無職転生二次SSまとめ   作:ミリソ

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暗闇の中で

「………ふぅ……」

 

 岩砲弾をくらった魔物が爆散するのを見届け、予見眼で動き出す気配が無い事を確認して一息つく。少し離れた位置にいるエリスの無事も千里眼で確認済み。ミッションコンプリート。

 いつもの如くオルステッドのおつかいで魔物退治にやってきたが、今回はちょっと数が多かったな。いやいや社長との付き合いももうすぐ10年、俺もまだ20代。この程度でへばったりはしないとも。

 とはいえ多少は疲れたな。エリスが戻って来たら抱きついても……いや家に帰ってからのお楽しみにとっておくべきか。しかしなぁ……。

 

「何ブツブツ言ってるのよ」

「おぅわ!?」

 

 そんな事を悩んでいるといつの間にかエリスが背後に居た。

 

「そんなに驚かなくてもいいじゃない」

「いやゴメン、気を抜いてたもんだから……アレ?」

「どうしたのよ」

 

 まだ何か居るの!?と腰の剣に手を当てたエリスの姿がボヤけているような。元々目で追いきれないくらい動きは素早いけど、今のは残像のようにさえ、見えたような。

 

「んんん?」

 

 目にゴミでも入ったか、とこすってみても特に変化なし。これは……

 

 

 

「魔眼の不調だろう」

 

 心配そうなエリスに手を引いてもらってなんとか事務所まで帰り、オルステッドの診察を受けた。

道中でどんどん景色が暗くなって、歩けなくなってしまいそうだったが……エリスが居てくれて本当に良かった。

 

「一時的な物だ、しばらくすれば治る」

「本当でしょうね!」

「似た様な症状は診たことがある、間違いない」

 

 あんまり見えなくてもわかる。今オルステッドはいつも通りの怖い顔に見えて、すごく心配そうな、申し訳なさそうな顔をしているに違いない。

 なので剣の柄頭をコンコンやるのはやめて欲しいエリス。音に敏感になってるせいかちょっと怖い。

 

「二種の魔眼を持つお前は、一つしか持たない者に比べて眼球と脳に負荷がかかりやすい。特にここしばらくは無理をさせた、すまなかったな」

「ああいえ。しかしこれでは仕事になりませんね、治るまで休暇をいただきますが、宜しいでしょうか」

「ああ」

 

 いわゆる傷病休暇というやつだな。ここ最近は働き詰めだったし丁度いい、しばらく骨休めさせてもらうとしよう。

 

「では、失礼します」

「フン!」

 

 不機嫌そうに鼻を鳴らしたエリスに手を引いてもらいながら事務所を退出、先導に従って肌寒くなってきた街を歩く。

 

「シルフィたちにはもう伝えてあるわ、心配してたんだから」

「そっか……ありがとな」

「私だって、すごく心配したんだから」

「ああ、ごめんな」

 

 そんな会話をしているうちに家に着いたらしい。二人でただいまと言うと家の中からドタドタと走り寄る声が聞こえてきた。

 

「ルディ!大丈夫!?」

「ととと図書館から似た様な文献を持ってきましたので……!!」

「あの、二人とも落ち着いて、こける、こけるから」

「オルステッドはちゃんと治るって言ってたから大丈夫よ」

 

 エリスがそう言うと空気が弛緩した。

 

「まあ見えないだけで他に変なところも無いし……しばらくは不便をかけちゃうと思うけど」

「うん、大丈夫だよ、その間はボクらが手伝うから。エリス、まずはお風呂に入れてあげて」

「わかったわ!」

 

 またもやエリスに手を引かれてお風呂場へ連れていかれ、慣れた手つきで服を脱がされる。今更照れる事もないが……見えないままなすがままってのがちょっとアレだな、背徳感。

 エリスの息が肌に当たってビクってなったのバレてないかしら。

 

「ちょっと待ってなさい」

 

 ハイ、と脱衣所の壁に手を持っていかれた。少しして聞こえてくる衣擦れの音。

 

「じゃあ洗っていくわね」

「お願いします」

 

 浴室の椅子に座らせてもらい、エリスが石鹸を取り出してタオルで泡立てているのを耳で感じ、そのタオルごしに他人の体を洗い慣れた手つきを肌で感じる。

 

「今更だけど、ルーデウスの背中って大きいわね」

「俺だって鍛えてるからね」

 

 エリスほどではないだろうが。それでもおんぶくらいならいつでもしてあげられるさ。

 あ、今は無理だった。コケたら危ない。

 

「背中側終わったわよ。前も、私が洗っていい?」

「もちろん」

 

 そう答えるとグルンと半回転させられる。見えてたら目を回してたな。

 こちらも手早く洗われ、あらかじめ貯めておいてもらったらしい湯船に入れられた。

 

「ふぅ……」

 

 体中に溜まった疲れがお湯に溶け出していくような感覚、やっと帰ってきたという心地になる。うとうと……

 

「寝ちゃダメよ」

「分かってるよ」

 

 そう言いながらエリスも自分の体を洗い終わり、俺の背中側に滑り込む形で湯船に入ってきた。やぁらかい、このままだと本当に寝てしまいそう。

 

「ねえルーデウス」

「なあに」

「大丈夫なの?」

 

 大丈夫か、と聞かれると曖昧な返事しか返せそうにない。一応治癒魔術はかけたし、これ以上出来ることもない。最悪目を抉って王級治癒のスクロールという手もあるが……絶対痛いしやりたかない。

 そもそも魔眼がどうなるか分からないし。

 

「不安は不安だけどさ、みんなが居てくれるから大丈夫だよ」

「そう?」

「うん、今だってお風呂に入れてくれたしね」

「ちゃんと出来てた?」

 

 震えを隠しきれていないエリスの声。こんな声のエリスは久しぶりだ。自分がついていたのに不甲斐ない、とかそんな風に思っているのかもしれない。

 

「出来てたよ、ありがとうエリス」

 

 少しでもその不安を和らげてあげたくて、エリスの手を撫でたり、頭を擦り付けてみたりした。

 うん、実に良い雰囲気だな。このまま押せば……!

