ソードアート・オンライン 《Now Dead Future》 作:クロス・アラベル
さぁ______現実を見る時だ。
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「…不味いな、雨が降りそうだ」
黒い雲が空を覆う。
このままでは10分もせずに雨が降るだろう。
行く宛ては無いが、早めに雨をしのげるようなところに行くべきだろう。確か山脈を沿っていくと誰も使っていない廃屋があったはずだ。ボロボロではあったが、雨風くらいはしのげるだろう。誰も近づくことも無い。
もう少し歩けば辿り着く。
山と林の間を2人は歩く。
「先輩、どうですか…?」
「うん、そろそろ林の中に入ってもよさそうだね。このまま行けばすぐ着くよ」
「分かりました。先輩は、無理されては無いですか…?」
「大丈夫、体力ならまだまだ!」
不安そうなティーゼに笑ってみせる。やっぱり、口数が少ないから心配されただろうか。
「いえ、その……精神的な、意味です」
「…大丈夫だよ、ティーゼ。心配してくれてありがとう」
ティーゼの頭を撫でる。
隠すのは無理だ。いつかは話すだろうけど、それまでは黙っていたい。
森に入る。
廃屋までもうすぐだ。早めに行って体を休め_______
その時。
今までに聞いたことの無い音を聞いた。
バサリ、という
「_____」
「___先輩?」
「シっ____静かに」
ティーゼの口を塞ぐ。
服をはたくような……いや違う。
何か、羽ばたくかのような_____?
「羽ばたく______ただの鳥じゃ今回大袈裟な音は出ない」
かなり遠くで聞こえたように思える。ただの鳥ではここまで音は出ない。ここにいるのは僕ら人より小さい鳥だ。小鳥程度。
バサリ。
「_____?」
まただ。
先程より音が大きくなっている。
近付いてきている…?
肉食の生き物が僕らを狙ってきている?
しかし、肉食の生き物はこの森にさほど居ない。狼がいる程度だろう。それに、バサリ、なんて音は出さない。
今考えられる可能性。
野生生物、は無い。
人である可能性も無い。
では何か?
いや、別の視点から見るべきか。
今の僕らの状況から考えて、僕らを追うような存在は?
________整合騎士。
「_________ティーゼ、走って!」
「え!?」
「整合騎士が来た!」
「!?」
良く考えればわかる事だ。
今の今まで追っ手が来なかったこと自体おかしかったんだ。
多分、僕の故郷に戻った可能性を考えてこんな辺境に飛んできたのか。
あの音は______飛竜の翼が羽ばたく音だ。
空からじゃ山を登ろうとすれば丸見え、なら森の中に逃げた方がマシか。
森の中に逃げ込む。
なんとか、姿を隠せたなら幸いなのだが、そうもいかないだろう。
見つかって、道を阻まれるのなら______剣を取らなければならない。
けど、僕なんかが整合騎士にかなうのか?
まともに斬り合えるか?
