しかもたぶん、似た様な内容ばっかり。
まぁしゃあない
寮を出て、2人で手を繋いで肩を並べながらケヤキモールへの道を歩ていく。
表情には出ていないが、神室の出す雰囲気はどこか嬉しそうであった。
途中までは御互い無言で歩いていたが、ある程度進んだ所で、不意に神室が口を開く。
「そう言えば、今更聴くのもなんだけどさ、食材の買い出しに行くって言ったけど、料理出来るの?いや、出来るから買いに行くんだろうけどさ」
「まぁそうですね。一応、和・洋・中、一通りは作れますよ。
ただ、あまりに凝ったりした物は作れませんが、その辺はやってみない事には分かりませんね。」
白河の返答を聴いて、神室も驚きの表情と声を上げる。
「そうなの!?
アンタって結構万能なのね。」
「いやいや、そこまで万能ではありませんよ。
汎用性が高い、という感じですかね。」
「それでも充分凄いわよ。」
(私も何か作って貰おうかな…)
そんな風に時折会話を交えながら、2人はケヤキモールへと歩を進めて行く。
そして、少し歩き続けて目的地へと到着する。
時間帯としては少し遅めだからか、やはり夕方時に比べると、周囲の生徒達の数は少ない事が確認出来る。
「さて、それでは食品を見て行くとしますか。真澄は今夜は何を作るのか決まってるのですか?」
「私は…作らない。普段からお弁当を買って食べてるから、今夜もいつも通りに、て感じ。」
そういう神室の表情は何処か寂しさを感じさせる雰囲気を醸し出していた。
「そうですか。……もし宜しければ、私が一緒に食べますか?」
「ホントに言ってる?嬉しいお誘いだけど、作って食べるとなると寮の時間の規則にも引っ掛かりそうだし、そこまでしてもらうのも悪いから、また今度で良いわよ。」
白河のその発言に神室は眼を見開き驚く。流石に予想外のお誘いだった様だが、寮の規定となっている20時ルールを思い出し、残念そうにしながらも、申し出を断る。
そんな神室の様子に白河は微笑を浮かべながら言う
「真澄の言う、その20時の門限ルールは"男子が女子の部屋に"とは書かれてはありますが、"女子が男子の部屋に"とは書かれていないんです。ですので、真澄が私の部屋に来て過ごす分には何も問題にはならないのですよ。」
「え、嘘。言われてみれば確かにって思う所もあるけど、そんな屁理屈的って発想もアリな訳?って思う私もいるのがなんか複雑…」
「屁理屈とは失礼ですね。時には物事の裏を描くのも、立派な世渡り手段の1つです。ただ額面通りに受け取っているだけでは、読み切れない事、見破れない事は沢山ありますから。」
その言葉を受けて、神室は内心で自分の眼の前に立っている男は何者なのか?と少し思い始めた。
今日ここに至るまで、常に冷静沈着な雰囲気、そして今の発言の内容がとてもではないが、その辺の普通の高校生の雰囲気とは何処か一線を画すモノを薄っすらとだが感じ取っていた。
それらを感じ取りながらも、神室は冗談混じりに答える。
「いやいや、愁、アンタそれ何目線よ。とても普通の高校生が言う様な事じゃないでしょ」
「フッ、どうでしょうね?私自身としては普通の高校生のつもりですが…
しかし、そうですね。屁理屈な発想に御付き合い頂くのも心苦しいですし、私としても申し訳ありません。それに、貴女もお嫌でしょうから、先程のお誘いのお話しは無かった事にして頂いて大丈夫ですよ。」
どこか申し訳無さそうな表情をしながら、先程の発言の前言撤回をする白河。
しかし、その言葉を聴いた神室の心中は少し前までの穏やかな状態から一変、一瞬にして波風が荒れ狂う様な心境に陥っていた。
彼、白河からの誘いーー規則上の問題で仕方が無いとは言え、その点以外で断ると言う発想は持っていなかった。
そして、その問題点も彼の機転により解決。
後は受けた誘いに対して素直にYESの返事をして、一緒に買い物をして、寮の彼の部屋に戻り、食事を共にする、それで良かった筈なのに、彼女自身の素直になれない部分が邪魔をしてしまった。
折角誘ってくれたのに…
御弁当を買って1人で食べる事になる…
また1人になる…
もう二度と誘ってくれないかも…
白河の断りを聴いた途端に、神室の心は負の感情で染め上げられる。
そんな彼女の心は、白河により負の感情を忘れ去られていた分、かなりの反動を受けてしまう。
そして、そこからの神室の行動は早かった。
「ごめん!屁理屈とか言ってごめんなさい!
