ゼロと師   作:シャザ

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3章 白いマフラーと秘密の話

 ベレトの鍛錬は、おおまかに分けて一日二回行われる。朝早くの朝食前と、学院の授業が終わった後の放課後である。

 朝食前にはルイズも頑張って早起きして剣の練習をしている。

 今は午後の鍛錬も終わり、みんなで休憩を取っていた。

 

「ふぅ、ここ最近は物騒だから練習にも熱が入るね先生!」

 

 ギーシュはハンカチで汗を拭っている。彼はオーク鬼との戦いで先走ってしまった反省から、連携について熱心に学んでいた。

 

「突撃は強力だけど割と予備動作がわかるからいざというときの切り札として使うといい」

 

「なるほど、わかったよ先生」

 

 ギーシュとベレトが話していると、シエスタが何か長いものを持って近づいてきた。

 

「ベレトさん、今時間大丈夫ですか?渡したいものがあって…」

 

「…それは?」

 

「『竜の羽衣』に乗ってる時、寒いんじゃないかなって思って」

 

 彼女が持っていたのは、真っ白なマフラーであった。確かに、周りを確認するには風防を開ける関係で風が直接顔に当たる。

 ベレトは早速それを首に巻いてみた。黒を基調にした彼の服装に、純白のマフラーはよく映える。

 

「おお、ありがたいな。…なにか文字が書かれているが、これは?」

 

「ベレトさんの名前です!」

 

「………そうか、ハルケギニアだとこう書くのか…」

 

 感慨深そうにその文字列を見ているベレトをよそに、シエスタは内心冷や汗をかいていた。

 

(……私の名前入れなくてよかった……!!横目でミス・ヴァリエールが睨んできてて怖いです…!)

 

 ルイズが人を殺しそうな眼光で二人を睨んでいるのを見て、ギーシュは彼女を落ち着かせようとした。

 

「………なによ、(せんせぇ)ったら…」

 

「まあまあ、落ち着きたまえ。きみ、そんなに彼女をにらんだらかわいそうだろう?」

 

「だって調子に乗ってるじゃない!」

 

「きみもなにか贈り物をすればいいんじゃないか?手作りならもっといい!」

 

 ルイズは無言でギーシュの足を蹴りつけ転倒させると、そのままゲシゲシ踏みつける。

 

「いだだだだッ!?や、やめたまえ!!」

 

「なに偉そうに言ってんのよ、この二股ギーシュ!わたしが、贈り物なんて…!!」

 

「貴族の自分がそんなもの平民に送るなんてありえない…って言いたいのかい?」

 

「………と、当然でしょ」

 

 ルイズは脳裏に自身の作った不格好なセーターを思い浮かべて、すぐにそれを振り払った。プライドの高いルイズはアレをタンスの奥深くに封印してなかったことにしたのである。

 

「贈り物をすることは恥ずかしいことじゃないさ。先生にはいつも世話になってるしいい機会だと思うよ!」

 

「…………」

 

 ルイズは困った顔でベレトの方を見つめる。傭兵はルイズに恥ずかしそうに微笑んだ。

 

「……どう、だろうか」

 

「……似合ってる」

 

 ルイズは悔しそうにそっぽを向いた。…悔しいが、シエスタのセンスがいいことは認めなければいけない。

 その様子を見ていたデルフリンガーは楽しそうに笑った。

 

「……いやぁ、今度の『虚無(ゼロ)』は見ていて飽きねぇなー…。……だろ、ブリミル・ヴァルトリ?」

 

 

 部屋に戻ったルイズは、今まで先送りにしていた話をすることにした。…『虚無』の話である。

 

(せんせぇ)、ちょっといいかしら。話したいことがあるんだけど…」

 

「ああ、ちょっと喉が渇いたから外で水汲んでからでいいか?」

 

「後じゃ駄目なの?」

 

「長くなるなら後で…」

 

 ベレトはコップを持ったままドアノブを回そうとするが、その直前にルイズは杖を一振りする。

 

「………ん?開かない?」

 

