ゼロと師   作:シャザ

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序章 深き森の戦い・前編

 馬車に乗った一行は、森に向けて出発した。

 ベレトはシュペー卿の剣をぶら下げている。本当ならデルフリンガーの方がよかったのだが、勝負に勝ったのはキュルケだ。

 義理立てくらいはしないといけないのである。

 

「ふふ、似合ってるわよ?」

 

 キュルケはルイズを挑発するためか、シュペー卿の剣を持ったベレトにベタベタしていた。

 …が、ルイズはなにも言わず冷たい目で見つめるばかり。

 

(…まったく食いついてこないわね。でも、これでこの傭兵はあたし、の…)

 

 そこまで思考したキュルケはベレトの顔がどうなっているか気になって覗き込んだ。

 …彼女は後悔した。恥ずかしがっているわけでもなければ赤面しているわけでもない。…その目には殺気がこもっていたからだ。

 その視線をたどると、御者を買って出たミス・ロングビルに突き刺さる。

 

「…ちょ、ちょっとぉ?ミス・ロングビルが気になってるわけえ!?」

 

 馬車の空気は最悪であった。…出発する数分前の事である。

 ミス・ロングビルはオスマンの秘書にも関わらず御者をしたいと申し出たのだ。

 ベレトはこの女性に不信感を抱き始めていた。

 

 彼女はフーケを男性だと言ったが、彼があの夜見た賊は黒ずくめのローブで隠しきれないほどの膨らみがあった。

 この傭兵は経験上夜目が効くため、犯人は女性だと確信していたのだ。

 彼女の言っていたローブの男があの夜宝物庫に現れた賊の可能性は限りなく低く、罠の可能性が非常に高い。

 

(だけど、彼女がフーケだとしても今は証拠がない…。…尻尾を出すのを待つべきか…。)

 

 ベレトは今回なまくらの他にも傭兵時代から使い続けた銀の剣(元は鉄の剣だった)と鋼の籠手を持ってきている。

 後は……彼にとっての思い出の品が一つ。…神から人になった時に無用の長物になった遺産。

 銀の剣はここ最近酷使していたこともあり無理をすれば折れる危険性がある。

 鋼の籠手は対人で最も輝くものの巨大な敵にはリーチの差もあり苦戦する。

 

 つまり、今回は宝を取り戻すのが最優先であり、ゴーレムとの長期戦は避けなければいけない。

 

「…あとは、決して目を離さないでいるしかないな…」

 

 

 昼間というのに薄暗い森の中は、さすがに馬車では乗り込めない。

 ミス・ロングビルは馬車を停めた。

 

「ここから先は、徒歩で行きましょう」

 

「なんだか、暗くてこわいわー」

 

 キュルケはふざけてベレトの腕に手を回すと、怒ったルイズが咎める。さすがに勝者といえどやりすぎだと思ったのだろう。

 

「ちょっと、迷惑そうよ。そろそろやめときなさい、コイツの目を見てみなさいよ!

どう見ても眼中にないから!!」

 

「はあ?ヴァリエールには言われたくないわねそんなこと!

ねータバサー?あんたもそう思わない?」

 

「……どうでもいい」

 

 しばらく進んだ一行は開けた場所に出た。

 元は木こり小屋だったであろう廃屋は、長い間使われていないせいでボロボロの状態だった。

 ルイズが緊張した声で呟く。

 

「…あそこに、フーケがいるのね…」 

 

「………ええ、わたくしの情報によれば」

 

 一行は窓から見えない位置に隠れ、作戦を考える。

 

「…奇襲して速攻で捕らえるべきよ」

 

 とルイズが提案する。それを聞いたタバサはその作戦の骨組みに肉付けをし始めた。

 彼女は地面に絵を描いて説明する。

 

「…まずは偵察兼囮が中を確認する。フーケが中にいることを確認したらどうにかして小屋から外に追い出す。

偵察が実力者だった場合、フーケはゴーレムを創るために外に逃げ出すはず」

 

「なるほど、そこを魔法で一気に攻撃すればいくらフーケだってひとたまりもないわね♪

ルイズはともかくここには『トライアングル』が二人いるもの」

 

「なるほど、良い作戦だ。()()()()()()()()()()()()()()

 

「…?なにか言った?」

 

 ルイズの質問に首を振るベレト。ひとまず中を確認しなければ次の行動はできない。

 

「…で、その偵察役は…」

 

 貴族三人娘はベレトを指さす。

 

「…まあ、妥当か。自分が偵察している間も周囲の警戒はしておいてくれ」

 

 ベレトは内心不安だった。怪しいミス・ロングビルが野放しになるからである。

 もう彼女がどんなに怪しい挙動をしようが誰も止められない。誰かに見張ってもらいたいが、いきなりそんなことを言えばミス・ロングビルに警戒されてしまう。

 

