ゼロと師   作:シャザ

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 もうちょっとだけ続くんじゃ。


2章 タルブの英雄

 夕方、シエスタときょうだいたちは戦いの音が収まっていることを確認し森から出る。

 

「……父ちゃん、大丈夫かな…」

 

 弟の一人が心配そうに呟いた。

 

「………だいじょうぶ、きっと生きてるわ。お父さんはちゃんと帰ってくる…」

 

「…だ、だよな…。!!……ねえちゃん、あれ…!!」

 

 奇妙な音を鳴らしながら竜騎士らしきものが接近してくるのを確認したシエスタは、その正体を確かめようと目を細めた。

 

「………あっ!」

 

 その緑色の翼を、彼女は知っている。なぜなら、それは…。

 

「『竜の羽衣』…!ってことは、アレを動かしてるのは…!」

 

 シエスタは草原に降り立った『竜の羽衣』から出てくるベレトに走り寄った。

 

「ベレトさーん!」

 

「シエスタ!…おっとと」

 

 抱き着いてきた彼女を傭兵はしっかりと受け止めた。

 

「……ベレトさん、助けに来てくれたんですね…!」

 

「……ああ、だって仲間だろう?」

 

 少女はベレトを強く抱きしめた。ベレトの鼓動をその体全体で感じ、それが幻や夢でないことを確かめる。

 

「…あったかい…」

 

「……それはよかった」

 

 ベレトはしばらくされるままになっていると、ルイズに後ろから脛を蹴られた。見ると、彼女は頬を膨らませている。

 

「……こら!その辺にしときなさい!」

 

「……むう。ミス・ヴァリエール、今はわたしの時間ですから邪魔しないでください。…ねーベレトさん♪」

 

「二人ともケンカ腰はやめてくれ…」

 

 三人が騒いでいると、森の中から村人たちが出てきた。恰幅のいいおばちゃんがシエスタに話しかける。

 

「シエスタちゃん、今飛んできたのって『竜の羽衣』じゃないかい?」

 

「はい!この人…ベレトさんが動かしてくれたんです!」

 

「…ああ、そういえばアンタこの前村に来てたねぇ。いやー、まさか本当に飛ぶとは思わなかったよ」

 

 おばちゃんは『竜の羽衣』を感慨深そうに見ていた。その時、シエスタはハッと気づきおばちゃんに父のことを聞く。

 

「そうだ、おばさん!お父さんたちは!?」

 

「……まだ戻ってきてないよ。今から村に戻って探しに行くところさ」

 

「……自分たちも手伝おう、ルイズ」

 

「そ、そうね」

 

 

 タルブの村に向かった一行は、なんとか死傷者を出さずに済んだ村の戦士たちを発見した。重傷者は多いものの、致命傷を受けた人がいないとわかりシエスタはほっと息を吐く。

 

「……死人がでなくてよかったぁ…」

 

「…心配をかけたな、シエスタ」

 

「ホントだよもう!お父さん、こんなに無茶して!!」

 

 シエスタは包帯を巻きながら父に説教をしている。強い語気ではあるが、それが心配の裏返しであることは彼にも理解できたようだった。

 

「……さっき、『竜の羽衣』が飛んでいるところを見た。……自分でも信じられない、あれは…何だったのだろうか?」

 

「…ベレトさんが、あれに乗って村を守ってくれたのよ」

 

 シエスタの父は、ベレトの目をじっと見つめた。

 

「……どうしたんですか?自分の方をじっと見て…」

 

 ベレトの問いに、彼は薄い笑みを浮かべた。

 

「いや、運命とは奇妙な織物のようなものだと思っただけだ。…タルブの村の英雄よ、きみがよければ宴を開きたいんだが…」

 

「…せっかく誘ってくれたのだから、今日は村に泊まろうかな。ルイズはどうする?」

 

「………わ、わたしも村に残るわ。…もう日も暮れちゃうし…」

 

 

 ベレトとルイズは村を救った英雄として宴に参加することになった。村は酷い有様だったが、村人たちはみな笑顔を浮かべている。シエスタはニコニコしながらベレトに料理を持ってきてくれた。

 その様子を眺めながらヨシェナヴェをつっついていたベレトに、シエスタの父が話しかけてくる。

 

「…少し、いいかね?」

 

「はい、何かあったんです?」

 

「シエスタ、少しの間向こうへ行ってくれないか。…彼と話がしたくてね」

 

「わ、わかった。終わったらすぐに呼んでね」

 

 シエスタはちょっと遠くに料理を取りに行ったようだ。

 

「……単刀直入に聞くが、娘のことをどう思っている?」

 

「…………いい子ですよね。困っている人を見捨てないし、面倒見がいい」

 

「だろう!?自慢の娘だ!目に入れても痛くないぞ!……言いたいことはわかるね?」

 

 彼の目は笑っていなかった。

 

「きみは村を救った英雄であり、アルビオン…というか『レコン・キスタ』からトリステインを守った勇者だ。……だが、娘を泣かせたり悲しませたりしたら……私はきみを地の果てまで追いかけて殺す」

 

「……肝に銘じておきます」

 

 つまり、シエスタを裏切るなということだろうとベレトは納得した。その言葉を聞いて、シエスタの父はにっこりと笑う。

 

「……うむ、それでよし!その代わりと言ってはなんだが、困った時はいつでも相談してほしい。タルブの自警団が力になろう!」

 

「ありがとうございます。その期待は裏切りません、絶対に」

 

 ベレトは彼とがっちり握手を交わす。その時、シエスタが鳥の串焼きを皿にのせて戻ってきた。

 

「ベレトさん、お話終わりました?」

 

「ああ、だいたい終わった。…さて、一緒に食べようか」

 

「はいっ!」

 

 シエスタの嬉しそうな笑みに、ベレトもつられて笑顔になった。彼女の笑顔を守りきれたのだと、傭兵は安心したのだ。

 

 

 ここはタルブの村から遠く離れた森。…そこで、一人の男が生死の境をさまよっていた。

 

「…ぐ、ぅ……」

 

 …ワルドである。『竜の羽衣』の銃弾に貫かれてなお、彼はしぶとく生き残っていた。

 

「……いたっ!!」

 

 死にかけていた彼を見つけたのは、斥候隊に派遣されていたフーケだった。ワルドが空から墜落しているのを発見した彼女は、慌てて彼が落ちるであろう場所まで走った。

 

「…しっかりしな、おい!」

 

 フーケは『水』のヒーリングで応急処置をしてからワルドを担ぎ上げた。アルビオンの艦隊にいる貴族たちは降伏すれば戦場で殺されることはないだろうが、彼らは違う。

 もし捕まってしまえばフーケは盗賊として、ワルドは売国奴の裏切り者として牢獄送りになる。そうなれば極刑は免れないだろうとフーケは確信していた。

 

「……速く逃げないとね。盗賊時代の伝手でアルビオンまで戻れるといいんだけど…」

 

 ワルドを背負ったフーケは、光がある方向から逃げるように暗闇へと足を進めた。





《タルブ自警団》

移動:歩行 戦力:60 指揮:D 物攻:3 魔攻:-3 命中:20 必殺:0 回避:0 防御:3 耐魔:0 魅力:2 計略:一斉突撃

 タルブの村を守る勇敢な戦士たち。正規軍にも引けを取らない実力者が揃っている。
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