よう実〜平穏な学生生活を送りたい〜   作:はるおみ

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第八話

片や引っ張り、片や引っ張られながら寮へと着いた2人。

しかし、そのまま寮内に入るかと思いきや、ここまでの道程を止まる事も無く、どこか機嫌が良さそうに歩みを進めていた片方ーー神室の脚が止まる。

 

そこまでの大した距離では無いが、寮の入口まで止まらずに進んでいた神室の歩みが止まった事で、一瞬不思議に思う

 

だが、止まった理由は容易に想像出来てしまう。

今朝、この学校に来る前に彼女と会ってから今に至るまで、ほぼずっと一緒に行動を共にしていたので、恐らくは此処で離れる事にある種の抵抗感の様なモノを感じるのだろう、と

 

教室で他のクラスメイト達が周囲に居た時は、それなりにクールかつ強気でツンケンした態度を取っていたのに、いざ、2人の状態になるとこうも変わってしまうという、そのギャップは珍しく感じつつも面白いとも思ってしまう。

 

寮の規則には確かに20時以降は男女別の生活を送る様に規定されている。

それはもちろん、間違っていない事であるし、寧ろ、当然である。

そういうのに敏感になる多感な歳頃の学生達が万が一に一時の気の迷いで間違いを起こさ無い様に、国立の施設なのもあって厳しいのだろう。

しかし、実の所、この規則は「20時以降は男子は女子の部屋に行ってはならない」とあるが、逆に"女子が20時以降に男子の部屋に行く"という事には一切に言及していないのである。

 

もちろん、白河自身はその事に気が付いている。

それを敢えて、この場では口に出さないだけである。

 

そんな風に思いながら、学生寮の入り口手前で立ち止まって俯いてしまっている彼女ーー神室に声を掛ける。

 

「寮の目の前で急に立ち止まって、どうかしましたか?」

 

「………」

 

そう尋ねる白河の言葉に神室は俯いたままで反応は無い。

それでも、1つの確信めいたモノを持って言葉を続ける

 

「もしかして、私と離れてしまうのが嫌なんですか?」

 

白河は神室が普段から万引きをしている根底に、「必要とされたい、自身を見て欲しい、放って置かないで欲しい」等のある種の承認欲求的なモノが観えていた。

当然、ただの推測ではある為、後程答え合わせをする予定ではあるが、これまでに世界中の様々な人間達と関わってきた事により培った観察眼から、強ち間違ってはいないと思っている。

 

「…ょ」

 

俯いて神室から聴き取り難いながらも反応が帰ってきた。

 

「何です?」

 

とは言え、本当に聴き取り難かった為、白河は聴き返す。

 

「そうよって言ってんの!悪い?」

 

聴き返した瞬間、神室は顔を上げ、肉薄する勢いで叫ぶ。

急な叫びに一瞬呆然とするも、彼女の顔をよく観ると、夕陽に照らされている以上に真っ赤になっているのが分かる。

この瞬間に周囲にたまたま人が居なかったのは運が良かった、と白河は心の中で思う。

 

そんな神室の状態を見つつ、軽い笑みを浮かべながら、1つの提案を出す。

 

「全然悪くありません。寧ろ、それほど迄に思って頂き、とても嬉しい位です。

しかし、今日はまだ入学した初日でここに来たばかりですので、私はまぁ大した荷物も無いので良いのですが、貴女も荷解きがまだの終わっていない状態でしょう?

ですから、ここはまず1度御互いの部屋に別れ、荷物を整理しませんか?」

 

「確かに言われてみればその通りね。」

 

「それで、整理が終わりましたら、私は晩御飯の材料の買い出しにでも行こうかと考えていますので、その時に一緒に如何ですか?」

 

「ホントに?ちゃんと約束守ってくれるんでしょうね?」

 

白河のこの言葉を聴いて、少し冷静さが戻ったのか、先程も真っ赤だった顔も大分赤みが引いていた。

 

「大丈夫ですよ。私は約束はしっかりと守るタイプですから。

……時間はそうですね、18時頃に此処で如何です?」

 

「そう、なら良い。

じゃあ後で、その時間に此処で会いましょう」

 

そう言って、2人は寮に入ってエレベーターにのり、それぞれの部屋へと向かっていく。

 

自室のあるフロアへと着き、神室に、また後程、と声を掛けてエレベーターを降りて、廊下を歩いて割り当てられた部屋へと向かう。

自分の部屋へと着き、鍵を開けて室内に入る。

 

