「くぅ〜〜ん……」
「ん?どうしたレオ?」
ここ数日、レオは室内……というか、なんでか俺の近くでぐでーっとしている事が多い。病気かも知れないと思ってオルステッドに見てもらったが、特に病気ではないらしい。
それで一安心して帰ってきたのだが……帰ってくるなりまたぐでーだ。
「レオ、大丈夫かな……」
「大丈夫」
「うわっ!」
俺に背中を向けているレオのお腹側からララが出てきた。一瞬ついにレオが人間語を習得したのかと思った……。
いや念話っぽいのでララやゼニスと話せるらしいのは知ってるんだけどな。
「で、その心は?」
「レオは暑がってるだけ、パパの近くは冷たい風が出てて快適って言ってる」
「暑い……ああ、成る程」
レオの毛は実にもこもこしている。冬場なんか子ども達に大人気だ。正直嫉妬している。
だが今は夏だ。聖獣の生態に換毛期があるのかどうかは知らないが、少なくともうちのおワンコ様の毛は一年中変わる気配が無い。
ここ最近ずっと晴れててお洗濯日和だったしな、さぞ暑かろうて。
「じゃあ、思い切って毛刈りするか」
「毛刈り?レオを?」
「そう。あ、レオは嫌がってないか?」
そこだけは確認しておこう。普段から毛先を整えるのとかでハサミには慣れてるだろうけど、毛刈りとなるとまた違ってくるかもしれないからな。
「んー……嫌がってないっぽい」
「そっか、なら今度の休みにするか。もう少しだけ我慢してくれ、レオ」
「ワフッ!」
良いお返事だ。ご褒美にさらに一段階冷たい風を送り込んでやったら、身震いした後尻尾で軽くはたかれ、ララ経由で今度は寒いと言われた。
ごめんなさい。
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数日後。
「ではレオのトリミング大会を始めます。拍手ー!」
ぱちぱちぱち……とまばらな拍手が響く。新品の動物用ハサミとその他諸々必要なものを買ってきた後、レオを庭に連れ出した。
「まず切るのは俺とシルフィ、レオの保定はロキシー、エリスがお願い。ルーシーとララは切った毛が飛ばないように集めておいてくれ」
「はーい」
「分かりました」
「わかったわ!」
アルス以下の子ども達は危ないのでリーリャとアイシャに見てもらっている。刃物を使うからな。
シルフィが居るからすぐに治してもらえるとはいえ怪我なんかしてほしく無いし。
「じゃあルーシーとララは切ってる途中に近くに寄らないようにな、近寄る時は一声かけてくれ」
「はーい!」
「わかった」
「じゃあ始めるぞ。レオ、動くと危ないからあんまり動かないようにな」
「ワン!」
エリスがレオの前面に、ロキシーが後方に陣取って、俺が首側から、シルフィが尻尾側からハサミを入れ始めた。
ちょき……ちょきちょき……
この世界にはバリカンなんて物は無い。
なのでハサミを使って少しずつレオの毛を切っていく。しばらく切ってからハサミを止めて、ルーシーかララに回収してもらう。
普段ならめんどくさがるだろうララも、毛をしっかりと回収してくれている。なんだかんだレオとはしっかり仲良しだからな。
「それにしても、レオの毛って本当にふわふわだよね」
「そうですね……こうして触っているだけで眠くなっちゃいそうです……」
後ろの方でシルフィとロキシーが会話する声が聞こえてくる。一方で前足を抑えてくれているエリスはというと、
「うふ……うふふふふ……」
あーこれはキマッてますわ。しっかりとヘブン状態ですね。心なしかレオも若干怯えてる様に見える。
普段はレオが嫌がるから毛並みを堪能できてないしな…最近はもう力加減を覚えたから思いっきり抱きしめる事は無いと思うが、一度ついた苦手意識を拭えという方が可哀想だろう。エリスの抱き締め欲は俺で発散してもらう他にない。
「くぅ〜ん……」
「よしよし、もうすぐ終わるからなレオ、ご褒美にお高い肉を買ってやるぞ」
「ワンッ!」
やや怯え気味のレオにおやつをあげて宥めつつハサミを進めていく。
そうしている内に頭側から前足、胴に向けて切ってきた俺が尻尾側から同じように切ってきたシルフィとお腹の辺りで合流するくらいまで切り進めた。
残りは俺一人で全体を調整してカットは終了だ。
「ワンッ!」
「大分涼しそうになったな」
毛を切った事で一回りシルエットが小さくなった様にも見える。レオ・サマーカット仕様と言ったところか、これはすごい達成感だ。
