ゼロと師   作:シャザ

47 / 60
4章 魅惑の妖精亭

 スカロンが経営する酒場『魅惑の妖精』亭は一見ただの居酒屋だったが、男性客に人気がある。その理由は、店に案内されてすぐにわかった。

 開店前、スカロンが()()()に向かって大きな声を張り上げた。

 

「いいこと妖精さんたちッ!」

 

「「「はい、ミ・マドモアゼル!」」」

 

 このスカロンという男、可愛い女の子にちょっと肌の露出が多い服を着せて給仕させているのである。男の弱いところを的確についた商売上手なのだ。

 

「さてさて、まずは悲しいお知らせが一つ。……最近、売り上げが落ちちゃってます、このお店。妖精さんたちも原因はわかってるわよね?」

 

「はい、あのにっくき東方からの侵略者(あんちくしょう)を出す『カッフェ』ですよね!!」

 

 女の子の一人にそう言われた店長は頷いた。

 

「そのとおおおおりッ!酒精の入ってない『お茶』なんぞに伝統ある『魅惑の妖精』亭が負けるわけにはいかないわッッ!!」

 

「「「はい、ミ・マドモアゼル!!」」」

 

(軍隊並に統率が取れている…)

 

 ベレトの呆れたような感心するような顔を意に介さず、店長は机の上に上がり様々なポーズを取る。

 

「魅惑の妖精たちのお約束!ア~~~ン!」

 

「「「ニコニコ笑顔のご接待!」」」

 

「ドゥ~~~!」

 

「「「ピカピカ店内清潔に!」」」

 

「トロワ~~~!」

 

「「「どさどさチップを貰うべし!」」」

 

「トレビアン!」

 

 どうやらこの『魅惑の妖精』亭の決まり事らしい。最後のはともかく他の二つは接客業として当然のことだが、こうやって決まり事として決めていることで従業員の気を引き締めているのだろう。

 

「さて、今日はみんなに素敵なお知らせがあるの。……なんと、新しいお仲間が入るのよ!」

 

 拍手に包まれながら、羞恥と怒りで顔が真っ赤のルイズはきわどい白のキャミソール姿で現れた。未熟な体つきだからこそ、見たものに可憐な妖精のような印象を与えるのだ。

 

「この子はルイズちゃん、元々は普通の女の子だったのだけど家族に不幸が立て続けに起こって最終的に見習い傭兵に身をやつしてしまったの…。優しい先輩の傭兵がいなかったら怪我をしたりとても表じゃ言えないような酷いことを無理やりやらされてたでしょうね…」

 

 女の子たちは同情のため息をもらす。不幸云々はベレトが適当にでっちあげた作り話だが、スカロンは気にした様子はない。今の時代不幸話なんてそこら中に転がっているし、大切なのはルイズが可憐な美貌の持ち主であることだからだ。

 

「ホラ、ルイズちゃん新しいお仲間にご挨拶して」

 

「……る、ルイズです。よよ、よろしくです…」

 

「はい、拍手!」

 

 自尊心の塊である彼女にとって平民に頭を下げるなんぞとても許せないことではあるが、任務のため任務のためと彼女は内心呟き続けることでなんとか我慢に成功する。

 スカロンは壁にかけられた時計を見て、開店時間が近づいてきたことを確認すると指をぱちんと弾く。その音を合図に隅に置かれた魔法人形たちが行進曲を奏でだす。

 

「さぁ…開店よ!!」

 

 扉が開き、待ちかねた客たちが勢いよく入ってきた。

 

 

 開店直後、ベレトはスカロンに皿洗いを命じられた。お店の都合上男性が接客をするわけにもいかないので当然だろう。

 繁盛する店、大量の皿を黙々と洗い続けるベレトだったが、予想よりも客入りが多いのか少しずつ積み上がっていってしまった。

 

「…儲かっているのはいいことだ」

 

 ベレトは思わず独り言を呟くと、それをたまたま聞いていた女の子が怒鳴ってきた。

 