否。
ティーゼを守りながらなんて戦えたものでは無い。
戦うのは最終手段だ、今は逃げる事を考えろ。
森の中を走る。そして_____手頃な木の下に隠れた。
右手は剣の柄を握りしめたまま。
「_______」
飛竜の羽ばたく音は遠ざかる事無く、こちらへと向かってきている。
ダメだ、見つかっている。
整合騎士には見つかっていなくとも、飛竜の方には勘づかれているか。
人よりも何倍も優れた嗅覚で僕らの位置を探っている。
音はどんどん近づいて行き______ズドン、と僕らの目の前に巨大な生き物が舞い降りた。
蒼色の体躯。
巨大なその身体は強固な鱗によって覆われている。
「_____飛竜」
選ばれた整合騎士が操るという専用の飛竜。
そして、それに跨るのは_____
「_____ふむ、案外早く見つかったな」
整合騎士。
人界最強の騎士。
薄い紫色を基調にした鎧を身に纏う彼は、優雅にその飛竜から降りてきた。
「あの方の情報通り、二人。男と女、名を______ユージオとティーゼ・シュトリーネンと言ったか」
僕らの名前を言った。
確定だ。僕らを捕らえに来た追っ手だ。
「間違いないかな?」
「…そうだとしたら、どうするんですか」
「一応、警告しておこう。君達は禁忌目録である《殺人》を犯した。大罪だ。直ちに身柄を拘束、セントラルカセドラルにて、刑罰を執行する。
______降伏することをおすすめするよ」
「_____しなかったら?」
「無論、実力行使ということになる。私達は既に最高司祭様から君達の天命の7割を削って良いという許可が降りている。
それなりに痛めつけることになるが_____それでもいいかな?」
整合騎士を名乗る男は左腰に身につけた_____剣の柄を軽く叩く。その剣の柄の上には、もう一振り柄がある。
_____鞭か?
整合騎士は鞭も使うのか。
いや、そんなこと考えている余裕はない。
「______条件があります」
「本来ならば、大罪人である君達が条件を付けられる立場ではないが………いいだろう、言うといい」
「…僕の事はどうなってもいい。ティーゼは見逃すか、無罪放免として欲しい。彼女は無実だ。裁くなら、僕だけでいい」
「先輩っ!?」
ティーゼが僕の腕を掴んで声を上げているが、今はこちらの方が大切だ。
僕はどうなってもいい。ティーゼの安全を最優先にする。
「……それは保証出来ないな。この一件は私だけで決められるようなものでは無い。最高司祭様の御心、意志によって決まる」
「なら、断固として拒否します。彼女の身柄を、未来を保証出来ないのなら……同意は出来ません」
「交渉決裂という訳だな。私としては、交渉するつもりは無いがね」
結果は分かりきっていた。いつまでも話していたって平行線だ。
後は_____力のぶつかり合いだ。
「______ティーゼ、走って山を登って北の洞窟へ。ダークテリトリーならもしかすると、整合騎士も追ってこないかもしれない。ダークテリトリーに入ったらどこかに隠れるんだ。向こうにはゴブリン達もいる。気をつけて…!」
ティーゼを守りながら戦うのは不可能だ。一刻も早くティーゼにはこの場から離れてもらって_____
「で、でも先輩はっ!」
「僕は______彼をここで足止めする」
ティーゼが逃げられる場所はほとんどない。ルーリッドに逃げ込めば、逆に捕らえられてしまう可能性がある。森のどこかに隠れるのは難しい。なら、北の洞窟、その向こう______ダークテリトリーなら、彼ら整合騎士も迂闊には出てこれないかもしれない。
それと同時に、ダークテリトリーにはゴブリンやオーク等のダークテリトリーの住人がいる。彼らに見つかっても一巻の終わりだが、いつも洞窟の向こうで待ち構えている訳じゃないだろう。
かもしれない、なんて可能性の話だけど、一縷の望みにかけるしかない。
「行って、ティーゼ」
「でも、それじゃユージオ先輩がっ…!」
「行くんだ、早く!」
「私っ_____」
「______早く行けェ!!!!」
「_______ぁ……っ!!」
ティーゼは僕の叫びに動揺したようだが、それでも僕の意志を組んでくれたか、北の洞窟のある方へと走り出した。
「……自らを捨て石にするか、罪人」
「ええ。彼女に実戦は、殺し合いは早過ぎる。それに………させたくない」
これはただの意地だ。
ティーゼにはこれ以上、血を浴びて欲しくない。
血を流すのも、返り血を浴びるのも、僕だけでいい。
「…男としては、合格。しかして、罪人であるのが何よりも残念だ」
「___________僕の名はユージオ。上級修_____いや、ただの剣士ユージオ。整合騎士たる貴方に決闘を申し込む!」
「名乗りを上げる、か。いいだろう______我が名はエルドリエ。整合騎士エルドリエ・シンセシス・サーティワン!!その信念に応えよう_____この神器《霜麟鞭》を持って!」
エルドリエ、と名乗った彼は剣ではなく______鞭の柄を取った。
神器、か。
さて、僕は何分持つだろうか?
片眼の大罪人剣士ユージオ、発進。
原作の状況よりかは……まぁ、青薔薇の剣あるし、片眼とは言え頑張れば…………何とかなるかもしれない(震え声)