部屋の広さはちょっとしたホテルの一室並みの広さ。

空調やガス、キッチンや浴室、ベッドにトイレ、収納棚等も完備されており、部屋のどこもが綺麗な状態に保たれている。

 

(流石は国立施設。その辺の都立高校の寮とは遥かな差がありますね。しかし、たかが高校生程度にこれだけの待遇を施すのも、この学校が一癖も二癖もある証左ですね。

さて、何時迄も感心してないで、荷物を整理しなくては。)

 

そうして、思考を一度外して、荷物の整理を始めていく。

 

ーーー

 

一通りの整理を終えて、少しゆっくりして時計観ると、そろそろ約束の18時に近付いている事が確認出来たので、制服から着替えて、寮の玄関へと向かう。

 

玄関に着くと、そこにはまだ神室の姿は無かった為、壁に寄り掛かって待つ事にする。

 

(まぁまだ集合時間前ですしね)

 

そうして、待っている間に今日これまでの事を思い返していく。

 

(思い返してみれば、この学校に来る前の段階からかなりのインパクトでした。なんせ、いきなり同級生になる女子の万引き現場に直面するのですから。

そして、彼女が求めるモノを少し与えた瞬間からのあの変わり様、それなりの闇を持っている様です。

彼女のアレが今日だけの一過性のモノなのか、或いは完全に変容しつつあるのかは分かりかねますが、再度万引きをしない様に少し誘導しておきますか…

少なくとも今日1日だけ、とは言え、あそこまでの好意を見せられては流石に無碍には出来ませんし、それで彼女に不利益が生じても寝覚めが悪いですから、それに、同クラス内で言えば、特に坂柳さん辺りが、万引きの瞬間を目撃した場合は撮影して、何かしらの脅しのネタに使いそうな気がしてなりませんからね。)

 

そこまで思考を回していると、自身で現在を思い返して小さく笑ってしまう。

 

(まさか、我ながら1人の人間の為に此処まで考える事になるとは思いませんでした。私自身、今日一日だけで彼女に毒されてしまったのかも知れません)

 

そんな風に先程までの思考を自身の中で纏めていると、エレベーターが到着する音が耳に入る。

左腕にした時計の時刻を見ると、18時5分前。

 

そして、エレベーターの扉が開くと中から、先程まで思考の対象となっていた張本人、神室真澄が出て来る。

降りてスグにキョロキョロと辺りを見渡す仕草をしている所を観るに、目的の人物を探しているのだろう。

そして、探しているその表情はどこか迷子の様な雰囲気を出している。

 

「此処です。御早いお着きですね。」

 

白河のその声を聴いて、さっきまでの迷子の様な雰囲気から、一変、表情には殆ど出ていないが、眼や身体の仕草は嬉しさを隠し切れずに白河へと近付いていく。

 

「なにそれ、嫌味?愁の方が先に着いてるじゃん。

いつからここに居たの?」

 

自身が歓喜している事を隠そうとする為か、そっぽを向きながら、照れ隠しの為なのかぶっきらぼうに言う。

 

「私も先程着いたばかりですので、然程変わりませんよ。」

 

「ふーん、どうだかね」

 

「それにしても、その服のコーディネート、貴女のスタイルと合わさって見事と言う他ありません。」

 

突然、自身の服装を褒めだす白河に、ぶっきらぼうな感じで取り繕っていた外面が外れ掛ける。

 

「そ、そう?ありがとう。」

(急にそんな風に言わないでよ)

 

なんとか、先程までの感じを崩すまいと、視線は合わせられず頬を少し赤く染めつつ御礼を言うも、心の中は歓喜の嵐である。

そんな彼女の様子を微笑ましく思いながらも、白河は寄り掛かっていた壁から離れて、一歩前に出て、神室へと振り返る。

 

「さて、あまり遅くなっても仕方がありませんから、そろそろ買い出しに行くとしましょうか。」

 

「えぇ、分かったわ。」

そう返事をするとスッと白河に向けて左手を出す。

 

先刻、カフェから寮に至るまでの道のりでも、同じ様な動作をされた為、流石に今回はその動作で何を望むのか理解出来た。

 

そうして、白河は右手で差し出された神室の左手を握り、歩み出す。

差し出した左手を握ってくれた事で、神室の表情はとても嬉しそうなモノへとなっていた。

 

 

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