ゼロと師   作:シャザ

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4章 鉄拳のスカロン

 ベレトは店にやってきた狼藉者たちを厨房から睨みつけていた。招かれざる客、あるいは悪党は賑わっている店を蹂躙しようと鼻息を荒くしている。

 

「何やら、良くないことが起きているみたいだな」

 

「そうねぇ」

 

 皿洗いを手伝ってくれていたジェシカはいつも通りに返事をする。

 

「そうねぇ…って…。このままじゃ店がめちゃくちゃにされるかもしれないのに呑気だな?」

 

「大丈夫よ心配しないでも!だって、ここにはパパがいるから!!」

 

 スカロンの姿を見た盗賊団の面々は訝しげな目線を彼に向けた。

 

「いらっしゃいませ、『魅惑の妖精』亭へようこそ!わたくしはスカロン、この宿を営んでいるものですわ。…ご注文は?」

 

「……あぁん?なんだ、オレたちが食事にきたとでも思ってんのか!?金を出せっ!!」

 

「………ええと、申し訳ありませんがそういったサービスはしておりませんの。お釣りなら出せるのですが…」

 

「舐めてんのかこの野郎!!小娘どもの命がどうなってもいいのか、ああ!?」

 

 スカロンの顔から笑みが消える。それに気づかないまま、盗賊たちは騒いでいる。

 

「いやいや、ここはツラの良いのを選別して誘拐しよう。今のアルビオンなら高値で売れるんじゃねぇか?んじゃあせんべ」

 

 言葉を続けようとした盗賊はスカロンに拳を叩き込まれ店の外まで吹き飛んだ。

 

「あびゃあああッ!!?」

 

「……は、あ?」

 

手前(テメェ)ら、さっきから好き放題言いやがって。オレたちが必死こいて稼いだ金を出せだ?この店の可愛らしい妖精さんたちの命や尊厳を奪おうってか?」

 

 スカロンは鬼の如き形相で盗賊たちを睨みつける。

 

「来いよ、お仕置きしてやる」

 

「な、舐めやがってェ!!死ねクソ店長!!」

 

 山賊の一人が感情のまま持っている銃でスカロンに発砲する。飛んでくる鉛玉を、彼はパシリと掴んだ。

 

「だ、弾丸を掴んだぁ!!?」

 

「そら、お返しだ!」

 

 スカロンは銃弾を指弾で盗賊に撃ちこんだ。腕に銃弾を叩きこまれた敵は動揺して銃を落としてしまう。

 

「い、いでぇぇええ!?」

 

「アン!!」

 

「がべッ!!」

 

 銃を落とした盗賊の顔面に裏拳が突き刺さる。

 

「ぎゃばッ!?」

 

「ドゥ!!」

 

 スカロンの丸太のような脚から放たれる蹴りが、盗賊たちを数人まとめて吹き飛ばす。

 

「ドラァアアア!!!」

 

「「「ギャアアアア!!?」」」

 

 トドメのラリアットで残っていた敵は意識を刈り取られる。お客さんはポカンと店長の大暴れを見ていたが、やがてその戦いに大きな歓声が上がった。

 

「「「うおおおぉ!!」」」

 

 スカロンはお客さんにぺこりと頭を下げた。

 

「お客様、本日は『魅惑の妖精』亭にお越しくださりありがとうございます。お怪我はございませんでしょうか?」

 

「おう、おかげで怪我の一つもしてねぇぜ!」

 

「それはよかった!ですが、悪党どもに楽しい時間を奪われたと考える方もいるのでは?お詫びと言ってはなんですが…皆様に一杯無料で提供しますわ!」

 

「「「お、おおおッ!!太っ腹ァ!!」」」

 

 店にいた酒飲みたちの歓声が店内に響き渡った。ベレトがその戦闘を脳内に焼き付けていると、厨房にやってきたスカロンに呼ばれる。

 

「ベレト君、ちょっと手伝ってくれないかしら」

 

「…?なにをすれば?」

 

「ちょっとぶちのめした連中を衛兵に引き渡しに行くの、手伝ってもらえる?」

 

「ああ、それくらいお安い御用だ」

 

 

 ベレトは気絶している盗賊二人を担いでスカロンについていく。しばらく歩いていると、スカロンは振り向いた。

 

「……何か、聞きたげね」

 

「ああ。……今のあなたと先ほどのあなた…、どちらが仮初めなんだ?」

 

「………ふふ、どちらもホントのわたくしよ。『魅惑の妖精』のミ・マドモアゼルも、『鉄拳』もね」

 

 スカロンはため息をついた。

 

「わたくしがどうしてこんな話し方をしているか、ジェシカから聞いた?」

 

「いや…」

 

