ゼロと師   作:シャザ

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3章 嵐砕く(ほむら)

 ベレトがデルフリンガーで敵の身体を斬り裂くが、敵は何事もなかったように反撃してくる。先ほどタバサの魔法で穴だらけになったはずの敵も戦線に復帰しているようだ。

 

「……本当に致命傷を与えても動いてるじゃないか…」

 

 お互いに相手に損害を与えられないまま長期戦になるかと思われたその時、キュルケの炎球が敵のメイジを焼き尽くした。

 

「……あら?こいつらもしかして、火に弱いの?」

 

「そのようだ。おそらく体内に不死身の仕掛けがあるな」

 

 キュルケはニヤリと笑みを浮かべながら仲間たちに声をかけた。

 

「みんな、ここはあたしに任せてちょうだい!」

 

「キュルケを敵の攻撃から守れ!」

 

 自分の魔法なら倒せると気づいたキュルケは自らの情熱を表現するように苛烈な炎を浴びせる。敵はもちろんキュルケを倒そうと魔法を集中させたが、ベレトのデルフリンガーがほとんど吸い取ってしまった。

 それを見たアンリエッタは思わず毒づいた。

 

「……嫌な武器を!」

 

「こう見えて結構気に入ってるんだ」

 

 守りを考える必要のないキュルケはアルビオンの貴族たちを次々と消し炭にしていく。三体ほど倒された敵が距離を取るのを見たキュルケは一呼吸おいてから再び杖を構えた。

 

「このままガンガン焼けば何とかなるわね…」

 

 彼女がそう言った瞬間、ヴィルキンソンの頬に冷たい水滴が落ちてくる。

 

「………いや、どうもそうはいかないようだ」

 

 そう、大降りの雨が街道に降り注いだのだ。

 

 

 キュルケは自らの相性と最悪な大雨に頭を抱えた。

 

「………うっそでしょ?こんな最悪なことある?」

 

「……お願いルイズ、もう抵抗しないで。このまま戦っても勝ち目はないわ!」

 

 アンリエッタの勝利宣言に、ルイズは悔しそうな顔をする。大雨が降るこの環境は唯一の決定打だったキュルケを弱体化させるが、逆に『水』系統のアンリエッタにとって最高の天候だからだ。何せ水が大量にある。

 

「これは…だいぶ旗色が悪くなったな…」

 

「旗色悪いどころか詰みでしょ!わたしたちも近くに転がってる連中の仲間入り、もっと最悪なのは死体を利用されかねないわ!」

 

 ルイズがそう言った瞬間、ベレトが持っていたデルフリンガーがガタリと揺れた。

 

「………()()??………あーッ!!」

 

「どうしたデルフ、ここから逆転する方法を思いついたか?」

 

「………あいつら、俺と同じ魔法で動いてやがる!水の精霊と出くわした時からなんか見覚えがあるなとは思ってたが…懐かしいねぇ」

 

 デルフリンガーがしみじみと思い出すように語りだす。

 

「アレは『先住』の魔法、お前らの使う四大系統とは根本的に違う代物だ。特に出力が洒落になってないからブリミルだって苦労したもんだぜ」

 

「なによ、言いたいことがあるんならとっとと言いなさいよ役立たず!!」

 

 ルイズの暴言にデルフリンガーは鼻で笑った。

 

「そっちこそせっかくの『虚無』なのに馬鹿の一つ覚えで『エクスプロージョン』しか使ってねぇじゃねぇか!」

 

「それしか使えないんだからしょうがないでしょ!!それともなに、ここからでも逆転できるすっごい魔法でもあるわけ!?」

 

「そこに!『教科書』が!!あるだろうが!!!」

 

 デルフリンガーの指摘でルイズは肌身離さず持ち歩いている『始祖の祈祷書』を開く。…が、相変わらず『爆発』の次のページは白紙のままだ。

 

「真っ白なんだけど!!」

 

「もっとめくれ、担い手にとって今一番必要な魔法が出てくる!」

 

 ルイズはかなりの速さでページを次々とめくる。彼女がそのページをめくったその時、白紙だったはずのページにルーン文字が浮かび上がった。

 

「……ディス、ペル?」

 

「ああ、『解除』だ。さっきお前さんが飲んだのと同じ打ち消す力だな。……ただしソイツはほぼすべての魔法に効くがね!!」

 

 

 アンリエッタは逃げようともしない彼らに苛立ちを覚えた。もはや勝ち目がないのに向かってくるなど正気だとは思えなかったのだ。

 

「……さようなら、ルイズ。わたしは愛に、愛に生きるの…」

 