 小屋のそばに近づいたベレトは、窓から中をのぞく。

 中は一部屋しかないようで、誰かが隠れている気配はない。現在ここにフーケはいないらしい。

 

(とにかくみんなのところに戻ろう)

 

 ベレトは仲間のところに戻ると中に誰もいなさそうだと伝えた。

 

「なら、中を調べてみるしかないですね。…わたくしは偵察してきます」

 

「(…いやそれは駄目だろ…!!)…なら、『トライアングル』の二人のうち誰かがついていくべきだ。

…家探しに人数は必要がない」

 

「…………。なら、ミス・ツェルプストーに手伝ってもらいましょうか」

 

「…あたし?…まーいっか、そっちは任せたわよー」

 

 

 小屋に入った探索組は、フーケの手がかりを探す。

 そして、タバサはチェストからあるものを発見する。

 

「…見つけた。『破壊の杖』と『竜の宝玉』」

 

 そう言いながら彼女は二つの宝を二人に見せた。

 『破壊の杖』はなにやら筒状の物体で、一見杖には見えない。

 

「…変な形をしているな」

 

「だから宝なんじゃない?」

 

 ベレトは『竜の宝玉』の方を見る。

 …それは、ベレトにとってなじみのあるものだった。同時に…ここにあってはならないものだった。

 

「………それは…!!」

 

「きゃああああ!!?」

 

 外からキュルケの悲鳴が聞こえ、ドアを振り向いた一行。

 廃屋の屋根が吹っ飛びそこからゴーレムが覗き込んできた。

 タバサはゴーレムに暴風を放ったがびくともしないのを確認すると一言。

 

「退却」

 

 タバサは宝を持ったまま指笛を吹き、風竜の背に乗った彼女はキュルケを確保してゴーレムの射程外に逃れる。

 

「た、助かったぁ…。なによあいつ頑丈にも程があるでしょ…!」

 

 ベレトはルイズが呆然と突っ立っていることに気づく。…笑っていた。

 

「…上等よ、あいつらが敵わないゴーレムを倒せば…」

 

「ルイズ?…なにを…!!」

 

 ルイズはゴーレムに杖を振り下ろす。ゴーレムの腕に爆破で小さな傷ができた。

 

「…ルイズ!!なにを考えてるんだ!?」

 

「あいつを倒せば、誰もわたしをゼロと呼ばなくなるわ!!ええ、やってみせる!!」

 

「作戦は失敗だ、一度撤退するぞ」

 

 ルイズは小さな子どものように首を振る。

 

「…いやよ。もう、馬鹿にされてばかりなんて」

 

「死んだらなにも残せないぞ」

 

「…プライドがあるのよ、こっちにだってね。貴族は、敵に背中を見せない者よ!!」

 

 ルイズは魔法を放つが、先ほどと異なりゴーレムにダメージはない。

 彼女がダメージを与えられたのはたまたまだったらしい。

 ルイズを踏みつぶそうと、ゴーレムの足が迫る。彼女は思わず目をつぶった。

 

「……っ!」

 

「させるか!」

 

 ベレトはなまくらと銀の剣を抜き、ゴーレムの踏みつけを迎え撃つ。

 なまくらからひび割れたような音を聞いた傭兵は全力でゴーレムを押し返した。

 真っ二つに折れたなまくらと刃こぼれが目立つ銀の剣を見た彼は、ため息をついた。

 

(…これは、また踏みつけがきたら耐えられないな)

 

 …ベレトはルイズの方を見て微笑んだ。…どうやら、ここでお別れのようだと彼は悟ったのである。

 …最後の生徒に、一つ教えなければならない。

 

「…ルイズ。…いつか君にも仲間ができる日が必ずくる。…どんなにぶつかってもいい、自分の心にウソをつかず相手と向き合うんだ。

その経験は必ず君の糧になる。…だから、だから…」

 

「……ちょっと、いきなり何を言ってるの…?……遺言じゃ、ないんだから…」

 

 ルイズは呆然と自分の使い魔を見つめ、涙を流した。足止めをして死ぬつもりだと理解したのだ。

 

「…やめなさい、命令よ!!今すぐ逃げなさい!!!」

 

「……まったく、自分は命を賭けるのに他人には逃げろというのか?

