ソードアート・オンライン 《Now Dead Future》   作:クロス・アラベル

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_____抗え。


vs《霜麟鞭》エルドリエ

 

 

 

バチン、と靭やかな鞭が僕の足を捉えた。

 

「____うっ!?」

 

直後、僕は空を舞い、地面に叩きつけられる。

即座に体勢を整えて剣を中段に構える。

 

剣と鞭。

性質的にこれ程正反対なものは無い。

剣は剛、時に叩きつけて斬ることから力技な部分が多い。

しかし、鞭は違う。

鞭は柔、靭やかに、柔らかに打ってくる。力任せではなく、相手の力の入れ所をピンポイントで鞭でとらえ、バランスを崩してくる。

剣でも出来ないことは無いが、鞭は攻撃の軌道がそもそも剣とは異なっている。

 

剣は真っ直ぐだが、鞭は剣と違ってその時その時で軌道がまったく異なる。

今は亡きキリトの傍付き時代の上級修剣士であったソルティリーナ先輩は鞭を愛用していた。キリトが彼女の鞭に何度足を取られ、隙を突かれて降参してきたかは僕が1番知っている。彼女の傍付きではなかったが、何度も彼女の鞭使いを見てきた_____キリトほどではないけれど_____から、なんとか対処出来るかと甘く見ていた。

 

「____見てるのと、実践はまったく違うや」

 

まったく軌道が読めない。

しかも、あの鞭、強度が桁違いだ。青薔薇の剣で何度打ち合ってもビクともしない。普通、鞭なんかで青薔薇の剣と打ち合っていればすぐに切れてしまうが、眼前の騎士が持つ鞭は性能が違うらしい。

 

戦闘を始める前、『神器《霜麟鞭》』と言った彼のその鞭。

彼の言葉が本当であれば、アレは神器……神器級武具である青薔薇の剣とほぼ同等の優先度を誇るということだ。

相手に不足なし、という訳か。

 

神器級武具と全身を鎧に身を包んだ整合騎士。

それに比べて僕の方は青薔薇の剣とボロボロになった修剣学院の制服、食事も満足に取れていないから天命の最大値は少し減っているだろう。

そして、右眼の眼帯。半分になった視界に慣れはしたが、それは普通の生活での話だ。戦闘じゃ話にならない。圧倒的不利。

 

「____ふむ、人界の剣士というのは、それなりの実力を持っているようだ。私の《霜麟鞭》の連撃によくここまで耐えられているな」

 

「人界の…?じゃあ、あなたは人界の騎士じゃないと?」

 

「私達整合騎士は天界から来た。今はその時の記憶は封印されてはいるが、純粋に人界の剣士と剣を合わせるのは初めてでね」

 

天界から、召喚された…?

何を言っているんだろうか。整合騎士は四帝国統一大会で優勝した剣士がセントラルカセドラルへ迎え入れられて晴れてなるものじゃないのか…?

 

「_____鞭の軌道も、拙いながらも読めている。完全ではないが、中々のものだ。剣技もそれなりの、いや想像以上だ。眼帯で視界を塞がれているというのにこの対応力。

故に惜しいな。何故このような実力を持っておきながら、殺人に手を染めた?先程の女を庇う行動も、村を守る衛士や街を守る衛兵隊にだって欲しい人材であろうに。私はそれが気に食わない。

何故だ?大罪人よ」

 

「_________何、故?」

 

目眩がした。

彼らは、何も知らないのか?

あの二人がしてきた非道な行為の数々を。

 

「____何故も、何も……彼らが何の罪もない傍付き練士を辱め、あまつさえ僕らの傍付きにさえ手をかけたんですよ…?それに対して対策を講じて、果てには直談判までしたというのに……」

 

「_______」

 

「彼らは、それだけでは飽き足らず、僕の目の前で、学院則だけでなく貴族裁決権を盾に何の罪もない彼女達を_____貶めたんですよ!?

弱き者を守る義務を持つ彼らはそれを放棄し、自らの私利私欲の為にそれを使って、女の子を辱めるなんて_____赦されるはずがない!!!!」

 

「……だから、殺人を犯したと?」

 

「あのままでは、彼女達の純情は汚されていた……いや、もう既に彼女達の心は大きな傷を負ってしまった!彼女達が進むであろう幸せな人生を、私利私欲のために汚したんだ!

