男子生徒黒焦げ事件から数日後、キュルケはルイズの部屋の前にいた。
彼女は不満だった。…なぜならベレトは彼女を見た瞬間逃走して行方をくらますからだ。
キュルケは自分の敗因が魅力が相手に伝わらなかったせいだと考え、休日である虚無の曜日にデートしようと画策したのである。
「…せーんせ♪遊びに来たわよー」
キュルケは開錠の魔法『アンロック』をルイズの部屋のドアに使用し(学院規則で禁じられているが彼女にとって知ったことではない)、部屋に不法侵入する。
…中は無人だった。
「…あ、あら…?なによ、いないじゃない!」
あまり飾り気のない部屋を見まわしたキュルケは、ルイズのカバンがないことに気づくと舌打ちする。
どうやら外出したらしい。
「…ちぇっ、先越されちゃったみたいね…!…でもこの程度で諦める女じゃないのよこっちは!」
彼女が窓から外を見ると、二頭の馬が学院の外に出ていくのをちょうど見ることができた。
…その光景で逆に燃え上がるのがキュルケという少女である。
部屋から出たキュルケは自身の親友の部屋に向かった。
「…………。」
青い髪の少女、タバサは文句ありげな顔で部屋に入ってきたキュルケのことを見ていた。
彼女はインドア派であった。入ってきた相手がキュルケ以外だったら風の魔法で吹きとばすところだ。
「タバサ、出かけるわよ!!」
「虚無の曜日。」
「…知ってるわ、あなたにとって読書がどれだけ大事なのかもね。
でも、あなたの力が必要なのよ!恋よ、恋!!」
わかるでしょと言わんばかりに胸を張る友人にタバサはバッサリ切り捨てた。
「いつもの」
「そんなのあなただってわかりきってるでしょう?
ルイズの召喚した傭兵に恋したんだけど、あの人主人と一緒にどこか出かけちゃったのよ!
あたしは追いかけてどこに行くか知りたいのよ!ついでにあのピンク置き去りにしてデートしたい!」
わがまま放題の親友に、小さな彼女は続きを促した。
「あなたの使い魔に乗せてもらいたいのよ、馬に乗ってたんじゃ差が縮まないわ」
タバサは泣きついたキュルケの頭を撫でながら、軽く頷いた。たしかにそういうことなら手伝うのもやぶさかではない。
キュルケには本を買ってもらう約束もしたし、ついでに奢ってもらおうと考えた彼女は外に出る準備をしてから窓に近づいた。
口笛を吹いたタバサは窓から外に向かって飛び降りる。…こっちの方が早いからである。
タバサが降りたのをみて、キュルケも後に続く。落下する二人を、タバサの使い魔が受け止めた。
「きゅいー!」
それは、
その速さはドラゴンの中でもトップクラスを誇る、最速の騎乗生物である。
「ふふ、今日はよろしくねシルフィード!」
「馬二頭、食べちゃダメ」
少女の指示を聞いて風竜シルフィードは元気に返事をすると、凄まじい速さで飛行し始めた。
馬に乗ったベレト達が向かったのは、トリステインの城下町であった。
魔法学院から三時間、軍人として騎馬に乗ることもあったベレトにとって慣れたものだ。
「さて、ここがトリステインの中心地、トリスタニア!陛下のお膝元よ!」
「おお、結構にぎわっているみたいだな」
ベレトが感心すると、ルイズは嬉しそうな顔をした。
「でしょう!?さ、武器屋に行くわよ!」
「ああ、ところで…」
ベレトは視線をルイズに向けたまま、懐をまさぐろうとしたスリの腕をへし折った。
「ぎゃああああ!!」
「…コソ泥が出るんなら出発前に言ってほしかった…」
傭兵はそのままスリを拘束し、ルイズに渋い顔を向けた。
ルイズは肩をすくめながら答える。
「そんな杜撰なヤツならまだマシな方よ?酷いのは魔法使ってくるし」
「…貴族のくせにスリなんかするのが一定数いるのか…」
「違うわ、家を捨てたり勘当されたとかで貴族じゃなくなったのが盗賊やら傭兵に身をやつすことがあるの。
