ゼロと師   作:シャザ

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『タルブの昔話』

 ある日、女性のもとに一人の青年がやってきました。彼は強さに憧れる、どこにでもいる若者でした。

「……弟子入り?」

「はい、傭兵としての活躍を聞いて、貴女に憧れたんです!ソフィアさん、ぼくを弟子に…!」

「すまないが、弟子を取る気はないな…」

「…そうですよね…。失礼します…」

 しょぼんとしながら若者が去っていった後、女性は相棒に話しかけられました。

「おまえなぁ…別にそのくらいいいんじゃないか?」

「…タケオと過ごす時間が減るじゃん」

 すねた顔をする彼女に、男は呆れた顔をします。

「ガキかお前は!俺も手伝うからそのくらい我慢しろ!」

「えー、しょうがないなぁタケオは…」

「こっちのセリフだそれは…」

 数日後、青年は二人にしごかれて悲鳴を上げることになりましたが、青年はそこそこ幸せだったようです。
 少し経つと村の衛士も混ざって、二人の戦いの技術を学ぶことになりました。
 …現在でも、タルブの村では世代交代した師範によって剣技や槍術が受け継がれています。

 続く


2章 宝探し

 日が昇る少し前、ルイズはふと目を覚ました。…なにか嫌な予感がしたからだ。

 

(………だれかが、ドアの前にいる…?こんな時間に客人?)

 

 彼女は鍵のかかった扉をじっと見つめていると…信じられない音を聞くことになった。……()()()()()()()

 

「……え?」

 

 ルイズはその異常に気づくと、ゾワリと鳥肌が立つ。ここは学院の寮、侵入者なんていないはずなのだ。

 恐怖で身がすくむ彼女は、ベレトを追い出してしまったことを後悔する。

 

(…こわい、こわいこわいこわい…!!)

 

 中に入ってきたそれを見たルイズが、小さな悲鳴を上げる。…漆黒のローブに身を包んだその人物の風貌は、否が応でもフーケを思い出してしまったのだ。

 

「や、やだ…こ、来ないで…!」

 

 ルイズは抵抗しようと杖を伸ばすが、いつの間にか部屋に漂っていた白い煙のようなものを吸ってしまう。

 この異常事態にも関わらず急に眠気が襲ってきて、ルイズはその煙の正体を悟った。

 

(…これ、『眠りの雲』……)

 

 少女が意識を失うのを見届けたローブの人物は自身の後ろで呪文を唱えてくれたメイジに親指を立ててから、ルイズを大きな袋に突っ込む。

 

「さてと、そろそろ行こうかな」

 

 ローブの女は共犯者ににこりと笑うと、部屋の窓を開けて出ていった。

 

 

 早朝、キュルケはベレト達のいるテントにやってきた。テントの中から無茶苦茶酒の匂いがするため、ここにいる連中は十中八九酔っぱらってるだろう。

 中を見てみると、ワインの瓶を枕代わりにして寝ているベレトとモグラに突っ伏して泥酔しているギーシュがいた。

 彼女は自分の使い魔を見つけ声をかける。

 

「あらら、あんたもいたのねフレイム。ほら、二人とも起きてー」

 

「……む、ぅ…。…その声は、キュルケ…?」

 

 ベレトはぐっと伸びをしてから、普段通りにキュルケに向かい合った。

 

「昨日はずいぶんと楽しんだみたいねぇ、良く寝れた?」

 

「なぜか指輪の妖精になる夢を見たよ。そこそこ面白かったな」

 

「ふふ、楽しそうな夢ね。………そら、あんたも起きなさいっ!」

 

 キュルケはぐだぐだしているギーシュに蹴りを入れる。

 

「うぎゃッ!?な、なな…誰だ、今僕を蹴ったのは!!」

 

「おっはよー、さあ行くわよ二人とも準備して!」

 

「キュルケ!…いきなりやってきて、僕らをどこに連れていく気だ!?」

 

 キュルケはギーシュを無視してベレトに語りかける。

 

「……ねえベレト、貴族に興味はない?」

 

「…貴族?」

 

 キュルケはベレトを初めて名前で呼んだ。…ベレトは、キュルケの言葉の意味を考えてみる。…まず前提として、ベレトはフォドラからやってきた根無し草である。

 彼は剣の腕も知識もあるが、フォドラで積み重ねた実績はハルケギニアでは意味がないため強い傭兵という認識だ。

 …良くも悪くも等身大ということでもあるため、ベレトは気にしていなかった。

 