「……あの子は、母親を病で喪っているのよ。……わたくしの伴侶だった(ヒト)。当時よく『出稼ぎ』に出るオレを、温かく迎えてくれた…。……今考えてみればそんな彼女とジェシカに、なにもしてやれなかったんだ。………気づいた時にはもう遅かったが」

 

 ベレトは頷きながら続きを促す。

 

「病気になったと知らせが来た時、『出稼ぎ』に行っていたんだ。…戦場から帰ってきたらそこにいたのは泣いている娘と妻の物言わぬ亡骸。……泣いているジェシカに何をしてあげられるか一日考えた結果が、わたくし自身が母親になることだったのよ!」

 

「いや、それはちょっと違うんじゃないか…?」

 

「違わないわよぉ!母親は戦場へ出稼ぎになんか行かないでしょう?ええ、鉄拳は店と女の子を守るため以外には使わないようにしているの。それがわたくしの『ケジメ』というヤツよ」

 

 衛兵たちの詰め所に着いたスカロンは微笑んだ。

 

「それじゃ、お話はおしまい!続きはまた今度にしましょう!」

 

「わかった。店の様子も気になるからな……」

 

「うふふ、ルイズちゃん空回りしてるものネ。誰でも最初はあんなもの…というにはちょっとやりすぎだけど」

 

 

 チップレース三日目。ルイズがいつも通り接客をしていると、見知った顔の女の子が入店してきた。赤毛の髪を一つにまとめた、ルイズと同じくらいの身長の末っ子アンナだ。

 

「いらっしゃいませー!」

 

「はいはーい、こんばんはー!」

 

 彼女はとててと席の一つに移動すると、机の上に置いたメニューを慣れた様子で見始めた。初めて来たわけではなく何度も足を運んでいるのだろうことは明白だった。

 鼻歌を歌っていたアンナはふとルイズと目が合った。

 

「あっ、ルイズさ…」

 

「ご、ご注文はお決まりでしょうか!?」

 

 ルイズは慌てて注文を聞く。こんな場所で出会うとは…とルイズは脳内で頭を抱えていた。

 

「えっと、これとこれ、あとこれお願いします!」

 

「は、はい!」

 

 しばらくして、ルイズはアンナに注文された料理を持ってきた。

 

「どうぞ、ご注文の品です」

 

「えへへ、ありがとルイズさん!よかったらお話しません?」

 

「……い、いいけど…。こんな場所で会うなんて思わなかったわ…」

 

 ルイズの言葉にアンナもコクリとうなずいた。

 

「あたしも!……事情は聞かないけど、きっと頑張ってるんだね。ルイズさんエライなぁ…」

 

「ありがと。……それで、どうしてこんなところにご飯を食べに来てるの?」

 

「決まってますよ、可愛い女の子を見るためですっ!……ああ待って、引かないで!!」

 

 すすっと距離を取るルイズにアンナは慌てて説明する。

 

「その、物作りが得意なあたしでも外の刺激がないとどんな物を作るか悩んじゃうんだよね…。だからトリスタニアのあちこちを見て回ってるんです。……市場とか、こういうお店とか」

 

「なるほどね…。そういえば前に見た服もアルビオン軍の水兵服が基になってるんだっけ?」

 

「そう、そうなんです!可愛い女の子が可愛い服を着て接客してくれると、こう…元気が湧いてきますよね!!」

 

 アンナは興奮を冷ますためにワインをぐびっと飲み干す。

 

「ぷはーっ!……えっと、どこまで話しましたっけ?」

 

「…この店に足を運ぶ理由?」

 

「あー、そうでした!……そんなわけでこの『魅惑の妖精』亭がなくなるとあたしどうなると思う?」

 

「……さあ?」

 

「脳に血がいかなくなって死にます」

 

「…………は?」

 

「死にます」

 

 アンナはあっはっはと朗らかに笑った。

 

「このお店がなくなることがあればあたしの想像力はドンドン錆びつき最終的に当たり障りのない物しか作れなくなるでしょう。……『アンナ』としてそれは、死んでいるのと同じこと。あたしにとってそれは死体なの」

 

「アンナ…。……意外と苦労してるのね…」

 

「ま、この店が潰れるなんてありえませんけどねー!!『魅惑の妖精』亭サイコー!!」

 

「ちょっと!?同情したわたしが馬鹿みたいじゃない!」

 

 イエーイとはしゃぐアンナにルイズは呆れた顔でツッコミを入れる。そんなこんなで楽しい時間を過ごしていると、アンナは三枚の金貨を机の上に置いて微笑んだ。

 

「…ルイズさん、今晩は楽しい時間をありがとう。これはお礼です」

 

「い、いいの…?」

 