僕があのまま、何もしなければもっと悲惨なことになっていた!死人が出なくとも、怪我人がでなくとも、彼女達の尊厳は______」

 

「____しかし、君の罪はどんな過程があろうと変わらない」

 

「_______」

 

「私個人の意見を挟むことは出来ない。君はただ、禁忌目録を犯し、殺人を行った。

最高司祭様はそれを咎めているのだ。赦される猶予があるか否かは、三女神のみぞ知る、ところだろう」

 

駄目だ。

平行線だ。

いくら弁を立てようと、理解、されないのか。

 

なら_____剣を交えるしか、ない。

 

「_____貴方には、失望しました」

 

「もとより君に信頼されるようなことはしていないし、これからもするつもりは無い」

 

剣を構える。

少々無理矢理ではあるが、あの鞭による守りを突破出来ないことは無い。

 

「____ふッ!!」

 

「愚直だな」

 

正面からの斬撃。

勿論、相手は応戦する。

一撃、二撃、三撃。

そして、四撃目で秘奥義を放つ。

《スラント》斜め単発斬りだ。キリトから教えてもらう前に、僕が見つけたアインクラッド流の秘奥義。

 

「____そして、甘い!」

 

それも難なく去なされた。

秘奥義発動後の技後硬直。

直後、鞭による一撃が僕の首元に入る_____直前に、腕を盾にする。

 

バチン、とと僕の腕に鞭による一撃が入った。

それと同時に、その鞭を受けた左手で掴んだ。

 

「___!」

 

普通、剣相手にこんなことは出来ないが、相手が鞭なら話は別だ。

鞭を掴んでしまえば、さっきみたいに自在に動かすことは難しい筈。

鞭を掴む手がじんわり痛いが、それを無視して____

 

「はァッ!!」

 

秘奥義《バーチカル》を撃ち込む。

回避するには鞭を手放すしかない。

 

これで勝ったとは思っていない。

何か手を打ってくるだろうが、これで手傷を負わせられれば、儲けものだ…!

 

「____リリース・リコレクション」

 

「___ぇ?」

 

その時、騎士の口から聞き覚えのない神聖術の術式と思しき言葉が出た。

リリース、リコレクション?

聞いたことの無い単語だ。

理解は不能。

神聖語に妙に詳しいキリトなら、もしかしたら分かったのかもしれないが___

 

直後、掴んでいたはずの鞭の先端が____にゅるり、と変形して、信じられないことに蛇の形となって、僕の左肩に噛み付いた。

 

「な_____ぐぁ!?」

 

強い力で噛み付かれ、牙が肩に食い込む。

肩の骨を噛み砕かんとする程の力に、思わず顔が歪む。

バキリ、と鈍い音が響いた。

そして、離したと思えば、力の抜けた僕の左手からスルリと蛇のように抜け出した。

 

「原始的ではあるが、正しい対処の仕方だ_______この《霜鱗鞭》には逆効果だったがな」

 

直後、再び右足に噛みつかれ、鞭を振るわれてそのまま振り回されて、一本の木に激突した。

 

「_____がッ!?」

 

勢いは止まらず、そのまま木をへし折って吹き飛ばされた。

 

「何、が…起こったんだ…!?」

 

理解出来なかった。

正体不明の神聖術の行使____アレがその効果なのか?

武具の形を変形させる、術式…?

 

「____《記憶解放術》、と呼ばれるものだよ。数少ない神器と呼ばれる武具にのみ可能となる、騎士の奥義だ。普通なら罪人に対して使うことなど無いだろうが、特別に見せた」

 

「記憶、解放…?」

 

「神器が持つ記憶_____それを術式使用者が完全に理解し、術式を使って武具の性能を最大限に引き出すことが出来る。整合騎士のみが使用を許された奥義よ。

これより大罪を裁かれるものへの手向けだ」

 

整合騎士にのみ許された、奥義…?

ああ、そうか。なら、誰だって知るはずがない訳だ。

 

足と肩を噛まれた。

左肩の方はどうにでもなるが、右足が致命傷だ。かなり歩きづらい。

ティーゼを追うにも、彼との戦闘を続けるにも、支障が出る。

幸いなのは、右足の負傷による出血がマシなことか。左肩のはかなり酷いが、右足はさほど酷い出血ではない。

 

「_____お優しいんですね、整合騎士とやらは。これから裁かれてこの世から消えるかもしれない罪人に向かって、奥義を見せてくれるなんて」

 

「何も分からず、痛めつけられるのは心苦しいのでな。特に、自ら名乗りを上げて決闘を申し込んだのなら尚更のことだ」

 

「感謝します、騎士様____ッ!!」

 

歩きづらいが、戦えない訳じゃない。

なら、諦めることなんてしない。

もう一度接近戦に持ち込んでやる。また同じやり方が通じるとは思わないが、今度は鞭を腕に巻き付けて先端を握り潰すくらい力を込めて掴んでやる!

