もし、待っていて下さった方がいらっしゃいましたら、お待たせしました。
今回は短めとなります
あれから入学式は無事に終了し、教室に戻ってから、真島先生から簡単な明日の話しをして今日は解散となり、クラスメイト達は緊張の糸を解いて各自動き出していく。
10万を手にして早速買い物に出掛け様とする者
今後の学校生活を考える者
早速友達を作ろうとする者
様々に動いていく。
クラスが喧騒に包まれている中、愁が荷物を纏めていると、横から声が掛かる。
「お疲れ、私はもう行けるけど、愁の方は?」
準備の出来た神室がやって来た様だ。
彼女自身もあれから、何人ものクラスメイト、特に神室の容姿に惹き付けられた男子達に声を掛けられたが、中々に刺々しい対応をしており、皆マトモに会話する事も出来ず取り付く島も無かった。
そんな対応を受けて撃沈したクラスの男子達は、先生が教室を退室した後、すぐに神室が荷物を纏めて席を立ち移動するのに気付く。
それを視線で追い掛けてみると、教室の片隅の席に男子の元へと向かったのが分かる。
そして、その男子に話し掛ける時の神室の雰囲気が自分達が見た刺々しいモノとは打って変わり、とても柔らかな雰囲気を醸し出し話し掛けていた。
何故あの男子が?
何故自分では無い?
その男子ーーー愁に対して、暗い思いと共に嫉妬と羨望の眼差しを向けていた。
そんな視線を浴びている愁は
(あー、かなりの視線を感じます。しかも、割合で言うと嫉妬の色が濃いですね。やれやれです)
「わざわざ迎えに来て貰ってすいません。大丈夫です、行けますよ。」
浴びる視線に辟易としながらも、準備を終えて席を立つ。
「良いの。じゃあ、行くわよ」
男子達の思いも何のそので、神室は愁を連れ立って教室を出て行く。
愁は教室から出るまでずっと、嫉妬の視線に晒され続けていた。
教室を出て他のクラスの人達で賑やかになっている廊下を少し歩いていると、神室が立ち止まり、徐ろに愁に手を差し出す。
流石にコレには愁も分からず、この手の意味を問うしかなかった。
「えーと、この差し出された手は何でしょうか?」
そんな愁の疑問に神室は恥ずかしそうでありながら、やや不安げに答える
「そ、その...愁と..手を繋ぎたい..繋いで欲しい//」
そっぽを向きながら答えた神室のチラッと見える彼女の横顔は案の定、赤くなっていた。
「私は構いませんが、ホントに良いんですか?
生徒が沢山いる廊下で手を繋いでる事を観られては、変な噂の的にされてしまいます?」
「別に良い…私が繋ぎたくて繋ぐ訳だし…
それに、何かあったら守ってくれるでしょ?」
「うーん、それはどうでしょうかね?」
「そこは嘘でも守るって言いなさいよ、バカ!」
「了解しました。有事の際は御守りしますよ。」
「ん…
それじゃあ、行くわよ」
そう言って、神室は愁の手を取り、引っ張って、歩き出していく。その繋ぎ方は、しっかりと指を絡めての所謂、恋人繋ぎであった。
他クラスの生徒達が行き交う廊下をその状態で歩き進めれば、もちろん周囲の注目は神室と愁の2人へとしっかり集められる事になり、微かに黄色い声が聴こえてきたりもする。
そんな声が神室の耳にも入ったのか、愁を引っ張るペースが少し早くなる。
(あぁ、真澄はもう半ばヤケクソの状態ですね。しかし、おかしいです。なんやかんや今朝からずっと一緒に居るものの、恋人になった覚えは無いんですが…前触れもなく恋人繋ぎとは、これ如何に?)
しかも、繋いだ愁の手をニギニギとしてくるのは変わらずの様である。
そんなこんなで黄色い声や嫉妬の視線を浴びながらも、無事に昇降口に辿り着く。
流石に靴を履き替える時位は手を離すものと思っていた愁だが、ここでも手を離される事は無かった。
そして、履き替える際に見えた神室の顔はリンゴより真っ赤になっていた。
それを見兼ねてか、愁は切り出す
「真澄、人前で手を繋ぐのが恥ずかしいなら、変に無理をせずにそろそろ離しましょうか?そろそろ顔の赤さ加減が大変な事になっていますよ?」
とは言っても、実際にガッチリと握っているのは愁ではなく神室の方なので、愁から離す離さないの問題では無かった。
顔の赤さを指摘された神室は愁の手を繋いだまま、顔に手を持っていき、その顔を覆いながら恥ずかしそうに言う。
「大丈夫だから、気にしないで…
今はこの手を離したく無いの…アンタを、愁を離したく無いの…」
これは席が教室の1番角隅である愁は知らないことだったが、実の所、席が比較的教室真ん中よりの神室は、先程教室でクラスメイトとなった女子達が愁の事をカッコイイ、イケメン等と話題に上がっていたのを耳にしていた。
さらに、そんな会話が出る中で面食いの女子もチラホラと居るわけであり、アタックしてみようかな?とか言うセリフも神室の耳に入ってきていた。
そして、それらの話しが耳に入った時、神室は考える。
ーー今まで両親含め、誰も自分の奥深くを観ようとはしてくれなかった。
それでも、今朝会ったばかりのアイツはある程度ではあるが私の奥深くを観てくれた。
もしここで、あのアイツを逃してしまったら、もうそんな人間は現れないかもしれないーーー
それを思うと少し恐怖する。
それなら、と。
それなら、誰にも渡さない様にすれば良いだけなんだ。
彼女の持つ、歪な承認欲求から生じる歪な独占欲が少し顔を出した瞬間だった。
ーー愁は誰にも渡さない。渡してはならないーー
心の中で生まれた、ある種の決意にも等しいその言葉が彼女の脳内にずっと反響して、浸透していく。
それがあったからこそ、これまで少し抵抗があった人前での手繋ぎ等も比較的、恥ずかしいモノは恥ずかしいが抵抗無く出来る様になっていた。
「分かりました。貴女がそういうのであれば、このままで行きましょう。」
「うん!」
愁の言葉に対する返事は、実に良い笑顔で帰ってきた。
そうして、2人は今度は肩を並べて昇降口を後にした。