「ええ、貴族よ。…なってみたくない?」

 

「…騙されるな先生、そんな簡単に平民が貴族になれるんだったら大問題だぞ!」

 

「……だよな?なる、ならないは別にして…そもそもなれるのか?」

 

「ふふふ…。トリステインは法律で平民が貴族になることを禁止されている…あたしもそれぐらいわかってるわ。

…でも、あたしの故郷ゲルマニアは別よ?…金さえあれば土地を買って貴族の姓を名乗れる!」

 

「金で解決できるなんて野蛮だな…」

 

 ギーシュの悪口にキュルケの笑みが深くなる。

 

「貴族がメイジのみの特権だとかで国力が弱まってるトリステインに言われたくないわねー。『レコン・キスタ』に対抗できないくらい弱体化してるから同盟組むんでしょ?

嫌味を言う前に感謝してほしいくらいよ」

 

「うぐっ…。それは…そうなんだけどさぁ…」

 

「………ゲルマニアで土地を買って、貴族になれということだな?だが、きみは愚かじゃない。…土地を買うための金を、どうやって用意する気だ?」

 

 キュルケは手に持っていた紙の束をベレトに手渡した。

 

「…これは…地図?」

 

「ええ、宝の地図よ。…ギーシュ、どこに行くのかって、最初に聞いてたわよね?…宝探しよ!宝を換金すれば大量のお金が手に入る!」

 

 宝の地図を見ていたギーシュは胡散臭げに呟く。

 

「…ちゃんと裏どり取れてるんだろうなこれ…?」

 

「は?別にそんなことしなくてもいいじゃない。色んなとこからかき集めてきたから、本物と偽物混ざってるかもだけど」

 

「先生、論外だッ!こういう適当な地図を宝の地図名義で売りつけてくる酷い商人なんて星の数いるんだぞ!

騙されて破産した貴族もいるって聞く、やめといたほうがいい!」

 

 ベレトは紙束を見つめている。

 

(……まあ、金はあって困るものでもないし。こういった宝が眠っているとされる場所にはだいたい後ろ暗いのがいるものだ。…賊とか怪物とか。

休日は暇を持て余した生徒たちと賊退治に出ていたな、懐かしい…)

 

 実戦経験を積ませる意味でも、この宝探しはいいかもしれないとベレトは考えた。

 

「……いいだろう。宝探し、やってみようか」

 

「やったあ!ふふ、貴族になったらプロポーズしてねせんせ!」

 

「それとこれは別」

 

「いーけーずー」

 

 キュルケがベレトをからかっていると、シエスタが中に入ってくる。

 

「おはようございます!…あら、ミス・ツェルプストー?」

 

「あ、やらかしたメイドの子」

 

 自覚があるのかシエスタはバツが悪そうに目を逸らした。

 

「どうしてこんなところにいるんですか?」

 

「ああ、それはね…」

 

 キュルケは宝探しの事を説明する。

 

「………べ、ベレトさん結婚するんですか!!?そんなのダメです、もっとよく考えなおしてください!」

 

「食いつくところはそこでいいのか…。結婚はしないよ、キュルケと一緒に暮らし始めたら大変だろうし。…というわけだから、しばらく学院を留守にする予定だ」

 

「………わ、わたしも連れて行ってもらえませんか!」

 

 シエスタは危機感を覚えた様子で叫んだ。

 

「ええ?平民なんて役に立たないでしょ?」

 

「…自分の命は自分で守れますよ?それに、わたしを連れてくとおいしい料理も作っちゃいます!」

 

「…………まずい食事なんか嫌だぞ僕は」

 

 ギーシュは小さく呟いた。キュルケは二人の圧に負けたのか汗をかきながらシエスタの同行を認める。

 

「…わかったわよもう…」

 

「ありがとうございます!……ところで話は変わるんですが、外にある袋ってミス・ツェルプストーの私物ですか?」

 

「ああ、アレ?ちょうどいいからそろそろ開けましょうか」

 

 外に出ていくキュルケについていったベレト達は、そこそこ大きい袋がテントの近くに置かれていることに気づいた。

 

「…なんだこれ、中に何が入ってるんだ…」

 

「せんせ、とりあえず仲直りしたいんじゃない?」

 

「…………?」

 

 いきなりそんなことを言われたベレトは首をかしげる。

 キュルケは袋のひもを解くと、中身を見せてきた。

 

「…ぐう、ぐう…」

 