 

「見苦しいな。その手負いの状態でまだ続けるか。もういい、楽にしてやろう_____エンハンス・アーマメント」

 

不機嫌そうにそう言った整合騎士はまた違う神聖術を唱えて、鞭を振るった。

彼の鞭はかなり間合いが広い武器ではあるが、僕と彼は目測で13メドル以上離れている。

伸ばしてもせいぜい4メドルしかないであろうあの鞭では、僕には届かない。

 

直後、僕の予想は簡単に裏切られることとなった。

 

()()()

10メドル以上も離れていた距離を一瞬にして置き去りにした。

彼はその位置から動いていない。

 

彼は10メドル離れた位置から、鞭を放ってきた。

一瞬にして伸びた鞭は僕の背中を打った。

 

「な、ァ!?」

 

バチン、と叩きつけられる鞭。

そこからは、蹂躙だった。

 

10メドル以上離れた位置、僕の攻撃が絶対に届かないところから放たれる鋭い鞭による猛攻撃。

剣で守ろうにも、予測のしづらい鞭による攻撃に守ることすら難しい。

 

「〜〜〜〜!?」

 

為す術なく、打たれるしかなかった。

しかし、その苛烈さは一層増していく。

 

鞭による連撃の最中、彼を視界に捉える。

諦めろ、とそう言いたいのだろう。

無意味な抵抗は止めて投降しろと。

 

だが、止める訳にはいかない。

まだ_____

 

「………随分と諦めが悪いな」

 

「_____そりゃあ、諦めが悪くなきゃ、こんな辺境まで逃げて来てないですよ」

 

____諦めが悪い?

当たり前だ。アリスの事をずっと諦めきれずに、木こりの間もずっと燻っていたんだから。きっかけがなくて、出ることはなかったけど。

 

猛攻を止め、騎士は憐れなものを見る目で僕を見ている。

 

「今のは、また騎士様の奥義ですか」

 

「武装完全支配術、という物だ。先程と同じく神器でしか成せない業でね、武具の記憶の一部を解放することで武具の力の一部を引き出す。先程の記憶解放術は一部ではなく、全てを解放するものだ。

______言ったところで対策のしようも無いだろう。剣を下ろすことをお勧めするよ。これが最後の警告だ」

 

なんとも、騎士というのは余裕のある方々だ。

自分は負けることないという、絶対的自信、己の騎士としての誇り。それらが全て、彼らの強さに繋がっているらしい。

残念ながら、こちらが勝つ未来が想像出来ない。

けど_____

 

「まだ、諦めちゃいないんですよ、こっちだってね_____!!」

 

左肩を庇いつつ、僕は後ろへと跳んだ。

そして、神聖術を唱える。

 

「システムコール、ジェネレート・クライオゼニックエレメント、フォームエレメント・ソードシェイプ、フライストレート、ディスチャージ!」

 

「_____システムコール、ジェネレート・サーマルエレメント、フォームエレメント・バードシェイプ、カウンター・クライオゼニックエレメント、ディスチャージ」

 

僕の神聖術の行使に彼は一瞬鞭を使おうとしたが、僕が後ろへと跳んだことで鞭の射程距離外となったことを悟ったのか、即座に通常の神聖術の行使に踏み切った。

相手のは式句からして、凍素への熱素による鳥型追尾式迎撃術式か。

だが、あちらの熱素の方が数が多い。こちらは3つ、向こうは4つ。

 

解放式句で飛び出す神聖術によって形作られた氷の矢と炎の鳥。

結果は、見えている。

相殺されるだろうが、僕の狙いはそこじゃない。

 

「システムコール___」

 

直ぐに次の神聖術の詠唱に入る。

使うのは、暗素。

取り扱いには高度な技術を要し、使い方や扱い形を間違えれば空間にあったもの___使用者の肉体すら削り取ってしまうほどの強力なものだ。

本来これは攻撃転用することはほとんど無い。危険過ぎるからだ。

だから、これを他の晶素や光素などを組み合わせることで使用する。

僕も____それと同じ使い方をする。

 

「ジェネレート・アンブラ、ルミナス、エアリアルエレメント」

 

僕が今回組み合わせるのは光素と風素。

そして、神聖術において最も重要なのは、素因の組み合わせ方とその数。

僕は片手じゃ3つしか素因を作れない。だから今回のは両手を使って作る。

青薔薇の剣を地面に突き刺し、両手で神聖術を使う。

 

