「兄さんの髪型ってお父さんとお揃いですよね」
普段は寮住まいのノルンが十日に一度家に帰ってくる日のこと。
夕食後にお茶を飲みながらノルンから学校での話を聞いていると、唐突にそう尋ねられた。
「ああ、言われてみるとそうだな、特に意識したつもりはなかったけど」
襟足を伸ばした一つ結び。確かにパウロもこんな感じだった。ブエナ村で暮らしていた頃もミリシオンで再会した時も同じ髪型だったし、多分ずっとああなんだろう。
「あ、お父さんの真似とかじゃなかったんですね」
「まあな、冒険者暮らしが長かったから髪の毛を整える習慣が無かったんだよ。父さんも似た様な理由なんじゃないか」
とはいえあのパウロの事だ、今はともかく冒険者時代はこの方がモテるとかそんな理由であの髪型にしてた可能性も否定できないな。
「でも前髪は整えてたんですよね?」
「前衛にしろ後衛にしろ前が見えないと命に関わるからな」
特に俺は予見眼の都合もあるし。
パウロ以外にギースやエリナリーゼも視界を邪魔しない様な髪型だ。
あ、そういえばゾルダートなんかは前髪を伸ばしてたな、それでも目にかからない様に撫でつけてはいたが。案外オシャレさんなんだろうかあいつ。
まだしばらくはこの辺にいるって話らしいし今度会ったらからかってやろう。
「そうですか……勉強になります」
「ノルンは冒険者になりたいのか?」
「まだ考えてないですけど、旅をして暮らしたいなと思った事はあります」
「とりあえず成人……いや二十歳になるまでは家に居てね、あと父さん達がこっちに来てから旅に出たいなとか思ったらちゃんと話し合って、認めてもらう事、書き置き一つ残してサヨウナラとかお兄ちゃん認めません、あとは……えっとえっと」
「わ、分かりました!分かりましたから!シルフィさんみたいな慌て方しないでください!」
そんな慌て方してたかな俺。一緒に暮らしてる内に似てきたのだろうか。
だとしたら嬉しいが……それはともかく、
『旅に出ます、探さないでください。ノルン』
とか書かれた手紙を見たら家族みんなで探し回るだろう。
うん。それは間違いない。
特にパウロなんか自分が実家を飛び出した事を棚に上げてあちこち駆けずり回る様が目に浮かぶ。
浮かぶだけにして欲しい。
「とりあえずノルンの進路はおいおい考えるとして、何の話してたっけ」
「兄さんの髪型の話です」
「そうだったそうだった。急に聞いてきたけどもしかして似合ってない?」
「そんな事は無いですけど、ただそれだけ伸ばすのに時間はかかりそうですよね」
「二年あったからな。邪魔になってきたらまとめて切ったりはしてたけど、最近はシルフィがたまに毛先を整えてくれるし」
ちなみにアイシャもやりたがるが流石に遠慮する。許せ妹よ、何より高さが足りませぬ。
やれば多分上手いんだろうけどな。
「二年?」
「アレ?計算間違えた?」
「いえ、でも魔大陸を旅してた時も冒険者をしてたんですよね?」
「ああ、その頃はルイジェルドさんがたまに切ってくれてたんだよ」
「ルイジェルドさん!」
おおう……ノルンは本当にルイジェルドさんが好きだな。まさかとは思う事が無いでもないが、まさかね?
でも俺だって負けないんだからねノルン妹!
「ルイジェルドさんといえばリカリスの町を出た時に丸刈りにしちゃってた時は面食らったな」
「その前はどんな髪型だったんですか!?」
「人形と同じだよ、もちろん緑色のな」
思えばルイジェルドの前髪も目にかからない長さだった。
スペルド族のサードアイは某暗黒卿風の兜や視界ゼロなズダ袋を被ってても有効みたいだし、普通に視界確保だろう。
「定期的に剃ってたけど、魔大陸からミリス大陸に渡る時は剃れなかったからマリモみたいになっててちょっと面白かったな」
「まりも?」
「そういう植物が遠くにあるんだよ、ボールに芝生が生えたみたいなの。でも大森林で合流した時には元に戻ってたな」
多分捕まってた子供達を怖がらせない様にだろう。流石にノルンに奴隷周りの話はショッキングだからぼやかしてるだろうけど、獣族の子供達を助けた話はルイジェルドから聞いたらしい。
その時の状況を詳しく聞かせて欲しいと以前ノルンにせがまれたが、生憎その頃の俺は無料アパート住まいだったので詳しくは知らないのであった。
「髪を伸ばしたルイジェルドさん、見てみたいです」
「そのうちまた会えるさ、その時に頼めば良いよ」
呪いも薄まってきているらしいし、本と人形をセット売りする計画が上手くいけば、将来的には髪を伸ばしたまま街中を歩ける様になるはずだ。
「それにしても髪型か……他人のはともかく自分のは気にした事無かったな。ノルンもずっとその髪型だよな?」
「はい、私もあんまり気にした事なくて、アイシャもずっと同じ髪型ですし。でも兄さんが狙ってその髪型にしてないのは意外でした」
「なんで?」
「だってお父さんと同じ一つ結びに、お母さんと同じ前髪の分け方じゃないですか」
「……ああ」
そういえばそうだった。こっちも全く意識してなかったが、ゼニスもこんな感じの前髪だった。こっちは転移事件の前からずっと同じだし遺伝だろう。そりゃ毛の質とかの違いはあるし多少は違うだろうが……。
「そっか、そうだな。同じだな」
「兄さん?」
「よし、今日はみんなで布団並べて寝ようか。二人で広い方の客間を掃除しよう」
「別に構いませんけど、どうしたんですか急に」
「なんとなく、たまにはいいだろ?」
「はぁ……わかりました」
よく分からないと言った風ではあるがノルンが立ち上がる。俺もその後ろに続いて二人で一緒に二階の客間を掃除した。
その後、アイシャにお兄ちゃん達の掃除は雑とお小言を頂戴したり、でも家族みんな一緒に寝るのを楽しそうにしてる様子に和んだり。シルフィにボクも一緒でいいのかな?と頬を掻きながら遠慮されそうになったのを説得したりしつつも、四人で布団を横並びに眠ることに成功した。
思えばブエナ村に居た頃だってこんな風に寝た事はなかった気がする。
パウロ達が無事にこっちにきたら、一回くらいみんなで川の字になって寝る事にしよう、ノルンもアイシャも喜ぶ姿が目に浮かぶ。こっちは、本当になればいいな。