ゼロと師   作:シャザ

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3章 ANNA

 ルイズとベレトは王宮を出て城下町を歩いていた。トリスタニアは今日も戦勝ムードでにぎやかである。

 ベレトは平和だなぁとつかの間の平穏を楽しもうとしていたが、その平穏はあっけなく崩れ去った。

 

「ふざけんなクソがァ!!」

 

「わわ、おっきな声…!なによ、道のど真ん中で叫ぶなんて非常識ね!」

 

 ルイズは騒ぎを起こしている連中に視線を向ける。そこには商人と揉めているガラの悪い男がいた。

 

「てめぇ、この道具の値段はなんだ!?どれもこれも高すぎるぞ!!」

 

「うちの店をぼったくり扱いしないで頂戴!たしかにちょっと高めだけれど、それは品質の高さを売りにしてるからよ!」

 

 どうやら、商人は女性らしい。首に緑のスカーフを付けた赤毛の女性を見たベレトは、眉をひそめた。

 

(………どこかで会ったことがあるような…)

 

「ちょっとおねえちゃん!あんまりお客さんとけんかしないで…!」

 

 商人の妹なのだろう、ルイズとあまり背丈の変わらない女の子が二人を止めようとするが…。

 

「黙ってろガキッ!!」

 

 ガラの悪い男が左腕を振り回し、女の子を殴りつける。

 

「きゃあっ!」

 

「ごちゃごちゃうるせぇ女どもがァ…!!」

 

「な…!!やめなさい!」

 

 商品棚に飾られていた鋼の斧を奪い取った男が、倒れ込んだ少女に血走った眼を向けた。

 

「ぎひひ…商品の実演販売だァ!!死ねええええ!!!」

 

「い、いや…!だれか、だれかぁ…!」

 

 男は斧を振り下ろすために右手を持ち上げ…鮮血が吹きあがった。

 

「……あ゛?」

 

 男の腕が、ベレトの『天帝の剣』で貫かれたのだ。男は絶叫しながら斧を落としてしまう。

 

「ギャアアア!!う、腕があああ!!」

 

「こんな街中で堂々と人殺ししようとするんじゃない」

 

 ルイズは女の子を助け起こしながら彼女の身体に怪我がないか調べる。擦り傷はあるものの、大きな怪我はないとわかるとルイズはほっと息を吐いた。

 

「…大丈夫?ケガはない?」

 

「あ、うん。だいじょうぶ…!」

 

「……さーて、覚悟はいいわね『ひやかし』さん?…妹を狙ったこと、思いっきり後悔させてやるんだから」

 

 女商人はにっこりと笑顔を見せるが、その目は怒りで燃え盛っていた。

 

「手伝おうか?」

 

「気持ちはありがたいけど、妹に危害加えようとした相手を任せるのは趣味じゃないのよね。ちょっと待っててちょうだい?」

 

「ひ、ィ…!」

 

 

 叩きのめした男を兵士に押し付けた後、女性商人はにこにこしながらベレトに話しかけてきた。

 

「いやー、妹を助けてくれてありがとうねお兄さん!」

 

「………どうも」

 

 ベレトはまじまじと彼女の顔を見る。……どっからどう見ても知り合いで頭が痛くなった。

 

「………で、なんでここにいるんだアンナ」

 

 ベレトは女性商人…アンナに問いかける。彼女はキョトンとした表情をした。

 

「……あれ、私の名前を知ってるの?少なくともこっちは初対面だけど…ねー?」

 

「そうだねーおねえちゃん。もしかして…ナンパ!?」

 

 キャーキャー騒ぐ女の子をスルーして、アンナは納得したように相槌を打った。

 

「………あぁ!もしかしてあなた母さんの知り合い?」

 

「……母さん?どういう意味だ?」

 

「えっと、私の母さんも名前がアンナなのよ。私、この子以外にももう一人妹がいるんだけど、全員アンナ!」

 

「………馬鹿じゃないのあなたの母親…?それじゃ、どうやって区別してるわけ?」

 

 ルイズの呆れたような声に、妹のアンナは首をかしげた。

 

「…なんとなく呼ばれたらわかりません?」

 

「………うーん、ちょっとわかんないかなぁ?」

 

「ま、立ち話もなんだし。お店の中で話しましょ?」

 

 姉の方のアンナにそう言われ、ベレトは頷いた。

 

 

 店の中はたくさんの商品であふれていた。二人のアンナは楽しそうに笑顔でベレト達を歓迎する。

 