「ちょっと、『儲かってるのはいいことだ』じゃないわよ!次のお皿早く!」

 

「……申し訳ない…」

 

「しょうがないな、手伝ってあげるから貸して!」

 

 そう言いながら少女はベレトの持っていた皿洗い用の布をひったくり、手慣れた様子で皿を洗いだした。

 

「ちょっと見てたけど、あんた片面ずつ磨いてるでしょ。それにしちゃそこそこ早めだったけど、こうやって布で両面を挟んで洗えばもっと効率よく洗えるわ」

 

「おお、なるほど。こうか?」

 

「そうそう、そんな感じ!あたしジェシカ、あんたは?」

 

「ベレト」

 

「へー、よろしくベレト!あんたあの新入りとどんな関係?恋人?」

 

 ジェシカは好奇心旺盛なのかルイズとの関係を聞いてくる。

 

「恋人…ではないな。済まないがルイズとの関係は秘密だ」

 

「ここに居る子はみんなワケありだし別にいいわよ。……でも後であたしにだけ教えて?ね、いいでしょ?」

 

「好奇心の塊だな、きみは…。きっと近い将来大成するか早死にするだろう」

 

「あははっ!面白い口説き文句だねベレト!十五点くらいかな!」

 

 思いっきり赤点を叩きつけられベレトは苦笑するしかない。そもそも口説いていないのだが。

 

「そういえば、ジェシカは自分を手伝っていていいのか?妖精さんが別の仕事をしていたら店長が困るのでは?」

 

「あ、それは大丈夫。……だってあたし……スカロンの娘だから!

 

 ガッチャーンという音が響く。あまりにもショッキングな事実を聞いてしまったベレトが皿を落として割ってしまったのだ。

 

「ちょっと!?びっくりしたからって皿を割っちゃダメでしょ!弁償してもらうんだからね!!」

 

「…………よ、養子…か?」

 

「ふっつーに血は繋がってるわよ?」

 

「お、おでれーた……」

 

 あまりの衝撃の事実にベレトはデルフの口癖が移ってしまった。母親の血統が容姿に強く出ているとしか思えない。

 

 

 ベレトがそれ相応の苦労をしている頃、ルイズにもまた苦難が待っていた。

 

「……ご、ご注文の品お持ちしましたぁ…」

 

 引きつった笑みに冷や汗をかきながら、ワインボトルとグラスを机に置く。そんな彼女に向けて下衆い笑みを向けた男はこんな要求をしてくる。

 

「ねえちゃん、注げや」

 

 ルイズは引きつった笑みを浮かべているが、その内心は火山のように怒りが燃え滾っている。こんな下品な平民に酌をするなんて…と思いながら、なんとか笑みを保っている。

 

「で、ではお注ぎさせていただきますぅ…」

 

「ふん」

 

 ワインを注ごうとしたルイズだったが、怒りで震えているせいで狙いが外れてしまいワインが男のシャツにかかってしまう。

 

「て、てめぇ何しやがる!シャツが濡れちまったじゃねぇか!」

 

「す、すいま…せん…」

 

「すいませんで済むかよっ!どうしてくれんだ、ええ!?」

 

 男はじろじろとルイズを舐め回すように見る。

 

「ほほう…お前、胸はねぇが中々美人じゃねぇか」

 

 ルイズの地雷を容赦なく踏み抜き、男は鼻の下を伸ばす。

 

「へっへっへ、気に入ったぜ。じゃぁワインを口移しで飲ませてもらおうかな!それで許してやるよ!」

 

 ルイズはワインを口に運び、そのまま全部飲み干した。男は彼女の奇行に目を丸くする。

 

「……お前、いったいなにしてる?」

 

「ワインボトルを空にしてるのよ…。そうしないとぉ…中身がもったいないでしょおおおお!?」

 

 クルリとワインボトルを持ち替えてから、ルイズは男の頭にワインボトルを叩きつけた。殴りかかられるとは思っていなかった男は反応できずにいい一撃を貰ってしまう。

 