 彼女は駄目押しに味方に水の鎧を纏わせた後、さらに呪文を唱える。その声に合わせるようにウェールズの詠唱が加わった。

 ウェールズの冷たい笑みに気づきながらもアンリエッタの心は熱くなる。

 

 『水』が三つ、『風』が三つ。アンリエッタとウェールズの詠唱で風は暴風、雨は恐ろしい刃となって竜巻を形作った。

 王家の血統にのみ許された規格外の魔法、『ヘクサゴン・スペル』は城すら吹きとばすだろう。

 

 雨の降る音に混じり、少女(ルイズ)の詠唱が混ざる。それを聞いていると、ベレトの心には立ち向かう気力が湧いてきた。

 キュルケはちょっとだけ微笑みながらベレトに尋ねてきた。

 

「この子何やってるの?」

 

「伝説の真似事」

 

「……そりゃいいわね。伝説でもなければあの巨大竜巻をなんとかできるわけないし…」

 

 ベレトとキュルケがそんなことを話している間にも、竜巻は大きさを増していく。……しかし、ルイズの詠唱はまだまだ終わりそうな気配がなかった。

 

「先にあっちの方が完成しそうだな…」

 

「……相棒、ガンダールヴの仕事は主を護ることだぜ。骨でできた剣をぶん回すことじゃないし竜の羽衣で竜騎士を叩き落とすことでもない」

 

「わかっている。……それにしても、恐ろしい大嵐を前にしてるのに心が落ち着いているな」

 

「……相棒の気質ってのもあるだろうが、ガンダールヴは主人の詠唱を聞くと勇気が湧いてくるんだよ。赤ん坊の笑う声で母親が嬉しくなるのと同じで、そういう風にできてる」

 

 ベレトはデルフの説明に微笑んだ。……それこそ、親が子供に無償の愛を注ぐのと変わらないからだ。

 

「……そうか」

 

「思うところでもあるんか?」

 

「………いいや、自分は虚無(ゼロ)の使い魔だ。…この程度の嵐、薙ぎ払う!!」

 

 

 ウェールズとアンリエッタの呪文が完成し、ルイズたちを跡形もなく吹き飛ばそうと迫る。ベレトは巨大な竜巻に自ら飛び込んだ。

 『風薙ぎ』を放とうとする傭兵の身体を、水流の刃が斬り裂く。呼吸もできないその状況で、ルイズの『虚無』の呪文が聞こえてきた。

 

 ……幻聴だとしても、それはベレトを奮い立たせるには充分だった。左手のルーンが輝き、『風薙ぎ』が新たな戦技に進化する。

 ベレトは両手でデルフリンガーを持ち、暴風に逆らうように剣を振るった。

 

「……『嵐薙ぎ』ッ!!!」

 

 

 最強の魔法である『ヘクサゴン・スペル』が、たった一人の剣士(へいみん)に両断される。

 血まみれのベレトに視線を向けられたアンリエッタは震えあがった。

 

「……………」

 

「……ひぃっ!」

 

 敵も味方も関係なくほぼ全員がベレトに釘付けにされていた。その間にルイズの詠唱が完成する。

 ベレトが傷だらけになっているのを見たルイズは躊躇なく『解除』を先住の魔法で動く屍たちに叩き込んだ。

 

 『解除』の眩い光がアルビオンの貴族たちを包み込む。

 アンリエッタの隣に立っていたウェールズが崩れ落ちる。彼女は恋人に駆け寄ろうとするが、『ヘクサゴン・スペル』で精神力を消耗しきっていたせいか気絶してしまう。

 戦闘が終わったことを確認したベレトも、そのまま意識を失った。

 

 

 アンリエッタが目を覚ますと、ルイズが心配そうにのぞき込んでいた。辺りを見回すと周りには死体に戻ったアルビオン貴族たちが横たわっている。

 アンリエッタには何が起こったのかはわからないが…あるべき姿に還ったのは理解した。

 

「……わたくしたちの、負けね」

 

「……目、ちゃんと覚めましたか?」

 

 ルイズの表情に怒りはない。それが逆にアンリエッタに罪悪感を与えた。

 

「……あなたになんと謝ればいいの?自分勝手に人を傷つけたわたくしは、どうすれば…?」

 

「今は生きている人たちを助けてください。あの竜巻で(せんせぇ)が酷い怪我を…」

 

「…わ、わかったわ」

 

 アンリエッタがベレトのところへ向かうと、ヴィルキンソンが必死に治療を施している最中だった。

 

「……ヴィルキンソン殿…わたくしは…」

 

「…………今は、彼の治療を。竜巻を斬り伏せたのはいいのですが…代わりに全身がズタボロの状態です」

 

