 

「…そう、命令されただけなの。…その割にノリノリで襲い掛かってきたみたいだけど…」

 

「そうしなきゃ殺されるんだよ!頼む、見逃してくれええええ!!」

 

 そう言いながらうずくまる男から、ルイズは目を逸らしてしまう。

 男の目が、猛禽のそれに変わった。

 

「…死ねええええええ!!!」

 

「………ホントに命乞いしてたならよかったのにッ」

 

 傭兵はナイフを構えてルイズに再び襲い掛かった。

 その時ルイズは身をもって思い知った。…敵に情けをかければ自分が危険だ、と。

 ルイズのレイピアが、男の首をえぐるように貫く。

 

「が、ぼぼぼ…」

 

 敵の返り血を浴びながら、少女はへたり込みかけるのを我慢している。

 むせかえるほど濃い血の匂いに、ルイズは思わず口を手で覆った。

 

(…ころした。初めてひとを、ころした…!)

 

 呆然と立ち尽くした少女の背後に、仮面のメイジが現れる。

 傭兵を斬り捨てたベレトが叫んだ。

 

「ルイズッ!後ろだ!!」

 

「………え?」

 

 振り向いたルイズを、男は抱え上げた。

 

「きゃあ!は、離しなさいよ!!」

 

 ベレトはデルフリンガーを構えたまま突っ込むが、仮面のメイジは軽業師のような動きで逃げようとした。

 ワルドが仮面の男に『エア・ハンマー』を放つ。男はルイズを離して手すりにつかまるが、ルイズはそのまま落下してしまう。

 

「ワルド、ルイズを頼む!」

 

「ああ、任された!」

 

 ワルドがルイズをキャッチするのを見届けたベレトは、仮面のメイジに剣を向ける。

 メイジは黒塗りの杖を抜くと、呪文を唱え始める。

 ベレトは風の魔法が飛んでくると予想し、『風薙ぎ』を発動するために剣を構えた。

 

「だ、ダメだ相棒!!避けろおおおお!!」

 

 デルフリンガーの絶叫と同時に、メイジは魔法を放つ。…それは一直線の光となって、ベレトを撃ちぬいた。

 彼はその感覚を知っている。『サンダー』や『トロン』特有の…言いようのない不快感がある痛みだ。

 

「な、ぁ…!!?これ、は…(いかずち)…!?」

 

「『ライトニング・クラウド』か…いやなもん使ってきやがって、生きてるか相棒、相棒!」

 

(…油断、していた…!四属性のくくりにないだけで雷撃を撃つ魔法があるなんて、自分は思いもしなかった……)

 

 痛みをこらえながら仮面のメイジを睨むベレトだが、思いのほか重傷を負ってしまった。

 追撃を行おうとする仮面のメイジに、ベレトはふらつきながらも剣を向けようとする。

 

(せんせぇ)!!?」

 

 重傷を負ったベレトを見てルイズは叫ぶ。ワルドが舌打ちしながら仮面の男に向かって『エア・ハンマー』を叩き込むと、メイジは地面に落下していった。

 

「…すまない、てきを逃がしてしまった…ぐっ!」

 

「ムリすんな相棒。あれは『ライトニング・クラウド』、『風』の強力な魔法だ。…相当の使い手だぜ、あの仮面」

 

 ワルドがベレトの傷を診ると、眉をひそめた。

 

「…左腕だけで済んだのはむしろ幸運だ。なにせ『ライトニング・クラウド』をまともに受ければ即死は免れない。

…この剣が電撃を和らげたようだが…金属ではないのか…?」

 

「しらねーよ、忘れたから」

 

「…インテリジェンスソード…?…珍品だな」

 

 ベレトは深く深呼吸を行うと、気怠そうに立ち上がった。…傷は癒えていないが、なんとか動ける程度だとベレトは自身を分析する。

 

「……もう、いいの…?」

 

「ああ、行こう」

 

 

 戦闘後、ベレト達は『マリー・ガラント』号という商船に乗っていた。

 船員たちはアルビオンへの最短距離しか『風石』を積んでおらず、すぐに出航するのに難色を示した。

 …が、ワルドの風で不足分を補うことで出航を了承させ、彼らはアルビオンへフネを出してくれたのだ。…もちろん金も余分に払わされたが。

 

「アルビオンにはいつ着く?」

 

「明日の昼過ぎでしょうかねぇ。スカボローの港に泊める予定でさ」

 

 ワルドはいくつか船長に質問すると、ベレト達の方へ戻ってきた。

 

「…戦況は、よくない」

 

「…絶好調ならアルビオンに行く必要はないだろうしな」

 