 

「ダメよ」

「な、何が?」

「ダメよ、見えてないかもしれないけど、すごくえっちな顔してるもの。治るまではダメよ、危ないわ」

「はーい」

 

 これは是が非でも早く治さないとな。

 

 

---

 

 

 お風呂上がり。コーヒー牛乳が欲しくなる響きだがそんな物はない、フルーツ牛乳ならある。そしてこれはもちろん現実逃避である。

 

「はい、あーん」

「ほらルディ、お口開けてください、あーん」

「待って、待って二人とも。子供たちの前でそれはちょっと恥ずかしい」

 

 お風呂から上がるともう晩ごはんはできていた。疲れは取れたがお腹はぺこぺこだ。なのでいただく事にしたのだが……。

 

「何を照れてるんですかルディ、早く食べないと冷めちゃいますよ」

「そうだよ、あったかいうちに食べてね?」

 

 シルフィとロキシー、両サイドからあーんの洗礼を受けていた。まあこれだけならご褒美だ。これだけなら。

 しかし今は家族団欒の夕食中、すなわち子供たちの目の前である。生暖かい空気がちょっと辛い。

 

「ほら、早く食べちゃいなさい、よく噛むのよ!」

「赤ママ、一行で矛盾してる」

「してないわ、いいから食べなさい」

 

 先ほどからエリスが頑張って俺たちから視線を逸らそうとしてくれてはいるがうまく行ってないようだ。

 

「もう!ルディったら恥ずかしがり屋さんなんだから。ボクたちにもお世話させてよ」

「シルフィ、楽しんでない?」

「んふふ、どうでしょう」

 

 これは楽しんでるな。良いんだけどさ、暗いだけだと気分も沈むし、一時的な物なんだし。

 

「でも食べさせてあげたいのは本当だし、少しでもお世話してあげたいのも本当だよ、はいあーん」

「あーん」

 

 もう開き直ってしまえ。あむあむ、美味しい。ロキシーの匙の分もいただきます。

 きっと二人とも嬉しそうな顔をしているんだろうな、見れないのが残念だ。

 

 

---

 

 

「ルディ、着きましたよ」

「ありがとうございます、ロキシー」

 

 食後しばらくしてからロキシーに寝室に誘導してもらった。

 もちろんエロい事をするのではなく普通に寝るためである。

 

「二人は後から来ますから、それまでベッドにかけて待っていましょうか」

「そうですね」

 

 今日はみんなで添い寝してくれる事になった。暗闇の中一人きりは寂しかったし、ありがたい。

 

「こうしてルディの手を引いてあげると昔を思い出しますね」

「昔ですか」

「ええ、ブエナ村での卒業試験です」

 

 懐かしいな。ロキシーが居なければ外に出られないまま、シルフィやエリスとも出会えなかったかもしれない。想像するだけで寒気がする人生だ。

 

「思えばもう20年以上も前ですか、初対面でちっちゃいと言われたのも懐かしいですね」

「いやそれは本当にごめんなさい」

「ふふ、怒ってないですよ……ああ、来たみたいですね」

 

 確かに。扉の向こうから二人分の足音が聞こえて来る。

 

「ルディ、ロキシー、遅くなってゴメンね」

「私もいるわよ!」

「ああ、二人ともありがとうな」

 

 自分でも唐突に思えたがお礼を言う。なんとなくそう言う気分だった。

 

「ふふっ……変なルディ、困った時はお互い様でしょ?」

 

 さぁ、今日はもう寝ちゃおうね、とシルフィの一声でみんなまとめてベッドの中へ倒れ込む。

 こういう所、勝てないな。

 

「でもなんで急にお礼なんか言ったの?」

「変かな?」

「変じゃないよ、ちょっと気になっただけ」

 

 俺の右側に寝転んで、安心させるように胸をぽんぽんと叩きながら問うてきた。

 

「うーん、なんとなく?」

 

 シルフィの首あたりに腕を差し込み、左側に陣取ったエリスに腕枕をされつつその間にしがみついてきたロキシーを感じながらそう答えた。

 

「こういう時にさ、誰かがそばに居てくれるだけでもすごく安心するなって」

「そっか、良かった。早く良くなるといいね」

 

三人の体温が暖かくて柔らかくて、すぐに眠くなってきた。もっともっと話していたいけど、シルフィの言う通り、もう寝てしまおうか。

 

「ああ……おやすみ」

「うん、おやすみなさい」

「おやすみなさい」

「おやすみ」

 

 

 みんなが居てくれて、これ以上なく嬉しくて、そして幸せだ。

 翌朝、ぼやけながらも見えはじめた視界に彼女たちの寝顔を収めながら、そう思った。

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