「わかりましたわ、すぐに始めます」

 

 二人の『水』の魔法が、ベレトの傷を癒していく。意識を取り戻したベレトは治療をしてくれたアンリエッタに目を丸くするが、すぐに微笑んだ。

 

「……ありがとう、アンリエッタ姫。ヴィルキンソンも助かったよ」

 

「そんな…!わたくしはあなたたちを殺そうとしたのに…」

 

「……誰も陛下を責めることはできませぬ。…私とて、友の姿をした敵に杖を向けるのは辛い。………それはそれとして、怪我をしている者は他にいないか?」

 

 なんとか生き残ったヒポグリフ隊の数人を治療した後、一行は敵味方問わず死体を木陰に運んだ。このまま放っておくわけにもいかないからだ。

 かつて同志だった貴族の死体を担ぎながら、ヴィルキンソンは衛士隊の死体を運ぶベレトに話しかける。

 

「………殿下の命がなければ、私もああなっていたのだろうな」

 

「……嫌な想像はするものじゃないぞ。この事件を起こした『アンドバリ』の指輪はまだ『レコン・キスタ』が持っているはずだ。…いずれ奪いにいかなければまた倒れた仲間を利用される」

 

「…絶対に死ぬわけにはいかなくなったネ!!連中の手駒なんて文字通り反吐が出るっ!!」

 

 アンリエッタは最後にウェールズを運ぼうとする。

 

「………ウェールズさま…」

 

 彼女が恋人の頬に触れようとした瞬間、ウェールズの右手がほんの少しだけ動いた。

 

「…………こほっ」

 

「………え?」

 

 ……ウェールズが小さく(せき)をする。アンリエッタは信じられない目でウェールズを見た。

 

「ウェールズさま!?」

 

「………う、うぅ…。…ここは、どこだ?」

 

 ウェールズが首を動かすと、驚愕するアンリエッタと目が合う。

 

「あ、アンリエッタ!?本当に何処だここは!僕はいったいどうなったんだ!?」

 

「で、殿下!!こ、これはいったいどういうことだ!?」

 

 一行はとんでもないことが起きて大混乱に陥った。『アンドバリ』の指輪で蘇った貴族たちは全員死体に戻ったのに、なぜかウェールズだけ復活したのだから当然である。

 

「どういうこと…なんだろうね?」

 

「ウェールズさま…!本当に、あなたなのですね…」

 

「………アンリエッタ。……大丈夫、僕はここにいるよ」

 

 ウェールズはアンリエッタの涙を拭う。それを見ていたベレトは困った顔でウェールズに尋ねた。

 

「ウェールズ王子、自分たちと別れた後何があった?」

 

「……えっと、捕まって…どこかの地下牢に入れられていたんだ。飲まず食わずで放置されて、最終的には魔法人形に妙な薬を飲まされて…。そこからの記憶はない…」

 

「困ったな、いったい敵は何を企んでいる…?」

 

 

 アンリエッタは敵の手から解放されたウェールズをぎゅっと抱きしめる。雨で身体が冷えているものの、その奥底には先ほどまではなかった温もりがあった。

 その温もりを感じながら、アンリエッタはぽつりとワガママを言った。

 

「………ウェールズさま、少しだけ二人で話したいのです」

 

「ああ、僕もだよ。…ヴィル!済まないが、彼女を送り届ける前に行きたい場所があるんだが…」

 

「……どこに向かうつもりなのです?」

 

「ラグドリアン湖だ。思い出の場所なんだ」

 

 それを聞いたヴィルキンソンはしばらく考えていたが、ため息をついた。

 

「……夜明けまでに帰るなら良いでしょう。ですが、その後は寄り道せず送り届けること!…いいですね?延長は無しでお願いします!!」

 

「わかっているとも!……さぁ、行こう」

 

「……はい!」

 

 アンリエッタは花のような笑顔で答えた。




<今回のボス>

【操られた王子】 ウェールズ

『アンドバリ』の指輪によって操られたアルビオンの王子。アンリエッタを口先で騙し誘拐しようとした。
積極的に攻撃してくることはないが、雨が降ってくるとアンリエッタと共に『ヘクサゴン・スペル』を唱えて味方に致命傷を与えてくる。

『嵐薙ぎ』
消費:-7 威力:+8 命中:+30 必殺:+15 射程:1
効果:相手は反撃不可、さらに命中した敵を一マス自分と反対方向へ移動させる
ベレトがガンダールヴの力で進化させた風薙ぎ。両手で剣を振ることで敵を吹きとばすほどの威力を誇る。
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