暗素を二つ、光素を一つ、風素を三つ。この計六つを組み合わせる。

 

まず威力の高い暗素二つと光素一つを組み合わせて暗素の破壊力を半減させる。今破壊力は要らない。

そして底に風素を一つ加える事で、風に破壊力が半減した暗素を纏わせることによって、目的のものを作り出す。

 

前方ではすでに先程の神聖術同士がぶつかり合い、大量の蒸気を発生させて相殺した。

しかし、あの神聖術はあの騎士を留めてこの神聖術を完成させる時間稼ぎに過ぎない。

後は、暗素を纏った真っ黒の風素を残った二つの風素で押し出せば_____

 

「________ディスチャージ!!」

 

____お手製の煙幕の完成だ。

 

「_____まさか!」

 

彼も僕の企みに気付いたようだが、もう遅い。

今作った煙幕、それを最後に押し出した時、僕は上から潰すようにした。

そう、あの騎士に向かってでは無い。

 

周りに撒き散らすように、だ。

 

バフン、と黒い煙がそこら一帯を巻き込んだ。

騎士も、僕も例外じゃない。

 

僕は黒煙の中、青薔薇の剣を片手に走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

「_____煙幕を作り出すとはな、こちらも予想外だ」

 

辺りは黒い煙幕に包まれている。

視界は最悪だが、邪魔なら払ってしまえばいいだけの事。

 

「だが、無駄なことだ_____!」

 

騎士はすぐさま鞭を振るう。

ヒュン、と風を斬る音。

しかし、煙幕は晴れない。

 

「暗素を多めに入れたな?」

 

暗素の割合によって、その煙幕の性質は左右される。

暗素が少なければ薄く、広がりやすくなり、多ければ、濃く、重くなる。

騎士は何度も鞭を振るうが、煙幕はまとわりつくようにして晴れない。

 

「…かなり無茶をして風素で巻き散らかしたな」

 

濃く重くなった暗素の煙幕は晴れるのに時間がかかり、無理矢理晴らすのは労力がいる。

それは、飛ばす際も同じ。

ユージオは二つの風素で無理矢理飛ばした。

 

「さて、どこから攻めてくる?」

 

黒煙の中、鞭を構えて待つ。

返り討ちにしてやると、息巻く騎士。

 

しかし______一向にその奇襲は来なかった。

 

「_____何故だ?何故攻撃してこない?」

 

騎士の視界が潰れているこの絶好の機会に、飛び込んでこないことに疑問を感じざるを得ない。

 

彼は気付いていない。

ユージオが黒煙を放った、本当の理由。

奇襲ではない。

 

それは、この場から離脱することだった。

 

彼、整合騎士にとっての勝利条件は、ユージオ達を捕らえること。

しかし、ユージオの勝利条件は彼を倒すことではなかった。要は、ここで上手く時間を稼ぎ、いいところで離脱してティーゼと合流し逃走することだった。

 

整合騎士となって3ヶ月しか経たない実戦経験の少ない彼にとって______そこまで推理することは難しかったらしい。

 

「_____まさか、逃げたのか!?」

 

ユージオは戦いに負けて勝負に勝った、と言ったところか。

2分後、それにようやく気付いた彼は、声を荒らげて、ユージオを追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユージオにとって、不安要素は数え切れないほどあるが、最大の不安要素は彼との戦闘の他にあった。

 

「_____はぁ、はぁ、はぁ…!」

 

息を切らしながらも走るユージオ。

今は一刻も時間が惜しい。

すぐに気づくであろう整合騎士に追いつかれる前に。

ティーゼと合流し、ダークテリトリーに逃げ込む算段だった。

 

彼にとっての不安要素。

それは、整合騎士エルドリエの出会い頭のセリフにあった。

降伏勧告を拒否したらどうなるのかを問うた時。

 

『______私達は既に最高司祭様から君達の天命の7割を削って良いという許可が降りている』

 

と言うもの。

 

果たして________『()()』とは、どういう事なのか。

追っ手が、一人ではなかったら?

整合騎士が複数人でここに来ているという可能性。

本当にそうだとしたら______もう、既に遅いのかもしれない。

 

「間に合ってくれ_____!!」

 

ユージオはそう祈りながら全速力で山を駆けた。




私的には、もっと神聖術についての描写や神聖術のルールなどの情報が原作にもっと欲しかった……と思います。
やっぱり、どんな物語でも魔法要素はカッコイイですから。

後、私の書き溜めてた分はここで終わりなので、次の投稿は不定期となります。
いつか、早めに出せると……いいな。
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