私は全然嫌じゃないから!
……お願いだから一緒に食べさせて…もう1人で食べるのは嫌なの…」
慌てて先程の自身の発言を謝罪しながら、白河の右腕に縋り付く様な形で密着して懇願する。
そんな彼女の瞳からは恐怖、不安等の感情がありありと読み解ける事が出来、顔は真っ青。縋り付いているその身体は震えていた。その瞳を観ながら白河は内心独りごちる。
(…闇が深そうですね)
しかし、ここはケヤキモール。
いつまでもこの状態でいる訳にはいかない。
夜の帳が下りて来ているとは言えども、それなりの他生徒の往来はあるし、場合よっては教職員の人達が居ても可笑しくはない。
流石に入学早々、変な風に話題になるのも憚れる。
よってはここは、現在進行系で彼の右腕にその程よい大きさの胸と、見事なスタイルの肢体を押し付けながら身体を震わせている彼女の再起動をするしかなさそうだ。
白河は内心小さく溜め息を付きながら、神室へと語り掛ける。
「大丈夫ですよ。あの程度の物言い、私は全く気にしません。
それに、ある意味屁理屈と言えば屁理屈ですので、強ち、貴女の仰っていた事も間違っている訳ではありませんから。」
彼のその言葉を聴いて、神室は幾分かの落ち着きを取り戻す。
白河本人は全く気にしてない、と言い、彼自身としてもホントに何も気にしていない。
しかし、それでも大袈裟に受け取ってしまい、神室からすると、許して貰えた、と言う風な形に受け取った様だ。
「ホントに?ホントに気にしてない?」
そうは思いながらも、やはり不安が残ってしまうのは仕方が無いのかもしれない。
白河もある程度肯定しているのか、微笑みを浮かべながら、神室の言葉を肯定する。
「ええ、ホントに気にしてません。
さて、そろそろ買い出しを済ませてしましょうか。夜遅くに食事をするのも身体に悪いですし、後にゆっくりと過ごす時間も無くなってしまいそうですから。」
「それなら良かった、今度からは気を付けるから。
分かったわ。行きましょう」
神室も何回か深呼吸をして、自身の内面を落ち着かせて、買い出しに同行しようとする。
しかし、折角落ち着きを取り戻した所に白河が爆弾を投下する。
「それと真澄、貴女の胸とキレイな身体が先程からずっと、私の右腕に押し付けられてるのですが…大丈夫なんですか?」
その言葉を聞いた瞬間、ボンッと音が聴こえそうなレベルで神室の顔は瞬時に真っ赤に変貌してオーバーフローを起こす。
そんな様子の彼女を見て、爆弾を投下した張本人は至って冷静に、相変わらず忙しい方ですね。と1人、心の中で呟いていた。
オーバーフローから帰って来て、再起動を果たす。
「こ、これは、その……
あーもう、面倒くさい!これは、当ててるの!男にこんな事するのはアンタが初めてだし、アンタ以外にやるつもりも無いから、ありがたく思いなさい!」
復活した神室は最初は戸惑う様に何かを言おうとしていたが、途中で吹っ切れたのか、やけくそ気味に話し出す。
そして、アンタにしかやらない、と男なら誰もが喜びそうな事を言ってくれる。
「それはそれは、その様に仰って頂けるとは男冥利に付きますね。
では、御言葉に甘えて、ありがたく享受させて頂きます。」
「そう、そうしたら、歩き難いかも知れないけれど、このまま行きましょう」
「はいはい、分かりました。」
そうして、夕方の寮へと向かう時と同じ様に1人が引っ張り、もう1人が引っ張られると言う構図で、ケヤキモールへと入っていった。