ゼロと師   作:シャザ

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2章 虚無(ゼロ)のルイズ

 ルイズは突如光り輝いた秘宝たちに目を丸くする。『始祖の祈祷書』に文字らしきものを見た彼女は、とりあえずそれを読んでみようと思った。

 古代のルーン文字で書かれたそれを、彼女はスラスラと読み解いていく。

 

「…『これより、我が知りし真理をこの書に記す。この世全ての物質は小さき粒より()る。四の系統はこれらに干渉することで世界を変質させる呪文なり。これをそれぞれ火、水、風、土と呼称する』」

 

 彼女は次のページをドキドキしながらめくる。

 

「『神は我にさらなる力を与えた。四の系統が干渉する小さな粒は…()()()()()()()()()()()である。神に与えられたその系統は、四のいずれにも属せず、さらなる小さな粒に干渉し変化を生み出す。…四に非ざるならば(ゼロ)、すなわち『虚無』である。』

………で、伝説の系統じゃない…!!?」

 

 ルイズは驚きながらもページを読み進めた。

 

 

 一方、竜騎士たちを殲滅したベレトは空の向こうに見覚えのあるデカブツが浮かんでいるのを見つけた。

 

「……『レキシントン』号か…!…その下にある町は………ッ!!」

 

 ベレトはそこがラ・ロシェールであると気づいた。かつて訪れた港町が、戦火にさらされている。

 

「相棒、敵の親玉だ。…いくら竜騎士どもを花火にしようが、あいつをやっつけなきゃ話にならん」

 

「…知ってるよ」

 

「まあ、逆立ちしてもかなわん相手だがね」

 

「…それも知ってるよ。だが、なんとかしなきゃいけないだろう?」

 

 ベレトは『レキシントン』号めがけて上昇する。

 

「…あーあ、死んでも知らねえぞ相棒」

 

 『竜の羽衣』を戦艦に近づけようとすると、敵の砲撃が飛んできた。最低限の動きで避けようとしたベレトに、デルフリンガーが叫ぶ。

 

「相棒、()()()!!もっと大きく避けろ!!」

 

「!!」

 

 ベレトは相棒の言う通り攻撃を大きく避ける。…それは、無数の小さな鉛の弾であった。

 『竜の羽衣』のあちこちに小さな穴ができる。風防の破片が割れ、ベレトの頬をかすめた。

 

「………ッ!小さいのをまとめて撃ってきた…!?」

 

「散弾ってやつだ、威力は小さいが広い範囲にたくさんばら撒いてくる嫌な弾だぜ!近づかねえほうがいい!!」

 

 いくら速くても広い面で攻撃されては近づくことすら難しい。ベレトは一定距離を保ったまま敵を倒す方法を必死に考え続けた。

 

 

 ルイズはというと、外の轟音を気にすることなく『始祖の祈祷書』に集中していた。

 

「『これを読みし者、我の行いと理想、そして目標を受け継ぐものなり。そしてその力を担いしものなり。『虚無』を扱うものよ用心せよ、志半ばで倒れし我と同胞の無念を継ぎ、『聖地』を取り戻すために努力せよ。『虚無』は強力だが永い詠唱と多大な精神力を消耗しなければならない。時として『虚無』はその力故に詠唱者の命を削ることもある。したがって我はこの書の読み手をえらぶのである。資格なきものが指輪をはめたとしても、この書は真の意味で開くことはない。選ばれし読み手は『四の系統』の指輪をはめよ、さすれば我が力を授けん。

 

 ブリミル・ル・ルミル・ユル・ヴィリ・ヴェー・ヴァルトリ

 

 以下に我が扱いし『虚無』の呪文を記す。

 初歩の初歩の初歩。『エクスプロージョン(爆発)』………」

 

 ルイズは一息ついた。この後は『爆発』なる呪文らしき古代語の文が続いていたからだ。

 

「………ねえ始祖ブリミル、あんた脳に何詰めてんの?この指輪無しじゃ『始祖の祈祷書』は読めないんだから、注意書きの意味がな、い……」

 

 ルイズはふと気づいた。

 

(……読み手を、選ぶ…?…この注意書き、読み手に向けての説明文にも読める…。………わたしが、読み手…?)

 

 とりあえず文字は読める、ということは…この『爆発』とやらも使えるのかもしれない。ルイズは自分が呪文を唱えるといつも爆発が起きていたことを思い出した。

 

「…あれだって、燃えてるわけでも風を起こしてるわけでもないわ。もちろん、『水』や『土』でもない。……『虚無』って言っても過言じゃない…!?」

 

 誰もが自分の魔法を失敗だと笑っていた。…しかし、誰も『どうしてそうなるのか』はわからなかったのである。

 信じられない気持ちではあった、それでもルイズはこれを試してみようと決意する。そう思うと、どうせ戦艦を相手にするのだからやるだけやってみようというやけっぱちにも似た勇気が湧いてきた。

 

「……ねえ(せんせぇ)。今、困ってる?」

 

 ルイズは『爆発』の呪文を暗記すると、ベレトの前にやってきて一緒に座席に座り込んだ。

 