 袋の中でルイズが寝ていた。

 

「……ええ………?」

 

 ベレトは困惑した顔でキュルケの顔を見るが、その顔に反省の色は全く見えなかった。

 

「あの、ミス・ヴァリエールになにしたんですか…?」

 

「大したことはしてないわよ。部屋の鍵を魔法でこじ開けて、生意気にも起きてたから『眠りの雲』で二度寝させて袋に詰めただけ」

 

「十分犯罪行為なんだよなぁ!?」

 

 ギーシュの叫び声で眠りが浅くなったのか、ルイズは身じろぎをする。

 

「………ん…、ここ、は…?」

 

「ルイズ、無事か!」

 

 ベレトの姿を見たルイズは不安そうな顔をやめてぱっと嬉しそうな顔をした。

 

「……(せんせぇ)!…助けてくれたの?」

 

 ベレトが困ったようにキュルケをチラ見すると、彼女は人差し指を自分の口にあてた。…黙ってろということだろうか。

 

「いや、助けたのはキュルケだ」

 

「…げっ。…そうよ、変なやつらを見かけたから攻撃したら、あなたが入った袋を落として…」

 

 キュルケの言い訳は、なぜかルイズを騙せたようだ。

 

「………うう、不覚だわ…。まさかツェルプストーに借りができるなんて…」

 

「返さなくていいわよ(…だってさらったのあたしだし)」

 

 ルイズはぐーっと伸びをする。

 

「…身体がガッチガチよもう…!次に人さらいに会ったら容赦なんてしないんだから…!」

 

「そうだ、あなたも一緒にこない?これからあたしたち宝探しに行くの!」

 

「宝探しィ?そんなことしてる暇ないわ、詔を考えなくちゃいけないのに…」

 

「どうせ一人で考え込んでもろくなのができないわよ。ほら、ちょっと考えたやつあるでしょ、みんなには言わないからあたしに聞かせてよ」

 

「……ふ、ふふふ…!わたしのセンスで気絶するといいわ…」

 

 挑発されたルイズはキュルケの耳に顔を近づけ、ごにょごにょと詔を詠みあげた。

 キュルケは笑いをこらえていたが、すぐにタガが外れたように笑い出した。

 

「ふ、不合格ね!あは、あはははは!!ちょ、ちょっと待ってまじで酷い完成度なんだけどっ!」

 

「こ、こいつゥ!人が頑張って考えついた詔を笑うなんてっ!!」

 

 キュルケはひとしきり笑い終えると、ルイズの肩に手を置いて首を振った。

 

「……ふー、せんせに添削してもらった方がいいわよマジで。これが結婚式で詠みあげられたら皇帝の怒りを買いかねないわ…」

 

「う、ぐぐぐ…。……………わ、わかったわよ…。…ついていけばいいんでしょ?だって(せんせぇ)はこれから外出するんだから、行かなかったら置いてけぼりじゃない…」

 

「…とりあえずみんな準備した方がいいな。特にルイズは寝間着で、杖も剣も部屋に置いているだろう?」

 

「よし、三十分で準備するわよー。遅れたヤツは部屋に突入して無理やり連れてくからねー」

 

 

 三十分後、ベレト達は冒険の準備をしてテント前に戻ってきた。…幸い、遅れて無理やり連れてこられた人はいないらしい。

 

「あ、タバサも連れてくことにしたからよろしくー」

 

「……ん」

 

 キュルケは行き当たりばったりで親友を巻き込んだが、それよりも一行はシエスタの姿に注目していた。

 いつものメイド服ではなく、異国の剣士の装束に身を包んでいたからだ。ベレトはその装備が、フォドラの傭兵のものとほぼ同じであることに気づいた。

 しかも腰に下げている武器はキルソードである。

 

「あ、ベレトさん!どうでしょうかこの格好!」

 

「よく似合っているが…その姿は…?」

 

「ひいおばあちゃんの故郷の、剣士の格好です!メイド服に比べて動きやすいから外での活動もバッチリですよ!」

 

「へー、なんとなく先生の装備に似ているような…そうでもないような…」

 

 ギーシュはベレトとシエスタの服装を見比べている。

 ルイズも、普通に強そうな格好のシエスタに自分の制服姿を見比べてへこんでいた。

 

「…なんか、実力差を装備で実感した感じ…」

 

「ミス・ヴァリエール、こう見えてわたし何年も鍛えてるので多かれ少なかれ剣技ではわたしの方が強いと思います。

…それでも、少しずつ経験を積むことこそが、上達のコツですよ」

 

「…その通りだ。さあ、宝探しに行こう。…経験を積むためにもね」

 

 

 一方アルビオンのロサイスで、皇帝クロムウェルは『レキシントン』号の改装工事を視察していた。

 

「見たまえ、ミスタ・ボーウッド!あの素晴らしい大砲は、新技術による長射程を実現したのだ!」

 

(…こちらがそれを知らないとでも思われているのか?)