困った雇用主だなぁ…。……聞こえるかタバサ!ルイズを上げてくれ!!そして、逃げろ!!!」

 

「はあ!!?ちょ、まって!!」

 

 ルイズは風竜に乗せられると、キュルケに取り押さえられた。

 

「は、離して!」

 

「そういうわけにもいかないわ。別に、あんたが死んでもこっちは悲しくないんだけど…。

応えなきゃいけないのよ、いい男に頼まれたらね」

 

「……あなたは?」

 

 タバサがその青い瞳で傭兵を見つめる。…気のせいかもしれないが、その目はどこか悲しそうだ。

 

「…足止めだ。ほら、早くここを離脱するんだ。…長くはもたない」

 

「………そう」

 

 風竜が離れていくのに気づいたゴーレムは追いかけようとするが、行く手にベレトが立ちはだかる。

 

「ここから先は進ませない」

 

 ベレトにゴーレムの鉄拳が迫る。彼は銀の剣で守りを固めたが、重量の差はどうしようもなく吹っ飛ばされる。

 長い間使っていた銀の剣が破壊され、右腕が折れた。

 

「…ゴホッ、せめて騎士団が欲しいところだな…。そうでなくてももう少しまともな武器があれば…」

 

 鋼の籠手を装備するが、もはや対抗手段にはならない。

 膝をついた傭兵は、それでも敵を睨み続けた。

 

 ゴーレムの足が虫を踏みつぶすかのようにベレトの真上に位置を合わせる。

 じわじわと土の塊が、傭兵に迫った。

 

(……すまない、エル。すまない、みんな)

 

 ベレトは今までの人生を振り返る。…だいたい殺すか殺されるかギリギリの人生だった。

 一番平和だったガルグ=マクの生活でも死神騎士(イエリッツァ)に三回も襲われている。しかも二回は学園の中だ、運がない。

 

(……………。………?妙だ、いつまでたっても落ちてこない…。

……いや、待て。この感覚は…!!!)

 

「まったく、しょうがないやつじゃのー」

 

 懐かしい声が響く。…と同時に、ベレトの周りが漆黒の空間へと変わった。

 そこには巨大な階段と玉座のみが存在している。その玉座に座っているのは、一人の少女だった。

 

「…ひさしぶり、ソティス」

 

「……なーにが、ひさしぶりじゃあああ!!!わしがもう力を貸さんでもいいかと思った矢先に死にかけるなバカ者!!」

 

 うがーと怒る彼女は、あの頃のままだった。しかし、これはどういうことだろうとベレトは首をかしげる。

 彼女と一体化して女神の力を受け継いだ後は彼女と話すことができなくなった。ベレトとソティスは同一の存在になったからだ。

 しかし、今彼女は目の前に存在している。

 

「…もう二度と会えないとばかり思っていたぞ」

 

「…わしもじゃ、我が運命の…。いや、言うのはよしとくかの。

おぬし、あの紋章石を見たじゃろう?」

 

「…ああ、見た」

 

「あれが…、おぬしの中にあったものじゃ。死してなお、わしの意識は紋章石に残っておった。

それをレアが気づいたのかは知らん。…が、人間の赤子に紋章石を入れたのはおぬしだけではなかろう。

弱い赤子の中に紋章石を入れればまず死ぬ。…おぬしが生きとる時点で何人かの中に仕込んだのは間違いない。」

 

 …なんかすごい話を聞かされているベレトだが、たしかに最後に会った時ソティスは言っていた。

 ベレトが泣きも笑いもしない赤子だったのは、彼女が原因だと。

 

「…だから、ソティスは自分の中に…。……今それどうなってるんだ。」

 

「ないぞ、わしが砕いたからの。じゃからおぬしは人に戻った。…おかしいと思わんか?

既に存在せんものが宝として異世界にあるんじゃぞ!」

 

 だから天帝の剣は動かないのか、とベレトは気づく。

 

「………なあ、もしかしてあの紋章石天帝の剣に嵌めたら動く?」

 

「動くに決まっとろう、普通の英雄の遺産と同じくな」

 

「……ソティス、時を戻したい。指定は、小屋に入る直前だ」

 

 そう言ったベレトに、女神はため息をついた。

 

「…しょうがないのー。せっかくじゃし力を貸してやろう。あれじゃ、別におぬしが心配とかそういうわけではないぞ!?」

 

 文句を言っているが笑顔で言われても説得力はない。

 

「…頼むぞ。」

 

「まかせよ、『炎をその身に宿せしものよ…ときのよすがを辿りて(おの)が答えを見いだせ』!!!

…あとはおぬし次第じゃベレト、未来をつかみ取れ!!」

 

「ああ、行ってくる!!」

 

 ベレトの意識が薄れていき、時が巻き戻っていく。…ぼーっとしていた彼を、誰かが呼んだ。

 

「…ちょっと、いきなりぼーっとしないでよ!」

 

 頬をふくらませて怒る()()()に、傭兵は微笑んだ。

 

「…ああ、すまない。さて、家探しと行こうか」

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