こういう連中はプライドがないから悪事をよく働くわ」
ベレトはかつて戦った賊、マイクランを思い出した。
…廃嫡され英雄の遺産を盗んだりそれで暴れたりしたろくでなしだったが、あんな酷い末路を迎えるほどかと言われるとそうではない気もする。
誰か支えてくれる人がいなかったから、あんな悲惨な結末になってしまったんじゃないかと最近のベレトは思うようになった。
「…どうすればいいんだろうな」
「……?…ほら、行くわよ!」
ルイズの呼びかけに、考え事をしていた傭兵は慌ててついていった。
彼女は狭い路地裏へと入っていく。にぎわっていた表通りと異なり、人はいないし悪臭がする。
「…ひどい立地だなあ…」
「だからあんまり来たくないのよ…。たしかピエモンの秘薬屋の近くだから、この辺だったはず…」
キョロキョロと見回したルイズは、すぐにその武器屋を見つけ嬉しそうに呟く。
「あったあった!」
武器屋の中は昼間だというのに薄暗く、武器は乱雑に並べられあまりいい印象はない。
店主の親父はドスの効いた声でルイズを脅す。
「おい、嬢ちゃん。うちはこう見えてまっとうに商売してまさあ!客じゃないんならお帰りなさってくれや!!」
「…客よ」
ルイズの返事に親父は大げさに驚いた。
「こりゃおったまげた!貴族が剣を!?」
「…おかしいかしら?」
「いえいえ、坊主は聖具をふる、貴族は杖をふる、剣をふるのは兵隊で、陛下はバルコニーからお手をおふりになると相場は決まっておりますんでねえ?」
ルイズは後ろにいるベレトを指さす。
「使うのはこっちよ。わたしの
「…ああ、傭兵ですかい!たしかに入用になりますなあ!」
「こいつが気に入ったものならなんでもいいわ。わたしは武器の良し悪しがわかんないから」
(…見たところ、愛人兼用の新米傭兵ってとこか。こんなちび貴族に飼われる程度だ、実力も大したこたあないだろう。
……カモがねぎ背負って鍋に入ってきやがった…!!せいぜい派手にぼったくってやるぜげっへっへ…!!)
店主は油断していた。たしかにルイズはひよっこもいいところだが、その傭兵は未だ二十代でありながら多くの戦場で生き延びた実力者だ。
…店主が騙そうと企んでいるのも、彼にはお見通しである。
(ぼったくる気満々じゃないかこの店主…。薄暗いのもカモを騙すためだな、コレ…。
いわくつきの武器ならまだしもなまくら売りつけられるのは嫌だなあ)
「なら、こういうのはどうですかい?最近じゃ貴族の間で下僕にこいつを持たせるのが流行ってるんでさ」
そういって店主が引っ張り出したのは、綺麗な装飾をしたレイピアであった。
フォドラではその細さを利用して重装兵のアーマーの隙間を貫いたり、騎馬兵の足を切り払うことで敵を落馬させるトリッキーな剣だ。
…その分繊細であり、普通の剣より壊れやすいのが難点か。
「…なんでこれが流行ってるの?」
「そりゃ、最近『土くれ』のフーケとかいうメイジの盗賊が貴族から盗みまくっとるからでさ。
貴族の方々は恐れて下僕に剣を与える始末でして…。てっきりこっちは傭兵を連れてるのはそういうことかと…」
「…へー…」
ルイズは気の抜けた声でレイピアを観察する。そんなルイズをよそに、ベレトは見慣れないものを見つけた。
「…店主、これは…」
「あん?…そりゃ銃だ。ご存じの通り弾を飛ばす武器だ」
…説明されてもよくわからなかったベレトは、手に取ってよく見てみることにした。
その瞬間、左手のルーンが輝いた。
「…!?お、っとと…!」
驚いて落としそうになった彼は、突然銃という武器の使い方を理解したのである。
この世界にきて何度か困惑したベレトだったが、今回のは一番であった。
(今、左手が光ったぞ…!なにがどうなってるんだ…?)