 もちろん王軍の話である。…直接名前を言わない理由は、『マリー・ガラント』号が積んでいる積み荷が反乱軍に引き渡す予定のものだからだ。

 もしこちらが王軍に用があると知られれば、彼らがルイズ達を上空から海に叩き落とすだろうことは容易に想像できる。

 

「ウェールズ皇太子、生きてるかしら」

 

「死んだ…とは聞いてないな。…さて、どうするべきか」

 

「おそらく、港町は貴族派が制圧しているだろうな。目的地までどれくらいあるんだ、ルイズ?」

 

「ええと、一日あれば行けるわ。…もちろん馬に乗る必要はあるけど」

 

 ワルドはとりあえずの作戦を立てた。…とはいっても、一つしかないが。

 

「陣中突破するしかないな、これは…。いくら貴族派でもトリステインの貴族を手出しはしないだろう。

…まあ、夜は見張りが必要だがね」

 

 ベレトはルイズ達から離れると、ケガの具合を見てみることにした。…応急処置をしておかなければ悪化する可能性があるからである。

 

「…酷い怪我じゃ。ここまでやられたのは久しぶりじゃの…」

 

「…リンハルトやリシテアがいればな…」

 

「ないものねだりしてもしょうがなかろうて…」

 

「あの二人、今はなにしてるんだろうか。二つとも紋章を取り除けたとは聞いてるけれど、元気に過ごしているといいが…」

 

 ベレトはリシテアのことを思い出す。人一倍努力家で、いつも焦っていて…エーデルガルトと同じ白い髪の女の子。

 闇にうごめく者に二つ目の紋章を植え付けられ、短命になったリシテアはその短い時間でおとなになりたがっていた。

 

「…わしらには、よくわからん感覚じゃよ。余命を蛆虫どもに奪われ、どれほどの絶望を味わったことか…」

 

「…リンハルトがいなかったら死んでたんだろうなぁ…」

 

「あやつが、のぉ…。それほどまでに、あの娘を気に入っておったなど想像もしておらんかったぞ?」

 

 ソティスの言いたいことは、まあわかる。

 あの紋章学と昼寝、あとサボることに全力を捧げる彼が一人の少女のためにその頭脳を使うなんて、きっと誰も思わなかっただろう…親友のカスパルも含めて。

 

「…よし、でーきた」

 

 ソティスと話しながら、ベレトは応急手当を終わらせた。多少動かしずらいものの、悪化することはほぼないだろう。

 ルイズが心配そうにベレトの方にやってくる。一通り話が終わったので様子を見に来てくれたらしい。

 

「……。(せんせぇ)、ケガ大丈夫…?」

 

「ああ、応急処置はもう済ませてしまった。ムリをしなければ悪化することはない」

 

「そっか、よかった…!」

 

 ルイズはベレトの言うことを素直に信じてくれた。そのまま彼女はベレトの隣に座る。

 

「…今日は疲れたわ」

 

「初めての実戦はどうだった?」

 

「…命を奪うのって、怖いことだったのね。命が消えていく感覚が武器越しに伝わってきて…」

 

「ルイズ、剣術はどこまでいっても殺しの技術だ」

 

 ルイズがこくりと頷いたのを見て、教師は話を続ける。

 

「けれど、自分や仲間を守るためには力が必要だ。言葉が通じない相手が敵意をむき出しにしてきたら、戦うしかない。

そうでなくても人と人は争うから…」

 

「…そうね。アルビオンだって、わたしたちと同じ言葉で話してるはずなのに内乱が起きてるもの…。

(せんせぇ)は初めて戦場に出た時のこと、覚えてる?」

 

「…いや、もう忘れてしまった。まだルイズより子どものころだったのもあるし、特に印象に残ってないな…」

 

 ルイズは苦笑いする。…彼女の目には決意の光が灯っていた。

 

「…わたし、もっと強くなりたい。あんな酷い連中を止められるくらい、強く…!」

 

「ああ、自分も力になる。…そのためにも、まずはこの任務を成功させなくちゃな」

 

「そうね、それじゃそろそろ寝ておかなくちゃ。…おやすみ、(せんせぇ)

 

 

 翌日、ベレトはずきりとした痛みで目を覚ます。空は雲一つない青空…かと思いきや、下を覗き込むと白雲が広がっている。

 不思議な光景に見入っていたベレトは、隣で寝ていたルイズが起きてきたのであいさつした。

 

「おはようルイズ、よく眠れたようでよかった」

 

「おはよう(せんせぇ)!そろそろアルビオンが見えてくるんじゃないかしら」

 

「とはいっても、辺りは一面雲ばかりだが…」

 

 そんなことを話していると、鐘楼の上に乗っていた船乗りが大声をあげた。

 

