ゼロと師   作:シャザ

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4章 燃え上がれ、怨讐の火

「はぁ、はぁ…!!クソ、あの女ァ…!」

 

 リッシュモンはいざという時のために作った地下通路への抜け道を走っていた。この地下通路は彼の屋敷にも通じており、そこまで辿り着けば後は亡命も簡単。色々汚い事をして集めた金をかき集め、アルビオンに高飛びする気であった。

 

(亡命した暁には一個連隊をクロムウェル閣下より預けてもらい、あの女を捕らえて辱め殺してやる…!!)

 

 リッシュモンがそんな下衆い事を考えながら歩いていると、明かりの中に人影が見えた。一瞬ビクッと身体を震わせた彼であったが、すぐに侮った顔をする。何故なら、そこにいたのは銃士隊の隊長アニエスだったからだ。

 アニエスは微かに笑みを浮かべながら言った。

 

「おや、こんな薄汚れた場所からお帰りとは…ずいぶん物好きですなリッシュモン殿」

 

「……貴様か」

 

 リッシュモンは平民であるアニエスに対して慢心していた。メイジに平民の剣士風情が勝てるわけがないというのが、一般的な貴族の考え方である。

 

「どけ、貴様なんぞと遊んでいる暇はない。この場から失せろ」

 

 なお、卑怯極まりないリッシュモンは彼女が背を向けた瞬間殺すつもりであった。嘘の気配を感じたアニエスは無言で銃を抜いた。

 

「す、既に呪文を唱えているのだぞ!何時でも放てるのだ、二十メイルも離れていればそんな玩具などかすりもせぬわ。貴様もこんな泥船のような国に忠誠を誓うなど馬鹿らしいと思わんか!?」

 

「…………」

 

 リッシュモンは無言のまま構えるアニエスを不気味に感じ後ずさる。

 

「たかが虫を払うのに高貴なる貴族のスペルなぞもったいないわ!」

 

「…忠誠?……貴様を殺す理由はそれではない。ただの私怨だ」

 

「私怨だと?私がいつ貴様に恨まれたというのだ」

 

「………ダングルテールは、私の故郷だ!!」

 

 アニエスの脳裏に燃え上がる村の光景が映る。二十年という月日が経ってもなお、彼女は鮮明に思い出せる。

 

「ああ、なるほど!貴様あの村の生き残りだったか!」

 

「貴様の薄汚い金儲けのために、我が故郷は滅んだ。…ロマリアからどれだけの金を積まれた、リッシュモン!?」

 

「ふん、私がでっち上げずともあんな村、遅かれ早かれ新教徒狩りで滅んでおったわ!!貴様が神を信仰するように、私は金を信仰している!!ある意味私ほど真摯に信仰する者はいないだろうなぁ!!」

 

「……クズが。だがこの状況ではそのお金様も役には立たんぞ!」

 

 アニエスは懐から瓶を取り出すと、頭からその中身を被った。

 

「……なんのつもりだ?その程度の水で私の火が消せるなど思い上がるなァ!!」

 

(…さて、ぶっつけ本番だがなんとかなるか…?)

 

 アニエスは手に握った拳銃を投げ捨て、リッシュモンに向かって走った。リッシュモンは武器を投げ捨てたアニエスにぎょっとして魔法を撃つのが一瞬遅れた。

 

「おおおおぉッ!!」

 

 リッシュモンの火球が銃士の翻したマントに命中し燃え上がる。仕留めたことを確信するリッシュモンであったが、すぐに驚愕で目を見開いた。炎がマントを燃やし尽くすどころか少し焦げただけで消えてしまったからだ。

 そのマントに縫い付けられた赤い鱗を見て、リッシュモンは火がマントを燃やせなかった理由を理解した。

 

(か、火竜の鱗だと!?いったい何処でそんな物を…!?)