「……困ってるな、すごく…。『レキシントン』号、敵に回すと恐ろしく厄介だ…。遠距離から散弾とかいう小さい無数の弾を使ってきて近寄ることもできない…」

 

「……自分でも、半信半疑なんだけれど…。わたし、選ばれちゃったのかもしれない…。…お願い、どうにかしてあの戦艦に近づいて」

 

「………ち、近づけないから困っているんだが?」

 

「 ち か づ い て 」

 

 ルイズは有無を言わせぬ強引さでベレトの太ももをべしべし叩く。その時、デルフリンガーが何かを思いついた様子で声をあげた。

 

「……相棒、あのデカブツは確かに全方位砲門だらけで一見どこでも撃てるようにできている…ように見えるが、()()()()()

…よく考えろ相棒、外した場合に艦へ被害が出かねない場所が、一つだけあるぜ」

 

「………フネの真上か!!」

 

「やるじゃない!いつもそのくらい閃きなさいよオンボロ剣!」

 

「泣かすぞ小娘ェ!?」

 

 『竜の羽衣』を上昇させ、『レキシントン』号の真上を陣取る。ルイズはベレトの肩に跨ると風防を開け放つ。

 

「ちょ、まてまて!何してるんだルイズ、危ないから降りるんだ!」

 

「ごめんなさい(せんせぇ)!わたしが合図するまでぐるぐる回ってて!」

 

 ルイズは息を吸い込み集中すると、『始祖の祈祷書』に書かれていた呪文の詠唱を始める。旋回を始めようとしたその瞬間、ベレトは強い殺気を後方から感じた。…しかも、その殺気には覚えがある。

 

「……この殺気は!!」

 

「相棒、後ろだ!」

 

 後ろを確認すると一騎の竜騎士が烈風の如く突っ込んでくるのが見える。ワルドであった。

 

 

 風竜に乗ったワルドは敵の竜騎士を見てにやりと笑う。自身が預かった竜騎士たちが殲滅されたのを確認した彼はまともにぶつかれば勝ち目はないと知り策を講じた。

 敵は間違いなく『レキシントン』号を襲撃しに来ると睨み、その死角に待ち伏せていたのだ。

 目標は急降下でワルドから距離を取ろうとするが、風竜は火竜よりもずっと速い。ぐんぐんと距離を詰めながら、ワルドはそれの姿をまじまじと見つめる。

 

(…なんだアレは?竜…ではない。ハルケギニアの(ルール)で作られたものではない。…やはり『聖地』かッ!)

 

 彼は風防の中に見慣れたピンクブロンドの髪の少女…ルイズを見つけ、狂気的な笑みを浮かべた。

 

「…あれは!やはり生きていたかッ!!ならばアレを操っているのは…当然貴様だよなァガンダールヴゥ!!」

 

 ワルドの失った左手が強くうずいた。風竜のブレスは火竜に比べて貧弱だが、ワルド自身の魔法で攻撃すればいいだけの話である。

 左の義手で手綱を握り、右手に持った杖で空気の槍『エア・スピアー』を詠唱し、敵を串刺しにするために突撃した。

 

「墜ちろ、ガンダールヴッ!!!」

 

 

 後ろにぴったり張り付いたワルドの風竜を、ベレトは静かに見据えていた。

 

(このままでは撃ち落とされる…。……いや、ここで諦めればルイズもシエスタも守れない!頼む、力を貸してくれ…!!)

 

 左手のルーンがベレトの思いに共鳴し、強く光り輝いた。その瞬間、ベレトが意識せずにある操作を行うと、天地がひっくり返った。

 減速からの瓶の内側をなぞるような軌道で風竜の背後に回り込んだのだ。もう一度やれと言われても再現は難しいだろうが、その予測できない動きはワルドを出し抜いた。

 辺りを見渡していたワルドは振り返り、目を大きく見開いた。

 

「な、ぁ…!?」

 

 ワルドの驚愕する顔がよく見える。思わずベレトはこう言い放った。

 

「落ちるのはお前だ、ワルド」

 

「くそおおおおお!!!」

 

 機銃弾がワルドと風竜の体を撃ちぬき、風竜は滑空するように墜落していった。邪魔者を排除したベレトは再び『竜の羽衣』を上昇させる。

 ヤバい軌道をしたのにルイズはしっかりと肩に跨ったまま詠唱を続けている。もしかしたら、ワルドのことにも気づいていないのかもしれないとベレトは考えた。

 

 

 ルイズは自身の中で強い力がリズムを刻むように巡るのを感じていた。身体の中で何かが生まれ、行き先を求めて回転していく感覚。

 メイジが自身の系統を唱える時、誰もがそんな経験をすると誰かが言っていたことをルイズは思い出した。

 

(…すごい力…。魔法が使えなくて無能(ゼロ)と馬鹿にされていたわたしに、こんな力があるなんて…)

 

 身体の中で力が行き先を求めるように暴れだす。彼女は足でベレトに合図を送った。

 タイミングを見計らいながら、ルイズは考える。

 

(『虚無』、伝説の系統…。歴史の闇に消えた、謎に包まれた魔法たち…。この力は、どれだけの破壊を生み出すのかしら…)

 

 長い詠唱を終えたルイズは、その呪文の威力を理解した。……()()()()()()()()()()()()を、己の呪文は破壊できると確信する。

 

(……壊すべき、敵は…!!)