「「ようこそ、『アンナ商会』へ!」」

 

「わぁ……!これ、全部売り物なの!?」

 

「そうよ!ハルケギニアの各地を回って仕入れた自慢の一品、どうか見ていってね♪」

 

 ルイズはキョロキョロと興味深そうに周りを見渡していた。ベレトは商品の一つに目を向けると目を丸くする。雷のような意匠の剣、サンダーソードであった。

 

「サンダーソードだ…。こんなもの、どこで手に入れたんだ?」

 

「それは私のもう一人の妹が作ったのよ。会ってみる?」

 

 

 アンナが奥の部屋に案内すると、そこは工房であった。その工房の主であるハンマーを抱えた少女はため息をつきながら姉に文句を言う。

 

「……ねえさん、部屋に入ってくるならノックくらいしてよ…」

 

「ごめんごめん!…紹介するわ、真ん中の妹よ」

 

「……鍛冶屋のアンナって呼ばれてる。まあでも好きに呼んでいいよ」

 

 彼女のそばには鍛え上げたばかりの鋼の剣がある。ベレトは自己紹介をする。

 

「自分はベレト、こっちにいるのはルイズだ」

 

「よろしくね、鍛冶屋さん!そうだ(せんせぇ)、せっかくだから何か買っていかない?」

 

「それはいいな」

 

 

 店に戻った二人は、さっそく商品を見てみることにした。ルイズは妹アンナに色々質問をしている。

 

「ねえ、これ何?」

 

「それはおバカな猛獣を躾けるための拘束具です!水と風の魔法でお仕置きできる優れもの!」

 

「じゃあこっちは?」

 

「異性をいやらしい目で見ると爆発するメガネです!…なんで作者はそんなもの作ろうとしたんですかね?」

 

 ルイズはあれでもないこれでもないと目移りしながら、好みのものを探している。

 

「……あ、これかわいい…」

 

 ルイズの目に留まったのは、真ん中に宝石の嵌まっている真っ白なペンダントであった。妹アンナは自信満々に商品を説明し始める。

 

「ふふ、それあたしが作ったんだ!魔除けの宝石を使ってるから、魔法の威力を弱めてくれるんだよ!」

 

「す、すごいじゃないそれ!」

 

「………宝石の純度はかなり低いから本当に気休めでしかないけど」

 

「……なんだ、残念…。……でも、デザインがいいわね」

 

 たとえ実用性は皆無でも、ルイズはこのペンダントが気に入った。

 

「………これ、いくらだ?」

 

 ベレトがいきなりそう言ってきたので、妹アンナは目を丸くする。

 

「え、えーと…四エキューになります!」

 

「…このくらいあれば足りるか?」

 

 傭兵は懐の袋から金貨を十枚ほど取り出し、少女に手渡した。

 

「あ、あわわわ…。そんなに出さなくってもいいですよ!」

 

 金貨を四枚残して六枚を返しながら、妹アンナはルイズに魔除けのペンダントを手渡した。

 

「どうぞ、ルイズさん。お買い上げありがとうございます!」

 

(せんせぇ)、いいの?」

 

「いいんだよ、報酬の使い方は自分で決める」

 

「そ、そう?……えへへ」

 

 ルイズはベレトが自分のための買い物をしてくれたことが嬉しくて思わず頬が緩んだ。

 

「……じゃあ、次は自分の買い物をしようか。どれどれ…」

 

 ベレトが店の一角に注目すると、そこには何着か服が飾られていた。その中でも真っ先に目を引くのは、首と肩を覆うように襟布がついた可愛らしい服であった。

 

「本当に何でも売ってるんだな…」

 

「それは水兵さんの服を基に作った新商品です!かわいいでしょう?」

 

「……水兵?」

 

「はい、ちょっと前にアルビオン軍から接収された水兵服から着想を得たんです。いやぁ、一目見たときにビビビッときたんですよ!この部分良くないですか!?なんでも風を読むためのものだそうですよ!」

 

 妹アンナは興奮したようにまくし立てている。妹の接客を見ていた姉のアンナは苦笑いしながらベレトに話しかけた。

 

「あはは…、ごめんなさいね?この子手先が器用で色々作れるんだけど…興奮するとこうなっちゃうの」

 

「……いや、大丈夫だ。それにしてもよくできているな…」

 

「いつかこの服を女の子の間で流行させたいんです!どうでしょう一着贈り物に!!」

 

「贈り物、贈り物か…」

 