「もちろん!……ルイズさん、今度アンナ商会にも顔を出してね。サービスしちゃうわよ?」

 

 いたずらっ子のような可愛らしい笑みを浮かべるアンナに、ルイズも笑みを返す。

 

「もちろんいいわよ!またねアンナ!」

 

 アンナが帰っていった後、ルイズは彼女が置いていったチップを摘み上げる。新金貨三枚で2エキューである。

 

「……初めてチップ貰っちゃった…!」

 

 ルイズは初めてのチップに少し感動する。今まで湯水のようにジャブジャブ使っていたエキュー金貨だったが、こうやって自分で稼ぐとまた印象も変わるというものだ。

 彼女は楽しく会話をするとお客さんからチップをもらえると学んだ。

 

 

 仕事が終わったルイズはややテンション高めにベレトと話していた。彼女はアンナから貰ったチップを自身の使い魔に見せる。

 

(せんせぇ)、コレ見て!」

 

「おお、金貨だ」

 

「今日ね、初めてチップを貰えたの!」

 

「良かったじゃないか」

 

 ベレトは素直に褒めた。なんにせよ彼女のやる気が失われずに済んだのは良いことだろう。このままチップを貰えないままだった場合、ルイズはいずれ接客がイヤになって不貞腐れたかもしれない。

 

「楽しく話せばチップを貰えることが分かってよかったわ!」

 

「そうだな。……そうだ、今日は講義番外編ということで『魅力』について話そうか」

 

「……魅力ぅ…?(せんせぇ)、変なものでも食べた?」

 

「いやいやこれが案外馬鹿にできなくてな、部隊を率いる時に重要になるんだ。ただ喚くわけの指揮官よりも冷静に状況を見て指示を出せる指揮官の方がいいだろう?」

 

 ルイズはうなずいた。

 

「当然よね、ただ喚くだけの上司なんて命がいくらあっても足りないわ」

 

「……で、人を惹きつける人物の下で戦う部隊はそうでない部隊よりも強くなり、士気が上がる。その人の人柄、容姿…それら全てを総合すると『魅力』になるわけだ」

 

「……言いたいことは分かったけど、それが今の仕事とどういう関係があるわけ?」

 

 首を傾げるルイズに、ベレトは微笑んだ。ルイズは思わずドキッと胸を高鳴らせる。

 

他人(ひと)に好かれるには他人(ひと)をよく知るべし、だ。自分の場合はとにかく仲間とたくさん話した。好きなこと、嫌いなこと、趣味…あっちの世界の仲間のことはだいたい覚えているよ。……そういう意味では、今回は魅力を磨くのに持ってこいの環境なんだ」

 

「魅力を磨く…?」

 

「そう、この『魅惑の妖精』亭には男女問わず色んな人間がいる。客としてやってくる男たち、それをもてなす女の子たち。明日は彼らの行動や会話を観察してみるといいんじゃないか?」

 

「んー…、とりあえず頭の隅に置いておくわ。わたし見た目はともかく中身の方は自信あんまりないし…」

 

 

 四日目、ルイズはしばらく接客する少女たちを観察する。……一番チップを貰うのが上手かったのはジェシカであった。素人目から見ても駆け引きが上手なのである。

 

(……なるほど…?これも『魅力』の力ってことかしら?)

 

 ルイズが感心していると、視線に気づいたジェシカが近づいてきた。今日もたんまりチップを貰ってご機嫌である。

 

「ハーイ、チップ集めは順調?あたしなんかもう八十も貰っちゃった!」

 

「……えっと、スゥ(100スゥ=1エキュー)よね?」

 

「馬鹿ね、エキューに決まってるでしょ!?そっちは?」

 

 ルイズは悔しそうに指を二本立てた。

 

「……に、2エキュー…」

 

「あらら?四十倍も差がついてるけど大丈夫?」

 

 ジェシカはニヤニヤとからかってくる。その顔がキュルケにちょっと似ていて、ルイズは彼女がなんとなく気に食わない理由がわかった。キュルケとシエスタを足して2で割ればジェシカになるのだ。

 

「……わたし、アンタのこと嫌いだわ。よりによってその組み合わせ!?」

 

「あら、嫉妬してる暇なんてあるの?このままじゃもーっと差が開いていくわよ?」

 

 ジェシカが新しく来た客の方に行くのを、ルイズはうぐぐと凄い顔で睨んでいた。




<人物紹介>

【鉄拳】 スカロン

所属:『魅惑の妖精』亭 年齢:ひ・み・つ♡ 兵種:グラップラー

『魅惑の妖精』亭で宿を営む元傭兵。普段は奇妙な言動をしているが、店を荒らす輩には傭兵時代に鍛え上げた技の数々でお仕置きする。
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