 

 『虚無』の担い手が、目の前の『レキシントン』号を睨みつけた。その衝動を叩きつけるように、彼女は杖を振り下ろした。

 

 

 アンリエッタは上空に浮かぶ戦艦たちが、一つ残らず小型の太陽に飲み込まれるという異常な光景に絶句していた。

 光が消えた後、『レキシントン』号を筆頭にすべての艦の帆と甲板が燃えていた。

 

「………な、何が起きているの…?」

 

 あれだけトリステイン軍を蹂躙していた『レコン・キスタ』の艦隊たちが瀕死の虫のようにふらふらと墜落していく。

 …誰もがその光景に動きを止めていた。……もしかしたら、両軍ともに理解できた人間はいないのかもしれない。

 最初に我に返ったのはマザリーニであった。彼は空を飛翔する『竜の羽衣』を見つけ、大声で叫びだした。

 

「諸君、アレを見よ!敵の艦隊は滅んだ、伝説のフェニックスによって!」

 

「…ふぇ、フェニックス?」

 

 兵の困惑を無視し、マザリーニは笑みを浮かべる。

 

「さよう!あの空飛ぶ翼こそ、トリステインが危機に陥った時に現れるという伝説の不死鳥、フェニックス!!我らに、始祖の祝福ありィ!!」

 

「…お、オオオオオオ!!トリステイン万歳!フェニックス万歳!!」

 

「……そんな話、聞いたことないんですけれど…」

 

 トリステイン軍のやる気が無茶苦茶上がっているところに、アンリエッタは小さな声でマザリーニに聞いてみた。彼はいたずらが成功した悪ガキのように笑った。

 

「わっはっは、無論出まかせです。しかし、このよくわからない状況でみな判断力を失っている今、これを利用しない手はないでしょう。放っておけば混乱で士気が最底辺まで落ち込みますからな」

 

「…なるほど、枢機卿をやめた暁には詐欺師でも生きていけますわね」

 

「使えるものはなんでも使う。清廉潔白は確かに美徳ではあるのですが、戦場では汚れることもしなければならないのです。政治も同じことですぞ、殿下」

 

 アンリエッタは納得した。少なくとも、考えるのは後回しにして追撃する方がいい。

 

「敵は我々以上に動揺しているでしょうね。なにせ主戦力である艦隊がフェニックスによって吹き飛ばされたんですから」

 

「そうですな、殿下。さ、勝ちに行きましょうぞ!!」

 

「……全軍、突撃!!」

 

 

「ルイズ、大丈夫か!?」

 

「………(せんせぇ)。うん、ちょっとだるいけど…気分がスッキリしていい気分」

 

 ぼやーっとしているルイズは、ベレトの方に寄りかかる。

 

「……眠たいのはわかるが、一つ聞いてもいいか?いったい何をしたんだ?」

 

「……でんせつ、かな」

 

「それは……すごいな」

 

「でしょ…?」

 

 それを聞いて満足したのか、ルイズはスヤスヤと寝始めた。

 ベレトはルイズがやった戦果の方を見る。あれだけアルビオン艦隊がいたのに綺麗に掃除されてしまった。

 

(個人でやっていい戦果ではないよなぁ…。ここまでの規模の破壊は…ちょっと心当たりがないな…)

 

 なんだかルイズの力で波乱が起きそうな気がして、ベレトはため息をつきそうになる。

 

「……まあ、なるようにしかならないけど」

 

 タルブの草原で少数のトリステイン軍が多数のアルビオン軍を押し込んでいるのを見て、傭兵は微笑んだ。これなら加勢しなくともこちらの勝ちだろう。

 

 

 タルブの草原にて、疲労の貯まったヴィルキンソンは座り込んだ。アルビオン軍は総崩れ、大勝利である。

 

「……ふう、こんなところか…。まさか、勝てるとは思わなかった」

 

 隣に座った女性の姿を見て思わず彼は声をかける。あのフェニックスの加護があったのかもと、彼は笑みを浮かべた。

 

「アニエス!無事だったか!」

 

「…まあな。そちらも生き残ったか、なかなかいい腕をしているようだ」

 

 彼女の身体は返り血と自身の血で汚れていたが、大きなけがはないようだ。

 

「…この戦で敵をたくさん仕留めたようだね」

 

「……よくわかったな?」

 

「一皮むけた戦士の顔をしている。すばらしいことだ、この国も捨てたものではないな」

 

 そう言いながら、彼は右手を差し出した。

 

「私もきみも生き残った。再会を祝して握手をしよう、アニエス!」

 

「……わかったわかった!まったく、面倒なのと知り合いになってしまった…」

 

 彼らはギュッと強く握手を交わし、笑いあった。…アニエスは苦笑いだったが。

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