「〜〜〜♪」
「ごきげんですね、シルフィ」
それはルディと結婚してからしばらくしての事。ルディが何故か夜勤と呼ぶ夜の護衛中につい嬉しくなって鼻歌なんて歌っちゃったりしたのだ。
「すみませんアリエル様…お仕事中なのに…」
「いえ、ただそんなにごきげんなシルフィは珍しいと思っただけですよ」
見ればルークたちも微笑ましいものを見るような目でボクを見ている。なんだよもう…
「それで何か良い事でもあったのですか?」
代表してか、アリエル様がそう尋ねてきた。みんなもなんだかソワソワしてるし…そんなに浮かれてたのかな、ボク。
「あのね…今日はルディがお弁当作ってくれたんだ!」
お弁当、正確にはお夜食にとボクに持たせてくれたのだ。
「お弁当…ですか?」
「うん、普段は自分で作ってきてたけど、ルディが『シルフィも大変だろうし、お弁当くらいなら俺が作るよ』って!えへへ…」
ボクも嬉しかったけどルディも張り切って作ってくれてたな、ボクのエプロンと三角巾なんて付けちゃってさ。もしかしてルディって結構お料理好きなのかな?
「べ、弁当か…ルーデウスは見かけによらず器用なんだな…」
なんだかショックを受けてるようなルークは置いといてアリエル様たちの方はまだ見ぬお弁当が気になるみたいだ。
ふふ、ボクもお弁当の中身が気になるし、そろそろ晩御飯の時間だ…!
「じゃあ取って来るね」
「ん?この部屋にはないのか?」
「うん、ボクの鞄に入れてあるんだ」
ショックから復帰したルークがそう訪ねてきたので答える。相変わらず立ち直りが早い。
それはともかく張り切り過ぎたルディがちょっとだけ作り過ぎちゃったのでアリエル様の部屋の隣に用意された部屋に置いてあるのだ。ルディからは謝られたけど気にしてない。
むしろ鞄の中でずっしりと存在を主張するお弁当箱の重みが嬉しかったくらいだ。多かったらみんなで分けっこすればいいしね。
「じゃ〜〜ん!!」
「「「おお…!」」」
「随分多いな」
三人分の感嘆と一名余計な事言いの感想を聞いて鼻を伸ばす。
お弁当箱はルディが土魔術で作った。見た目は地味めだけど軽くて頑丈にできてる。ちょっとした魔術教本くらいの大きさのそれが三段分+魔術で温めても大丈夫な器に入れられたスープとパンだ。これだけ有れば朝まで何も食べなくても充分保つだろう、眠くならないようにだけ注意しなきゃだ。
「中を早く見せてくださいシルフィ!」
「そうだな、奴はどんな料理をお前に持たせたんだ?」
二人の急かす声にせっつかれながら蓋を開ける。さぁ、ルディはどんなご飯を作ってくれたんだろう?
〜〜(食事中)〜〜
「何故か、敗北した気がします」
「自分もです、アリエル様」
ルディのお弁当はそれはもう美味しかった。
この辺りでよく獲れる川魚を使ったムニエル。下味のしっかりつけられた四角い卵焼きが中に具が入ってるのと入ってないのとで二種類。とろみのあるタレが絡められたミートボール。付け合わせに野菜の和え物と根菜の炒め煮が付いていた。スープはいつもと同じ豆のスープに刻んだ燻製肉が追加されてる。
すごく美味しい。ただちょっと量が多いのがご愛嬌かな、結局みんなにも食べてもらっちゃったや。
なのに、
「みんなどうしたの…?」
ボク以外の全員が肩を落としている。ひょっとして口に合わなかったのだろうか、こんなに美味しいのに。こんなに美味しいのに!
「いえ…それにしても本当に良い方を捕まえましたねシルフィ」
「えっ!?」
捕まえたと言うか捕まえてもらったというかいやそれはどちらでも良いいや良くないあわわわわわわわ…!!
「ふふ、そんなに慌てなくても大丈夫ですよ、取ったりしませんから。それともしよろしければまた作って貰って来てください、材料費は出します」
「え?じゃあお口に合わなかったとかじゃなくて…」
「そうだな、ルーデウスに美味かったと伝えておいてくれ」
---ルーデウス視点---
「って事があったんだよ」
「そっか」
初めてお弁当を作ってから二日後、彼女の休日にシルフィの作ってくれた美味しい夕飯を頂いた後に二人してソファーでまったりしている時にそんな報告を受けた。
いやね?最初はもっと普通のお弁当にするつもりだったんですよ?でも台所で料理してる俺を見るシルフィの目がヤケにキラキラしてたからさ?後ろから『おー…』とか『スゴい…』とか聞こえてくるもんだからついね?張り切ってしまったというかですね?それにしたってお重はやり過ぎたか。アレじゃお弁当はお弁当でも仕出し弁当みたいだったしな。
まぁそれはいい、元手は俺の貯金だし。ちょっとクエスト行けば取り戻せる程度のやらかしだからその程度の苦労は愛しい妻の笑顔の為ならプライスレス。
しかし舌が肥えてるだろう王女や貴族にまで気に入られるとは俺のクッキングスキルも捨てたものではないらしい。
……逆にお弁当という文化が新鮮だっただけという可能性もあるが。
「それでねルディ、アリエル様も皆もまた食べたいって言ってるんだけど…」
「それくらいお安い御用さ」
材料費は向こう持ちらしいしな。ぶっちゃけ俺の料理は大量生産・大量消費みたいな所があるから量が増える分には問題ない。魔大陸で亀と何食べても美味いとしか言わない二人相手に四苦八苦した経験が活きるね。
「それじゃあ明日にでもどんな食材が好きか聞いといてくれ…っと、そうだった。シルフィはどんなのが好きなんだ?」
「ボク?どうして?」
今アリエル様たちの話してたんじゃないの?と首を傾げるシルフィ。実に可愛い。
「どうしてって…元々シルフィのお弁当なんだし、俺が一番喜んで欲しいのはシルフィだからだよ」
「そ、そそそそそうだね!ボクの為に作ってくれるお弁当だもんね!」
えーっと、えーっと、と言葉を探しながら俺の腕の中で耳をパタパタさせるシルフィ。とても可愛い。
「どれも美味しかったけど…あのミートボールはまた食べたいかも」
「ミートボールか、分かった」
はじめてのお弁当だしナナホシがやってるみたいにこっちでもどうにかなりそうな定番を攻めてみたが、上手いこと琴線に響くのがあって良かった。
「んふふ…」
「ん?どうしたのシルフィ」
「ううん、こんな話してると改めて思うんだ。ボク、ルディと一緒になれて幸せだなぁって」
「……俺もだよ、シルフィ」
「あ、そうだ。今度ボクにもルディのお弁当作らせてよ、今回のお礼にさ」
それでピクニックにでも行けたら楽しそうだよね、と嬉しそうにはにかみながら俺の胸に顔を埋めるシルフィ。最上級に可愛い、そろそろ辛抱たまらん。辛抱する必要もないか。
「そろそろお風呂入ろうか」
「えっもうそんな時間!?」
「ううん違うよ。違うけど、嬉しそうにご飯の話ししてくれるシルフィを見てたら、俺がシルフィを食べたくなっちゃった」
そう宣言して、俺は顔を真っ赤に染めたシルフィをお姫様抱っこして浴室へ直行した。
次回のお弁当はアリエルたちのリクエストの他にシルフィが好きなものが満載されたお重四段盛りになるだろう。あ、そのうちシルフィモチーフでキャラ弁とかもいいかもしれないな。シルフィが照れてる顔が目に浮かぶ様だぜ。