 

 ボーウッドと呼ばれた軍人は内心辟易していた。この皇帝の話が極めて長いからである。

 

「設計上の計算では、トリステインやゲルマニアで使われているカノン砲の、二倍の射程を誇るそうだっ!!」

 

「……陛下、一・五倍です」

 

「おっと、そうだったかねミス・シェフィールド」

 

 クロムウェルの間違いを訂正したシェフィールドを、ボーウッドはいぶかし気に見つめる。

 メイジにも平民にも見えない奇妙な風貌をしているからである。

 

「彼女は『ロバ・アル・カリイエ』の出身で、この大砲の設計者だ。エルフより学んだ技術は『レコン・キスタ』を大いに助けてくれるだろう。

…きみもともだちになるといい」

 

「はあ……」

 

 ボーウッドは生返事を返す。彼は皇帝が嫌いだった。ボーウッド自身は心情的には王党派だったが、上司の謀反であれやこれやがあった挙句レコン・キスタ側で戦うことになったのだ。

 …好きになれるわけがなかった。

 

「…これで『ロイヤル・ソヴリン』号に敵う艦は存在しないでしょうなァ」

 

 クロムウェルは勢いよくボーウッドの顎を思い切り掴みかかった。

 

「ぐぁッ!?」

 

「ミスタ・ボーウッド。…王権(ロイヤル・ソヴリン)など、既に存在しないではないか」

 

 ぱっと皇帝は軍人の顎から手を離し、歪んだ笑みを浮かべた。

 

「………そう、でしたな。…しかし、たかが結婚式にこんな大砲が必要とは思えませんが」

 

「…ああ、きみには『親善訪問』の概要を説明していなかったか」

 

「…なにを、なさるつもりですか」

 

 クロムウェルは二言三言口にすると、ボーウッドは青ざめた。

 

「……正気かッ!!?そんなことをすれば周りの国から袋叩きになることは明白です!」

 

「軍事行動の一環だ」

 

「トリステインと不可侵条約を結んだ舌の根が乾かないうちにそれを破るなどッ!」

 

「これは議会が決定したことだ。…はて、きみはいつから政治家になったのかね?」

 

 そう言われると、ボーウッドは何も言えなかった。…軍人とは物言わぬ剣と思っている彼だったが、その実態は政治を知らぬ民衆と変わらないのだった。

 国が決めたことに不満があっても我慢して受け入れるしかないのだ…。

 

「…誇りも何もない。恥知らずの卑怯者どもの国として、この国は悪名をとどろかすのか…」

 

「ふん、レコン・キスタの名のもとに一つにまとまれば、そんな些細なこと誰も気にしない。聖地を取り戻すためだ」

 

「き、貴様……ッ!!この恥知らずめ!!」

 

 クロムウェルの後ろに控えていた男が杖をボーウッドに突き付ける。…その男の顔を、彼はよく知っていた。

 

「………殿下……?ば、馬鹿な…あの方は、死んだと…!?」

 

「艦長、きみはかつての上司にも同じことが言えるかね?」

 

 ボーウッドは咄嗟に膝をつく。ウェールズが差し出した手に接吻し、その冷たさに彼は戦慄した。

 クロムウェルたちが去っていくのを、彼は呆然としながら見送った。生きた心地がしないボーウッドは、恐怖を押し殺しながら思考を続ける。

 

「…ゴーレム…?……いや、違う!あの身体には生気があった、身体の中の水がきちんと循環している…!!

…死体を動かしていたのならば、少なからず淀むはずだ…。『水』系統のメイジである自分にはわかる、あれは…本物だ…」

 

 ボーウッドは『トライアングル』だが、死者を蘇らせることなど不可能だ。……『スクウェア』でも無理だろう。

 ……ならば、あれこそが虚無の力なのだと、ボーウッドは身震いした。

 

「……ヤツは、何を考えているのだ………」

 

 その問いに答えられる者はいない。…それがわかっていても彼は呟かずにはいられなかった。

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