「アルビオンが見えたぞおおおお!!」

 

 ベレトは辺りを見渡すが、それらしき島は見当たらないことが気になりルイズに聞いてみた。

 

「…どこにあるんだアルビオン…?」

 

「下にはないわ、あっちあっち」

 

 ルイズは、なんと空中を指差している。その方角を見たベレトは、思わず息を吞んだ。

 雲の切れ目から…巨大な大陸が姿を現したのだ。

 

「………すごい光景だ…!…そうか、『風石』で空中に留まっているのか!」

 

「ええ、すごいでしょう(せんせぇ)。これが浮遊大陸アルビオン、ああやって空中を浮遊して、主に海の上をさまよってるの。

それで、月に何度かハルケギニアの上空にやってくるのよ。大きさはトリステインと同じくらいで、通称『白の国』」

 

「『白の国』…?」

 

「ええ、大河から溢れた水が霧になっているでしょ?あれが雲になって、大雨をハルケギニアにもたらしてくれる。…だから『白の国』!」

 

 ベレトはルイズの知識に感心しながら、幻想的な光景に目を輝かせた。

 …その時、見張りの船員が大声をあげる。

 

「右舷上方の雲中からフネ接近!」

 

 ベレト達が言われた方を向くと、『マリー・ガラント』号より一回り大きい漆黒のフネが一隻近づいてくるのがわかった。

 

「……どこのフネかしら。貴族派の軍艦じゃないといいけど…」

 

「………なあルイズ。あのフネ、様子が変じゃな…」

 

 轟音がベレトの言葉を遮る。漆黒のフネが砲撃をこちらに向けて撃ってきたのだ!

 

「………。敵じゃないか、あれ…?」

 

「く、空賊…!?こんな時に出なくてもいいじゃない、もー!!」

 

「空に居ても賊は出るんだな……」

 

 ベレトはわらわらと出てきた敵に剣を抜こうとするが、左腕の傷が痛んで顔をしかめる。

 敵の数がわからない上にこちらは手負い…それにあちら側には大砲がある。

 ワルドが現れて背後から肩を叩く。

 

「…やめておけ、あの数を倒すのは無理だ」

 

「ワルド、そっちはどうだ?」

 

「こっちも精神力切れだ、すまないな」

 

 『マリー・ガラント』号に空賊たちが降り立つと、黒髪の派手な格好をした空賊が荒っぽくしゃべりだす。…どうやら彼が、空賊のリーダーのようだ。

 

「船長はどこでぇ!」

 

「わ、わたしだが…?」

 

 震えながらも威厳を保とうとした船長に、空賊頭は曲刀で脅しながら質問をする。

 

「船の名前と積み荷は?」

 

「トリステインの『マリー・ガラント』号。…硫黄を載せてる」

 

 空賊たちから喜びのため息が漏れる。頭の男はニヤリと笑いながら船長の帽子を奪いとりかぶると、彼を小突きながら言った。

 

「フネごと全部買わせてもらう。料金はてめえらの命だ!」

 

 空賊頭は甲板にいるルイズ達に気づく。ルイズに近づいた彼は頬を吊り上げる。

 

「おや、貴族の客まで乗せてんのか。…胸はねえが別嬪だな、おれの船で皿洗いでもどうだ?」

 

「…は?誰の、胸がないって…?こっちが気にしてることを、言うなぁ!!」

 

 ルイズは胸の事を言われたせいか頭に血が登っているらしく、レイピアを抜いて頭の男に襲い掛かる。

 …が、空賊の男はルイズの手からレイピアを叩き落とすと、それを拾い上げ逆にルイズの首に突き付けた。

 

「へえ、ずいぶんと威勢のいい嬢ちゃんだ。貴族の癖に剣を持ってるなんざ、けっこうな変わりもんだぜ」

 

「……う、うそでしょ…」

 

「ルイズッ!!」

 

 ベレトは剣を抜こうとするが、ワルドが制止する。

 

「止まれベレト。…ここで暴れたところで状況はさらに悪くなるぞ」

 

「……ああ、わかっている。…わかっているとも」

 

 ベレトは悔しさのあまり、苦虫を嚙み潰したような顔をする。

 空賊の頭は楽しそうに笑うとルイズを指さした。

 

「おもしれえ嬢ちゃんだ。てめえら、丁重にもてなしてやんな!もし手えだしたならおれさまが直々に殴ってやる!」

 

「おかしら、このおっさんたちはどうするんでさ?」

 

「身代金にゃなるだろ、運べ運べ!」

 

 こうして、ベレト達は空賊に捕らえられてしまった。…アルビオンへの旅は、予想もしない終わりを迎えたのだ。

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