 

 アニエスは慌てて次の詠唱をしようとしたリッシュモンの腕を斬り落とす。腕ごと杖を失ったリッシュモンは尻もちをついて絶叫を上げた。

 

「あ、ああああッ!!?ば、馬鹿な…こんな、こんな平民にィ…!?」

 

 騒ぐリッシュモンに冷たい目を向けながらアニエスは剣を首に突き付けた。

 

「……どうだリッシュモン。……自分が散々見下してきた()()()()にやられる気分は?」

 

 上から見下すアニエスにリッシュモンは血走った眼を向ける。

 

「こ、このアマァ…!!」

 

 そう言いながらも彼は懐に忍ばせていた銃にこっそり手を伸ばす。平民を散々見下し、銃を玩具などと馬鹿にしておきながら、リッシュモンは平然と武器に頼る。……見下げ果てた男であった。

 

(ククク…勝てればいいのだよ勝てばぁ…!!)

 

 そうやって銃を取ろうとしたリッシュモンの額に穴が開く。アニエスの手にもう一丁の銃が握られていた事を認識する暇もなく、リッシュモンは即死した。

 

「………最終的に自分が玩具だと馬鹿にした銃に頼るとはな。だが、それの扱いはこちらの方が上だ。ロクに練習もしていないお前の玩具と、我らがせめて一噛みと磨いた牙を一緒にしてもらっては、困る……」

 

 アニエスは精神的な疲れから壁に寄りかかる。彼女は一部が黒く焦げたマントを見た。

 このマントはアンナ商会の新商品である『火避けのマント』。火竜の鱗を編み込んでいて炎に対して強い…という触れ込みであった。

 

(……高い買い物だったが、その分効果はてきめんだったな。……まあしばらく質素に過ごすことにはなるが…)

 

 彼女はしばらく休んだ後、リッシュモンの首を撥ねてから歩き出す。その足取りは重く、今にも倒れそうであった。

 

「……リッシュモンごときに手間取るわけにはいかない…。あの時村を焼いた連中全員を始末するまで、死ぬわけにはいかない……!!」

 

 あの日、アニエスの日常は文字通り灰となって消えた。彼女は燃え残った自分にできる弔いのために自らを鍛えたのだ。……それこそが燃え残った炭にできる唯一のことだった。

 アニエスが地下通路から脱出すると、そこはチクトンネ街の排水溝だった。街の住人たちは生首を持った返り血塗れの女騎士に悲鳴を上げる。

 そこを通りがかったのは、昨晩一緒にいたのにいつの間にかはぐれてしまい、途方に暮れながらウェールズを探すヴィルキンソンであった。

 

「………何をしているんだねアニエス?その男の首はいったい…?」

 

「……気にするな、陛下を狙った犯罪者だ。そっちは?」

 

「うむ、人探しだ。昨晩連れと飲んでいたのに、いつの間にか何処かにフラフラと行ってしまったらしくてな…。チンピラ相手ならどうとでもなるが、厄介ごとに巻き込まれてないか心配だ……」

 

 ヴィルキンソンは深くため息をつくと、アニエスの持つ首を指差した。

 

「それをそのまま持ち運ぶのは悪目立ちするだろう、革の袋があるから入れておくといい」

 

「……済まんな、迷惑をかける」

 

「いいさ、我々は戦友なのだから」

 

 

 数日後、アニエスはアンナ商会へと足を運んだ。

 

「……おい、いるかアンナ!」

 

「あ、いらっしゃいアニエスさん!」

 

 道具屋のアンナに会釈をしてから、アニエスは一部が焦げたマントを見せる。

 

「この前ここで買ったマントだが、これのおかげで命を拾った。……感謝するぞ」

 

「ほ、本当ですか!?それはよかったです!……ところで、何か買っていきませんか?お安くしとくわよ?」

 

 アンナにそう言われたアニエスだったが、給料日までまだ日数があるので首を振る。

 

「……悪いな、今は手持ちがない。次に来たときは何か買わせてもらうよ」

 

「むー…しょうがないなぁ。……そうだ、アニエスさんはもう夕食食べた?よければ一緒に食べに行きません?」

 