「簡単なコモン・マジックの『ロック』って魔法よ。大丈夫、すぐに済む話だから」

 

「……魔法が使えるようになったきっかけは、あの光の玉か。伝説とは聞いたけれど、結局なんなんだあれは?」

 

 ルイズは『水』のルビーと『始祖の祈祷書』を取り出した。

 

「『始祖の祈祷書』に選ばれた人間が『水』のルビーを付けると、『虚無』の呪文が浮かび上がるみたいね」

 

「なるほど、ある意味『天帝の剣(これ)』みたいなものか」

 

 ベレトは壁に立てかけていた『天帝の剣』に視線を向ける。

 

「そういえば、その剣についてはよく知らないわね…。そういうのって、そっちの世界にはいっぱいあるの?」

 

「……まあ、古い貴族の家とかにはあるな。『英雄の遺産』と呼ばれるこれらの武具は、力の象徴でもある」

 

 そのせいで腐敗した一面もあるが、それは別の機会に話すことにしたベレト。ルイズは紋章石の嵌まった剣をじいっと見つめていた。

 見るからに不気味だが、どこか美しさも感じる剣である。

 

「前にフーケが使おうとしたら血がでてたけど、本来の使用者じゃないと体が傷つくのよね…。伝説の聖剣、というより魔剣?」

 

 ルイズのその言葉に反応したのは、自称伝説の剣のデルフリンガーだった。

 

「ああ、そいつは血で所有者が適合してるか確かめてるぜ。…まあ、魔剣だわなぁ…」

 

「………ああ、それに比べれば『始祖の祈祷書』はまだ良心的だ。少なくとも、使用者を傷つけることはないんだから」

 

「そうね、そういう意味じゃ恵まれているのかしら…。……さて、外に出るわよ」

 

 ルイズが杖を振ると、ガチャリと部屋の鍵が開いた。開けるのも閉めるのもお手軽だなとベレトは感心した。

 

「……喉がカラカラだよ」

 

「奇遇ね、わたしもよ(せんせぇ)

 

 

 トリステインの王宮で、アンリエッタは来るであろう客人を今か今かと待っていた。最近の彼女は激務で疲労が溜まっていたが、それを気づかれないように背筋を伸ばす。

 そこに現れたのはルイズたちだった。彼女はうやうやしく頭を下げる。

 

「ルイズ!ああ、来てくれて嬉しいわ…」

 

「姫さま……いえ、もう陛下とお呼びしなければなりませんね」

 

「そんな…他人行儀にならないで、ルイズ・フランソワーズ。あなたはわたくしの最愛のおともだちを取り上げてしまうつもりなの?」

 

「なら、いつものように姫さまと呼ばせてくださいな」

 

「そうしてちょうだい。…ああ。女王ってすごく大変な仕事なのね、ルイズ…」

 

 アンリエッタはため息をついた。その様子を見ながらルイズはアンリエッタが続きを話すのを待つ。

 ……が、何も言ってくれないのでルイズは当たり障りのない話題でお茶を濁そうとした。

 

「……えっと…戦勝のお祝いをさせてください、姫さま」

 

「あの勝利は、あなたのおかげだものね」

 

「……え」

 

 ルイズは驚いた顔で親友を見つめた。女王は自身に送り付けられた報告書をルイズに渡しながら微笑んだ。

 

「あんなに派手なことをして隠し通せると思っていたの?」

 

「……うわ、かなりいいとこまで迫ってる…」

 

「異国の飛行機械を操り竜騎士を殲滅したと聞きました。厚く御礼を申し上げますわ」

 

 いきなり声をかけられたベレトはフルフルと首を振った。

 

「そもそもあれはタルブの村で見つけたものだ。彼らに援助してもらえれば自分としては嬉しい」

 

「ふふふ、救国の英雄だというのに謙虚なのですね。…本当はあなたを貴族にさしあげたいのだけれど…それは難しそうなのです」

 

「(別にそういうのは要らないんだが…)難しい、とは?」

 