「ぐああッ!?て、てめぇ何を…」

 

「これはぁ!わたしからのぉ!!特大サービスよ!!!」

 

「ぎゃっ!?やめ…がッ!!ぎゃっす!!?」

 

 立て続けに三回も殴りつけ、男の意識を刈り取る。その惨劇に気づいたスカロンは慌ててルイズを取り押さえた。

 

「るる、ルイズちゃん待って!そこまでよ!!ほら、落ち着きなさい!!」

 

「て、店長!?」

 

「とりあえず厨房に引っ込んでなさい、他のお客様が怖がっちゃうわ!……いい!?」

 

「は、はい!ごめんなさーいっ!!」

 

 正気に戻ったルイズはそそくさと厨房に向かった。

 

 

「えー、ではお疲れ様!」

 

 店が閉店したのは空が白みだした朝がただった。中々忙しくてルイズはへとへとであったが、ベレトの方はまだ体力に余裕がある。

 

「みんな、よく働いてくれたわね。今月は色付けておいたわよ!」

 

 どうやら今日は給料日らしい。スカロンは女の子たちやコックに給金を配りだした。

 

「はい、ルイズちゃん。ベレト君」

 

 一瞬自分たちにも給料あるの!と期待したルイズであったが、渡されたのは一枚の紙きれ。

 ベレトはそこに書かれているものがなんとなくわかってしまった。

 

「……その紙はいったい?」

 

 ベレトに尋ねられたスカロンは笑みを消した。

 

「請求書よ。ベレト君、皿割っちゃったでしょ?残念だけど、今日一日の稼ぎじゃちょっと弁償しきれないわ。……ルイズちゃんは、言わなくてもわかるわよね?」

 

「「……はい」」

 

「ま、最初のうちは誰もが失敗をするわ。これから一生懸命働いて返してくれれば大丈夫よ!」

 

 

 お店が終わって、スカロンは二人を部屋に案内した。だが、そこは整理整頓がされていない屋根裏部屋であった。

 埃っぽく、雑多に物が置かれた物置。タンスは壊れているしベッドは簡素な作りでルイズが座ってみると足が折れてガタンと傾く始末である。

 

「な、なによコレ!?」

 

「寝床だ」

 

 ベレトが小さな窓を開けてみると、屋根裏の先住民のコウモリたちがキィキィ鳴きながら飛んできて(はり)にぶら下がる。

 

「なによそいつら!?」

 

「おそらく先住民、仲良くやっていこう」

 

 あまりに酷い状態の部屋でも、ベレトは気にしていない。だが、ルイズにとっては違う。

 

「き、貴族のわたしがこんな場所で寝られるわけないじゃない!」

 

「残念だが、ここで働く間はここで寝るしかないだろう。自分は昼から仕込みできみは掃除をするんだ、スカロン店長も言っていただろう?」

 

「なんで(せんせぇ)はそんな冷静なわけ!?」

 

 ベレトはベッドの上に積もった埃を払ってからそこに横になった。

 

「屋根があるだけマシだし…」

 

「言うと思った!」

 

 ルイズは我が道を自由に行く師に呆れた顔をするが、彼は気にした様子もなく寝息を立て出した。ルイズはしばらくの間唸っていたが、そのうち諦めてベレトの隣に潜り込んだ。

 

(……まぁ、でもいい事はあるわね。ここには仲間のみんなはいないもの。今は好きなだけ独占して楽しむべきだわ…)

 

 ルイズはぎゅーっとベレトを抱き枕にする。それはそうと街の噂を集めて姫さまに報告しなきゃ…と考えながら、ルイズは眠りにつくのだった。




《ワインボトル》

威力:1 命中:110 必殺:0 射程:1 重さ:2 耐久:50 武器レベル:E

酔っ払いが喧嘩の時に武器として使用することがあるワインの容器。戦闘には全く向いていないが、耐久値がなくなって割れると逆に危険。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。