悩む傭兵をよそに、ルイズはレイピアを店主に返した。
「…うーん、これより大きいほうがいいわ」
「はあ…。なら、これなんかいかがです?店一番の業物でさ」
ひとまず銃を元に戻したベレトはその業物とやらが気になり、二人に近づく。
店主の男が持ってきたのは煌びやかな両手剣だった。
「こいつはかの高名なゲルマニアの錬金術師シュペー卿によって鍛えられた名剣でさ。
貴族を守るってんならこんくらいのを担いでほしいもんですな!」
「へー、いいじゃない。…ほら、見てるだけじゃなくて持ってみなさいよ」
ルイズに促されたベレトは剣を取り、検分する。…どう控えめにいってもなまくらであった。
派手なばかりで観賞用が精々といったところか。
「………帰ろうルイズ。観賞用のなまくらを売りつけるような武器屋に用はない」
「げげっ!!ま、待ちやがれ!!」
帰ろうとする二人を何者かが嘲笑った。
「まったく、なまくらを見切るだけの目は持ってるらしいな!
だが、てめえみたいな優男にゃなまくらがお似合いさ!」
「…!そこに誰かいるのか?」
ベレトは声のした方向に近寄るが、そこに人影は見当たらない。
「ここだよ、ここ!」
なんと、話していたのは剣であった。先ほどのなまくらと長さは変わらないものの、刀身は薄い。
ただ、錆だらけで武器として使うにはあまり向いてないだろう。
「やいデル公!客にまた失礼なことを言いやがって!!いい加減にしろくず鉄が!!」
「ふざけんじゃねえ!こんなのほほんとしたヤツが傭兵なんざできるわきゃねえだろ!」
「…店主、この剣は…?」
ベレトは困惑した顔で質問すると、困った顔で店主が答える。
「こいつは意思を持つ魔剣、インテリジェンスソードでさ。効果はしゃべり倒すだけのくせにいっちょ前にプライドだけは高いなまくらでしてね。
デル公!これ以上失礼なことを言ってみろ、溶かしちまうからな!!」
「おもしれえやってみろ!どうせ未練もねえからな!!」
キレた店主は魔剣に向けて歩き出すが、ベレトはそれを遮る。
「店主、先ほどなまくらを売りつけようとしたのは忘れよう。
…こいつを売ってもらえないだろうか」
「ああん?…別に構いやしませんが」
「…自分はベレト。お前、名はなんて言う?」
「…デルフリンガーだ。……ずいぶんと変わり者だな、お前さん…」
しゃべる剣には言われたくないセリフである。
剣はベレトを観察するかのように黙り込んだ後、小さな声で傭兵に語りかけた。
「…おでれーた。お前さん『使い手』か。なんだ、早く言ってくれりゃよかったのによ!」
「……ん?…ルイズ、これ買ってもいいか?」
ルイズは嫌そうな顔をした。ボロボロでうるさい剣なんてどう考えても睡眠不足の原因である。
「えー、もっと別のにしたら?」
「こんな面白そうな武器は見たことがない。前の持ち主の話なんかも聞けそうだし…」
おしゃべりな相棒を思い出す、とベレトは言いかけるが寸でのところで止める。
デルフリンガーのことを彼女の代用品ではなく、新たな相棒として見るべきだと思ったからだ。
「…で、いくらなのあのおしゃべり」
「あんなやつ百で結構でさ、厄介払いも兼ねてるんで。あ、あとそいつ鞘ン中に入れとけばしゃべり声が小さくなりまさあ」
ベレトが金を払うと、店主はデルフリンガーを鞘に入れて彼に手渡した。
「これからよろしく頼むぜ相棒!」
「(本当に声が小さくなった…。)ああ、よろしくデルフ」
《デルフリンガー》
威力:7 命中:85 射程:1 重さ:13 必殺:0 耐久:?? 武器レベル:E
大昔メイジが創り出した意思を持つ魔剣。
現在は錆びついており使いにくい。
※このパラメータはあくまでも風花雪月の武器ステータス風なので本気にしないでください。