「いいのか、ならお言葉に甘えさせてもらおう」

 

 アニエスがそう答えると、工房の扉がバタンと開き鍛冶屋のアンナが出てくる。彼女はお腹をぐーと鳴らしている。

 

「…ねぇ、ご飯食べに行くなら連れてってよ。お金は出すからさ」

 

「えー…?しょうがないなぁお姉ちゃんは!」

 

 アンナたちは『魅惑の妖精』亭へと向かった。アニエスはこういう店にはあまり来ないので居心地が微妙に悪そうだった。

 

「むう、ちょっと落ち着かないな…」

 

「あら、アニエスさんこういう所苦手?」

 

「苦手という訳ではない……ないが、女だけで来る場所に思えないのは私だけか?周りは鼻の下を長くした男ばかりじゃないか…」

 

「そうかなぁ?別に普通だと思うけどなぁ…。お姉ちゃんはどう思う?」

 

 鍛冶屋のアンナはどうでもよさそうにメニューを見ていた。彼女は周りの人間の格好に興味はないらしい。

 

「別に美味しければいい。よし、これにしよ」

 

「いらっしゃいませ!ご注文をお聞きしてもよろしいでしょうか!」

 

 アンナたちが来店していることに気づいたルイズが注文を取りに来る。

 

「やっほールイズさん、今日も可愛いわね」

 

「数日ぶりだな、ラ・ヴァリエール嬢」

 

「……あれ、アニエスもいるの?変な組み合わせ…というか面識あるのねあなたたち」

 

「あー…まあな。昔ちょっとこの子らの姉と色々あって。……なんだかんだで五年近くの付き合いになるか」

 

 アニエスは昔のことを思い出す。護衛として雇われた時はその場限りの関係だと思っていたが、縁というものは不思議なもので行く先々でたまたま会い、仕事をこなすうちに腐れ縁になってしまったのだ。

 

「……とりあえず、料理を頼むとしよう。話はそれからでも遅くない」

 

「それじゃあ注文取るわね」

 

「ああ、私は……」

 

 

 しばらくするとルイズが料理を運んできた。アニエスたちは料理を食べながら会話に花を咲かせる。

 

「そういえば、ちょっと前に女王様がまた行方不明になってたわよねー。幸いすぐに見つかったみたいだけれど…結局あれ高等法院長ってヤツの企みだったの?」

 

「……アニエス、今回の事って一応秘密にしてたわよね?」

 

「人のうわさは勝手に広まるからな…。どれだけ口をつぐんでも何故か街中の人間が知っている…なんてこともザラだ。今回の一件が広まったのは、私がリッシュモンの首を持って排水溝から出てきたことも原因の一つではありそうだな…」

 

 アニエスはちょっとテンションがおかしくなっていたことを反省する。どうせ地下に死体があってもしばらくみつからないのだからリッシュモンの死体は放置でもよかったのだ。

 

「それにしても、姫さまの秘密主義にはちょっとうんざりだわ!アニエス、姫さまにもう少しわたしを頼ってほしいって伝えてもらえるかしら!」

 

「……ああ、ちゃんと伝えておく。仲間外れは良くないことだ」

 

「なーにが『これ以上巻き込むわけにもいきませんわ』よ、こっちの気も知らないで!」

 

 ルイズは親友であるアンリエッタが自分を頼ってくれないことに憤っている。それを見ていた末っ子アンナはルイズにも色々悩みがあるんだなぁと苦笑いするのだった。




《ガンマスター》
クラスチェンジ条件:銃術A以上 技、速さ、幸運に補正 技と速さが伸びやすく、幸運も少し伸びやすい
兵種スキル:銃の達人…銃装備時攻撃+5 銃射程+1
マスタースキル:ゼロ距離射撃…消費-5、威力+4、命中+10、必殺+20、回避-20、射程1 敵に一気に接近し、至近距離で銃を叩き込む戦技

ハルケギニアの上級職。銃の扱いを極めた達人。
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