 ベレトの脳裏にはシエスタがこの女性用水兵服に袖を通した姿が浮かぶ。先日マフラーを貰ったので、お返しとしては悪くない。

 …それに、シエスタの黒い髪にこの服はよく似合うだろうとベレトは思った。

 

 

 魔法学院に戻るころには、既に日は落ち切って夜になっていた。部屋に戻ってきたルイズは鼻歌を歌いながら機嫌がよさそうにペンダントをいじっている。

 ベレトは今日買った水兵服をシエスタに渡すのは明日にしようと考え、ルイズと話をすることにした。

 

「今日は色んな事があったな…。これからはアンリエッタの女官というわけだが、意気込みは?」

 

「敵は全員ぶっ飛ばすわ!!」

 

「………野蛮だがその心意気はヨシ。だが、アンリエッタじゃないがあの『虚無』の使いどころは悩むな。あそこまで小回りが利きにくいと…」

 

 ルイズはため息をついた。

 

「……じつは、姫さまや(せんせぇ)には言ってないことがあるの。アレ、しばらく撃てないと思う…」

 

「というと?」

 

「あの『エクスプロージョン』って呪文、あれから何度か試してみたんだけど…最後まで唱えることができなかったのよ。爆破はするんだけど、途中で意識を失っちゃうの…」

 

「………原因はわかるか?」

 

 ルイズはその理由がわかっているようだった。

 

「……精神力不足、かしら。最初に呪文を唱えた時の全能感から察して…相当持っていかれちゃったみたい…」

 

「精神力…?」

 

「ええ、メイジは精神力を消費して魔法を唱えるのよ。前にメイジのクラスの話はしたわよね?これは呪文にも適応されるの。おおよそ呪文のクラスが一つ上がると精神力の消費は倍になるってわけ」

 

「…なるほど、『スクウェア』の呪文は『ドット』の呪文の八倍消耗すると…」

 

「ええ、でもそれだけじゃないわ。メイジが一つ上のクラスに成長すると、これまで使っていた呪文の精神力の消費が半分になるのよ」

 

 ルイズは今までため込んだ知識を披露できてご満悦らしい。ベレトはちゃんと理解ができた。

 

「低級呪文は弱いが何度も使える、上級呪文は強力だけど何度も使えないというわけか。この場合、『エクスプロージョン』の精神力消費が恐ろしく多いということだな?」

 

「そんな感じだと思う。……じゃあ、どうしてあの時は全部唱えられたのかしら?」

 

「……仮定ではあるが、魔法が使えなかったせいで今まで溜まっていた精神力をあの時全て使ってしまった…とか。強力な魔法程消耗が激しいのならあの『虚無』は十数年の精神力を枯渇させるほどの呪文だということになるが…」

 

 ベレトの仮定に、ルイズは真剣な顔で頷いた。

 

「それが一番ありえそうね。じゃあ、次に完全に詠唱できるのはいつなのかしら…?」

 

「……普通に考えたら十年はかかるんじゃないか?」

 

「嫌なこと言わないでよ(せんせぇ)!…でも、『虚無』って本当に不思議なことだらけね。詠唱が途中でも効力を発揮するって普通はあり得ないんだけど…」

 

「まあ、難しいことを考えるのはこのくらいにしておこう。…なんだか眠くなってきたし」

 

「そうねー、おやすみ(せんせぇ)

 

 そう言ってベッドに潜っていったルイズ。その横でベレトは明日の予定を立てながら眠りに身を任せるのだった。






<人物紹介>

【流浪の商人】 アンナ
所属:アンナ商会 年齢:22 兵種:トリックスター

アンナ三姉妹の長女で商売が大好きな女性。世界中を周りながら商品を仕入れている。
基本的には戦わない方針だが非常時には剣を振るうこともあるようだ。
イメージカラーは緑。

【探求の鍛冶屋】 アンナ
所属:アンナ商会 年齢:19 兵種:ウォーリアー

アンナ三姉妹の次女で、鍛冶屋を営んでいる。基本的に物静かで人に心を開くことは少ないが、武器に対しての情熱は凄まじい。
戦いのときにはハンマーや自身の作った斧を振り回す。
イメージカラーは青。

【日向の道具屋】 アンナ
所属:アンナ商会 年齢:15 兵種:ペガサスナイト

アンナ三姉妹の三女で、手作りの道具などを扱っている。彼女の着ている服は手作りで、その手先の器用さでアクセサリーや服などを趣味も兼ねて制作しているようだ。
ペガサスに乗りながら槍で懸命に自衛はできるが、戦いは苦手。
イメージカラーは赤。
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