「本当に多大なる戦果ですわ。竜騎士を全滅させながらアルビオン艦隊を墜落させるなんて、歴史上類を見ないものです。本来ならばあなたに領地どころか小国を与えて大公に据えてもいいくらいなのですよ、ルイズ」

 

 アンリエッタの口からため息が漏れる。それができない理由があることは明白であった。

 

「そんな…わたしは何も…」

 

「ごまかせませんよ、あの光を放ったのはあなたなのでしょう?」

 

「………ごまかせませんね…。わかりました、わたしがあの戦場で見た全てをお話します」

 

 ルイズは、アンリエッタからもらい受けた『水』のルビーを嵌めたら『始祖の祈祷書』のページに古代文字の呪文が浮かび上がったこと、その呪文を唱えたらあの光が発生したことを伝えた。

 ……もちろん、それが『虚無』と呼ばれる系統であることも。

 

「……ルイズ、あなたは始祖ブリミルが自身の子三人に王家を作らせたことは知っているでしょう?あなたがもっている二つの秘宝は、王家に『虚無』を伝えるために遺されたものなのでしょうね」

 

「わたし、王族ではありませんけど」

 

「ここでの王家とは、始祖ブリミルの血を継ぐ者のことよ。ラ・ヴァリエール公爵家の祖は王の庶子、その資格は十分にあるのです」

 

 ルイズはハッとした顔でアンリエッタを見つめた。アンリエッタはベレトの手をとる。手甲で隠れているが、そこには使い魔のルーンが刻まれている。彼女は、どうやらそのことを知っているらしい。

 

「あなたは、『ガンダールヴ』なのでしょう?始祖ブリミルが詠唱の時間を稼ぐために生み出した使い魔…」

 

「……知っていたのか。…なるほど、恩賞を与えればルイズが『虚無』だと明かさなければいけないから、彼女の力や命を狙うものが出てくるな」

 

「……ええ。ルイズ、これは誰にも言ってはいけませんよ」

 

 しばらくの間ルイズは考え込んでいたが、決心したのか口を開いた。

 

「なら、『虚無』は姫さまに捧げたいと思います。姫さまに必要なのは何よりもまず武力、あの光があれば負けるなんてありえませんわ!」

 

「駄目よ、そんなことをしてはいけません!」

 

「いいえ、決めました!!この命、姫さまのために使わせてください!」

 

 アンリエッタは困った顔で親友の暴走を見ていたが、最終的に苦笑しながらルイズをぎゅっと抱きしめた。

 

「……ありがとう、ルイズ。けれど、やはり『虚無』はわたくしたちの秘密にしましょう。使用も最低限に留めてください」

 

「かしこまりました」

 

「…そうね、これからあなたはわたくし直属の女官ということにしましょう。これを持って行ってください」

 

 羽ペンを取り、アンリエッタは羊皮紙に何かを書いてからルイズに手渡した。書面にはアンリエッタのみが使える花押が押されている。

 

「……これはわたくしが発行した正式な許可証です。王宮を含めた国内外への通行、警察権等の公的機関の使用を認めた許可証です」

 

「……おお、便利だな」

 

「だからといって、みだりに使うものではありませんよ?」

 

 ベレトののんきな声にアンリエッタはくぎを刺す。

 

「…とりあえず今は魔法学院の生徒として過ごしてください。もしあなたが必要な事件が起きたら真っ先に呼びますわ」

 

「はい、待っています!」

 

 それからアンリエッタはぼーっとしているベレトに向き直ると、ポケットから取り出した金貨や宝石を彼に手渡した。

 

「いいのか?」

 

「ええ、あなたは傭兵なのですよね?本来ならもっとお礼の品を差し上げたいのですが…今のわたくしではこれが精一杯。これからも、ルイズを守ってあげてくださいね」

 

 そこまで言われてしまうと、受け取らないという選択肢は取れない。

 いずれベレトはフォドラに戻らなければいけないのだが、それまでは彼女の使い魔として戦おうと彼は改めて決意するのだった。





《白雪のマフラー》

装備品 魅力+2

 シエスタの編んだ雪のように白いマフラー。ベレトの名前が書かれている。
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