レオも嬉しそうだ。尻尾が扇風機みたいにブンブン回ってるし。
「この後はどうするんですか?」
「俺がお風呂に入れて、残ってる毛を流してから乾かします」
「ではあちらは?」
ロキシーが指差したのはルーシーとララが集めてくれた毛を入れた袋だ。
あ、手をわきわきさせてるエリスをシルフィが抑えようとしてる。
「何かに使えるかもしれませんし、とりあえず置いときましょうか」
「わかりました、ではよろしくお願いします」
そう言ってロキシーもエリスを抑えに回った。狂剣王パワー、恐るべし……
「じゃあレオ、風呂行くか」
「ワンッ!」
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風呂でレオを洗って温風で乾かした後、リビングにレオを連れて行った。
「おお、さっぱりしましたね、レオ」
「ワン!」
声をかけたロキシーに頭をこすりつけて、レオは本当に嬉しそうだ。
「ララ、レオなんて?」
「……いつものお風呂より気持ちよかったって」
「そっか、良かった」
普段は櫛で梳かしてあげたり軽く毛先を整える程度でレオの毛をここまで短くカットはしなかったからな、レオも初めての体験だっただろう。
人間だって髪を切ってもらった後のシャンプーは気持ちいいもんな。
「レオ、ふかふかー!」
「ふかー!」
「ワフッ!」
おお、さっそく子供達が飛びついてるな。
ってさっきまで俺と話してたのにララはいつの間にかレオの背中にポジションを取ってるし…キィーっ!羨ましくなんかあるんだからね!
「それでルディ、レオの毛はどうするの?」
ハンカチを取り出して噛もうかと悩んでいるとシルフィが例の袋を持ってきた。
中身は毛だからそんなに重くないと思うが、大きさは子供一人分くらいはある。さてどうしようか……捨てるのは勿体無い気もする。
「私にちょうだい!」
「もらってどうするのさ」
「抱き枕にするわ!」
「ああ、良いねそれ。ボクもちょっと欲しいかも……」
抱き枕か。良いなそれ、よく眠れそうだしそうしてみるか。駄目そうならその時は捨てればいい。
「じゃあレオの毛は抱き枕にしようか、せっかくだしただ袋に詰めるだけじゃなくてこんな感じにしてみたらどうかな」
そう言いながら手を丸めて耳の形を作る。子猫ならぬ子犬が欲しいワンのポーズだ。
……二人の目の色が変わった気がするのは気のせいだと思っておこう。
「とっ、とにかく!耳とか鼻とかの飾りをつければ同じ抱き枕でも違いが出て来るんじゃないかなって事!」
「良いわね……」
「うん、良いね……!」
二人とも、抱き枕についての感想だよね?
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抱き枕と言ってもそう難しいものではない。用意したカバーにレオの毛を詰めれば完了だ。
それにしても聖獣の毛を使った枕か、何かご利益がありそうだな。販売とかしたら獣族に怒られそうでもあるが。
「シルフィって絵も上手いのね」
「そうかな?エヘヘ……」
シルフィは枕カバーにレオの絵を描いている。コレがまた味のある絵だ、いい具合にデフォルメが効いていて幼児番組とかに出てそう。
「はい出来たよ。じゃあエリス、レオの毛を詰めちゃって」
「わかったわ」
「またもふもふに魅了されちゃダメだからね」
「わかってるわよ……」
レオの顔を描き終わったシルフィから枕を受け取り、袋の口をエリスに向けて固定する。
その枕に毛を詰めていくエリスの顔は幸せを隠しきれていないが、手は止まってないし大丈夫だろう。なんならちょっと羨ましい。
エリスが詰め終わったら再びシルフィに枕を渡して口を縫ってもらい完成だ。
「かわいい……!」
「おお、思ったより様になってるな」
「……………」
その出来栄えたるやエリスが目を据わらせて手をわきわきさせる事からも明らかだ。
「駄目だよエリス、寝る時までのお楽しみだからね」
「わ、わかってるわ」
「じゃあ折角だし、子供達にも見せに行こうか」
そう言いながら枕を抱えて立ち上がる。
きっとみんな大喜びだ。またこういう機会が有れば、今度はぬいぐるみなんか作ってみても良いかもしれないな。
ちなみに。
夜、抱き枕を使ってみようと寝室に向かったらシルフィ達が勢揃いしていて、三人の前で昼間の子犬が欲しいワンポーズをさせられたのはまた別の話だ。